もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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漸く半日が終わりました……


いちか君、撮られる

「くふふ~、いっくんの可愛い姿を納めたこのデータ、ちーちゃんにいくらで売れるかな~」

 

 

小さくなったいっくんを隠し撮りした私のコレクションの中でも極上になるであろうモノだから、相手がちーちゃんでもタダで渡せる訳ないのだ~。

 

「確かに可愛らしいですが、あのお姿では私に料理を教えてくださるのも、電話で相談する事も出来ませんよね?」

 

「クーちゃんの言いたい事は分かるよ~。でも、今日か明日には元に戻るはずだから、今は我慢してくれると嬉しいな~?」

 

 

クーちゃんは良くいっくんに電話で料理について相談をしている。時にはテレビ電話を使って手際などを見てもらってるそうだ。

 

「一夏様に見てもらえないのは残念ですが、束様がそう仰るのなら我慢いたします」

 

 

少しションボリしながらも、クーちゃんは私が言った事に従ってくれた。

 

「ありがと~。でも、ションボリしてるクーちゃんも可愛いね~」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだよ~。クーちゃんは束さんの自慢の娘なんだから、もっと自信を持って良いんだよ~!」

 

 

クーちゃんを可愛がりながら、モニター越しにさらに可愛らしいいっくんを眺める、至福の一時と言うのは、多分こう言う事なんだろうな~。

 

「それにしても、小さくなってもいっくんの強さは健在なんだね~。束さんびっくりだよ~」

 

「そうなるように束様が調整したのでは無いのですか?」

 

「ううん、私はいっくんが小さくなるようにした装置を作っただけで、強さなどはそれに伴う形になるものだと思ってたけど、いっくんは束さんの想像の上を行く子だからね~」

 

 

それはそれで楽しいから良いんだけど、正直小さくなってもいっくんがISを使えるのにはビックリしたんだよね~。いっくんが小さかった頃には、私もまだISを『理論上』でしか作って無かったし、その時からいっくんがISに適正を持っていたとも考えられないもんね……本当にいっくんは束さんを退屈させないから好きだな~。

 

「一夏様、何時も以上に楽しそうですね」

 

「あの金髪も思い知ったんじゃないかな~。小さくなったいっくんの方が、普段のいっくんよりたちが悪いって」

 

「同情してる風のセリフを言ってる割には楽しそうですね」

 

「そりゃそうだよ~。いっくん相手に少しでも勝てると思ってた大馬鹿娘がコテンパンにやられて、しかも惨めに泣き叫ぶ姿が撮れたんだから。これを匿名であの金髪の携帯に送りつけてやって、更に惨めな思いをさせてやるんだ~。今から楽しみだよ~」

 

「精神攻撃ですか……束様はえげつないですね」

 

「それほどでもないよ~」

 

 

正直コイツの映像なんていらないんだけど、いかに束さんが優秀か思い知らすためにも、この惨めな金髪の映像をフル活用させてもらおう。

 

「そうでした。……束様、お昼ご飯です」

 

「ありがと~」

 

「いえ、また失敗してしまいまして……」

 

「平気平気~!」

 

 

クーちゃんの持ってきた得体の知れないゲル状のものを手で掴み食べる。うん、ちーちゃんのに比べれば何でもおいしく食べられるよ、あれはさすがの束さんも死ぬかと思っちゃったもんね~……その後ちーちゃんがいっくんに怒られて束さんを心配そうに見てたいっくんの写真は、今でも大事に保存してあるんだよね~。もちろん隠し撮りだから、いっくんにバレたら大変なんだよね。

 

「一夏様に教えていただける時は上手く作れるんですが、一夏様のサポート無しではこの有様でして……」

 

「いっくんは教えるの上手いからね~。その内クーちゃんもいっくんの指導無しでおいしく作れる日が来るさ~」

 

「そうだと良いのですが……」

 

「大丈夫!束さんもちーちゃんもクーちゃんより酷いから」

 

「それは……慰めになるのでしょうか?」

 

 

如何なんだろうね~……昔ちーちゃんと一緒にいっくんに料理指導をしてもらった時、キッチンにあったもの全部を溶かして、爆発させて、消しさった事があったんだけど、さすがにあの時はいっくんに殺されるかと思ったよ~。

 

「クーちゃんには束さんやちーちゃんに無かった才能が確かにあるから、それを信じて1つずつ前進していけば良いのだ~!」

 

「そう……ですね!」

 

「そうそう!」

 

「では、私は片付けがありますので」

 

「頑張ってね~」

 

 

クーちゃんが部屋から遠ざかったのを確認して、私は再びモニター監視に戻る。丁度須佐乃男を解除してちーちゃんのお話を聞いているところだったいっくんは、不意に空を見て首を傾げた……ひょっとして監視衛星に気付いたの!?

