もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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中途半端な天気……


ISの気持ち

本来なら、この時間は私はサブでメインは織斑先生がするはずだった……だったと言うからには当然そうでは無くなった訳で、私は学園に保護されてから始めてかも知れないメインで授業を受け持つ事になってしまったのだ。

では、何故メインで授業をやらなければいけなくなったのかと言うと、織斑先生が授業に出られなくなってしまったからだ。これだけだと織斑先生が病気か怪我などで出られないとも取れるが、身体的では無く物理的に出られないのだ。

前の授業間休みに一夏君が報告してくれたのだけど、織斑先生と山田先生、そしてシャルロットさんは特別指導室に入れられたとか……元々は指導してははずの織斑先生と、その織斑先生に用があって特別指導室に行ったはずの山田先生が何故その場所に閉じ込められたのかは気になったが、とてもじゃ無いけど聞ける雰囲気では無かったのだ。

一夏君は普段優しい雰囲気の分、怒ると凄く怖いのだ……前に織斑先生と一緒に飲んだ時にそんな話を聞いたし、身を持って怒られた事のある生徒も何人か居るらしい。

 

「いくら一夏君がフォローしてくれるって言っても、初めてだし上手く行くか心配だな」

 

 

そう、私がこんな目に遭う原因になったであろう一夏君が授業をフォローしてくれるからと言って、私は安心出来るほど自分に自信が無いのだ。

アメリカ軍に居た時は下っ端だったし、訓練内容を考えるなんて事はしてこなかった。当然自主訓練の内容は自分で考えたが、それとこれとでは話がまるで違う。自分の事だけ考えていれば良かったのと、30人の事を考えて指導しなければいけないのでは緊張感も責任も比べ物にならないくらい大きいのだ。

 

「大丈夫、実習とは言っても演習では無いのだし、怪我さえ無く行けばきっと上手く行くはず」

 

 

何の根拠も無いが、こうやって自分を誤魔化しておかないと今にも倒れてしまいそうなくらい緊張してるのだ。織斑先生は何時もこんな感じなのだろうか……いや、あの人に緊張とかそう言った概念は無いのだろう。そうでもなければやはりあの人は人間では無いのだろうと結論付けるしか無いくらい、私はその緊張感に押しつぶされそうなのだから。

 

「夏休みの時も一夏君が手伝ってくれたし……てか、あの時はどちらかと言えば一夏君がメインで私がサブだったし」

 

 

2日目に一夏君が居なくなった時は若干焦ったけど、前日と同じメニューをすれば言いと織斑先生に言われたのでそれほどの緊張感は無かったのだ。だが今回は指導内容は聞いているが、それを如何やってやるかは私が考えなければいけないのだ。それも考える時間など殆ど無く授業になってしまったので、私はパニックに陥りそうなのだ。

織斑先生は授業内容を紙に残すタイプの先生では無いので、前回何をやったのか分からないのだ……運悪く前回は私は別件で授業に参加してないので、覚えて無いと言う事では無いのだが、それでも生徒に聞くのは恥ずかしいのだ。

 

「一夏君に聞ければそれが良いのでしょうが、生徒の前で聞く事になるのは変わらないんだろうな……」

 

 

いくら一夏君が教師以上の実力を有しているとは言え、一夏君だって生徒なのだ。教師並に早くからグラウンドに来る必要は無いし、それに一夏君はわざわざ移動してから着替えなければいけないので、それなりに時間がかかるのだ。

 

「うぅ~、一夏君早く来てよ~」

 

 

緊張と重圧に押しつぶされそうになりながら、それでも逃げ出す事の出来ない私は、この状況を作り出した(間接的にだが)一夏君に恨み言を言わんばかりの思いで呼んだ……呼んだからって来てくれる訳では無いのに。

 

「呼んですぐ来てくれるのはどこぞのヒーローくらいよね」

 

「そうですね、そんなご都合主義がまかり通るのは現実では無い何処かでしょうね」

 

「え?」

 

「ナターシャ先生、呼びました?」

 

 

幻では無い……確かにそこには織斑一夏君が立っているのだ。私の弱さが見せる幻覚では無く、実際にその場に、この場に一夏君が居るのだ。これがご都合主義ではなくてなんなのだろうか。

 

「一夏君!」

 

「はい?」

 

「前回の授業内容を教えてほしいの!」

 

「前回の?……そう言えばナターシャ先生は前回居ませんでしたね」

 

 

覚えててくれた……のだろうか?

