何時ものように一日の授業が終わり、生徒会室に向かおうとしたら珍しいヤツからの電話が掛かってきた。
『よう一夏、日曜の約束忘れて無いだろうな』
「覚えてるさ。わざわざ他の誘いを断ってまで予定を空けたんだ。今更無理になったとか言うんじゃねぇぞ」
『言う訳無いだろ。俺だってバイトのシフトを代わってもらったりして漸く予定を空けたんだからな!』
相変わらず数馬はバイト三昧のようだった。これが何か将来の為ならば素直に感心出来るのだが、数馬の場合はギャルゲーの為だったりだからな……少し減らしても良いと思うんだが。
「それで?」
『ん?』
「わざわざ確認の為に電話してきた訳じゃ無いんだろ?」
それだったら俺にじゃなく弾にしてるはずだ。アイツは忘れっぽいからな……
『鈴が居ないから俺ら三人だろ? 普段と違う事しねぇか?』
「違う事? 例えば?」
『そうだな……大人の遊び場とか』
数馬がそう言った途端に俺は電話を切った。そしてすぐさま着信が来る。相手はもちろん数馬だ。
『冗談だよ! 相変わらず冗談の通じないヤツだな』
「そう言う冗談は嫌いだ。それで、本当は何をするつもりなんだ?」
『メイド喫茶にでも行こうぜ』
「メイド喫茶? 何処の?」
『例のショッピングモールに出来たわりと新しいとこ』
「……昼食時は予約しないと入れないって場所か?」
『おっ、さすがの一夏でも知ってたか』
いや、知ってるも何も、この前行ったばかりなんだが……
『弾のヤツも興味津々だし、これで決まりだろ!』
「弾が? アイツもか……」
『最近弾も彼女が出来たとかで付き合い悪いしよ、もう少しコッチにも付き合って欲しいぜ』
「数馬は欲しいとか思わないのか?」
『俺? 俺は二次元に嫁が居るからな!』
「……そう言う事を堂々と言うからモテないんだぞ」
見た目はさほど悪く無いのに、こう言う事を女子の前でも平気で言い張るから数馬はモテないんだと俺は思っている。
『良いんだよ、モテなくても! 二次元の女の子は俺の事馬鹿にしないから!』
「馬鹿なのは本当なんだから、現実を受け止めたら如何だ?」
『じゃあ何で弾には彼女が出来たんだよ! アイツの方が馬鹿だぞ!』
「五十歩百歩だとは思うが……弾の彼女は俺が紹介したんだ。何でも一目惚れだそうで」
『何ッ!? 弾に一目惚れだと!?』
まぁ普通は驚くよな……鈴に言ったら同じ反応された挙句に榊原先生を説得してくるとか意気込んでたしな……友人二人にそんな風に思われてるなんて、やはり弾は可哀想なヤツだな。
「この前偶然デート中の二人を見たが、しっかりと彼氏やってたぞ」
『クソッ……俺だって出来るのなら彼女が欲しいんだよ! だけど現実問題として俺は一夏の引き立て役でしかなかったしな』
「俺の? 別にそんな事無かったんじゃないか?」
『これだから無自覚モテ男は……お前にそのつもりが無くとも周りはそうとしか見てなかったんだよ!』
「それじゃあ誰か紹介してやろうか?」
『何! 本当か!!』
「そうだな……暴力竹刀女か殺人的料理下手傲慢金髪か腹黒美少年風金髪、どれが良い?」
『全部お断りだ!』
なんだよ、贅沢なヤツだな……
「だったらウチの駄姉が良いか?」
『駄姉? 駄姉ってもしかして千冬さんか?』
「ああ」
『見た目は最高なんだが、あの性格はな……一夏を溺愛してるし、お前が義弟になるのかと思うとやっぱ駄目だな』
「確かに義兄がお前のような阿呆じゃ安心出来ないしな。胃の痛い思いをするだけだからな」
『他に居ないのかよ? 普通そうな女の子とか』
「普通ねぇ……童顔無駄乳女教師が居るが、お前とだとつりあわないしな」
『どんな人だ?』
「下手したら俺らより年下に見られるような人で、すぐ泣きそうになる」
『何それ、スゲェ可愛いんですけど』
今の説明だけで可愛いと思える数馬がスゲェよ……実際に見ても無いのに断言出来るとは、さすがギャルゲーマスターなだけあるようだな(弾から聞いた数馬の女子の間での渾名だ)。
