もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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かなり複雑な家庭事情になってしまった……


事実≠真実

午後の実習の時間、私は兎に角平常心を心掛けていた……あの女と話し合う事になった、しかもこの実習が終わった後にだ……お兄ちゃんが話をつけて来てくれたんだけど、あまりにも急過ぎるのだ……多分アッチも同じ事を考えているのかもしれない……何時も以上に山田先生にキツく当たってるから。

 

「(山田先生も可哀想に……アイツの捌け口になるなんて)」

 

 

山田先生が候補生の時にはアイツが国家代表で、学園ではアイツの方が少しだけ先に教師として働いている……2重で後輩の山田先生はアイツには逆らえないのだ……

 

「(お兄ちゃんはまったくの何時も通り……何とも思って無いのかな?)」

 

 

少なくともお兄ちゃんにも関係してくる話なのだから、まったくの無関心って事は無いだろうけど、お兄ちゃんの表情には特別何時もと違う感じが見られないのだ。

 

「織斑さん、此処は如何すれば良いの?」

 

「………」

 

「織斑さん?」

 

「えっ?……ゴメン、何か言った?」

 

 

グループの長を任されているのを忘れていて、クラスメイトが質問して来た事に気が付けなかった……ダメダメ、これじゃあお兄ちゃんに心配されるし、アイツに不審がられる。

私は自分が気にし過ぎだと考えるようにして実習に集中する事にした……その後も何度か同じ失敗を繰り返したのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マドカのヤツ、そんなに私と話し合いをする事が嫌なのだろうか……各グループを見て回るフリをしてチョコチョコとマドカを盗み見ていると、如何やらこの後の事を気にしているのだろうと言う事が見て取れた……私だけでは無いようでホッとしたが、今は実習に集中してもらいたい。

 

「織斑先生」

 

「何だ、織斑兄」

 

 

マドカの事を見ていたら、一夏がすぐ傍まで来ていた……ダメだな、視野狭窄を起こしているようだ……

 

「何だじゃ無いでしょう、そこに立ってられると危ないですよ」

 

「何?……すまなかった」

 

 

如何やら実習のど真ん中で立ち尽くしてたようで、各グループのメンバーが動けずに私を見ていたらしい……そして私に物申せる一夏が代表で私の事を注意しにきたようだ……そう言えば真耶が居なくなってるな……

 

「山田先生ならアッチですよ」

 

「何!?」

 

「貴女がそこで立ち尽くしてるのを教えてくれたのは山田先生です。自分がいくら話しかけても気付いてくれないからって」

 

「そうなのか……」

 

 

散々真耶を捌け口に使っておきながら、自分が話しかけられても気付かないとは……よっぽどマドカとの話し合いが頭の中を支配していたのだろうな……

 

「分かったらさっさと退く!」

 

「はい!」

 

 

注意しても一向に動こうとしなかった私に、一夏は命令口調で言ってきた……嫌な気分はしないんだよな、一夏に命令されるのは。

 

「変態思考もいい加減にしないと周りにバレますからね」

 

「ッ!?」

 

 

横を通り過ぎる時に小声でそう言われ、私は一夏に思考を読まれた事に気が付いた……バレるんじゃ無くってお前がバラすんだろうが……

 

「織斑先生!」

 

「ああ山田先生、心配させたようだな」

 

「まったくですよ!如何して話しかけても気付いてくれなかったんですか!?」

 

「ちょっと考え事をしててな……気付けなかったのは素直にすまなかったと思うよ」

 

 

真耶の下に着くと心配と怒りが交ざったような顔で詰め寄ってきた……怖くは無いが、真耶が詰め寄ってくるとその……デカイ塊が当たる訳でして……女として自信が無くなりそうになるのだ。

 

「織斑先生、聞いてます!?」

 

「聞いてるが山田先生……」

 

「何ですか」

 

「さっきからその脂肪の塊が当たってるのだが」

 

「!?」

 

「いくら女同士とは言え、少しは気にした方が良いですよ?」

 

「す、すみません!」

 

 

あえて周りに聞こえるように指摘してやると、真耶は顔を真っ赤にして飛び退いて生徒たちは爆笑している……マドカは苦笑いで一夏は呆れ顔だったが。

 

「山田先生のご指摘は良く分かったから、少しは落ち着いてください」

 

「うぅ~……」

 

「さて諸君、すまなかったな。実習を再開してくれ」

 

 

邪魔していた事を謝り、再開を促す……真耶は相変わらず顔を真っ赤にしたままだが、女に言われてそこまで気にするのも如何なんだ?

