一夏と虚さんがキッチンで夕飯を作ってる間、私は如何やって一夏に甘えようか考えていた。一夏にあーんしてもらうのも良いかな……でも、どうせならもっと甘えたいかな……本音やお姉ちゃんは普段から如何やって一夏に甘えてるんだろう、悩まないのかな?
「かんちゃん、何だか顔が怖いよ?」
「凄い真剣な表情ですね」
「簪は何時もこんな顔だと思うけど?」
「いやいや、簪ちゃんは普段はもっと可愛らしい表情だよ」
私を混ぜないで私の表情の話で盛り上がってるお姉ちゃんたち……私は今それどころじゃ無いんだから私の話で盛り上がらないでよね!
「かんちゃん、何か悩んでるの~?」
「楯無様、また何かやったんですか?」
「何で私がやったって決め付けるの!?」
「楯無さんは色々とやらかしてますからね」
「酷い!」
お姉ちゃんを悪者にしてこの場を切り抜けるのは些か気分が悪いと思った……お姉ちゃんの事で頭を悩ませるのは一夏と虚さんだしね。
「別にお姉ちゃんの事では悩んで無いよ」
「じゃあ何で悩んでるの~?」
「お姉ちゃんも気になるな~」
「えっとね……如何やって一夏に甘えれば良いのか悩んじゃって」
普段はなるべく一夏に甘えないようにしてたのが仇になってしまったのだろうな。こう言った時に甘え方が良く分からないなんて……
「そんなの、普通にかんちゃんがしてほしい事をしてもらえば良いんだよ~」
「そうね、私はさっきギュってしてもらったし」
「してほしい事……」
私は頭の中で一夏にしてほしい事を想像して、自分の考えに呆れた……私って意外とエッチな子だったんだな……
「かんちゃん?」
「えっ、何!?」
「顔赤いけど大丈夫?」
「うん、平気だよ!」
「何か怪しいですね……」
「簪が挙動不審だ」
「何でも無い、何でも無いよ!」
もし私がお願いしたら、一夏はやってくれるのかな?
とりあえず虚さんには盛り付けを担当してもらう事にして、俺は残りの調理を終わらせる事にした。
「スミマセン、一夏さん……結局足手まといで」
「今度ゆっくりとやりましょう」
虚さんの料理の腕は、初めて会った時から考えればかなり上達してるのだが、まだ1人で何かを作るって段階には行ってないのだ……
「虚さんだって落ち着いてやれば出来るようにはなってきてますし、そんなに落ち込む必要は無いと思いますよ」
「一夏さん、無理に慰めてくれなくても大丈夫です……」
「泣かないでくださいよ……」
「泣いてません!」
虚さんは瞳を潤ませながらも泣いてないと強がってみせた……何だか可愛いと思ってしまうのはおかしいのだろうか。
「泣かないでください、ほらこっち来て」
「泣いてないです……」
虚さんを呼び寄せて頭を撫でる……どっちが年上だか分からない構図だが、今はそんな事を気にする場面でも無いだろう。
「虚さんはもう少し周りに頼っても良いと思うんですがね」
「頼ってますよ。主に一夏さんですが」
「頼れるうちはどんどん頼ってくれて構いませんから」
この部屋の女子で、誰がもっとも苦労してるかと聞かれたら、間違い無く虚さんなのだから、俺以外にも頼って良いと思うんだがな……弱さを見せたく無いのだろうか?
「そんな事言うなら、一夏さんだってもっと頼ってくれても良いんですよ?」
「そうですね……考えておきます」
誰かに頼るって、如何やれば良いんだろう……静寂に頼むように虚さんたちを頼れば良いのだろうか?
「一夏さんは1人でやろうとし過ぎです」
「出来る事なら1人でやれば早く終わりますからね」
「でも、それだと一夏さんが居ない場合に代わりを務められる人が居なくなっちゃいますよよ?」
「そこまで抱え込んで仕事はしてないつもりなんですがね……」
「一夏さんがそう思ってても違うんですよ」
「なるほど……」
自分だけで判断してはいけないのか……これからはもう少し周りに頼ってみるとするか。出来ればだが……
調理が終わって一夏と虚さんがキッチンから夕飯を持ってきてくれた。相変わらず一夏の作るご飯は美味しそうで、本音とマドカは涎を垂らす勢いで料理を見ている……その気持ちは分からないでも無いけど、そこまで近づいて見ることは無いんじゃないかな?
