早いですね~。
今回の騒動の原因は、どうやら千冬姉のようだ。
最初から少しは関係しているとは思っていたが、まさかあそこまでこの件に絡んでいるとは・・・。
どうして千冬姉は俺を騒動に巻き込むんだ。
「(千冬様が巻き込んでるのではなくて、千冬様の周りが一夏様を巻き込んでいるように思えますけど・・・誘拐然り、今回のボーデヴィッヒさん然り。)」
確かに巻き込んでるのは別口だが、原因となっているのはやはり千冬姉だ。
それに今回のボーデヴィッヒの件は、千冬姉の残念な言動が引き金になっている。
そもそも千冬姉が強くなったのは、俺を守るためではなく、俺が自分自身を守るために好きな事をやらせた結果だ。
千冬姉は俺を守るために強くなったのかもしれないが、俺は千冬姉に殺されるのを恐れたからこそしたいことをさせたのだ。
「(姉弟でこうも違うとは・・・方や弟を守るために力を高め、方や姉に殺されないように守りを固め・・・。)」
言われれば真逆かもしれないな。
だが俺は最初から千冬姉に守ってもらう必要など無かったのだが。
「(確かに一夏様は、千冬様以上の人外の力を有していますからね。そもそも一夏様は千冬様に守ってもらったことが有るのですか?)」
・・・前半部分は聞かなかった事にするとして、守ってもらった事ねぇ~。
小学校の時に俺の事をのけ者にしていた奴らを叱ってくれた事があったが、あれは千冬姉が俺を篠ノ乃に会わせた事が原因だし、誘拐の時も助けには来てくれたが、あれも千冬姉の連覇を阻むために巻き込まれただけだし、今回も俺がやり過ぎる前に止めてくれたが、これも元をたどれば千冬姉がボーデヴィッヒに余計な事を言ったのが原因だしな・・・守ってもらってないかもしれない。
「(寧ろ千冬様が一夏様を大変な目に遭わしていますねぇ~。守ってるつもりで自分が窮地に追いやっていては意味がない気もしますが・・・残念な人ですね、千冬様って。)」
千冬姉が残念なのは今に始まったわけでは無い。
寧ろこの程度で済んでるのが奇跡なくらいだ。
「(確かに話を聞く限りではもっと大変な目に遭っていてもおかしくはないですね。一夏様が原因で戦争が起きてもおかしくないですね♪)」
・・・楽しそうに言うな。
俺が原因で第三次世界大戦など起きてみろ、俺は迷わず千冬姉を殺すぞ。
「(過激ですね~。ですが、そんな一夏様が好き。)」
シリアスな雰囲気が台無しだろ。
少し疲れたように須佐乃男にツッコミを入れ、部屋に戻る。
しかし途中で・・・
「あっ、織斑君。」
さっきアリーナで会った女子がこちらに向かって来た。
「何か・・・ああ、さっきの壁抜けか?」
「うん、気になっちゃって。」
別に難しい事はしてないのだが。
「教える事は教えるが、あまり他の子に言わないでくれよ。ただでさえ悪目立ちしている所にこんなネタがくればどうなるか・・・。」
「うん分かった、約束する。」
素直な子で良かった。
「さっきの壁抜けだが、あれはシールドやバリアーのように本来はそこに無い物だから出来る技なんだ。」
「如何言う事?」
確かにこの程度の説明で理解出来るなら、そもそも俺に聞きに来ないか。
「実際に無い、エネルギーを変換して作られた壁だから、そのエネルギーの波長に自分が発している波長をあわせてすり抜けた訳だ。つまり自分自身をそのエネルギーの一部にして壁をすり抜けたんだ。」
「そんな事が出来るの?」
たぶん彼女の質問は普通の人にと言う言葉がはしょられている。
「分からない。そもそもエネルギーの波長を感じられる人間などあまり居ないだろうし、壁抜けをしようなんて馬鹿な事を考える人間も居ないだろうしな。」
俺は苦笑いをしながら答える。
実際にこんな事をしようと考えるのは俺や束さんくらいだろうしな。
そもそも俺に壁抜けを教えたのは束さんだしな。
「よく分からなかったけど織斑君が凄いって事だけは分かった。」
そう言って彼女は部屋に戻っていった。
・・・何処かで見た事あるんだが、何処だっけか?
「(クラスメイトですよ!もしかして一夏様、隣の席の彼女の事忘れてたのですか?)」
・・・ああ、そうかクラスメイトだ!
いや~これで胸のもやもやが解消された、ありがとな須佐乃男。
「(私は逆にもやもやしてますよーーーー!)」
何をもやもやする事が有るって言うんだ?
「(名前を覚えるのは得意でも、顔を覚えるのは苦手なのですか?)」
そんな事はないが・・・そもそも彼女、名前なんて言ったけ?
