いきなりプロポーズ合戦みたいな事が勃発したけど、その後は特に何も無く夕飯を食べ終えた。やっぱりおりむ~の作ったご飯は美味しかったな~。
「満腹満腹っと」
「あれだけ食べれば満腹だろうよ……」
おりむ~は私たちの食べっぷりでおなかいっぱいになったようで、結局大して食べずにお茶だけ飲んでいる。
「一夏君、本当に食べなくて平気なの?」
「多分今食べたら戻します」
「何か、スミマセン……」
おりむ~はおなかいっぱいなんじゃ無くって、私たちの食べっぷりに胸焼けしてたみたいだった……そんなに凄い食べ方はしてないよ~。
「風呂入って寝ます……」
「私たちも大浴場に行ってくる」
「あぁ、行ってこい」
かんちゃんに対して言葉遣いが雑になっているおりむ~……それだけ疲れてるって事なんだろうな~。皆、おりむ~に迷惑をかけたらダメだよ~?
「本音」
「ほえ~?」
「何考えてるのかはしらないが、多分お前が言って良い事じゃないと思うぞ」
「一夏君もそう思った?」
「刀奈さんも?」
「多分皆だと思うよ」
楯無様の言葉に、全員が私を見て頷いている……この部屋の住人は皆エスパーなのか!?でも、おりむ~に迷惑かけてるのは私だけでは無いはずだぞ!
「ツッコムのも面倒なので、俺は知りません……」
「私たちもさっさと寝ようか」
「そうですね……」
「本音の言い訳は放っておいてね……」
「皆酷いよ~!」
私の事を無視して、皆がお風呂の準備に取り掛かっているのだ……これは泣いても良いんじゃないかな~。
最後泣きそうになっていた本音も一緒に大浴場に行ったため、今この部屋には俺しか居ない。こんな時間は珍しいな……これで少しは休めるな。
「今日は色々ありすぎた……」
生徒会の仕事もだが、まさかあそこまで本音が出来ないとは思って無かったのだ……その他も多かれ少なかれ出来ない人たちだったので、結構なパターンのテストを作ったりしたので、それでも少し疲れがあるのだ。
「さて、風呂にでも入るとするか……」
誰も襲ってくる心配の無い風呂はゆっくりと疲れを癒すのに最適だからな。誰も居ない部屋で1人つぶやき、風呂に向かおうとしたら電話が掛かってきた……誰だよいったい……
「はい?」
『何で不機嫌なんだよ』
「何だ、弾か……」
相手を確認せずに出たので、思わずそう言ってしまった。
『何だとは何だ!』
「悪い悪い、それで何の用だ?」
こっちは疲れてるんだ。くだらない用件だったら容赦無く切ってやる。
『今度榊原さんとデートに誘おうと思ってるんだが……』
「榊原さん?」
誰だ?
『お前が紹介してくれたんだろうが!』
「……ああ、先生か」
普段先生って呼んでるからな、さん付けだと一瞬分からなかった。
「それで、俺に何の用だよ」
『なぁ、何処に行けば良いと思う?』
「そんなの自分で考えろ。じゃあな」
『おい!』
「……何だよ」
切ろうと思ったら耳元でデカイ声を出された。
『ちぃった友人の悩みを聞くって気持ちはねぇのかよ!』
「無い、じゃあな」
『だから待てっての!』
「まだ何かあんのかよ……」
弾の相手をしてる余裕は俺には無い……これ以上面倒を俺に押し付けるな。
『友人が困って電話してきてるんだ。もうちょっと何かあるだろ!』
「数馬にでも聞けば良いだろ……」
『アイツに恋愛相談したって仕方ねぇだろ』
「だからって何で俺が……」
『お前なら良いアイディアがあるんじゃねえかと思ってよ』
「あの人は酒飲みだからな、居酒屋でも行けば?」
正直考えるのも面倒くさい……高校生である弾が居酒屋になど行けるはず無いのを分かってて提案した。
『なるほど、居酒屋だな』
「………」
忘れてた、コイツはものすっごい馬鹿だったんだ……初では無いにしろ、デートで居酒屋って如何なんだよ……自分で言っておいてあれだが。
『サンキュ、さすが一夏だ』
「あぁ……」
弾が納得したんならそれで良いか……実際にどうなるのかは俺には関係無い事だし、榊原先生の方でも何か考えてるだろうしな。