「おりむ~、食べて良い?」
「お兄ちゃん、食べて良いよね?」
「もう少し待て。まだあるから」
そう言って一夏はもう1回キッチンに行き、残りのおかずを持ってきてくれた……女としては嫉妬しなきゃいけないんだろうが、一夏の作る料理は嫉妬するのも馬鹿らしいくらいレベルの違うものなのだ。
「相変わらず美味しそうね」
「お姉ちゃんも一夏には適わないもんね」
「一夏君は次元が違うもの。私たちは精々家庭料理レベルよ」
「俺のも一応家庭料理なんですが……」
「一夏君のはお金を払っても食べたいレベルだもの」
「じゃあ払います?」
「ううん、せっかくただで食べられるんだから」
「まぁ、冗談でも嬉しいですよ」
一夏は珍しく照れてるのか、頭をポリポリと掻いた。一夏が照れてる時の癖なのか、この仕草が出た時は照れている合図なのだ……滅多には見られないけど。
「それじゃあいただきま~す!」
「いただきま~す!」
我慢出来なくなったのか、本音とマドカが真っ先に箸をつけた。それに続いて須佐乃男も食べ始め、その流れに乗って私とお姉ちゃんも食べ始めた。
「そんなにがっつかなくても……」
「一夏さんの料理はそれくらい美味しいんですよ」
「そう……ですかね?」
「えぇ、そうなんです」
一夏と虚さんはそんなやり取りをした後、ゆっくりと食べ始めた……この2人が落ち着いてるから、余計に私たちが子供っぽく見えるんだよね。
「簪ちゃん、如何かした?」
「お姉ちゃんってちっとも大人っぽくないよね」
「そんな事無いもん!」
「じゃあ、お姉ちゃんの何処が大人なの?」
「この大きなおっぱい!」
「発言が子供だよ……」
自分の何処が大人かを聞かれ、真っ先に胸に行くあたりがお姉ちゃんの子供っぽさなのだろうな。
「かんちゃん、何でそんな事を急に聞いたの?」
「私も気になりますね」
「だって一夏と虚さんと比べると、私たちって子供だな~って思ったんだ。でも、お姉ちゃんは1つ年上なのに、私たちと同じ部類に居るから何処か違うのかな~って」
「確かに楯無さんは私たちと変わらない子供っぽさだよね」
「何だよ~皆してお姉さんを苛めて~!」
「それが子供っぽいんだよ」
泣きそうになりながら抗議してくるお姉ちゃんの姿は、やっぱり子供っぽい印象を私たちに持たせるのでした。
「しゃべるなら口の中を空にしてからしゃべれ」
「お行儀が悪いですよ」
「「「「は~い」」」」
大人2人組に怒られ、私たちは声を揃えて返事をする。虚さんはこの中で1番年上だから落ち着いてるのも分かるんだけど、一夏の落ち着きっぷりはとても同い年とは思えないものがあるよね。
「そう言えば簪ちゃん」
「何?」
「さっきいきなり赤くなってたけど、あれって何を考えたの?」
「な、何でも無いよ?」
「怪しいぞ~」
「正直に白状しろ~!」
「皆のもの、簪を取り押さえろ~!」
「了解!」
お姉ちゃんと本音が言葉で攻め、マドカと須佐乃男が身体を使って攻めてきた……私に助けは居ないのね。
「本当に皆さんは元気ですよね」
「虚さん、貴女も同年代なんですから……」
「そんな事言ったら一夏さんだってそうですよ?」
「俺はあそこまではしゃげませんよ……」
「私もです……」
「ちょっと、助けてよ!」
しみじみと私たちのやり取りを見ている一夏と虚さんに助けを求める。食事中だから一夏が怒ってくれるかと思ってたが、最近は一夏も寛容になってきてるのだった。
「ほら、簪が嫌がってるぞ?」
「大人しくしないと一夏さんに怒られますよ?」
「……それで大人しくなられるのも複雑です」
虚さんの脅しのおかげで大人しくなった4人を見て、一夏が若干へこんだ。一夏としてはそんなに怒ってるつもりは無いのだろうが、私たちに対しても結構怒ったりしてるからその怖さは知っているのだ。
「一夏」
「何だ?」
甘えて良いって言われてるんだから、此処は思ったことを素直に頼んでみよう……絶対に断られると思うけど、万が一が起こるかもしれないから。
「今日さ、一夏に髪を洗ってもらいたいな」
「なっ!?」
「簪ちゃん……やるわね」
既に甘えた2人が私を見て驚愕の表情を浮かべた……まさか私が此処まで積極的な頼みをするとは思って無かったのだろう。
「別に良いが」
「本当!?」
「……何で簪が驚くんだよ」
一夏の言う通り、頼んだ私が驚くのはおかしいのだろうが、私としては断られると思ってたのでこのリアクションは私の中では正しいのだ。
「一夏君、熱でもあるの?」
「何でです?」
「だって、素直に言う事を聞いてくれるなんて……」
「あんまり構ってあげられませんからね、今日くらいは特別です」
「やった!」
一夏と一緒にお風呂に入れるだけでも嬉しいのに、まさか髪まで洗ってもらえるとは。これは他の人よりも1歩リード出来たかもしれない。
「それじゃあ食べ終わったらな」
「うん!」
「仕方ないわね……私たちは大浴場に行きましょう」
「良いな~かんちゃん」
「まさか順番的に簪様しか頼めない事を頼むとは……」
「順番?」
「な、何でも無いよ!」
一夏は例の事を知らないんだから、余計な事を言って台無しにされちゃ困るのだ……私は慌てて否定して須佐乃男の事を睨んだ。
「ふふ」
「虚ちゃん、何かおかしな事あった?」
「いえ、何でも無いですよ」
「?」
虚さんが私たちのやり取りを見て微笑んでいたのを、お姉ちゃんが不審に思って尋ねた。だけど虚さんは何でも無いって言ってそれ以上の詮索は無意味だと言外に言っていた。何時か虚さんに口で勝てる日が来るのかな?