「本人に興味があるか如何かくらいは聞いておくが、あまり期待はしない事だな。あの人、結構夢見がちだから」
『頼むぜ。それじゃあ俺はこれからバイトだから』
「今日もバイトか。バイト先に女子は居ないのか?」
『居るけど全員彼氏持ちだ。そもそも殆ど話したりしないしな』
「そうなのか?」
『お前みたいに黙ってても女が寄って来る訳じゃ無いんでな!』
「……俺はカブトムシにとっての樹液か? 甘い蜜に誘われて来てる訳でも無いだろうよ」
『お前は甘い蜜なんだよ! それが例え毒であっても舐めたくなるようなな!』
「毒って……酷い言われようだな」
『兎に角、その美人先生に聞いておいてくれよな! それじゃ!』
「あっ、おい! ……美人だなんて一言も言ってないんだがな」
数馬の中の山田先生はどんな風になってるんだろうか……アイツの頭の中を覗けないのが非常に残念でならないのだが……
「あれ? 織斑君じゃないですか」
「ん? あぁ、無駄……山田先生」
危うく無駄乳先生と言いそうになってしまった……あの一件以来駄姉は誰も居ない所でそう呼んでるらしい。
「無駄? 織斑君まであの呼び方をするんですか!?」
「いえ、つい口を出ただけですので。普段はちゃんと山田先生とお呼びしてるじゃないですか」
「あの呼び名も織斑君が考えたものですし、千冬さんは喜んであの呼び方をしますし……」
「泣かないでくださいよ! 俺が苛めてるみたい……って、実際苛めてるのか」
イラついていたとはいえ、山田先生に面と向かって無駄乳呼ばわりしてしまったからな……まさか駄姉にハマるとは思わなかったが。
「良いんです、どうせ私は無駄におっぱいの大きい無能教師なんですから……」
「誰もそこまで言ってないんですが……」
自虐が重い……仕方ない、数馬の事でも聞いてみて話題を変えよう。
「そう言えば山田先生、先生は恋人が欲しいとか言ってましたよね」
「えぇ……でもこんな無能で見た目子供の先生になんか恋人なんて出来ませんよ……」
「暗いですよ……えっと、それで先生に興味があるって言うヤツに心当たりがあるんですが、会うだけ会ってみませんか?」
「えっと、如何言う人でしょうか?」
さて、如何言ったものか……正直に話すと印象最悪だし、かといって嘘を教えてもいずれバレるだろうしな……しょうがない、正直に話すか。
「俺の悪友の一人なんですが、勉強駄目でギャルゲーを買う為に日夜バイト三昧で二次元に嫁が居ると豪語する残念な男です。見た目は悪く無いんですが、そう言った事を平気で言うからモテないんだと俺は思ってるんですがね」
「……随分と個性的なお友達ですね」
やっぱり引いてるよ……そりゃ引くよな。正直に話して引かれたんじゃ、どっちにしろ数馬とは無理だったようだな。
「そのお友達の好意は嬉しいですが、さすがにそんな人では……」
「そうでしょうね。最初から無理だとは思ってましたし」
「そうなんですか?」
「だって先生は男に夢見すぎなところがありますし、その悪友も女に夢見すぎな点があるみたいですし、理想の高い同士は駄目だと思ってました」
数馬の場合は理想では無く現実を受け止められるだけのメンタルが無いんだがな。
「そうですか、それじゃあ私はこれで」
「また誰かそう言った人が居たら教えますよ」
「お願いしますね」
スマン数馬、お前の恋は始まる前に終わったぞ。まぁ最初から無理だと思ってたのは本当だし、そもそも学園の教師二人が悪友の恋人ってのも嫌だしな。
「誰か他に居たかなぁ……まぁ別に良いか」
所詮数馬の事だし、片手間で考えておけば良いだろうと思い、俺は生徒会室に向かった。何だかんだで数馬の事を理解してやれるのは鈴くらいじゃないかと思ってるんだが、如何も二人は嫌がってるんだよな……喧嘩するほど仲が良いのか?
