ご褒美に一夏君がキスしてくれる。この提案だけで私のやる気はいまだかつて無いくらい高まっている。それは本音も同様で、私たち2人の手を動かすスピードは普段の一夏君や虚ちゃんと比べても見劣りしないくらいだ。
「普段からこうなら助かるんですがね」
「ん~?」
一夏君と一緒に座りながら私たちを監視している虚ちゃんがしみじみとつぶやいて、そのつぶやきを聞いた一夏君が首を傾げた。
「普段のお嬢様はあんなに真面目ではありませんからね」
「本音おねえちゃんも?」
「本音はお嬢様以上の怠け者ですから」
「でも、いまはすごいがんばってるよ?」
「それは一夏さんのおかげでしょう」
「僕の?」
一夏君は心当たりが無いのか、しきりに首を傾げ唸ってる。その姿を虚ちゃんが優しい目で見ていた。
「終わった~!」
「私も終わったよ~!」
「早かったですね」
「だって……」
「だよね~……」
「?」
2人で意味ありげに一夏君を見つめると、一夏君は不思議そうに首を傾げる……ああもう、可愛いな~!
「頑張ったんだしさ」
「おりむ~からのご褒美!」
「わかった!」
一夏君はテトテトと駆け足で私の前に来ると、そのまま私にしゃがむように言った。私はそれにしたがって一夏君の前にしゃがみこんだ。
「ん~」
ああ、私は今一夏君からキスをされている……普段の一夏君は照れてすぐに逃げ出しちゃうけど、1度捕まえれば大人しくキスはしてくれる。でも今の一夏君は自分から私にキスをしてくれるだけの積極性はあるようだ。何時からあそこまで照れ屋になっちゃったんだろうな?
「おりむ~、私も!」
「はいは~い」
私から唇を離すと一夏君はそのまま本音の前にテトテトと駆けて行く……なんだか名残惜しい気もするが、これ以上を望んだらさすがに犯罪の匂いがするわね……
「ん~」
「一夏君からキスしてる姿を見るのって、何だか複雑ね……」
「私はそれに加えて相手が妹なのですが……」
「してもらえたのは嬉しかったけど、やっぱり一夏君は普段通りの方が『らしい』わね」
「可愛らしい今の姿も良いですが、私たちの彼氏は普段の一夏さんですからね」
本音にキスしてる一夏君を見ながら、私と虚ちゃんは元の一夏君に思いを馳せた……いくらひねくれてようが、いくら消極的だろうが、一夏君はあれで良いのだと。
楯無様から呼ばれ、私はIS学園にやって来た。此処に来るのは2回目で、夏休みに一夏さんに荷物を持ってきてほしいと言われて来た時以来だ。あの時はまさか泊まる事になるなんて思って無かったんですよね……
「更識家従者、小鳥遊碧です。お嬢様……更識楯無さんの使いでやって来ました」
「事情は聞いてます。どうぞお通りください」
相変わらずのチェックの厳しさに辟易しながらも、今回は先に話を通しておいて下さっているので簡単な説明でゲートを通る事が出来た。この前は一夏さんが迎えに来てくれてなかったらもっと面倒になってたんだろうな……
「え~っと、それでお嬢様たちは何処に居るんでしょうか?」
ゲートから直接部屋に向かった事の無い私は、今何処に居て、何処に行けばお嬢様たちと合流出来るのかまったく分かってないのだ。
「とりあえず電話を……携帯忘れてる」
出かける前に散々チェックしたのにも関わらず、私はまた忘れ物をしてしまった。この癖は如何にか直したいと思ってはいるのだけど、思いと行動は必ずしも一致しないというう事を身をもって体感しているのだ。
「如何しよう……とりあえずアリーナまで行けば何とかなるよね」
前に来た時はアリーナから移動したし、そこまで辿り着ければ如何にかなる。私は気持ちを切り替えてアリーナを目指す事にした。
警備員から碧さんが来た事を知らされ、私は一夏さんと一緒に迎えに行く事にした。何故一夏さんが一緒なのかと言うと――
「僕も碧おねえちゃんのおむかえにいく!」
――と、満面の笑みで言われたからです。
あの笑顔は反則ですよ……あの笑顔を前にNOと言える女性が居るのなら見てみたいものですね。
