もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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勤労感謝の日の振り替えって意味があるのだろうか…


代理のクラス代表

 クソ忌々しい政府から戻ってきてみれば、IS学園は私が出かける前よりかなり荒れていた。明らかに戦闘が行われた形跡がある。

 

「亡国企業か……私の留守を狙うとは中々頭が回るじゃないか」

 

 

 だが私が居なくとも一夏が居る限り此方側が負ける訳が無いがな。

 

「あっ、千冬さん! 大変です、織斑君が!」

 

「一夏が如何かしたのか?」

 

「亡国企業との戦闘で重症を負って医務室に……」

 

 

 今、何て言った? 一夏が重症を負っただと?

 

「おい真耶、エイプリルフールは四月だぞ」

 

「嘘じゃないですよ! 本当に織斑君が重症を負って医務室に運ばれたんです!」

 

「……私は同じ嘘を吐かれるのが嫌いだ」

 

「ですから! そこまで疑うのなら医務室まで来てくださいよ!」

 

 

 真耶が少し怒っているのを見ると、如何やら嘘ではないらしい。

 

「何処だ! 医務室は何処だ!」

 

「こっちです」

 

 

 相変わらずトロい真耶に先導されながらも、私は医務室へと急いだ。医務室の近くまで来ると、なにやら厳重に警備されていて、普通の生徒は近づけないようになっているようだった。

 

「学園にこんな場所が……」

 

「この前まで入っていた特別指導室だって普通の生徒は入れない場所だったじゃないですか」

 

「だがこれは普通の学校には無い医療施設だろうが」

 

「それだけ重傷者が出る可能性がある学園なんですよ、此処は」

 

 

 確かに訓練や授業での練習なので一歩間違えればかなりの重症を負う可能性は高い。だがこれほど高度な医療施設が必要になる怪我をする生徒など滅多には居ないだろうし、そう簡単に怪我をさせないようにするのが教師の務めだと思っている。

 

「それで、一夏は何処だ」

 

「此方です」

 

 

 部屋の入り口のプレートには織斑一夏の文字、本当に一夏は此処に居るんだな……一夏がこんな所に入るなんて想像してなかったぞ……

 

「ん……よう、遅かったな」

 

「一夏! お前、平気なのか!」

 

「大げさに騒ぎすぎなんだよ。たかがかすり傷で」

 

「織斑君、あれは明らかにかすり傷で済ませられる怪我では無いですよ。数日間の絶対安静が必要なんですから」

 

 

 絶対安静、つまりは数日間は一夏はこの部屋のこのベッドから動く事は出来ないと言う事なのか……その間にまた襲い掛かってくる可能性も十分にあると言う事だな。

 

「駄姉よ、何を考えてるのかは大体分かるが、その心配は必要無いと思うぞ」

 

「その根拠は?」

 

「そうだな……政府機関に行ってやけに引き止められた感じはしなかったか?」

 

「言われてみれば……やたらと近況を聞きたがってたな」

 

「やはりな……如何やら日本政府にも亡国企業に抱え込まれてる輩が居ると言う事だな」

 

「一夏、何でそんな事が分かったんだ」

 

 

 一夏は日本政府機関に行っても無いし、状況を盗み見ていた何処かのウサ耳でも無いのに。

 

「亡国企業のヤツらが使ってた武器……歩兵の方だが、やけに日本製の銃火器が多かったんだよ」

 

「物資提供を受けていると言う事か!?」

 

「引き止めが無ければ強奪したものとも考えられたんだが、引き止めがあった以上そう言う事だろうな」

 

 

 一夏は動けない状況でも冷静に分析をしている。しかしいったい誰が一夏にこんな傷を負わせたんだ……しかるべき報いを受けさせなければいけないだろうな……

 

「とりあえず今回は痛み分けだろうな。俺とアイツらは……全体で見ればIS学園の勝利なんだろうが」

 

「アイツら? 一夏、前から知ってるヤツなのか?」

 

 

 一夏が亡国企業に知り合いが居るなんて聞いてないぞ……まさか一夏が私たちを裏切って亡国企業に……

 

「駄姉にも報告は行ってるはずだろ。スコールとオータムだ」

 

「アイツらか……」

 

 

 オータムとは文化祭の時に潜入していた亡国企業の中でも指折りの実力者、一夏に真剣一本に撃退されたが確かに実力はありそうだった。そしてスコール、亡国企業の中でも相当な頭脳派でありオータム以上の実力者だとの情報はあった。まさかその二人相手に一夏はやられたと言うのか……

 

「だが一夏、お前が不覚を取るとは思えないのだが」

 