一瞬だったが、確かにモニター越しにいっくんと目が合った。いっくんの勘の良さは知ってるけど、衛星に気付くなんて、さすがに無いよね~……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬様に各自、グループを作るように言われたのですが、一夏様は上空を眺めて首を傾げるばかりで動こうとはしません……いったい何が気になってるんでしょうか。

 

「一夏様、本音様とマドカさん、どちらのグループに入りますか?」

 

「……う~ん?」

 

「一夏様?」

 

「ん?……なにかいった~?」

 

「ですから、本音様とマドカさまのどちらのグループに入られるのかと」

 

「そうだね~……本音おねえちゃんのほうにしようかな」

 

「分かりました」

 

 

一夏様はそれだけ言うと、再び上空に目を向けました……本当に何が気になっているのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何やらいっくんは、何かに気付いてるんだけど、その何かが分からないみたいで、さっきから上空に目を向けているみたいだった。

 

「いっくんの常識破りは知ってるけど、まさか監視衛星に気付くなんて……やっぱりいっくんを観察してると退屈しないな~」

 

 

さっきから見つめては首を傾げ、また見つめては首を傾げる。いっくんは唯単に気になってるから見てるだけなのだが、映像的には私を見つめては首を傾げてる訳でして……

 

「たまらん!これはひじょ~にたまらないよいっくん!」

 

 

小さくなったいっくんのつぶらな瞳が私を見つめているのだ、これはちーちゃんなら流血モノだろう……

 

「でも、この映像は束さんだのモノなのだ~。ちーちゃんには黙っとこっと」

 

 

誰も居ない部屋で、誰に言うわけでもない言葉を紡いだ……そうでもしないと気を失いそうだからだ。

 

「如何やらいっくんは演習に参加するみたいだね~。これはまた良い映像が撮れるかもしれないよ~、むふふ~」

 

 

私は監視衛星の稼動数を増やし、いろんな角度からいっくんを撮る事にした。今のいっくんは、小さくなった分力の制御が出来なくなってるから、映像を撮るのにも一苦労だよ~……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏様は何かを気にしておられる様子ですが、それでもしっかりと授業には参加されるようでした。

 

「それじゃ~私たちも訓練機を借りに行こ~!」

 

「本音、もう少し気合を入れたら~?」

 

「私は何時でも気合十分だよ~?」

 

「そうだよね~、これが本音だもんね~」

 

「そうなのだ~!」

 

「「「あはははは~」」」

 

 

何でしょうこの緊張感の無い会話は……クラスメイトの相川さんと夜竹さんと共におしゃべりに興じている本音様。リーダーなんですから少しは自覚を持ってくれないと困るんですよ、主に私が。

 

「布仏妹!」

 

「ほえ?」

 

「訓練機を借りに来てないグループはお前の所だけだぞ!」

 

「スミマセン、すぐ行きま~す」

 

 

案の定千冬様に注意され、本音様はパタパタと訓練機の貸し出し申請をしに行かれました。そして一夏様はさっきよりも上空を気にしだしました……何があるんですか!?

 

「ねえねえ織斑君」

 

「なに~?」

 

「その耳、ちょっと触っても良い?」

 

「耳?」

 

 

ピョコンと耳を動かし、一夏様は相川さんの申し出に何と答えれば良いのか考えています……その姿も可愛らしいんですよ。

 

「我慢出来ない!」

 

「あっ、ズルイ私も!」

 

「う、うにゃ~!」

 

 

相川さんが一夏様の可愛らしい姿に耐えられなくなり、一夏様の返事を待たずに耳に手を伸ばしました。それに便乗するように夜竹さんが一夏様の尻尾に手を伸ばして一夏様は困ったように声を上げました。

 

「ちょっと、織斑君が可哀想でしょ」

 

「なによ、鷹月は織斑君の耳や尻尾に触りたく無いの?」

 

「そりゃ触りたいけど、本人の了承無しに襲い掛かるのは駄目じゃない?」

 

「だって我慢出来ないんだもん!」

 

「今の織斑君からしたら、貴方たちは恐怖の対象になりかねないのよ、分かってる?」

 

 

鷹月さんに言われ、一夏様に襲い掛かろうとした2人はバツの悪そうな顔を一夏様に向けました。

 