「ん~?」
先ほどの事を思い出して一夏さんを見つめていたら、その視線に気付いて一夏さんが私を見上げながら首を傾げました。とても可愛らしい仕草ですね……
「一夏さんは疲れてませんか?」
昼食時にあれだけ眠そうだったのですから、今も相当眠いでしょう。それでも一夏さんはその素振りも見せずに明るく振舞っています。
「ちょっとつかれたけど、碧おねえちゃんのおむかえはちゃんとするんだ!」
「そうですか、えらいですね」
私は少し屈み、一夏さんの頭を撫でました。今の一夏さんを撫でるには、少し屈むと丁度いい具合なのです。
「えへへ~……あっ、碧おねえちゃんだ~!」
「いきなり走ると危ないですよ」
一夏さんは碧さんを見つけるとそのまま一直線に走っていきました。そんな姿をはらはらしながらも見ている私は、やはり母親のように見えるのでしょうね。
アリーナに向かおうと移動していたら、前に1日だけ見たことがある男の子が私目掛けて走ってきた。
「あれ、一夏さん?」
夏休みに誰かの陰謀で小さくなってしまった一夏さんだったが、如何やらまた小さくなってしまったようだ。
「碧おねえちゃん!」
「お久しぶりだね」
「うん!」
この姿の一夏さんは、とても純粋で感情に素直だったはずだ……今は凄く嬉しそうなのを見ると、少なくとも私は今の一夏さんに怖がられてないと言う事になる。
「スミマセン碧さん、わざわざご足労頂いて」
「いえいえ、楯無様から事情は聞いてますし、こんなに可愛いお出迎えをしてもらえて嬉しいですよ」
「えへへ~」
抱きついてきた一夏さんの頭を撫でながら虚さんと話す。会話の内容は今の雰囲気には不釣合いな感じだが、一夏さんの笑顔で私も虚さんも特に気にする事無く会話を進められた。
「とりあえず私たちの部屋へ案内します」
「お願いします。実を言うと何処に行けば良いのか分からなくってですね……」
「?……それなら携帯で連絡を取ってくれれば良かったのでは?」
「携帯……忘れました……」
私の忘れ物癖は虚さんも把握しているので、虚さんは少しの間を空けましたがすぐに納得してくれました。この場合、納得されるのが良いのかと聞かれれば、多分駄目なんでしょうが……
「ところで、如何して一夏さんはまた、小さくなってるんです?」
「分かりません。マドカさんがなにやら感付いてるようですが、詳しい事は何も……」
「そうですか……でも、可愛いので良いですかね」
「それで納得するのは如何なんでしょう……」
「ん~?」
虚さんに呆れられ、一夏さんには不審に思われたようですが、見上げる一夏さんの姿を見て、私はついつい一夏さんを抱きしめてしまいました。
「うわ、なになに~?」
「可愛いね~」
「うにゃ~!」
「あら、この尻尾と耳はくっついてるのね」
「ふにゅ~」
一夏さんに付いている尻尾と耳を触り、コロコロと変わる一夏さんの表情に癒されながら、私は虚さんに質問をした。
「これは誰の趣味なんです?」
「須佐乃男が具現化させたものですが……如何やら失敗したようですよ?」
「そうなんですか……」
須佐乃男は何を思ってこの尻尾と耳を一夏さんに付けたんだろう……私は須佐乃男の真意を考えながらも、一夏さんの尻尾や耳を触るのを止めなかった。
「ふ、ふにゅ~……」
「あらら、力が抜けちゃったのかな~?」
散々触られたからなのか、一夏さんは私の腕の中でグッタリとしてしまった。
「あんまり触ると一夏さんに警戒されちゃいますよ?」
「大丈夫だと思いますよ」
「何故です?」
「そこまで強く触ってないですし、逃げるようと思ったなら逃げられたと思うのに、一夏さんは逃げなかったですから」
「なら私も……」
虚さんはグッタリと倒れこんでいる一夏さんの尻尾や耳に手を伸ばし、軽く擽るように触り始めました。
「うにゃ!」
「もふもふしてますね」
「気持ち良いですよね~」
「これは触りたくなる気持ちが良く分かります」
「ですよね」