「それじゃあ片付けは俺と簪でしますから、さっさと食べてください」
「は~い」
部屋のお風呂を使うんだから、他の人みたいに時間を気にする必要も無いもんね。一夏の提案を断る理由も無かったので、私は素直に片付けをする事にした。だって考え方によっては、そこでも2人きりになれるのだから。
夕飯を食べ終えて、私たちは一夏君と簪ちゃんを残して大浴場に向かった。本来なら『簪ちゃんズルイ!』って思うんだけど、約束なので渋々簪ちゃんの希望を叶えてあげる事にしたのだ。
「それにしても、まさか簪お嬢様があんな大胆なお願いをするなんて」
「さすが楯無様の妹と言ったところでしょうか?」
「かんちゃんは意外とエッチィよ~」
「まぁ、楯無さんの妹だもんね~」
「そうそう……って、如何言う意味よ!」
まるで私がエッチな女みたいじゃないのよ。
「まったく恥ずかしがる素振りも無く一夏様に胸を押し付ける人が、エッチではないと?」
「おりむ~に見せ付けるようにおっぱいを突き出してるんですから」
「お兄ちゃんの下半身を凝視してるのも知ってますよ」
「それは皆だって同じじゃない!」
「ですが、私たちはお嬢様程露骨ではないですよ」
虚ちゃんの一言に、本音もマドカちゃんも須佐乃男も大きく頷いた……私だってそんなに露骨にはやってないよ。
「楯無様は~おりむ~にくっつきすぎなんですよ~」
「そう言う本音だってくっついてるじゃないのよ!」
「確かに……本音様も十分一夏様にくっついてますね」
「くっついてるって言うか、抱きついてる?」
「一夏さんはお嬢様と本音には特に甘いですからね」
そんな事無いと思うんだけど……一夏君は平等に甘やかしてくれるし、平等に叱ってくれてると思うんだけど、それは私の錯覚なのだろうか?
「確かにお兄ちゃんは楯無さんと本音には甘いような気がする」
「仕事を肩代わりしてるのも、朝起こしてあげてるのも楯無様と本音様ですね」
「今回の甘える順番も、お嬢様と本音は参加資格は無かったはずだったんですがね」
「あはは~……」
「そんな事今更だよ~」
旗色が悪くなってきたなぁ……そんな事言ったって、仕事は一夏君の方が私より出来るんだし、本音を起こしてるのは私たちじゃ起こしても起きないからなんじゃ無いの?
「そんな事より、虚ちゃん」
「……何ですか?」
「ちょっとおっぱい大きくなった?」
「言われてみれば……確かに虚さんのおっぱいが大きくなってる気がする」
「目測でも分かるくらいは大きくなってますね」
ずっと気にしてた事だったので、虚ちゃんは言われて嬉しそうな顔をした……私からすればちょっとだろうが、虚ちゃんからしたら立派な成長なのだろうな。
「やっぱり恋をしてると女性は綺麗になるんだね~」
「何か本音がおかしな事言ってる」
「だっておね~ちゃんのおっぱいが大きくなるなんてビックリなんだもん!」
「失礼ですよ、本音!」
「でも、虚ちゃんが綺麗になってるのは確かよね」
「お嬢様まで」
虚ちゃんは元々可愛いって言うよりは綺麗って感じだったけど、此処最近は更に綺麗になった印象がある……一夏君が私たちの事をより考えてくれるようになったからかな?