 

「いい加減気にするな」

 

「だって!」

 

「何だ?」

 

 

涙目+上目遣いで私を見てくる真耶……幼い顔立ちもあってその表情はとても可愛らしいと感じた……私が男だったら危なかっただろうな。

 

「織斑君に呆れられちゃったじゃないですか!」

 

「貴様には関係無いだろ」

 

「ありますよ~、副担任の威厳が……」

 

「そんなもの最初から無いから気にするな」

 

「そんな!?」

 

 

まさかあるとでも思っていたのだろうか……クラス中から馬鹿にされたように呼ばれ、友達感覚で付き合っている生徒も大勢居るだろう。その事を自覚してないとでも言うのだろうか。

 

「織斑君だけは私を教師に接するように扱ってくれてるんです!」

 

「アイツはそう言うやつだからな……お前が教師である事には変わり無いのだし、そうのように接してきても不思議では無い。むしろ馬鹿にしててもそう接してくるぞ」

 

「そ、そんな……」

 

 

絶望を全身で表現してるような真耶を置いておいて、私は再び各グループの様子を見て回る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田先生が膝をついてへこんでいるのが気になって、俺は静寂に少しこの場を任せると言って山田先生の下に行く事にした。さっきまで千冬姉がからかっていたようだが、それが関係してるのだろうか。

 

「織斑君……」

 

「何ですか?」

 

 

今にも泣き出しそうな山田先生を見て、これは千冬姉がやり過ぎたんだろうなと瞬時に理解した……後輩苛めて憂さ晴らしかよ……

 

「私って教師としての威厳が無いんでしょうか?」

 

「威厳……ですか?」

 

 

そんなものを気にして何になるって言うんだ……威厳を振りかざしてるとあそこに居るようなダメ人間みたいになりますが?

 

「さっき織斑先生に言われたんです、私には威厳など最初からありはしないって……」

 

「あぁ~……」

 

 

思ってても直接言うなよ……

 

「織斑君も私をあざ笑ってるんですか!?」

 

「は?」

 

「だって織斑先生がそう仰ってました!」

 

「あの馬鹿……」

 

 

後で説教が必要だな……だが、今はこの事態を収拾しなくてはいけないようだ……面倒を押し付けるなよな……自分から首を突っ込んだのだがな……

 

「俺は山田先生の事を馬鹿にしたりしてませんよ」

 

「本当ですか?」

 

「俺が馬鹿にしてるのはあの女だけです」

 

 

そう言って千冬姉を指差す……本当は馬鹿にしてるんじゃ無くって呆れてるのだが、ニュアンス的にこっちの方が山田先生には有効だと思ったのでそう言った表現をしたのだ。

 

「織斑先生は尊敬出来る方ですよ!」

 

「その尊敬出来る方が、貴女を捌け口に使ってるんですよ?」

 

「それは……確かに感じてましたが」

 

 

分かってて付き合ってたのか……馬鹿にはしてないが、少しお人よしが過ぎるとは思ってますよ……

 

「尊敬出来るはずのあの人の本性、山田先生は知ってますよね」

 

「え、えぇまぁ……」

 

 

家事全般は絶望的、貯蓄は出来ない、散財癖がある……などなど欠点を上げると美点よりも多いのが良く分かる人なのだ、織斑千冬と言う人物は。

 

「少しは言い返した方が身のためですよ」

 

「言い返したらまた違った危険があるじゃないですか!」

 

「確かに……山田先生ではあの人に対抗出来るくらいの武力はありませんでしたね」

 

「はい……」

 

 

IS無しの戦闘でも、山田先生があの人に勝てる見込みは無い……戦闘力だけは誇れる人だからな……余計にたちが悪いぞ。

 

「少しは自信持ってくださいね」

 

「ありがとうございます。そしてゴメンね」

 

「いえいえ、それじゃあ俺は戻ります」

 

 

静寂に任せてきたとは言え、IS実習ではそれほどクラスメイトとの実力差は無い静寂だ、何時まで持つか分からないからな……

 

「一夏君、遅いよ!」

 

「悪い悪い、それで問題は無かったか?」

 

「一応はね」

 

「何か含みがある言い方だな」

 

 

打鉄を身に纏い近づいてくる静寂……嫌な予感はしないが、少し圧があるのは何でだ?