虚さんは一夏さんが嫌がらない程度の強さ、そして絶妙な指遣いで一夏さんの尻尾の付け根や耳の裏などを触っていきました。
「ふ、ふにゅ~……」
「あらら、またグッタリしちゃった」
「それじゃあ私たちで一夏さんを運びましょうか」
虚さんと協力して、一夏さんを部屋まで運ぶ事になった。
「如何やって運びます?」
「そうですね……順番でおぶるのは如何ですか?」
「抱っこでも良いと思いますよ」
「それじゃあ、それは各々がしたい方をすると言うことで……」
「どっちが先にします?」
虚さんと軽く見つめあい、私と虚さんは同時に同じ動作をした。
「「ジャンケンポン!」」
そう、ジャンケンだ。これが一番簡単で、一番公平に物事を決めることが出来るのだ。
「虚さんの勝ちですね」
「それでは、私はおんぶの方で」
「何処までで交代しますか?」
「2分毎で」
「分かりました」
ジャンケンをした場所から部屋までは、まだ相当な距離があったようで、私と虚さんは2分毎に一夏さんをおんぶしたり抱っこしながら移動した。
部屋で一夏君の誕生日のお祝いの準備をしていたら、一夏君を抱っこした虚ちゃんと碧さんが部屋にやってきた。
「一夏君、如何しちゃったの?」
「疲れが出たようで、途中で寝ちゃったんです」
「ですので、私と虚さんが交互に一夏さんを運んで来ました」
「いいな~、おね~ちゃんと碧さん」
「でも、何だか一夏、グッタリしてない?」
「心なしか汗も掻いているようですし」
「碧さんを見つけた走り出しましたからね。それで汗を掻いているんでしょう」
「9月とは言え、外はまだ暑いですからね」
虚ちゃんと碧さんは特に慌てた様子も無く、そして口裏を合わせている様でもなく、自然な感じで私たちの疑問に答えていく。
「それじゃあ、一夏君が寝ている間に準備を終わらせちゃいましょう!」
「元々は一夏様が来る前に終わらせるはずだったのでは?」
「須佐乃男、それは言わないお約束よ」
「ほらほら、虚さんも碧さんも手伝って」
「一夏は私がベッドに寝かすから」
既に自分が担当する準備を終わらせている簪ちゃんが、虚ちゃんから一夏君を受け取ってベッドまで運ぶ……う、羨ましいな~。
「それで、本当にするんですか?」
「本来の一夏君なら逃げ出す可能性が高かったけど、今の一夏君なら喜んでくれるはずよ」
「如何なんでしょうか……」
「ほら、つべこべ言わずに準備して!」
一夏君が寝てるのは、むしろ好都合だったかもしれない。これなら目覚めるまでに準備は出来るし、起きた時にビックリさせる事が出来るもんね。
今日1日は一夏が小さくなっていて大変だったが、私は非常に満足している。束の口座に何時も以上の振込みを済ませ、束から送られてきたデータを確認しながら、私は寮長室で1人ほくそ笑んでいた。
「さすが束だ。高い料金を払った甲斐があるものばかりだな」
普段からIS学園の情報を探ろうとしている束だが、その都度に一夏にバレていたのだが、その野望が思わぬ形で役に立った。
「情報を探る事は出来ないようだが、一夏の盗撮には成功してるんだよな」
ダミーの衛星まで使って漸く手に入れたと言っていた一夏の普段の写真……それは姉である私ですらあまり見ることの出来ない一夏の姿だったのだ。
「それで私もほしいと言ったら、それなら情報を渡すかお金を渡してほしいと言われたんだったな……」
その当時は、まだ一夏がお金の管理をしていたから最低限しか使うお金が無かったが、今は酒を控えてその分浮いたお金を束の口座に振り込んでいる。
「今日はこの映像を見ながら……」
私は部屋に鍵を掛け、カーテンを閉めて一夏の映像を見ながら『行為』を始めた……
ちーちゃんにデータを送ってすぐ、ちーちゃんの部屋を覗いていたら面白い事になっていった。
「ちーちゃん、その気持ちは分かるけど、そこは一応学校なんでしょ~?」
何時誰が訪ねてくるかも知れない場所で、そう言う事をするなんて……意外とちーちゃんってMッ気があるのかな?