「じゃあ切るぞ」
『おう!』
電話を切り、何で俺はあんなヤツと友人をやってるんだと軽い嫌悪感に苛まれたが、そんな事を考えてる間にも皆が部屋に戻ってきてしまうかもしれないと思い、さっさと風呂に入る事にした。弾のデートが上手く行けば良いが……まぁ、無理だろうな。
「弾の事を心配してる場合でも無いか……」
自分も週末にデートする約束だった事を思い出し、人にアドバイスしてる場合では無い事に気が付いた……さて、何処に行くかな……
「風呂に浸かりながら考えるか……」
6人一気にでは無いので、それぞれと行く場所を考えなきゃいけないのだ……全員一緒じゃ怒られるだろうし、さて何処に行けばいいのやら……
時間的にもう遅いので、大浴場には私たち以外誰も居なかった。よくよく考えると、私たちが大浴場を使う時って何時も誰も居ないわよね~……何でかしら。
「本音様、こんな所で寝ては駄目ですよ」
「うにゅ~……おなかいっぱいで眠いのだ~」
「明日のテストの事でも考えてください」
「……ほえ!」
「目が覚めましたか?」
「明日テストだったんだ」
「忘れてたんですか……」
本音と須佐乃男が洗い場で何かやってるが、私たちは湯船にゆったりと浸かって疲れを癒している。
「今日はいっぱい働いたから疲れた~」
「お姉ちゃんは普段からしてないからでしょ?」
「そんな事無いよ~。今日は一夏君だって疲れてるんだから、私だって疲れててもおかしく無いんだよ♪」
「でもまあ、お嬢様が普段から仕事をしてないって言うのは本当ですからね」
「楯無さん、あんまりお兄ちゃんに仕事押し付けちゃダメだよ?」
「は~い……」
別に私が押し付けてるんじゃ無くって、一夏君が自主的にやってくれてるんだけど、傍から見れば私が押し付けてるように見えるのね……私が仕事をまともにしてないからってものあるのだろうけど。
「そう言えばマドカちゃんは明日のテストには何も賭けてないのよね?」
「私は本音や須佐乃男と違ってお菓子を食べ過ぎてはいませんから」
「でも、それなりには食べてるよね?」
「……自分のお小遣いの範囲でだもん!」
「ですが、そのお小遣いは一夏さんからもらってるんですよね」
「お兄ちゃんが認めてくれる範囲でだけだもん!」
「確かお洋服とかは別で出してくれてるんだっけ?」
「うん……」
「「「………」」」
つまりそのお小遣いの殆どがお菓子に費やされてるって事よね……一夏君、可哀想……
「だってお菓子だけは自分の小遣いでなんとかしろって言われたんだもん!」
「食費はかかってない、お洋服も一夏君がお金を出してくれてる、学費は免除……」
「マドカにお小遣いは必要無いかもね……」
「一夏さんだって色々とお金かかるでしょうし……」
一夏君は更識の仕事を手伝ったり、学園の仕事を手伝ったりで収入を得てるのだ。その収入を須佐乃男とマドカちゃんにお小遣いとして渡して、それ以外にも2人のために使ってるのだ。一夏君自身には使ってるのだろうか?
「一夏君って、何にお金を使ってるのかな?」
「そう言えば一夏が何に使ってるのか知らない……」
「普段の食材は安く仕入れてるみたいですし、それ以外に使ってるのでしょうか?」
「お兄ちゃんが何にお金を使ってるかねぇ……」
「「「「う~ん……」」」」
まったく想像出来ない……普通に男子高校生にありがちなエッチな雑誌にも興味持ってないし、それに類似したDVDにも興味は無いみたいだし……あっても視れる場所が無いものね。
「そう言えば今週末はお嬢様とデートするんじゃなかったですか?」
「デート費用は何時も一夏が払ってるよね?」
「確かに……」
毎週末に1人ずつデートするようにしたのだけど、そうなると全額一夏君の負担になるのよね……結構大きい出費になると思う……
「そうなると、お兄ちゃんは更に自分のためにお金を使えなくなる訳だよね……」
「「「………」」」
一夏君、何のために稼いでいるのだろうか……彼女が6人も居るって大変なんだと今改めて思った……