 

「一夏君が大変なのは良く分かった。けど、それを私に任せて何処に行ってたのかな?」

 

「何処って、織斑先生が打ちのめした山田先生へのフォローだが」

 

「イチャついてた訳じゃ無いのね?」

 

「俺が?山田先生と?」

 

 

何でそんな風に思ったんだ?

 

「何となくじゃれ付いてるように見えたから」

 

「何処に行ってたのか知ってるじゃねぇかよ」

 

「あら、そうだったかしら?」

 

「……兎に角、別に遊んでた分けじゃ無いからいい加減武装を解除してくれると助かるんだがな」

 

 

惚けた静寂相手に、まともに付き合ってては身が持たない……俺は詰め寄るのを諦めて実習を再開しようとした。

 

「一夏君なら訓練機相手に手こずらないでしょ?」

 

「生身でISに対抗しろと?」

 

 

須佐乃男は此処には居ない……いくら訓練機相手だからといって、素手で挑むほど俺は阿呆では無いぞ……武装があれば別だが。

 

「冗談よ」

 

「そうだと思ってたが止めてくれ……」

 

 

静寂の冗談は分かりにくいからな……分かってても万が一って可能性がありそうな冗談の仕方だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実習も終盤に差し掛かり、私はこの後の事で頭がいっぱいになり始めてきた。多分マドカも同じ感じなのだろう、動き方がぎこちない……

 

「織斑先生、如何かしましたか?」

 

「山田先生、この後予定はありますか?」

 

「予定ですか?……仕事を片付けなくてはいけませんので……」

 

「それは明日に回してください」

 

「でも……」

 

「良いですね!」

 

「ひゃい!?」

 

 

危険を察知して逃げようとした真耶だったが、相変わらずの弱さを発揮して私の言いなりになった……脅しておいてなんだが、少しは歯向かったら如何なんだ?

 

「では少し付き合ってもらいますからね」

 

「分かりました……」

 

 

ガックリと肩を落とし、そして俯いてしまった真耶……コイツはこれで良いのかもしれないな。

 

「さて、そろそろ終了する。各自訓練機を片付けグラウンドを整備して解散とする」

 

 

終了の合図を出し、私はこの場を離れた。これ以上近くに居たら話し合いの前に緊張で死んでしまうと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……」

 

 

一連のやり取りを見ていた俺は、山田先生に激しく同情した……ヘビに睨まれた蛙……は少し違うか。だが、あの2人のやり取りはそんな感じがしていた。

 

「一夏君もグラウンド整備はしっかりしてよね」

 

「分かってるって」

 

 

教師2人を見て呆れていた俺だが、静寂に言われなくてもそれくらいはするつもりだった。

 

「一夏君、この後何か予定ある?」

 

「何かお誘いかな?」

 

「勉強会やったお疲れ様会をしようかと思ってるんだけど」

 

「そっか……でも悪いな、この後予定が入ってるんだ」

 

 

出来れば抜け出したい予定だが、俺が抜けると多分成り立たないだろうし、仕方なく静寂の誘いは断る事にした。

 

「そっか……それじゃあ参加出来そうなら電話してね」

 

「何時までかかるか分からないからな……来なかったら遠慮なく終わらせてくれて構わないから」

 

「もちろんそのつもりよ?」

 

「……何気にヒデェよな、静寂って」

 

「気に障ったかしたら?」

 

「いや、別に気にしてない。するだけ無駄だからな」

 

「……一夏君も大概よ?」

 

「違い無い」

 

 