 

「前回はISを使っての飛行訓練が主でしたが、そこまでいけなかった生徒も多数居るので、前回と同様の進め方で良いと思いますよ」

 

「そ、そうなの。良かった、あんまり進みすぎてると焦っちゃって何も出来なかったところだよ」

 

「そんなものですか?」

 

 

一夏君は首を傾げながら尋ねてくる……さすが織斑先生の関係者だけあって肝が据わってるのだろうか、私が感じていた緊張などまるで皆無のようだ。

 

「一夏君は兎も角、普通の人はいきなり教えろとか言われたら緊張して何も出来ないんだよ」

 

「……俺だって一応普通の人間のつもりなのですが」

 

「そう思ってるのなら、一夏君の中の普通の定義を考え直す事を勧めるわね」

 

「ヒデェ言われようだ……」

 

「だって生身でISを倒しちゃうような人が、普通な訳無いじゃない。それでなくても一夏君は『特別』なのだから」

 

「『特別』……ねぇ」

 

 

一夏君は一瞬嫌そうな顔をしたけれど、それは本当に一瞬だけで、すぐに何時も通りの顔に戻った。一夏君は何を思って嫌そうな顔をしたのだろうか?

 

「男でISを使う事が出来て、ブリュンヒルデと大天災に説教出来る唯一の存在と言われ、挙句の果てにISを生身で倒す……か、確かに『普通』とはかけ離れてると認識せざる得ない人間ですね、俺は。ですが、それ以外は意外と普通だったりするんですよ?」

 

「そうなの?」

 

「俺個人の感想ですから、世間とはズレてるのかも知れませんがね」

 

 

そう言って一夏君はその場でストレッチを開始した。そろそろ女子生徒も来る頃だし、私も少しは身体をほぐしておかなければ。ただでさえ緊張で何時も以上に強張ってるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏君が教室から出て行ってから、暫くは雑談が続いた。

 

「やっぱり織斑君は頼りになるよね~」

 

「男の子ってもっとエッチだと思ってたけど、織斑君を見てるとそうでもないのかもって思っちゃうよね~」

 

「織斑君が特殊なだけなんだけどね~」

 

「そう言えば布仏さん、織斑君ってどんなところに連れて行ってくれるの?」

 

「ほえ?」

 

「あっ、それ私も知りたい~!」

 

 

このように女子同士だと雑談に花が咲いてしまう事が多々あるのだ。いくら織斑先生が居ないからと言って、それ以上に恐ろしい……かも知れない男の子が待っているのだ。遅れるのは得策では無いと思う。

 

「確かに気になるし、私も聞きたいけど、皆は一夏君に怒られたいの?」

 

「織斑君になら怒られても良いかな~」

 

「おりむ~に怒られたいなんて、キヨキヨは勇気があるな~」

 

「そうだね。お兄ちゃんに怒られたいなんて、ドMを通り越して自殺志願者だよ」

 

「そ、そこまでなんだ……」

 

 

相川さんの発言に冷や汗を流す布仏さんと、震えだすマドカさん……本気で怒られた事のある人からすると、一夏君に怒られると言うのは、それくらい恐ろしい記憶なのだろう。

 

「じゃあ布仏さん、後で聞かせてね~」

 

「約束だからね、本音!」

 

「ちょっと~」

 

 

困ってるのか如何か判断に困るようなしゃべり方で困った声を上げる布仏さん……一夏君が偶に疲れたように布仏さんを見てるのは、このしゃべり方もあるのだろうな。

 

「さて、私も怒られたくないし、さっさと着替えてグラウンドに行きましょうか」

 

「そうだね~」

 

「お兄ちゃんに怒られるなら此処から飛び降りる方がマシだからな!」

 

「……そこまでなんだ」

 

 

此処は4階だ、飛び降りれば間違い無く怪我するし、最悪は死んでしまう……それと比べても一夏君に怒られる方が嫌だなんて、よっぽどの恐怖なのだろうな、一夏君に怒られるって言うのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良く考えてみれば、シャルと篠ノ乃が居ない分教える苦労が減るのではないか……何かにつけて俺に聞こうとしてくる篠ノ乃と、分かってるはずなのに聞いてくるシャルが居ないだけで、俺は結構楽が出来るのではないか?

