もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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弾に春は来るのだろうか……


文化祭・午後の部

一夏のクラスに来てみたが、そこは俺にとって天国と言っても等しい場所だった。

 

「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様」

 

「メイド喫茶なんですか?」

 

「似たようなものです」

 

「………」

 

「お兄ぃ、如何したの?」

 

 

如何したかって?蘭、お前は男のロマンってモノが分かってないんだな……もし、この場に数馬が居たら、きっと俺と同じ気持ちになったはずだ。

 

「別に、何でもないぞ!」

 

「怪しい……」

 

 

蘭に蔑まれるが、今、この時だけは気にならない!

 

「それではご案内します」

 

「お願いします!」

 

 

金髪でボーイッシュなメイドさんにご案内されるんだぜ?帰ったら数馬に自慢してやろう。

 

「やかましいと思ったらお前か、弾」

 

「あっ、一夏。この人一夏の知り合いなの?」

 

「一応友人って事になってる」

 

「ちょっと一夏、こっちに来て話そうか……」

 

「何だいきなり」

 

 

まさかまた一夏の彼女とか言うオチじゃねぇだろうな……メイドさんの方は一夏をじっと見ているし、一夏の方も結構馴れ馴れしい……これは屋上で殴りあいの喧嘩でもしないと気がすまねぇぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何したんだろう?」

 

「放っておいて良いですよ、あんな馬鹿……」

 

「一夏の知り合いにしては、何だか荒れてるね、お兄さん」

 

「モテない男の僻みですよ、あれは……」

 

 

お兄ぃが一夏さんを連れてどっかに行っちゃったけど、このメイドさんが心配してるのは一夏さんだけっぽい……つまりこの人も一夏さんの事を少なからず想っているって事なんだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな所まで引っ張ってきて、何のつもりだ。そもそも今日は屋上は立ち入り禁止だぞ」

 

「一夏、お前に聞きたい事がある!」

 

「わざわざ此処まで来て、用件はそれだけか?」

 

 

一夏はやれやれ、と言う感じに首を振り、呆れた感じを隠そうともしないで俺を見ている……モテる男の余裕なのか、俺が何を聞きたいのか、まったく見当つかないと言った感じだ。

 

「さっさと聞きたい事とやらを言ってくれないか?」

 

「さっきの女の子とお前は、如何言った関係だ」

 

「さっきの?……悪い、誰だ?」

 

「金髪のメイドさんだよ!」

 

「金髪のメイド?……ロングか?それともショート?」

 

「ショートの方だ」

 

「シャルか」

 

「シャル?」

 

 

彼女の名前だろうか……一夏は彼女の事を愛称で呼んでいるのか?

 

「シャルロット・デュノア。フランスの代表候補生でクラスメイトだ」

 

「特別親しい訳じゃ無いんだな?」

 

「クラスメイトとしては親しい方だが、それ以上の関係じゃ無い」

 

「それじゃあ、彼女の好みとか知ってるか?」

 

「そんなの自分で聞け」

 

 

一夏は興味が無いと言わんばかりにため息を吐き、屋上から教室に戻って行こうとした。

 

「少しは俺の恋路を応援してくれても良いだろ!」

 

「あのな……さっきは虚さんで、今度はシャルだ?随分と雰囲気も違う女性を好きになったもんだな。しかもこの短時間にだ」

 

「悪いかよ?」

 

「俺がとやかく言える立場じゃ無いのは、俺自身が良く分かってるが、あえて言わせてもらう」

 

「何だよ……」

 

 

一夏は俺の目を見て……いや、射抜くような視線で俺を見ている……何処も押さえつけられて無いのに、俺は一夏に掴まってしまった……

 

「もう少し節操良くしたら如何だ?」

 

「……は?」

 

「誰彼構わずって言うのは如何かと想うぞ?」

 

「学園のほぼ全員に好意を持たれてるお前に言われたく無い!」

 