「やっほー一夏」
「鈴か。珍しいなこんな所で」
「こんな所って、アタシの教室の前じゃない」
「ん? あぁ、此処二組か」
随分と教室の前でボケーっとしてたんだな、俺は。
「ねぇ一夏、榊原先生って結局弾と付き合ってるの?」
「この前デート現場に出くわしたが、随分と楽しそうだったしちょっかい出すのは止めろよ」
「分かってるわよ。それにしてもあの弾に彼女ねぇ……てっきり蘭の方が先に彼氏を作るかと思ってたわよ」
「そう言う鈴は如何なんだよ? お前だってあれほど彼氏が欲しいって騒いでた時期があったろうが」
「アタシ? アタシは今はISが恋人かな」
「……やっぱり数馬と似てるな」
アイツは二次元が恋人、二次元に嫁が居るとか言ってるが、鈴も人間では無くISが恋人とは……
「あんな二次元オタクと一緒にしないでよ! 一夏がそう言ってたから中学の最後の方では友達に冷かされてたんだからね!」
「転校する前か? そんな風に思われてたんだな」
別に煽ったわけでも他のヤツらに言った訳でも無いのに、やっぱり周りもそう思ってたんだろうな。
「一夏が弾に言って、弾が言い触らしたから大変だったんだから!」
「何だ、弾の所為か」
あの阿呆が言い触らしたのなら仕方ないだろ。そもそも俺は誰にも言うなとちゃんと釘を刺しておいたんだがな。
「それで?」
「え? 何がよ」
「数馬と付き合うつもりは無いのか?」
「ある訳無いでしょうが! そもそもアタシは一夏にフラれてからは誰かを好きになる事なんて無いと思ってるんだからね」
「それでISに恋してるのか……悲しい女子高生だな」
ISと言ったって、鈴はISの声が聞こえる訳でも無いし、そもそも結構乱暴な戦い方をしてるような気もするんだが……
「何でいきなりこんな話になったのよ?」
「さっき数馬から電話があってな。恋人が欲しいと叫んでたから心当たりを聞いて回ってるんだ」
「心当たり? 他に居るの?」
「とりあえず、篠ノ乃とセシリアとシャルを勧めてみたが断られた」
「……なんて紹介したのよ」
「ん? 暴力竹刀女と殺人的料理下手傲慢金髪と腹黒美少年風金髪だが」
「そりゃアタシが男でも断るわ」
「そうなのか。俺でも断るとは思ってたが、やっぱりそうなんだな」
「確信犯かよ!」
「後は駄姉と山田先生を勧めてみたが、駄姉は断られた」
「千冬さんは無理でしょ」
やっぱり鈴もそう思ったか……数馬の未来が見えないもんな、あの駄姉と付き合ったら。
「それで山田先生に聞いてみたんだが、あっさりと断られた」
「そうでしょうね、山田先生にも選ぶ権利はあるわよ」
「何気にヒデェな」
「あによ、アンタだってさっきの三人はお断りでしょ?」
「そもそも考えた事すらネェよ」
「アンタも十分酷いわよ」
やっぱり鈴と話す時は一番気が楽だな。最近では刀奈たち相手でもこうやって話せるようにはなって来たが、付き合いが長い分、鈴と話す時が一番自然に話せる。
「それじゃあアタシは訓練だから、一夏も生徒会でしょ?」
「そうだな。ところで鈴、本当に数馬と付き合う気は無いのか?」
「無いわよ。100%無いわね!」
「あっそ、それじゃあ良いや。悪友同士の結婚ってのもおもしれぇかなと思ったんだがな」
鈴にも数馬にもそのつもりが無いのなら仕方ないか。まぁいずれ数馬にも鈴にも恋人が出来るだろうし、周りがとやかく言う事でも無いのかもな。
「い・ち・かく~ん!」
「何ですか更識先輩」
「ぶぅ~全然驚いてくれないしその呼び方は無いな~」
「気配で分かってましたし、そもそも隠れてるつもりも無かったですよね?」
何故一年のフロアに刀奈が居るのかは知らんが、さっきからコソコソとしてるのは何となく分かっていたのだ。
「簪ちゃんと遊ぶ約束してるんだけど、一夏君何処に居るか知らない?」
「知りませんし、楯無さんには生徒会の仕事がありますのでそちらを優先してもらいますからね」
「そ、そこをなんとか……」
「出来ません。さぁ行きますよ」
「いや~! せっかく簪ちゃんと遊べると思ってたのに~!」
泣き真似をしている刀奈を引きずりながら生徒会室に向かったので、少し遅くなったが、特に気にするほどでもなかったのでそのまま仕事をする事にした。
ちなみに簪には少し刀奈を借りるとメールで言っておいたので問題は無いのだ。
お姉ちゃんが一夏に連行されてたとクラスメイトから聞き、その後一夏から生徒会の仕事をさせてからこっちに来させるとメールを貰ったので、今は私と美紀と本音の三人でのんびりと過ごしている。
「楯無様もおりむ~に声をかけるなんて駄目だね~。見つかったら生徒会室につれてかれるって分からなかったのかな~?」