「(もういいですよ・・・。)」
須佐乃男とやり取りをしながら、俺は部屋への廊下を進む。
何か忘れてるんだよな?何だっけ?
「(知りませんよ。それより私は一夏様の交友関係をどうやって広げさせるかお考えるので忙しいんです!)」
別に須佐乃男に心配してもらわなくても自分で何とかするって。
「(さっき本音様に言われた通り、一夏様はお友達が少ないですからね。自分で行動するだけじゃ今の状況は打破出来ませんよ。)」
・・・ほっといてくれよ、気にはしているんだから。
生徒会の手伝いをする前に本音に恨み節を言った時にカウンターで言われた事を須佐乃男にも言われた・・・ん?生徒会の手伝い?
あっ、まだ終わってない!
俺は部屋に向かっていた足を生徒会室に向けて走り出した。
「すみません、織斑です。」
ノックをして相手の返事を待つ。
「一夏君?どうぞ。」
刀奈さんに入室を許可され、俺は生徒会室に入る。
「すみません、手伝いの途中で出て行ってしまって・・・。」
「(出て行ったと言うより飛び出て行ったと言った方が正しいですけどね~。)」
五月蝿いぞ。
俺は須佐乃男の茶々にツッコミを入れ刀奈さんを見る。
「いや、大丈夫だけど・・・アリーナの方は大丈夫だったの?そもそも一夏君は大丈夫なの!?」
「別に俺は平気ですけど・・・何がですか?」
なにやら興奮している刀奈さんに、俺は何にそんなに興奮してるのか心当たりが無かった。
「だって此処3階だよ!?足は平気なの!?」
ああ、そう言えば飛び降りたな。
「平気ですよ。ちゃんと着地の時に衝撃を分散しましたし。」
「そうなんだ・・・って、そんな事出来るの!?」
おや、これも普通の人は出来ない事なのか。
「ええ、昔束さんに習いました。」
「色々と凄い事やってるのね、篠ノ乃博士って。」
別にそこまで凄い事ではないと思うのだが・・・練習すればきっと誰でも出来る事だと思うのだがな。
「(まず飛び降りる勇気が無いですよ。)」
そうかも知れないな。
俺も最初は躊躇したもんだ。
「それから二人は平気みたいです。織斑先生によれば、命に別状は無いみたいですし。」
「そうなんだ。でもそれって命以外は問題があるって事?障害が残るとか他に何か問題があるとか・・・。」
「如何でしょう?後で見舞いにでも行ってきます。」
俺はそれだけ言って残りの書類を片付けようとしたが・・・
「あれ?終わってる・・・。」
「当然よ!生徒会長は伊達じゃないのよ!」
胸を張り自慢する刀奈さん。
だが・・・
「一夏さんの残したものは、さほど重大な書類では無かったですし、そもそも楯無様はやってませんよね?私が楯無様の分と一緒にやった記憶があるのですが・・・。」
「う、虚ちゃん!?」
「・・・刀奈さん、まさかまたサボったんですか?」
「だ、だって一夏君が心配で仕事が手につかなかったんだもん。」
「一夏さんが心配なのは私も一緒です!それを言い訳に私に仕事を押し付けて・・・後でお説教です!」
「そ、そんな~~~~~。」
心配してくれたのはありがたいですが、自分の仕事は自分でしましょうよ刀奈さん。
俺は心の中でツッコミ、生徒会室を後にした。
扉を閉める直前に刀奈さんの悲鳴が聞こえた気がしたが、虚さんの大変さも分かるので今回は聞こえないフリをした。
・・・後で慰めないとな。
生徒会室を後にした俺は鈴とセシリアを見舞う為に保健室を訪れた。
「鈴、セシリア、平気か?」
命に別状は無いからと言って、アレだけ痛めつけられたのだから平気ではないだろうが、一応は聞かないとな。
「一夏!?へ、平気よ!これくらい。」
「一夏さん!?平気ですわ!これくらい。」
何を慌ててるんだ?
「俺が来るのはそんなに意外か?」
「そうじゃないけど、無様な姿は見られたくなかったな。」
「そうですわね。こんな姿を見られたくなかったですわ。」
もう少し俺が助けに行くのが遅かったら、もっと酷いことになってたかも知れないのだから、別に気にする事もないと思うのだがな・・・。
「迷惑なら帰るが・・・」
「別に迷惑じゃないわよ!」
「迷惑なんてそんな!」
必死に引き止められた。
・・・何なんだいったい?
「(好意を持っている相手にこんな姿は見られたくないものですよ。)」
それは友人としてか?それとも異性としてか?