 

「専用機持ちはまだ4人居るし、その4人を中心にグループを作ってもらえばかなり楽になるだろうな」

 

 

セシリア、ラウラ、マドカ、本音、この4人だけでも本来なら多いはずなのだ……専用機持ちは色々大変なので織斑先生に任せるって事なのだろうか。このクラスにばっか専用機持ちが集中してる理由は他に考えられないからな……いや、分かってる。俺が居るって可能性もあるって事は俺自身が一番良く分かってるさ。でも違うかもしれないだろ……って、俺は誰に言い訳してるんだ……

 

「一夏様、いきなり如何しました?」

 

「いや、何でも無い……」

 

「少なくとも、私は最初の考えに同意しますよ」

 

「また人の思考を読んだな」

 

「さて、何の事でしょうか?」

 

「……まぁ、別に良いがな」

 

 

今回は読まれても困るような事は考えてないし……別に普段は読まれたら困るような事を考えてる訳でも無いのだが、須佐乃男にはこの前心の声を通訳されてからはなるべく思考にブロックを掛けるようにしているのだ。

 

「一夏君、専用機持ちにリーダーを任せるって言っても、結局は見て回らなきゃいけない事には変わらないんじゃない?」

 

「普段は教えなきゃいけない立場ですからね。見て回るだけなら幾分か楽なんですよ」

 

 

特に篠ノ乃とシャルが居ないので、それだけでも普段の何倍も楽が出来るんです……とはさすがに口に出さないがな。何故かマドカが来てから篠ノ乃とシャルがやたらと俺に絡みたがるんだが、何か心境の変化でもあったのだろうか……だとしたら非常に迷惑な心境の変化だと言わざるを得ないんだがな。

 

「一夏様は相変わらず鈍感のモテモテ男なんですね」

 

「何だそのギャルゲーやラノベの主人公にありがちな設定は」

 

 

詳しくは知らないが、前に数馬から聞いた話だと、そう言った特徴の無さげな男がそう言った世界ではモテるらしいのだ。

 

「一夏様は正確にはラノベの主人公ですから」

 

「メタ発言は禁止だ」

 

 

どこぞの誰かに殺されかねないからな……

 

「それはさておき、一夏様はお2人の変化の理由が分かって無いようですね」

 

「変化の理由?」

 

 

篠ノ乃とシャルの事だろうか……篠ノ乃は一時期は良い方向に向かってくれてたはずだったのだが、最近はまた鬱陶しいキャラに逆戻りしつつある。そしてシャルは初めはまともな良いやつだと思ってたのだが、中身は駄姉クラスの変態だったのだ……あれはまともに相手出来るレベルの人間はあまり居ないだろうな。

 

「別に本来の姿が現れてる訳では無くって、一夏様が友達を作ろうとしたから変わったのだと思いますよ?」

 

「俺が友達を作ろうとして、何であの2人が変態に……いや、俺に迷惑行為をしてくるようになるんだ?」

 

「言い直しても酷い事には変わりませんが、一夏様と仲良くしたいだけなのだと思いますよ」

 

「……なら、普通に接してくれれば良いだろ。何であんなあからさまな行動しか取れないんだよ」

 

「それは知りませんよ。私はあの2人では無いんですから」

 

「何気にお前も面倒くさがりだよな……」

 

 

最後の最後で放っぽり投げるのはさすが俺の専用機ってだけはある……それが決して良い事では無いと言う事は俺自身が良く分かってるのだが。

 

「兎も角、2人が変わったのは一夏様が変わったから……いえ、変わろうとしてるからでしょうかね」

 

「友達を作ろうとしただけで変わったって言われるのは甚だ不本意だが、それならそうで迷惑を掛けない方に変わってほしかったがな」

 

「それは元々の変態……いえ、内面が関係してるのかもしれませんね」

 

「お前も言い直しても酷いままだぞ」

 

「だって一夏様の専用機ですから。少なからず一夏様の思考に影響されてますので、毒舌はその所為です」

 

「……怒りたいが何となく自覚してた分怒れねぇ」

 

 

須佐乃男は自立進化型ISだからな、物事を勝手に覚えて進化していくと束さんが言ってたし、俺と思考が繋がってるのなら尚更影響があってもおかしくは無いのだから……だからと言って100%俺の所為だとは思って無い。サボり癖は刀奈さん、甘い物ばっか食べるのは本音の影響だとはっきりと言いきれるのだからな!