「それなら束さんがちーちゃんを満足させられるようなSにならなきゃね~!」
決心したら電話が鳴った。
「もすもすひねもす~?」
『御託はいい。今すぐ監視を止めろ!』
「ありゃ、バレてた~?」
『当たり前だ。それからお前も同じ事をしようとしてるのはお見通しだ』
「私たちは似てるからね~」
『甚だ不本意だがな』
私とちーちゃんはいっくん以外の男に興味が持てないのだ。ちーちゃんは義弟に興奮するのはおかしいのかと昔は悩んでいたが、1度吹っ切れるとその後はただの変態になった。
「ちーちゃんの『行為』を見ながら束さんがしようと思ってたのに~」
『このド変態が!』
「はいはい、監視衛星は切ったから、思う存分して良いよ」
『お前もどうせするんだろ』
「当たり前なのだ~!」
『ふん!』
「ありゃ、切れちゃった……」
ちーちゃんが電話を切ったと言う事は、そう言う事なのだろう……束さんとしてはちーちゃんを見ながらいっくんを見てするのが一番興奮するんだけどね。
「仕方ない、昔のちーちゃんの映像を引っ張ってこよう」
今回は諦めたけど、束さんが昔からちーちゃんを監視してた事を忘れてたね。映像ホルダーからちーちゃんのお宝映像を呼び出す。
「本当に、ちーちゃんは変態さんなんだからね~」
いっくんを強引に引き取った後、いっくんと一緒にお風呂に入ってる時の映像をモニターの右半分に出す。
「いっくんに無理矢理触らせるなんて、何て羨ましい事をしてるんだ~!」
子供ながらにいっくんは照れている。その顔がまたたまらないのだが、ちーちゃんはこの後いっくんに触られた事を思い出しながら『した』のだ。
「その映像を何処に保存したかな~っと」
いっくん同様、ちーちゃんも勘が鋭いので、こう言うお宝映像は分散して保存してるのだ。
「そう言えば、いっくんのお宝映像が少し見当たらないんだよね~」
前にいっくんが来た時に移動した分が、その後見当たらないのだ。もしかしたらいっくんにバレたのかも知れないが、それならいっくんの事だから全部出すように言ってくだろう。
「クーちゃんがゴミと間違えて捨てちゃったのかな~?」
それが確率的にも一番可能性のある事だ。普段から片付けない束さんが悪いのだが、それでもゴミか如何かは確認してほしかったな~。
「仕方ない、クーちゃんに確認しよう」
クーちゃんの居る部屋に向かいながら、何て聞けば良いのか悩んだ。まさかいっくんのお宝映像知らない?とは聞けないしな~……
私は部屋に鍵を掛けてとあるものをPCから呼び起こしました。この前、部屋の掃除をしていたら出てきたCD-Rに保存されていたものを、興味本位で見てしまってからこう言う事をしています。
「恐らく束様のものなんでしょうが、少しくらいなら大丈夫ですよね」
誰に言い訳するでもなくつぶやいた私に、私自身が驚きました。まさか此処まで私は束様の影響を受けていたとは……
「一夏様……」
その映像には一夏様の昔の姿から、今の姿と様々な一夏様が保存されていて、その中にはちょっと過激な映像も含まれている訳でして……
「ああ、私も一夏様にこんな事されたい……」
上空から落ちてきた女性を受け止め、優しく無事を確認された一夏様……相手の女性は顔が真っ赤になってます。
「一夏様は、私が落ちてきても受け止めてくれるのでしょうか……」
この落ちてきた女性は一夏様のクラスの副担任のようで、その後すぐに千冬様に怒られていました。多分千冬様は嫉妬から怒ったのでしょう。
「クーちゃん、居るかな~?」
「た、束様!?」
私は慌ててPCをスリープにして、乱れた衣服を整えて束様を迎え入れました。
「あれクーちゃん、少し息が乱れてるね」
「そ、掃除してたもので」
「ふ~ん……まぁ良いや。それよりクーちゃん、この前掃除した時にCD-R見なかった?」
「えっと……これですか?」
私は既にPCに取り込み終えたCD-Rを取り出しました。まだ何枚かは見てないものがあるのでそれはまた今度返すことにしましょう。
「そうそう!」
「それは何が保存されてるんですか?」
此処で何も聞かずに返したら逆に怪しまれかねない。私は束様にこれは何かと尋ねた。
「クーちゃんには関係無いものかな~」
「そうですか……気になりますが束様がそう言うなら気にしない事にします」
「ありがと。ところで、他には無かったかな~?」
「見つけ次第束様に持って行きますよ」
「そう、良かった」
「そんなに大切なものなのですか?」
「私のお宝だと言っても過言では無いものだよ~」
「そんな大事なものならちゃんと管理しててくださいよ」
これで何時もの流れに持っていけた。これなら私が怪しまれる事は無いだろうな。
「は~い」
「?……まだ何か?」
束様は用件が済めば何時もすぐに去っていくのですが、今回はその場に留まりました。
「クーちゃんが興味を持つのも仕方ないのかな~」
「えっ!?」
「ふっふっふ、この束さんに隠し事は出来ないのだ~」
バレてる!?
「ちゃんと後で返してね?」
「分かりました……」
「それにしてもクーちゃんまでもか~……まったく、いっくんは罪作りな男の子だよね~。でも、それが良いって言ってたし……」
それだけ言って束様は満足したような顔で戻って行きました。
さすがは『大天才』にして『大天災』と言われるだけの人だな……私の嘘など簡単に見破るとは。
「あれ?」
私は束様の最後のセリフが少し気になりました。私まで?
「束様もでしょうが、他にも居るのでしょうか?」
その後に言ってたと仰ってましたし、私と束様以外にも『こう言う行為』をしている人が居るのでしょうか?
変態3人衆を書いてみたんですが、詳しく書くとR-18になりそうなので、お好きな方は妄想で補完してください。