「ゴメンね、織斑君」

 

「ついつい理性が欲望に負けてしまって」

 

「もうおそってこない?」

 

「うん、約束する」

 

「私も」

 

「なら、もういいよ」

 

 

ニコーと笑顔で2人を許した一夏様、その姿に大勢の生徒がやられたのは一夏様は分かっていない様子でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、いただきましたよ!」

 

 

笑顔のいっくんを盗撮に成功して、私は1人喜び、あまりにも興奮し過ぎて足の指を角にぶつけると言うお約束を演じてしまったのだが、そんなの気にならないくらい今のいっくんの笑顔には価値があるのだ。

 

「これは現像して引き伸ばして部屋のいたるところに張らなければ!」

 

 

毎日いっくんの笑顔に見つめられれば、束さんの研究速度は10倍くらい違くなると思うんだよね~。

 

「でも、純粋な笑顔だな~……この笑顔を見てると、如何に束さんの心が汚れてるか分かるよ~……ちーちゃんも普段のいっくんも、散々汚れきってるから、この笑顔を見たら同じ気持ちになるのかな~?」

 

 

ちーちゃんのした事の大半は束さんが原因だけど、いっくんを巻き込んでの事件は殆どがちーちゃんの発案だ。前にいっくんが私とちーちゃんを『大天災』と『疫病神』って表現してたけど、あながち間違えじゃ無いんだよね~……いっくんが事件に巻き込まれる原因は間違い無くちーちゃんなんだから……

 

「いっくんを溺愛するあまりに、いっくんの人生を変えちゃったんだもんね……ちーちゃんも酷い事考えるよね」

 

 

それに協力した私も同罪なんだろうけど、今だけはいっくんに同情したくなった。いっくんが小さい頃からしてきた苦労は、本当ならしなくても良かったかもしれない苦労だったし、ISの世界に巻き込まれたのも、ちーちゃんの連覇を阻止しようとして誘拐されたのが原因だし、その後『亡国企業』とか言う組織に狙われるのは妹の所為らしいしで、いっくんは織斑姉妹に迷惑掛けられっぱなしだね~。

 

「でもそのおかげでこうしていっくんを盗撮出来るんだから、これはこれで良いのかもしれないね~」

 

 

モニターには訓練機相手にいっくんがマシンガンを打ちまくってる映像が映し出されていた。今のいっくんは、本当に楽しそうに攻撃するね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラファールと打鉄を借りてきて、おりむ~の相手をさせてみたんだけど……セッシーが負けた時よりは酷く無いが、まるっきし相手にならなかった。

 

「織斑君、強すぎ……」

 

「2対1でも勝てないなんて……」

 

「でも、2人とも良かったよ~」

 

 

これは気休めでは無く本心だ。

おりむ~相手に降参する事無く戦いきったのは、賞賛に値するだろう。なんてったって候補生であるセッシーは戦い抜く事が出来なかったんだから……

 

「たのしかった!」

 

「よしよ~し、おりむ~は次お休みね~」

 

「わかった!」

 

 

おりむ~は須佐乃男を解除してその場にチョコンと座った。普段はカッコいいおりむ~だが、今のちっちゃい姿はなんとも可愛らしいのだ。

 

「それじゃあ次は2人が戦ってみよう~」

 

「ちょっと休ませて……」

 

「私も……」

 

「ありゃりゃ……それじゃあ他の人が戦ってみて~」

 

 

キヨキヨとサユユはへろへろになってるので、残念だけど他の2人に戦ってもらおう。やっぱおりむ~相手には体力使うんだよね~。

今でこそ私もかんちゃんもおりむ~を相手に少しはまともな模擬戦が出来るようになったけど、昔はそれこそこの2人以上にへろへろになったんだよね~。おりむ~は簡単に終わらせられるのに、それだと訓練にならないって終わらせてくれなかったんだよね~……おりむ~は所謂ドSさんなのかな~?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目で一夏が楽しそうに訓練してるのを見て、私は傍に行きたい衝動に駆られた。だが、今の私の立場では、1人の生徒に加担するのはよろしくない……一夏が管理してくれなくなった以上、無駄金を使わないように、そして給料を差っ引かれないようにしなきゃいけないのでそう言う行動は慎まなきゃいけないのだ。

 

「(今思うと、一夏が居なかったら私は死んでたんじゃないか?)」

 

 