整備をしながら無駄話に興じる、1学期からは想像も出来なかった光景だろうな……変われば変わるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後……呼び出した手前逃げる訳にも行かないのでマドカと2人、教室であの人が来るのを待っていた。

 

「来ると思う?」

 

「来るだろう。あの人はマドカと話したがってたから」

 

「なら自分から来れば良いのに、お兄ちゃんに気を使わせるなんて……」

 

「近づいたらお前が逃げるからだろ……」

 

 

マドカの中では完全に千冬姉が悪い事になってるようだが、俺からしたらどっちもどっちだ。きっかけを掴めない千冬姉と、きっかけすら作ろうとしないマドカ……実の姉妹の問題に義理である俺を巻き込まないでくれよ……

 

「(この問題の原因は俺のようだがな……)」

 

 

勝手に原因にされて、勝手に巻き込まれて……解決するもしないも知らないが、とりあえず俺を巻き込むのだけは止めてもらいたいな。

 

「……来た」

 

「えっ?」

 

「俺は一切口を挟むつもりは無いからな」

 

 

あくまでこの場に居るだけ、2人きりだとまともに話せないからと言われて帯同するだけと言う条件でこの場に居るのだ。

 

「あの人も可哀想に……」

 

「誰の事?」

 

「すぐに分かる」

 

 

千冬姉に脅されてついて来た可哀想な人……俺が自重したのにも関わらず巻き込まれた不幸な人。それが今のあの人に対する俺の素直な評価だ。

 

「待たせたな……」

 

「お、お邪魔します……」

 

「山田先生!?」

 

「あうぅ~……」

 

 

さっきの実習の時に巻き込まれたのだろう……山田先生は既に涙目だった。

 

「山田先生は私の付き添いだ。別に構わないだろ?」

 

「別に良い……」

 

「なら山田先生は此方へ……後は2人の問題ですから」

 

 

巻き込まれた同士離れて状況を見守る事にする……俺は兎も角山田先生は完全なる無関係なのに……

 

「それで、何か言う事は無いの?」

 

「そうだな……色々とすまなかった」

 

 

マドカの態度は相変わらずだが、話しかけるだけの進歩はしていたようだ。

 

「謝って済む問題だと思ってるの?」

 

「それは……」

 

「私からお兄ちゃんを奪って、まさかそれだけで許されるなんて思って無いよね?」

 

「奪うって……一夏はマドカだけのモノじゃ無いんだぞ!」

 

 

その前に俺は貴女のモノでも無いし、『モノ』でも無いんだが……

 

「アンタさえ居なきゃ、私はあのクソみたいな両親に連れて行かれる事も、お兄ちゃんと離れ離れになる事も無かったのに!」

 

「それは私の所為なのか?」

 

「アンタの化け物じみた凄さに恐れをなして捨てようとしたんだ!それに私とお兄ちゃんを巻き込んで!!」

 

「化け物……」

 

 

さすがに直接言われると堪えるようで、千冬姉は口数が少なめになって来ている。

 

「一夏君って複雑な家庭事情なんですね」

 

「聞いて無かったんですか?」

 

「千冬さんは家族ネタをフルと怒るんですよ」

 

「そうですか」

 

 

小声で聞いてきた山田先生にとりあえず肯定しておいた。しかしこの人、事情も知らされずに連れて来られたのか……ますます可哀想だと思える。

 

「でも、マドカが一夏を連れて行ったら、私がマドカの立場だったかもしれなかったんだがな……」

 

「今は、もしもの話をしてる場合じゃ無いでしょ!」

 

「まぁな……」

 

「私はアンタを絶対に許さない!」

 

「……その『アンタ』って呼び方は如何にかならんのか」

 

「……他に如何呼べって言うのよ」

 

「昔みたいに……」

 

「無理!!」

 

「……せめて最後まで言わせろよ」

 

 

昔はマドカも違う呼び方をしてたのか……記憶が無いから分からないが、お姉ちゃんとでも呼んでたのだろうか。

 

「大体、悪いと思ってるんなら自分から機会を設けるべきだったんじゃないの?それをお兄ちゃんに間を持ってもらって漸くなんて……やっぱり悪いなんて思って無いんでしょ」

 

「それは違う!……違うんだ」

 