お風呂から出てからは特に何も無く、皆疲れてたのかすぐに寝てしまった。
「う~ん……」
不意に誰かが部屋を出て行こうとする気配を察知して身じろいで誰か確認した。
「一夏君?」
「起こしちゃいましたか?」
「ううん。でも、今何時?」
「4時前ですかね」
「ふ~ん……えっ、4時前!?」
始めは眠気が勝ってあっさりと流しそうになったけど、言われた時間が頭の中で理解出来た途端大声を上げてしまった。
「静かに!皆寝てるんですから」
「ご、ゴメン……」
静かに、けれど強い口調で怒られてしまった……こんな時間じゃ皆寝てるのは当たり前なのに、その事を忘れて大きな声を出してしまった……反省反省。
「刀奈さんももう1回寝ますよね?」
「う~ん、今ので目が覚めちゃった」
至近距離に一夏君の顔があったからビックリしちゃったし、それでなくても一夏君の強い口調で驚いたのだ、眠気など無くなっている。
「でも、まだ早いですよ?」
「一夏君だって起きてるんでしょ?」
普段なら寝てる時間だけど、眠くない以上起きているしか無い……ベッドでゴロゴロしてても良いんだけど、一夏君が一緒じゃないとつまらないしな~……
「俺は何時も通りですし、その内マドカも起きますよ?」
「貴方たち義兄妹は普通の生活してないの?」
「普通ですが?」
そうだよね、一夏君にとってはこの時間に起きるのが普通なんだよね……でも、普通の人から見れば、やっぱり普通じゃ無いのよ。
「そうだ、私も一緒に行って良い?」
「別に構いませんが……大丈夫ですか?」
何が大丈夫?眠気は無いし、疲れもちゃんと抜けている。
「多分平気よ」
「そうですか……なら、行きましょうか」
「そうね」
「でもその前に」
「?」
急に振り返った一夏君、いったい何があったと言うの?
「一夏君、如何かしたの?」
「その格好で外に出るのは……」
「ん~?」
一夏君に言われて自分の格好を確認する……あぁ、なるほど。だから一夏君は後ろを向いたのか。
「着替えるから待っててね」
「じゃあ部屋の外に居ますから、終わったら出てきてください」
「は~い」
寝巻きのままじゃ確かに外には出られない。しかも今日はチビシャツだったのでへそが見えているのだ。これくらいで恥ずかしがるなんて、一夏君は相変わらず初心だな~。
私は寝ている時でも呼ばれればすぐに起きる事が出来る……のですが、あまり呼ばれたく無いのが本音なんですよね~。
「一夏様、何か用ですか……」
『起きたなら第1アリーナに来てくれ』
「起きてません、寝てます……」
『返事してるだろうが!』
「分かりましたよ……」
やむなくベッドとお別れして、私は一夏様に言われた通り第1アリーナに向かいました。緊急事態って感じでは無かったですし、いったい何の用なのでしょうか。
「来ましたよ……」
「見ての通りだ」
「分かりました、手伝います……」
「助かる……」
第1アリーナに着いて私が見た光景は、喜びのあまり暴走してアリーナ中を穴だらけにしてしまった榊原先生の姿と、それを必死になって止めている楯無様とマドカさんの姿でした。
「ですが、何が原因でこのような事態に?」
榊原先生は、普段大人しい方だったと思うのですが……
「多分だが、弾にデートに誘われたんだろう」
「なるほど……」
一夏様のご友人、五反田弾さんとお付き合いしてるんでしたっけ……お互い忙しくてあまり会えてなかった反動でこのような事態に……後始末は自分で出来る範囲で暴走してくださいよ。
朝起きて今日のテストのために復習でもしようと思ってたんだけど、部屋の雰囲気を感じ取ってそれどころでは無いと思った。まだ朝だって言うのに、おりむ~も楯無様もマドマドも須佐乃男も疲れてるんだもん。
「何かあったの~?」
「朝からアリーナの修繕を手伝ってたんだって」
「榊原先生がちょっと暴走したみたい」
「暴走~?」
あの先生って冷静だけど男を見る目が無いって噂があるくらい普段は大人しいのに、その先生が暴走するんだから、いったい原因は何だ?