「だから俺が言える立場じゃ無いって言ったろ……それに、俺がそう言う立場じゃ無いって言ったのは、彼女が6人も居る俺が……って意味だったんだがな」

 

「6人……だと?お、お前、夏祭りの時には4人だって……」

 

 

俺の記憶違いじゃ無いよな……浴衣姿で気付かなかったが、ゲートであった虚さんと俺は、前に一回会ってるじゃねえか。向こうも覚えて無かったみたいだし、俺が覚えてるはずも無いか……

 

「あの後増えたんだよ。こう……なし崩し的にな」

 

「うらやま……いや、羨ましい」

 

「言い直せてないぞ。後、シャルじゃ無いから安心しろ」

 

 

一夏はそれだけいって今度こそ屋上から出て行った……何でアイツばっかりモテるんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、一夏さん」

 

 

クラスに戻ったらセシリアに迎えられた。

 

「何かあったのか?」

 

「紅茶にケチをつけるお客さんですわ」

 

「……一応聞くが、誰が淹れた紅茶だ?」

 

「ラウラさんとマドカさんですわ」

 

「……ああ」

 

 

あの2人なら気に入らない客にマズイ紅茶を出してもおかしく無いぞ……俺は確認すべく人垣を分け入って問題の中心に向かった。

 

「さっさと出てけ、この屑」

 

「アンですって!」

 

 

……この声、鈴だよな?

 

「何やってるんだよ、鈴」

 

「あっ、一夏!」

 

「面倒な客が来たから追い返してるところだ!」

 

「お兄ちゃんに近づくものは、全力で排除する!」

 

「だからって水道水で淹れた紅茶なんて飲ませる!?」

 

「……すぐ淹れなおすから待ってろ」

 

 

騒ぎの原因となった自称妹と義妹を引っ張っていき、俺は奥に引っ込んだ。

 

「何をするんですか、兄上!」

 

「何するの、お兄ちゃん!」

 

 

俺の知らない間に随分と仲良くなったな……

 

「お金を払ってるうちは、相手はどんなに気に入らなくても客だ。その客相手に何してるんだ、この馬鹿共が!」

 

「ヒィ!」

 

「こ、これは……教官以上か!」

 

 

接客の基本がなっていない2人を軽くしぼり、俺は淹れなおした紅茶を鈴に持っていく……

 

「先ほどは失礼しました、お客様。御代は結構ですので、これもご一緒にどうぞ」

 

「一夏、そのしゃべり方、似合ってないわよ」

 

「……知ってるよ」

 

「でも、もらえるものはもらってくわ!」

 

「相変わらずがめつい女だな……」

 

「ん?……何だ、弾か」

 

「何だって何だよ!」

 

「お兄ぃ!」

 

 

屋上から戻ってきた弾も交えて、騒がしくなってしまった……数馬が居れば中学時代とそんなに変わらないと思っただろうが、今はそんな余裕は無い……

 

「鈴、弾、蘭……そろそろ黙れ」

 

「い、一夏……?」

 

「お前、こんな事で怒るなよ!?」

 

「そうですよ一夏さん。こんなの何時ものやり取りじゃないですか……」

 

「ああそうだな。……だが、時と場所を選べ。周りには他にも人が居るんだぞ?」

 

 

ここ何日か溜め込んだストレスが、そろそろ限界に達しようとしていたところに、この馬鹿騒ぎだ。俺は周りに居る関係ない人を巻き込まないように、何とか我慢したいのだが、3人がその事を察してくれるかどうかは、微妙なところだ……

 

「ゴメン、一夏!」

 

「悪かった、だから落ち着け!なっ?」

 

「私もついつい調子に乗ってしまいました」

 

「……分かれば良い」

 

 

爆発寸前で、3人も危機を察知したのだろう。素直に謝ってきた。

 

「どうもお騒がせしました」

 

「一夏、ちょっと休憩してきたら如何だ?」

 

「……そうする」

 

 

シャルと篠ノ乃に気を使われ、俺は教室から出て行った……着替えるのを忘れてたのに気付いたのは、少し経ってからだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏君があそこまで怒るなんてね」