「ひょっとして一夏君に何かしてもらってるんじゃないの?」
「何もしてもらってませんよ!……あっでもお嬢様の代わりに仕事はしてもらってますね」
「それは前からでしょ~?」
「自覚があるのなら自分で仕事しなさい!」
「は、はい!」
しまったな~、藪を突いたら鬼が出てきてしまった……しかも雷神様だったから余計にまずかったな~。
「そう言うお嬢様や本音だった、まだまだ成長してるじゃないですか」
「この胸には一夏君への想いが詰まってるのさ」
「おりむ~に見られるだけで嬉しいのだ~!」
「柔らかそうですよね~」
「須佐乃男だって大きくなってない?」
「私ですか?」
須佐乃男はISだけど、人の姿をしてる以上成長はやはりあるのだろう。夏休み前と比べると間違いなく大きくなってきているのだ。
「さすが自立進化型IS、おっぱいも自立進化するのね~」
「羨ましいな~」
「マドカさんだって、千冬様の遺伝子があるんですから大丈夫ですよ」
「そうだよね~。織斑先生も大きいもんね~」
その後は結局おっぱいトークになってしまった……女の子同士の会話ってこんなものだっけ?
お姉ちゃんたちが大浴場に向かったすぐ後、私と一夏もお風呂に入る事になった。今回は水着も無しで完全に裸の状態で一緒に入る事にしてもらった……だってその方が嬉しいから。まぁ、当然タオルで隠してるんだけどね。
「さてと、それじゃあ洗うぞ」
「う、うん……お願い」
まさか一夏に髪を洗ってもらえる日が来るなんて思ってもみなかったな……お姉ちゃんみたく外はねでは無いが髪質は結構似てると思うんだよね。
「簪は普段しっかりと手入れしてるからな、俺が洗ったら傷まないか?」
「大丈夫、一夏は手先器用だから」
「それって何の根拠になるんだ?」
「兎に角、大丈夫だから気にしないで洗って!」
「まぁ、簪が良いならそれで良いが……」
一夏は今一つ納得言ってない顔をしてたが、私の気持ちを尊重してくれるようだった。
「しかし順番に甘えるって、何だそりゃ」
「えっ、知ってたの!?」
「さっき虚さんから聞いた」
う、虚さん……何で教えちゃうんですか~。せっかく一夏を困らせようと思ってたのに、ネタバレしてたら驚かせないじゃないですか。
「まぁ、甘えたいなら存分に甘えてくれて良いんだが」
「えっ、良いの!?」
「節度を守って空気を読んだ行動ならな」
「うん、分かった!」
お姉ちゃんや本音ばっか普段から甘えてたけど、これからは私も一夏に甘えさせてもらおう。とりあえず今は一夏に髪を洗ってもらおう。
「サラサラだな」
「ちゃんと手入れしてるからね」
「女の子だな」
「だってもっと一夏に好きになってほしいんだもん」
「……十分好きなんだがな」
一夏はそっぽ向きながらそう言った……聞いた私も恥ずかしいよ。結局その後は会話する事が出来なかったが、一夏がトリートメントまでしてくれたのでこれはこれで良かったな。
簪まで終わったが、後本音と須佐乃男が残ってるしな……さすがにマドカは参加してないだろうな。
「それじゃあ次は私の番ですね」
「それで、須佐乃男は何が望みなの?」
「一夏様、一緒に寝てください」
「はいはい……」
この流れならそう来るだろうと思ってたよ……別に一緒に寝るだけなら何の問題も無いからな。
「あっ、私もそれが良い」
「……は?」
「じゃあマドマドもおりむ~と一緒に寝るんだね」
「ちょっと待て、例の遊びってマドカも参加してたのか?」
「あれ、一夏君知ってたんだ」
「そうだよ。マドカも参加してたよ」
まぁ、義妹と一緒に寝たからって何か問題が起こる訳でもないしな……俺は半ば現実逃避気味にそんな事を考えていた。
「それじゃあ私のお願いはね~」
「本音も此処で言うの?」
「うん。おりむ~明日の朝は優しく起こしてね~」
「優しく?」
「うん。恋人がしてくれるような起こし方を希望しま~す!」
恋人の起こし方ってどんなだ?
「優しくギュって抱きしめて起こしてほしいな~」
「それが恋人の起こし方なのか?」
そんなので起きるのなら誰もお前を起こすのに苦労しないのだが……まぁ、ご所望とあらば仕方ないか。俺は今夜は須佐乃男とマドカと一緒に寝て、明日の朝は本音を抱きしめて起こす事になった……楯無さんや虚さんの頼みが1番平和的だったな。
「それじゃあお休みなさ~い」
「一夏様、早く行きましょう!」
「そこ、俺のベッドなんだが……」
使用者を差し置いてマドカと須佐乃男が俺のベッドに潜り込んでいる……許可してしまったからには仕方ないのだが、せめて俺を先に入れてくれよ。入りにくいだろうが。
次回スコールを出せるかな?