「おね~ちゃん、原因は何なの~?」
「彼氏にデートに誘われた嬉しさから暴走したみたい……」
「よっぽど嬉しかったんだろうね……」
「でも、IS使ってアリーナをボロボロにしなくても~……」
修理だって大変だろうし、何よりISをそんな事に使っちゃダメだよ~。
「いや、ISは使ってなかったみたい」
「ほえ?」
「訓練機の付け替え武装だけを使ったらしいの」
「生身でISの武装を使ったって事~?」
織斑先生以外にもそんな事出来る人が居るのか~……この学園はビックリ人間が多いんだな~……
「どうやら織斑先生に使い方を聞いたらしいの……」
「教わったからって出来る訳では無いんでしょうが……」
なるほど、それでさっきからおりむ~もマドマドも機嫌が悪いのか~……実の姉、義理の姉が原因で朝っぱらからアリーナの修繕を手伝わされたんだから。
「やっぱりお兄ちゃんが説教しないとダメかな?」
「教えただけだと言われたらそれで終わりだ」
「でも、そんな事を教えるのも如何かしてるよ!」
「IS本体を使うには色々と手続きが必要だが、武装のみなら簡単に持ち出せるからな。護身術だと言われて終わりだろう」
「そんな護身術は無いよ!」
「まぁ、それは俺も思うが……言い返せるだけの自信が無い」
織斑先生もまさかこんな事になるなんて思って無かったんだろうしね~……それでおりむ~に怒られたらたまったもんじゃないよ~。
「終わった事だし、これ以上あの人の事でイライラを募らせたくない」
「それは私も同じ……朝からアイツの話なんてしたく無い!」
「それに、今日はテスト当日だぞ。マドカ、本音、須佐乃男、しっかりと見直ししとけ」
「あぅ~……せっかく考えないようにしてたのに~」
「現実逃避してないで、しっかりと本番に備えるんだな」
おりむ~に言われて、私と須佐乃男とマドマドは昨日やったテストを見直す……朝ごはん食べてないから力が出ないよ~……
「食堂にでも行くか」
「今日はそれで良いよ~」
「とりあえず食べないと頭に栄養が行きません……」
「食べ過ぎて眠くならないようにな」
おりむ~に注意されて、私たちは何時もより少ない朝ごはんを終えて教室に向かう事にした。うぅ~……頑張らないとおやつ禁止になっちゃうから頑張ろう!
教室に着くなり、俺の目の前に3人が迫ってきた……その背後にもう1人居るが、多分何時も通りズレてるんだろうな。
「「「一夏(さん)!」」」
「目の前で大声を出すな、鬱陶しい」
「「「それどころじゃない(よ)(ありませんわ)!」」」
「だから大声を出すな馬鹿者共が!」
「「「痛っ!」」」
言っても聞かなかったので実力行使、軸足目掛けて蹴りを放った。強制的に目の前から退いてもらい、3人をなぎ払った俺は背後に居たラウラに事情を聞く……大体の予想はつくが。
「昨日兄上たちが勉強会をしたのに誘われなかったと怒ってるんです」
「こうなると思ったから誘わなかったんだ……」
来たところで何でもかんでも俺に構おうとするだろう事は予想出来ていた。だから静寂に参加者確認をしてもらったんだ。
「僕だって一夏に教わりたかった!」
「私もですわ!」
「私だって!」
「昨日の勉強会は本当にヤバイ人だけを対象にやったんだ。俺に教わらなくても問題無いお前たちにまで時間を割く余裕は無い」
第一、昨日は本音に付きっ切りで他の人の勉強はあんまり見てやる事が出来なかったんだ。
「一夏君、昨日はお疲れ様」
「静寂も、昨日は殆ど押し付けてしまってすまなかったな」
「あれは仕方ないって」
「そう言ってもらえると此方も助かる」
教師役を簪と静寂に押し付けてしまった形になってたからな、昨日は……それだけ本音がヤバかったんだが……
「それに、昨日のあれは私も有効活用させてもらったし」
「ん?……静寂も持って帰ったのか」
余分に何枚か作っておいたので、別に誰が持って帰っても良いのだがな。
「良くあそこまで難しく作れるわね」
「練習で難しいと思わせておけば、本番が簡単だと思えるだろ?」
「もし本番が同レベルでも、難しいと思わないものね」
「同じだと思うだろうな」
多分選択肢ありのテストだと思うのだが、万が一選択肢が無くとも慌てないだけの自信は持ててるだろう。
「それじゃあ、終わったら何か奢るね」
「そんな事言ってると遠慮無く集るぞ」
「……遠慮はしてほしいかな」
「冗談だ」
静寂に奢ってもらう理由が無いからな。どちらかと言えば俺が静寂に奢らなければいけないのかもしれない。
「お前ら、さっさと席に着け!」
「ムッ」
織斑先生の登場で、マドカの機嫌が悪くなったのがすぐ分かった……頼むから堪えてくれよな……せめてテストが終わるまでは。
「それではHR後にすぐにテストを始める。今更悪あがきをしても無駄だからな」
今日は出席簿にテスト用紙の束を手に持ち、逆らうものにはそれで制裁を加えるつもりなのだろう。……俺がアンタに制裁を加えたいよ、本当に……
次回テスト開始、そして結果発表……やっと辿り着きました