 

マドカに指摘され大声で否定する千冬姉……否定はするがその先が続かないようだ。

 

「何が違うって言うのよ」

 

「私は……」

 

「何?」

 

「例え両親が出て行くと言ってもお前たちは連れて行かせるつもりなど無かったのだ!」

 

 

つまり俺を引き離したのでは無く、マドカだけ奪還出来なかったと言う事か……結局はマドカも両親に捨てられたようだし、千冬姉の言ってる事に信憑性はある。

 

「そんな事信じない!私はアンタの所為でお兄ちゃんと引き離されたんだ!!」

 

 

一方のマドカの方も頑なに信じようとしない……千冬姉を否定する事で自分の気持ちを保っているのだろう。

 

「あのクソみたいな両親が何時も言ってたんだ!『貴女の姉は化け物だから。お兄ちゃんを奪って私たちを追い出したんだ』って!」

 

 

小さい子になんて事を吹き込んでるんだ、織斑の両親は……

 

「勝手に出て行ってそんな事を言ってたのか、あの馬鹿共は」

 

 

あっ、千冬姉がキレかかってる……これはもう少し距離を取った方が良さそうだ。

 

「山田先生、少し離れます」

 

「え?」

 

 

危機が迫ってる事に気付いていない山田先生は不思議そうに首を傾げる……俺は兎も角、貴女は最悪意識を失うかもなんですよ?

 

「せめて俺の後ろに」

 

「え?あの……え?」

 

 

あたふたとしている山田先生を背後に回し、俺は衝撃に備える……マドカも危機を感じ取ったらしく教壇に隠れている。

 

「事実に反した事をマドカに吹き込んでたのか、あの屑共は……許さん!!!」

 

「ひゃ!?」

 

 

俺の背後で悲鳴を上げる山田先生……千冬姉の放つプレッシャーに恐怖したのだろう……直接見たらきっと悲鳴だけでは済まなかっただろうな。それくらいの迫力が今の千冬姉にはあるのだ。

 

「ど、如何言う事よ!?」

 

 

マドカは教壇に隠れながら千冬姉の発言の意味を問う……マドカの中の事実はこの出来事の真実では無かったようだった……

 

「私が追い出したんじゃ無い、あの屑共がマドカと一夏を連れて出て行こうとしたんだ!」

 

「出て行こうとした……?」

 

「金はやるから二度と我々に関わるなとか言って出て行ったんだ奴らは。しかも私から一夏とマドカの2人を取り上げようとしてだ!」

 

「それじゃあ……」

 

「連れて行ってもきっと奴らならまた捨てるだろうと思ってたからな。お前たちは私が面倒見るつもりだったんだ」

 

「結局は俺が千冬姉の面倒を見てたんだが?」

 

「こ、細かい事は気にするな……」

 

「後、俺は頭の中弄られてるんだが、その事に対しての言い訳があるのなら聞こうか」

 

 

色々と聞いていた事と違っていたので口を挟む……千冬姉が言ってる事が事実ならば、俺の記憶を弄った理由が分からないのだ。

 

「屑共の記憶だけを消すつもりだったんだが、束のヤツが出力を間違えてな……全ての記憶が吹き飛んだんだ」

 

「ふ~ん……」

 

 

疑わしいが、これと言って嘘だと決め付ける理由も無いのでとりあえずは納得しておく……

 

「まあ、俺は兎も角マドカに対する誤解は解けたんじゃないか?」

 

 

マドカは両親に嘘を吹き込まれてたみたいだし、千冬姉はマドカの事を見限った訳でも無さそうだし。

 

「えっと……ッ!?」

 

「おい!」

 

 

何を言えば良いのか分からなくなったマドカは教室から走って逃げてしまった。

 

「やれやれ、千冬姉後は任せとけ」

 

「あ、ああ……」

 

 

今千冬姉が追っても逆効果だろうから、後始末は俺がする事にした。マドカは多分あそこに行ったんだろうしな……




マドカが信じてた事は、ある点では事実だったが、本当の意味では真実では無かったのです。
次回千冬とマドカの話し合いが決着、姉妹の関係は修復出来るのでしょうか……

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