「生身でIS二機を相手にしてれば攻撃を掠る事ぐらいあるだろ」

 

「生身? また須佐乃男は居なかったのか」

 

「詳しい状況は後でカメラで撮ってあるだろうから確認してくれ。兎に角攻め入られた時は別行動だったし、須佐乃男と俺が普段別行動してる事を知ってたからの行動だったんだろう」

 

 

 普段から観察されてたからな……やはり強引にでもヤツらに攻め込むべきだったのではないだろうか。

 

「そうそう、一応暮桜の事はヤツらには知られて無いから安心しろ」

 

「……待て、何でお前が暮桜の事を知っている」

 

 

 あれは誰にも知られてはいけないものだったのだが……真耶やナターシャにしか話してないし、学園でも知っているのはその二人と学長くらいなものなのだが……

 

「優秀な生徒会役員が、学園最深部にISのコア反応をキャッチしてな。敵でも無いしナターシャの専用機、銀の福音のコアの反応でも無い。そして学園のピンチだと言うのに、元米軍所属のIS操縦者と元日本代表候補生が戦闘に出ずに守りに入ったって事は駄姉が昔使っていた暮桜があるんじゃ無いかと推察を立てただけだったのだが、あんたの反応で確信したよ」

 

「……怪我しててもさすがだな」

 

 

 完全に当たっている推察を聞き、私は素直に賞賛を送った。優秀な生徒会役員とは布仏姉の事だろうが、その後の推察は一夏が立てたのだろう。

 

「だが駄姉よ。何故駄ウサギにも隠しているんだ? そもそもの持ち主はヤツだろ」

 

「一夏も知ってるとは思うが、束は細胞レベルで人間のレベルから逸している」

 

「まぁそうだとは思ってたが」

 

 

 やはり気付いてはいたのか……妹の箒ですら知らないはずなのだが、やはり一夏の観察眼には脱帽する。

 

「アイツが本気で世界を滅ぼそうとすれば、並のIS操縦者では止められないだろう」

 

「そもそもあの駄ウサギが本気でそんな事しようと思えば、ISなんて停められるだろ。全てのISはアイツが造ったも同然なんだから」

 

「確かにアイツがコアの機能を停止させてしまえばISは使い物にならないが、あの暮桜だけはアイツの管理下には無いんだ」

 

「多分須佐乃男もだろうが、暮桜は駄ウサギに強制停止させられないんだな」

 

「ああ、だから隠している。アイツが暴走した時の為の最終兵器として」

 

「もう既に暴走はしてるとは思うが、それ以上の暴走があると思ってるんだな」

 

「私は付き合いが長いし、アイツがしそうな事は大体予想がつくんだが、こればっかりは私でも分からないからな」

 

 

 篠ノ乃束と言う人間を完璧に理解出来る人間など存在しないのでは無いだろうかとすら私は思っているのだが、一夏は呆れたように腕を組み首を振った。

 

「今回の件は無関係なんだろうが、あの人が亡国企業の考えを面白いと思ってしまうと厄介だろうな。コアを惜しみなく提供する可能性すらあるんだから」

 

「だから暮桜は隠しておく必要があるんだ。アイツが暮桜のコアを持って行ったら終わりだからな」

 

「白騎士は如何したんだ?」

 

 

 その質問に真耶が首を捻った。

 

「白騎士ってあの白騎士ですか? でも、如何して千冬さんと白騎士が関係してるんです?」

 

「何だ、知らなかったのか? 白騎士の正体は私だ」

 

「えぇ!?」

 

「もう一個言うと、あれは駄ウサギのISお披露目会だ。各国のPCをハッキングしてミサイルを日本に向けて発射させ、それを駄姉が操縦する白騎士が撃ち落す。これでISを認めさせるつもりだったんだろうが、余計に世界を混乱させただけな結果になったんだがな」

 

「……知りたくも無かった真実ですね」

 

 

 一夏が語った真実に耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られるのは何故だろう。私は当事者でありその事を知っていたはずなのに聞きたくなかったと思うのは何故だ……

 

「なぁ一夏、いい加減『駄姉』と呼ぶのは止めてくれないか?」

 

「じゃあ他に何て呼べと言うんだ。義姉さんとでも呼べば良いのか?」

 

「前みたいに呼んではくれないのか」

 

「無理だろ。元々あまり呼びたく無かったんだし、完全に血の繋がりが無いと分かった以上けじめはつけるべきだろ」

 

「だがな、私たちは姉弟では無かったが家族だったろ」

 

「金銭的な面以外で貴女を必要と思ったことがありません。そもそもその金銭的な面でも貴女の無駄遣いにどれだけ頭を悩ませてきたと思ってるんですか」

 