「(おそらくは両方かと。しかしお二人とも一夏様に彼女がいるのは知ってますからね。交際を迫ってくることは無いとおもいます。)」
鈴の好意は知ってたがセシリアまでとは・・・。
「居て良いならいいが・・・そう言えば二人とも怪我の状況は如何なんだ?」
「アタシはそんなに酷くないかな。2,3日休めば直るし。でもセシリアはね。」
「私は1週間から10日くらいは完治までにかかりますわ。」
「じゃあ個人トーナメントは無理だな。」
「アタシは出るわよ!」
などと話していたら・・・
「「「「「織斑君!!」」」」」
大量の女子が保健室になだれ込んできた。
何だ?ここは保健室だぞ。
保健室で大声を出すのは如何なんだ?
「(あせってるのか冷静なのかハッキリしてくださいよ。)」
須佐乃男に突っ込まれ冷静さを取り戻す。
「えっと・・・何か用か?」
とは言っても基本的に人付き合いが苦手なので、慎重に話を聞こうとした。
だが、返事は無く変わりに紙を渡された。
「「「「「これ!!」」」」」
え~と何々、
『学年別トーナメントルール変更のお知らせ』
このたび実習などで個人の能力を確認は十分確認することが出来ました。
しかし、より実践的な能力を把握するために第一学年のトーナメントはペアマッチに変更いたします。
すでに参加登録している生徒は、ペアを作り再申請してください。
なお参加登録はしたがペアが見つからなかった人は当日に抽選でペアを作ります。
締め切り期限は本日より三日後とします。
なるほど・・・おそらくは今日の事件が原因で連携意識の低さが懸念されたのだろう。
同じ第三世代、しかも二対一で負けたのだから連携の大事さが重要視されてもおかしくはないがな。
「つまり、皆は俺と組みたいと?」
「「「「「うん!!」」」」」
気持ちは嬉しいんだがな・・・
「すまないが今回は俺、参加するつもりが最初からないんだ。」
「な~んだ、やっぱり。」
「でも別の人と組まれるよりは良いよね。」
「寧ろ織斑君が出たら勝てないって。」
「それもそうだね。」
俺が参加しないって言う噂はすでに広まってたからな。
今回の件で参加すると思ったのかもしれないな。
女子たちが保健室から出て行った後、
「一夏!アタシと組みなさいよ!!」
鈴が言ってきた。
・・・だから俺は参加しないって。
「駄目ですよ。」
今度は山田先生が保健室に来た。
「山田先生、何か問題でも?」
参加を止めるからには何か問題があるのだろう。
「ええ、お二人のISの状態を確認しましたが、ダメージレベルがCを超えていました。当分は修理に専念しないと、後々重大な欠陥を生じる恐れがあります。ISを休ませると言った意味でも今回のトーナメントへの参加は認められません。すでに凰さんとオルコットさんの参加登録は棄却させていただきましたので、しっかりと治療に専念してくださいね。特に凰さん!日常生活には問題なくとも完治するのには時間がかかるんですからね。」
そこまで酷かったのか。
俺はさっき直ると言った鈴の発言が強がりだと知った。
「グ、分かりました。」
「分かりましたわ。」
態度は違うが、二人が参加しないと言ったので山田先生は満足そうに保健室を後にした。
さて、俺も戻るか。
「じゃあ、俺も部屋に戻るわ。お大事にな。」
「ありがとうございます、一夏さん。」
「ありがとね、一夏。」
お礼を言われ保健室を後にした。
「で?本音と簪がペアを組むのか?」
部屋に戻るなり特訓内容を打診してきた簪と本音に確認する。
「うん、一夏が出ないなら本音しか考えられないし。」
「私もかんちゃんと一緒なら絶対に負けないよ~。」
やる気も十分だな。
俺は頷き明日からの特訓メニューを作ることにした。
「あっ、そうだ・・・虚さん。」
「何ですか?一夏さん。」
俺はふと思い出し虚さんを呼んだ。
「さっきはお疲れ様です。すみませんでしたね、俺の分まで・・・。」
そう言って虚さんの頭を撫でる。
「いえ・・・慣れてますし、こんなご褒美があるならいくらでもしますよ。」
「いいな~おね~ちゃん。」
「虚さん、何時もお姉ちゃんがすみません・・・。」
「私だって今日は頑張ったもん!」
「今日はって・・・。」
何で頭を撫でるだけでこんな騒動になるんだろ?
俺は別段頼まれればするんだけどな。
「(一夏様とのふれあいは貴重ですからね。自分から頼むのではなく一夏様からしてくれるのがポイント高いんですよ。)」
そんなものかね~?