料理も一夏、家計を預かってたのも一夏、健康管理も一夏、家の掃除も一夏……うん、死んでたな。

今は我慢してるが、それこそ一夏がまだ私を気にしてくれてた時は、毎晩のように酒も飲んでたし暴食もしてた。一夏の作る肴が美味いだよな~……

 

「(何とかして仲直りして、また作ってもらいたいものだ……)」

 

 

私のして来た事がバレ、一夏は私から距離を取った。それに加えて義妹のマドカの事もあって、一夏が私に構ってくれる時間は激減したのだ。

 

「織斑先生、さっきから織斑君の事ばっか見てますよ」

 

「そう言う山田先生だって、織斑兄ばかりに気を取られてないで、他の生徒にも目を配ったら如何です?」

 

 

隣で同じように一夏に気を取られている真耶が、呆れたような口調で私を嗜めようとしてきた。お前には言われたく無いぞ!

 

「それにくらべてナターシャ先生は偉いですね~」

 

「そうだな」

 

 

ナターシャは各グループを回って、その都度気になった事を指摘しているのだ。教師としては正しい姿なのかもしれないが、人として今の一夏に夢中にならないのはおかしいんじゃないか?

 

「あれ、自分を誤魔化してるんでしょうね」

 

「誤魔化す?」

 

 

真耶がナターシャをさしてそんな表現をした。いったい何を誤魔化してると言うんだか……

 

「さっき見たんですが、ナターシャ先生も今の織斑君に興味を持ってるみたいですよ」

 

「ほう……」

 

 

真耶の言う事に興味を持ち、私は真耶にその先を話すよう促した。

 

「先ほど私たちが悶えてる間、ナターシャ先生は織斑君に準備運動をさせてたんですよ~」

 

「それで?」

 

「その後織斑君がナターシャ先生って呼んだら、思いっきり悶えてました。その後に織斑先生に殴らたんですよ」

 

「なるほど、それでアイツが悶えてたのか」

 

 

私が現実に復帰したのに、アイツはまだ悶えてたからな……てっきり私より復帰が遅いだけかと思ってたが……なるほど、悶え始めたのも遅かったのか。

 

「あの織斑君に『先生』って呼ばれるだけで胸がキュンとするんですよね~」

 

「私はまだ呼ばれて無いな……」

 

 

挙句に怖いと言われてしまったし……私は一夏を守るために怒ったのに、結果的に一夏を怖がらせてしまったのだ……ああ、あの時間に戻ってやり直せるのならやり直したいものだ。だが、時間を巻き戻すなど、アイツにも無理だろうし、正直頼むのも如何かと思っている。

 

「(これ以上、アイツに貸しを作ると後が大変だからな……)」

 

 

散々溜まった貸しを返すために『白騎士事件』などと言われるものに協力させられたし、その後のISの広告にも使われたのだ。

 

「如何かしましたか?」

 

「いや、今の織斑兄は本当に加減を知らないんだなと……」

 

 

再び模擬戦を出来る事になってはしゃいでたのか、先ほどの2人相手の時よりも苛烈な攻撃手段を取っていた。

 

「楽しそうでなによりじゃないですか」

 

「うむ、そうだな」

 

 

退屈で泣かれるよりも、ああやって楽しそうにしてくれているだけで此方も安心出来る。私はチラッと時計を確認して全員に聞こえるように大声を出す。

 

「後5分で授業は終了だ。今やっている模擬戦を最後に片付けに入れ!」

 

 

アリーナの使用時間は限られている、それは授業でも同じだ。各クラスに割り振られた時間内で授業を済ませ、出来るだけオーバーしないように終わらせなければならないのだ。

 

「(一夏が元のままなら生徒会権限も使えるんだが、今はな……)」

 

 

特に使用者の希望が無い場合のみ、生徒会メンバーはアリーナを自由に使う事が出来る。昼休みにアリーナを使いたがる物好きなど、そうそう居ないからな。

 

「片付けが済むのが一番遅かったグループにはグラウンド整備をしてもらうからな」

 

 

その一言で、各グループの片付けスピードが上がった。そこまでしたくないのか……殆ど同時に全グループが片付けを終えたため、グラウンド整備も全員でする事にした。文句は上がったがそれならお前たちだけでやるか?っと聞いたら大人しく整備に取り掛かった。

 

「では、これにて終了とする!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 

終了の合図をし、生徒たちは各々グラウンドから移動する。一夏は須佐乃男に手を引かれて更衣室に向かって行った……その背中は、もの凄く満足している感じがした。




束がお約束な事をやってると書いた後、自分もやってしまいました……

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