 

 急に丁寧な話し方になった一夏に、私は嫌な汗を垂らす。こうなった時の一夏は確実に相手の急所を抉ってくるのだ。

 

「そう言えば昔、貴女の名義で俺が貯めていたお金を全て勝手に使った事がありましたよね」

 

「あれは束に頼まれて仕方なく……」

 

「あれだけ貯めるのにどれだけ苦労したのか分かってるんですか? 使うのは一瞬かもしれませんが、貯めるのはかなり大変だったんですからね」

 

「その事は何度も謝っただろうが! それを何時までもネチネチと」

 

「開き直らないでくださいよ。まだ許した訳じゃ無いんですからね」

 

 

 その後もちょくちょくと一夏が貯めていたお金を無断で使ったのだが、その都度一夏にはカミナリを落とされているのだ。

 

「まったく反省しないで、同じ事の繰り返し。俺が見捨ててたら貴女何処かそこら辺で野垂れ死んでたんじゃないですか?」

 

「そんな事! ……あるかもしれないです、ハイ」

 

 

 貯蓄が出来ない、家事が出来ない、何をどれだけ買えば良いのかも分からない……一夏が支えてくれてなかったら確実に野垂れ死んでただろうな……

 

「織斑君、あまり興奮し過ぎると身体に障りますよ」

 

「さっきも言いましたが、此処まで大げさにするような怪我じゃ無いんですがね」

 

「織斑君は自分の身体の事を蔑ろにし過ぎなんですよ! 明らかに大怪我なんですから!」

 

 

 一夏の事を心配している真耶が、一夏に大人しくしてるように怒鳴りつける。一夏も心配されてると言う事は分かってるので、強く反論出来ないようだ。

 

「兎に角千冬さんが駄目人間なのは昔からなのは分かりましたので、織斑君は今は大人しく寝てて下さい」

 

「おい真耶、言うに事欠いて駄目人間とは何だ」

 

「現に織斑君が居なかったら寮長室はゴミ溜めですよね?」

 

「それはお前だって似たようなものだろうが!」

 

「私は千冬さんほど酷くないです!」

 

 

 何時もの口論になって、一夏が盛大にため息を吐いたのに気付き、私と真耶は互いに気まずくなり、病室から出て行った。

 

「一夏、また来るからな」

 

「来なくて良い。それよりもアンタは少し家事を出来るように努力するんだな」

 

「一夏、それは無茶じゃ無く無理だ」

 

 

 昔から何度も挑戦はしてるのだが、一向に上達する気配すらないのだ。その事は一夏自身も分かってるのだろうが、さすがに何時までも一夏に面倒を見てもらう訳には行かないのだろう。一夏は既に彼女が居るし、国籍が決まればすぐにでも結婚するかもしれない。そこに小姑たる私が割り込むのは無理があるだろうな……てか、小姑って歳じゃ無いんだがな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡国企業を撃退した翌日のHR、何時まで経っても来ない一夏君の事が心配になり始めた時に織斑先生から衝撃の言葉が発せられた。

 

「まず始めに織斑兄の事だが、昨日の戦闘で重症を負い、現在医務室で絶対安静中だ」

 

「織斑君が!?」

 

「だって私が見た時はもの凄い勢いで敵を薙ぎ払ってたよ!?」

 

 

 クラス中が騒がしくなる中、本音や須佐乃男たちはもの凄い冷静だった。やっぱり私たちより一夏君に近しいだけあって負傷してた事は知っていたのだろう。

 

「そして医務室は一般生徒が立ち入れる場所では無いので、お見舞いやらを計画したところで無駄だからな」

 

「織斑先生、一夏さんが不在の間のクラス代表は如何するのでしょうか?」

 

「その事だが、織斑兄は鷹月を推薦していたのだが……鷹月、お前やる気あるか?」

 

 

 織斑先生に言われた事を理解するのに、私は少し時間を有した。

 

「私が一夏君の代理ですか……?」

 

「そうだ。織斑兄もお前になら任せられると判断したのだろう。ちなみに私も賛成した」

 

「ですが、私はそれほどIS操縦が上手い訳でも無いんですが……」

 

「クラス対抗がある訳でもなし、唯単にクラス代表として連絡事項などを聞きに来てくれるだけで良いんだ。お前なら出来るだろ?」

 

「まぁそれくらいなら……でもそれなら私でなくても良いのではないでしょうか」

 

「そうだな。だからお前がやる気が無いのなら他の人間にやらせるつもりだ。あくまでも織斑兄の推薦があったからお前に聞いただけで、やりたく無いのならやりたいヤツにやらせる」

 

 