「でも楯無様は生徒会長ですよね? 一夏様が連行せずとも仕事をするのが普通なのでは?」
「お姉ちゃんはサボりグセがあるからね。一夏と虚さんが頭を悩ませてるし」
「そうだったね。刀奈お姉ちゃんは昔からサボりグセがあったね」
さっきは周りの耳を気にして『楯無様』と呼んでいた美紀だが、すぐに『刀奈お姉ちゃん』に呼び方が変わった。誰も聞いて無いと気付いたのかな。
「それで楯無様は何時こっちに来るの~?」
「終わってからだとは思うけど、それでも何時になるかは……」
生徒会の仕事と言っても、その半分は職員室から回ってくる仕事らしいし、しかもほぼ期限間近のものが多いため、その日のうちに処理しなければ大変な事になるとか……なら何でその日まで放っておいたのだとツッコミたくなったが、その仕事のほぼ全てが織斑先生か山田先生の担当だそうで、それを聞いただけで納得してしまったのだ。
「お、お待たせ……」
「お姉ちゃん、随分と疲れてるね」
「一夏君と虚ちゃんが厳しくてね……少しでも休もうとすると怒られて大変だったのよ」
「でも、刀奈お姉ちゃんの仕事なんだから、ちゃんとやらなきゃ駄目だよ? あんまり一夏様や虚さんに迷惑ばっか掛けてると愛想尽かされちゃうし」
「ウグッ! そうだよね……あの二人に愛想尽かされちゃったら更識はやってけ無いものね」
今の更識家の事情を良く知る私たちとしては、とてもじゃないが笑って流せるようなな自虐ネタでは無かった。
「まぁ終わったんなら気にしないで遊ぼう!」
「そうだね~! 楯無様~思いっきり遊びましょうよ~!」
「そうね、一夏君や虚ちゃんはまだ仕事中だけど、遊びましょうか!」
「……あれ? 刀奈お姉ちゃんはもう終わりなの?」
「後は私が居なくても何とかなるからって、一夏君と虚ちゃんが許してくれたのよ」
多分戦力外通告だと思うんだけど……お姉ちゃんは殆ど最終チェックだけだし、それも一夏が代理でする事が多いからお姉ちゃんは必要無くなったのだと思う。だけどそれは言わないでおこう。
「そう言えばマドカちゃんと須佐乃男は?」
「碧さんと見回り中。終わり次第合流するってさ」
「そう、なら早く部屋に行きましょう。一夏君と虚ちゃんが帰ってきたらまた五月蝿いわよ」
「一夏たちも今日は私たちが遊ぶって言うのは知ってるからそこまで五月蝿く言わないと思うけど、確かに一夏たちが居ると思いっきり遊べないもんね」
「私たちの他に誰か来るの?」
「えっと、エイミィと鷹月さんと日下部さん」
「セッシーたちも呼んだんだけど、部屋に来るのは駄目なんだって~」
そう言えば前に侵入しようとして一夏に酷いトラウマを植えつけられたんだっけ。それであんなに脅えてたんだ。
「人数は多いほうが良いけど、あまり多いと沢山は出来ないからね。それくらいが丁度良いって」
「そうだね~。特にかんちゃんが無双するからコントローラーが一個かんちゃん専用になりつつあるからね~」
「負けぬけルールだからね」
四人対戦で下位二人が交換するルールなので、最後の二人になればそのまま次の勝負にも参加出来るのだ。
まぁそんな事しなくても私は殆ど一位だから交換する事が無いんだけどね。
「今日は絶対に簪ちゃんに勝つんだからね!」
「お姉ちゃん何時もそれ言ってるよ?」
「でもいっつもかんちゃんが勝ってるんだよね~」
「簪ちゃんは強いし上手だからね」
「でも、一夏には勝てないんだよね……」
「おりむ~は更に別格だもん。あれはもう誰も勝てないって」
「そうそう。一夏君は無敵だもんね。ゲームでも現実でも」
「ですが一夏様も苦手があるのでは?」
一夏の苦手か……織斑先生や篠ノ乃博士が作った料理とかかな。それ以外で苦手を考えようとしても、あんまり出てこないし……ちょっと前なら私たちがくっつけば赤くなってたけど、今やそれは弱点では無くなってるし。
「兎に角今日こそは簪ちゃんの天下を終わらせるんだからね!」
「お姉ちゃんこそ、私ばっかきにしてたら他の人に負けちゃうかもよ?」
「下克上で私が天下を取るのだ~!」
「本音ちゃんが? 多分無理だから諦めなよ」
遊ぶ前から既に楽しい雰囲気だった私たちは、部屋についてからもそのままのテンションで遊び続けた。そして碧さんたちやエイミィたちも部屋に来て大勢で遊んだのだが、結局最後まで私はぶっ続けでゲームをし続けていた。
「今日も簪ちゃんの一人勝ちか」
「強いですね~」
「もう殿堂入りで次からは参加しないとか?」
「それじゃあ私がつまらないじゃないのよ」
「冗談だよ」
マドカの冗談に半分本気で怒った私を見て、皆がちょっと驚いていた。だってせっかく皆で楽しく遊べてるのに、私だけ見てるだけは嫌だったから。
実際誰とくっ付けるかで悩みます……