 

「それは胸を張って言う事では無いと思いますが……」

 

「お前の事を言ってるんだ。少しは反省したら如何だ?」

 

「心の隅に置いておきましょう」

 

「中心で考えろよ……」

 

 

クラスメイトがちらほらと集まりだしたので、雑談は此処で終了。チャイムが鳴って無いとは言え、この時間は教師の立場で挑まなければいけないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏君が提案してくれた通りに授業を進め、特に問題無く進行している……始まってしまえば緊張してる暇が無いくらいに私は忙しいのだ。問題が無くとも、それが終わりまで続くなんて保障は無いのだから、常に気を張っているのだ。

 

「オルコットさんのグループは他より少し遅れてますね」

 

「スミマセンですわ……」

 

「別に責めてる訳では無いんですよ?」

 

 

ただ、明らかに遅れてるのが気になっただけだ。国家代表候補生だけあって、オルコットさんは他の生徒よりは格段にIS操縦に慣れている……だが、他の候補生と比べると若干見劣りしてしまうのだ。だからなのか最近は訓練メニューを更に増やしたらしく、その影響でオルコットさんの集中力の保つ時間が短くなってきているような気がする……要するにオーバーワーク気味なのだ、今のオルコットさんは。

 

「日下部さん、何でそんなにフラフラしてますの!?」

 

「だ、だってなかなか安定してくれなくて……」

 

 

歩行は何とかなったようだが、日下部さんは相変わらず実技が苦手なようだった……空中でフラフラしてる姿は、見ていて安心出来るはずも無かった。

 

「もう少しISの事を信用してくださいまし」

 

「信用してるけど……」

 

「何です?」

 

「織斑君の須佐乃男みたいに会話出来ないと簡単には信用出来ないよ……」

 

「……どれだけIS不信なんですか」

 

 

ISと会話なんて、そんな事は出来る訳が無い。一夏君と須佐乃男の関係が特殊であって、普通はISは話さない、感情を出さない、人間に対して文句を言わない、言えない……これがISに関わってきた人間の結論だった。

 

「聞こえるかも知れないぞ?」

 

「えっ、一夏さん?」

 

「俺は日下部さんの考えでも良いと思うが」

 

「如何言う事ですの?」

 

 

一夏君はヌルっと会話に入ってきて、オルコットさんを困惑させた……いや、もちろん私も困惑したのだが。

 

「例えばセシリア、お前は初対面の人間を簡単に信用出来るか?」

 

「無理ですわね」

 

「それと同じだと思うんだが」

 

「ですが、IS相手と人間相手では、かってが違うと思うのですが」

 

「同じだよ。ISにも感情はあるし、文句だって言いたいだろう。だから、人間と同じだ」

 

 

一夏君は降りてきた日下部さんと打鉄に近づいて行って打鉄に触った。

 

「乗ってすぐに信用するような相手じゃ、この子だって信用出来ないだろう。だから、日下部さんはゆっくりとこの子と仲良くなれば良いんだ」

 

 

一夏君は打鉄の装甲を撫でると、何か言われた様な反応をした。ありていに言えば急に辺りを見渡しだしたのだ。

 

「織斑君、如何かしたの?」

 

「いや、幻聴が聞こえた……」

 

「「「幻聴?」」」

 

 

自分から幻聴が聞こえたと言う一夏君が若干おかしく思えたが、それ以上にその幻聴が気になったのだ。

 

「あぁ、『よろしく』って幻聴が」

 

「よろしく……ですか?」

 

「そんな事誰も言ってないよ?」

 

「だから幻聴だって言ったでしょ……でも、もしかしたら幻聴じゃ無かったのかも知れませんね」

 

「何で?」

 

「さぁ、根拠はありません。ですが、日下部さんがもう1回飛べば分かるかもしれません」

 

「私が?」

 

 

日下部さんは不思議そうに一夏君を見つめてたが、一夏君が強く頷くと決心が付いたのか飛行体勢に入った。

 

「本当にもう1回飛べば分かりますの?」

 

「多分な」

 

「多分って……そんなあやふやな」

 

「まぁオルコットさん、一夏君には何か考えがあるんだよ、きっと」

 

「……気にしないようにしてたんですが、今は一応授業中ですから呼び方は苗字でお願いします、ナターシャ先生」

 

「そんな細かい事気にしてると疲れちゃうよ?」

 

「疲れてるのは何時もの事ですし、細かく無いと思うのですが」

 

 

一夏君はジト目で私を見てきた……仕方ない、言葉に出す時は気をつけてみよう。

 

「さて日下部さん、違和感はあるか?」

 

「……無いです。普通に飛べてます!」

 

「そっか……ならそれは、日下部さんがその打鉄に受け入れられたんだろう」

 

「如何言う事ですの?」

 

「さっき聞いたのは幻聴では無く、その子の声だったって事だよ」

 

 

一夏君はサラッと言い放ちましたが、私たちには衝撃な一言でした……ISの声を聞いたって事は、一夏君はそろそろ普通に訓練機にも乗れるようになっているのかもしれませんし、それ以上に会話出来るなんてやっぱり一夏君はISにとって『特別』な存在だと言えるんだと核心出来たのだから。




果して一夏が聞いたのは本当にISの声だったのか……

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