 一夏君が私を信頼してくれているのは嬉しいけど、さすがに私には荷が勝ちすぎている。私はクラス代表なんて器じゃないし……それにセシリアさんがやりたそうな雰囲気を醸し出してるし、やりたい人が居るのならそっちに譲った方が良いだろうな。

 

「せっかく一夏君が推薦してくれたのですが、やはり私には力不足です」

 

「そうか、なら他にやりたいヤツは居るか?」

 

 

 織斑先生の言葉に、セシリアさん、シャルロットさん、ラウラが手を上げた。全員が一夏君に良いとこ見せようとしてるんだと感じたが、ラウラだけはそれともう一つ理由がありそうだった。

 

「オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒの三人か……他に誰か居ないか? 織斑兄の代わりを務めようとするヤツは」

 

 織斑先生が教室を見渡したが、やはり三人以外には手を上げる人は居なかった。一夏君の代わりとなると、相当な重荷だと感じる人が多いのだろう。だってテスト前に一夏君が勉強会を開いた事を知ってる人も結構居るし、それ以外にもこのクラスは授業中におしゃべりやらが多いので、それを注意したりする事も仕事に含まれるのだ。おしゃべりしてる側の人が注意する立場になったところで注意出来るか如何か微妙なのだ。

 

「それじゃあオルコット、デュノア、ボーデヴィッヒの三人に何故代理を勤めたいのか言ってもらい、その後で誰が相応しいか決めてもらう」

 

 

 そう言って織斑先生は三人を立たせ、それぞれの意気込みを言わせました。やはりセシリアさんとシャルロットさんは一夏君に良いとこを見せたいと言う魂胆が見え隠れしてましたし、セシリアさんは自分こそが相応しいと言い、シャルロットさんは他の二人では一夏君の代理は務まらないと言った。

 この二人は一夏君が言っていたように、傲慢で高飛車、人が良さそうで腹黒いと評価されている通りの感じがした。

 

「最後にボーデヴィッヒ、お前は何故代理を務めたいと思ったんだ」

 

「はい、私は昨日の戦いで兄上に助けられました。あの時既に負傷していた兄上が無茶をしてまで私を救い出してくれなかったら此処に居なかったのは私だった事でしょう。兄上が絶対安静にまでなった原因の一旦は間違いなく私です。ですから兄上が戻ってくるまでの間、兄上の代わりを勤める事で少しでも兄上に恩返ししたいのです」

 

 

 ラウラが言っているのは恐らく理由の一つだろう。でもそれが紛れも無いラウラの本心である事はクラス全員が理解した。だって一夏君がしそうな事だったし、無茶は何時もの事だって笑ってたのも容易に想像出来たからだ。

 

「なるほど、ボーデヴィッヒの思いは確かに分かった。だがお前にクラスを纏める事が出来るのか? 軍でもクラリッサに頼りきりのお前が」

 

「確かに私はクラリッサに頼ってきました。ですがクラリッサにも自分の時間が必要になったので、これからは自分で物事を決めるべきだと思っていました。その矢先にこの機会が巡ってきたので、これを機会に是非自分で物事を決められるようになりたいと思ってます」

 

「クラリッサに自分の時間? アイツに何かあったのか?」

 

「はい。運命の相手にめぐり合ったようで、週末や祝日はその相手との語らいで忙しくなるでしょうし、それ以外にも色々とあるようです」

 

「なん…だと……何となくそんな気はしていたが、本当なのか!?」

 

「ええ。何でも兄上の友人とかで、確か……御手洗数馬と言いましたか」

 

 

 二人の会話を聞いていても、私たちには何の事だかさっぱりだったのだけれども、もの凄い勢いでドアが開けられ、凰さんが教室に駆け込んできた。

 

「ラウラ、その話って本当なの!?」

 

「何だいきなり……この前の日曜にそうなったとクラリッサから聞いているし、兄上の方にもその数馬と言う男から連絡があったようだぞ」

 

「凰、HR中に教室に入ってくるとは言い度胸だ。私も舐められたものだな」

 

「ゲッ、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ、この馬鹿者が!」

 

 

 伝家の宝刀、出席簿アタックで凰さんは撃沈して、その後で何故か織斑先生までも撃沈した。

 

「織斑兄の代理はボーデヴィッヒに任す、それから次の時間は自習とする」

 

「教官!?」

 

「織斑先生だ……では解散」

 

 

 おぼつかない足取りで教室から出て行った織斑先生……いったいなにがあったのだろうか。兎に角自習なら自分のペースで勉強出来るし、一夏君の代理も引き受けなかったから注意するのも気にしなくて良いしね。これはこれで良かったのかな。




てな訳で、代理はラウラです

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