俺は良く分からなかったが、別に気にする事でもないので虚さんの頭を撫で続けた。
翌日の放課後。
生徒会の手伝いを終えた俺は簪と本音の特訓に付き合うためにアリーナに向かった。
「まずは連携の確認をしたい。簪、本音、二対一だが遠慮はするな。本気で来い。」
俺は須佐乃男を展開し、二人と軽く打ち合う事にした。
やはり本音が前衛で簪が後衛のようだ。
「おりむ~いっくよ~!」
本音が瞬間加速で俺に突っ込んできたが、
「甘い!」
俺はそれをかわし、簪の方に向かった。
「あっ!かんちゃん、そっち行ったよ~。」
本音がすぐさま声を掛け簪に知らせる。
「分かってる!」
簪も心得ているとばかりに声を出し、おれに大津波を打ってくる。
すでに120発、全弾を自在に操る事が出来る簪。
俺との練習だからって本気過ぎだろ。
「狙いは良いが、当たらん!」
俺は半数を切り捨て、半数を打ち落とした。
「おりむ~後ろにも居るんだよ~。」
簪の攻撃を退けている間に本音が接近してきた。
連携はまずまずのようだ。
「一々言わなくても分かってるぞ、本音。」
俺は振り向きざまに本音に攻撃する。
「ほぇ!」
本音はヴィドフニル防ごうとしたが・・・
「遅い!」
すでにダメージ判定だ。
これでこの戦いは終了。
「ほぇ~やっぱりおりむ~は強いね~。」
「別に勝敗を気にする必要は無いが、少しは残念がれよ。」
今回の模擬戦は連携を確かめるものだが、まったく悔しがらないのは如何なんだ?
「確かに残念だったけど、一夏の言った通り勝敗は関係無いしね。で、一夏如何だった?」
簪に聞かれ、俺は答えた。
「細かい部分はこれから直していくとして、連携は十分取れていると思うぞ。だがあくまでも二対一の場合だからな。本番ではもっと注意しなければ下手をすれば負けるかもな。」
俺の評価に二人は真剣に訓練に取り組もうと決意したようだ。
もともと手を抜くことは無かっただろうが、より真剣になる分には問題無い。
「それじゃあ、これから訓練を始めるか。」
「うん!」
「は~い!」
こうして放課後の訓練は進んでいった。
そして一週間後・・・
「いよいよだ。頑張れよ簪、本音!」
「もちろん!一夏が鍛えてくれたからね!」
「当然だよ~!」
なんとも頼もしいな。
「だが、油断はするなよ。油断してたら足元を掬われるからな。」
一応釘を刺しておこう。
心配はしてないが慢心していたら隙が出来るからな。
「もちろん分かってる。」
「誰が相手でも油断しないよ~。」
「なら安心だ。」
俺は二人と別れ観客席に向かう。
「あれ?刀奈さん、虚さん、来てたんですね。」
空いてる席を探していたら二人に会った。
「当然よ!折角の簪ちゃんの試合を見逃すわけにはいかないもの!」
「私は付き添いです。お嬢様が暴走しないように見張らないと・・・。」
「それは大変ですね。付き合いますよ。」
俺は虚さんと刀奈さんを挟むように席に座った。
「私だって自制心くらい持ってるんですけど・・・。」
なにやら不服そうな刀奈さんを尻目にモニターを見る。
そろそろ組み合わせ抽選が終わり対戦相手が決まるはずなんだが・・・。
そう言えば篠ノ乃が参加しているみたいだが、ペア出来たのか?
鈴とセシリアは山田先生に言われて参加してないし、シャルも参加はしないと言ってたしな。
「(ペアが出来なくとも抽選で組まされますし問題は無いでしょう。)」
そうなんだが、いきなりでは連携が取れないだろ。
特に篠ノ乃は我が強いからな。
「(そうですね~。抽選で選ばれた方はかわいそうですね~。)」
なんとも投げやりなコメントをする須佐乃男にツッコミを入れようとしたら、モニターに一回戦の組み合わせが出た。
え~と簪と本音は・・・居た。
どうやら一回戦の第一試合らしい。
それで相手は・・・
「何!?」
思わず声を出してしまった。
「一夏君、如何したの?」
刀奈さんに声を掛けられ、虚さんも不思議そうにこっちを見ている。
「いえ・・・簪と本音の対戦相手なんですが・・・。」
俺の言葉に刀奈さんと虚さんも相手の名前を見る。
そして、俺と同じように驚いた。
その組み合わせだが・・・
『更識簪、布仏本音ペア対ラウラボーデヴィッヒ、篠ノ乃箒ペア』
まさかの相手だ。
篠ノ乃とボーデヴィッヒが自分たちからペアを組んだとは考えられないので、これは抽選で決まったペアなのだろう。
それだけでも凄い偶然なのに、まさか簪と本音のペアといきなり試合なんてな。
いったい如何なるんだ?
俺の心配をよそに第一試合が始まろうとしている。
次回ラウラの問題解決?
お楽しみに。