 

「色々溜め込んでるんでしょう」

 

「おりむ~も大変だね~」

 

「何割かは本音も関係してると思うよ」

 

「一夏様、何時か爆発してしまうのでしょうか?」

 

 

さっきの一夏君の鬼気は、同じ教室に居た私たちも感じる事が出来た。普段の一夏君はあそこまで感情を露わにする子じゃ無いんだけど、昔からの知り合いだからなのか、さっきの3人に対しての感情に、一切の容赦が感じられなかった。つまり、結構本気で危なかったのだ、さっきのやり取りは……

 

「これじゃあ計画がバレたら私も危ないわね……」

 

「まだ一夏さんに言ってないのですか?」

 

「だって直前に言った方が面白いと思って……」

 

「私は関係無いからね」

 

「私も、今回は関係ありませんね~」

 

「怒られるのは楯無様だけだね~」

 

「簪ちゃんも本音も須佐乃男も、薄情だね……」

 

「ですが、お嬢様には怒らないと思いますよ」

 

 

虚ちゃんが何処か遠い目をして私を慰めてくれた……きっと一夏君の事を心配して、一夏君が行くであろう場所を見ているのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろヤバイな……」

 

 

溜めに溜め込んだストレスが限界を迎えようとして、俺は今日は誰も来ないであろう場所、生徒会室で一息入れるために横になった。

生徒会の仕事や6人を相手にしてる分には、此処までストレスも溜まらなかっただろう……だが、此処最近は文化祭の準備などで色々暴走気味だった刀奈さんたちや、クラスメイトの相手だったので、普段以上に負担が掛かってたのだろうな……

 

「此処で少し休んどくか……」

 

 

最近まともに休んだ記憶が無い……どうせ誰も来ないんだし、いっそ一眠りでもするか……まどろみに誘われ、俺は瞼を閉じ……ようとしたが、何者かの気配が近づいてくるのを感じて咄嗟に身構える。

 

「この気配……刀奈さんか?」

 

 

この部屋の主であり、別に来てもおかしく無い人だったので、俺は安心して横になった。大した用では無いだろうし、後で聞けば済むだろうしな……

 

「一夏君!」

 

 

だが俺の楽観的な考えは、この後すぐに打ち崩される事となった……どうやら神様とやらは、俺に休息を与えてはくれないみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化祭にも生徒会からの出し物がある。その事を一夏君に黙ってたのは、面白そうだったからなんだけど…… 

 

「何でこんな格好しなきゃいけないんですか」

 

「似合ってるわよ?」

 

「思っても見ないことを言わんでください」

 

「でも、カッコいいのは変わりないわよ」

 

「何でこんな動き辛い格好……」

 

「良いじゃない、これには訳があるのよ♪」

 

 

思った以上に機嫌が悪いわね……

生徒会室で横になっていた一夏君に、生徒会の出し物の話をしたら、思いっきり、そう、思いっきり嫌そうな顔をした。今まであんな表情の一夏君なんて見たこと無かったわ……

 

「台本も無しにいきなり演劇をやれなんて言われても困るんですが……」

 

「大丈夫。サポートするし、それに一夏君にしか出来ない役だから」

 

「男が居ないんですから、そうでしょうよ……」

 

 

一夏君の格好は、所謂王子様……つまり男の格好だ。一夏君の言う通り、この学園に男の子は一夏君だけだし、他に居ても一夏君にしか出来ないのよね。

 

「本音や簪の姿が見えませんが……」

 

「あの2人は虚ちゃんと一緒に裏方の仕事をしてくれてるわよ」

 

「須佐乃男とマドカは?」

 

「その2人は上で照明や暗幕の操作をしてくれるのよ」

 

「はぁ……」

 

 

納得してくれて無いみたいだけど、如何にか説得は出来たみたいだし、一夏君には悪いけど楽しませてもらうわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でこんな格好で舞台に立っているんだ、俺は……

刀奈さんに連れ出され、何事かと思えば、生徒会の出し物の劇で俺が主役らしいのだが……台本も無く、セリフも一切聞かされてないんだが……この舞台、何か裏があるのか?

 

「それでは、これより生徒会主催、織斑一夏争奪戦を兼ねた舞台を始めます」

 

 

やはりか!?

ナレーションとして舞台の上、ブースに居る刀奈さんを睨み上げる……刀奈さんはウインクしながら両手を胸の前で合わせている……謝ってるのか?……それとも楽しんでるのか?

 

「ここはIS王国。そこの王子である一夏君の王冠を奪ったシンデレラが一夏君と1日一緒に居られる権利が与えられます。皆、一生懸命頑張ってね♪」

 

「聞いてませんよ!」

 

「ちなみに、その王冠には電流が流れてるから、自分から外そうとすると痺れるわよ」

 

「……面倒だから自分から捨てるって事も出来ないのか」

 

 

誰が参加してるのか知らんが、1日拘束されるのは面倒だ……

 

「制限時間は30分。その間はどんな事をしても許します!」

 

「俺は?」

 

「もちろん何しても良いのよ♪」

 

 

なら、何とかなるか……須佐乃男が居ないのが痛いが、生身相手にISを使う必要も無いか。

 

「それでは、まずはシードを得たシンデレラたちの登場です。一般参加は10分後で~す!」

 

「……シード?」

 

 

何時の間に予選なんてやったんだ……文句の1つでも言ってやろうかと思ったが、背後から来る攻撃に反射的に回避行動を行った。……当たったらさすがに死ぬぞ。

 

「随分と手荒なシンデレラも居たもんだな!」

 

「大人しく王冠を渡してくださいませ!」

 

「いくら許されるって言っても、ISを使うヤツが居るか!」

 

 

セシリアが、セットの城の上層部からライフルで王冠を狙ってきた。そこまでしてほしいのか、こんなものが……

 

「一夏!」

 

「むっ!」

 

 

セシリアの死角に移動しようとしたら、舞台袖から篠ノ乃が竹刀を持って……違う、あれは真剣だ。

 

「お前も限度ってものを知らねぇのかよ!」

 

「何しても許されるんだ。問題あるまい」

 

「殺人はさすがに許されねぇぞ」

 

「死にたくなかったら、その王冠を渡すんだな」

 

 

篠ノ乃に集中しながら、背後のセシリアの気配を探る……やはり狙ってやがる……

 

「仕方ないか!」

 

「何!?」

 

 

俺は空中を駆けセシリア目掛けて蹴りを放つ……斬撃までは行かなくとも、衝撃波くらいは生身で出せるんだよ、俺は。

 

「まず1人」

 

「かなり猟奇的な王子様ですね~」

 

「会長も後で覚悟しててくださいね?」

 

「は、は~い……」

 

 

最高の笑顔で上を見上げ刀奈さんに伝える。俺が笑ってる時は危険だと身を持って体験している刀奈さんは、冷や汗を流して素直に頷いた。

 

「その王冠を渡せー!」

 

「今度は鈴か」

 

 

生身でも結構動ける鈴は、かなり厄介だ。他のシンデレラが何人居るのかも分からない今、確実に1人1人潰していかないと、後々面倒な事になり兼ねない。俺は鈴の攻撃をかわして篠ノ乃の真剣を奪い取る。ついでに鞘で篠ノ乃のわき腹を打ち気絶させる……これで2人目。

 

「……隠れてないで出て来い」

 

「バレちゃったか」

 

「シャルも参加してたのか」

 

 

上手く気配を消せてたが、生憎もっと上手く気配を消せる連中と付き合ってきたから、シャルの気配は俺にはバレバレなのだ。

 

「大人しく王冠を渡してくれないかな?」

 

「お前が一番物騒な気がするからな……」

 

「酷いな~。僕はただ、一夏と一緒に居たいだけなの……に!」

 

「体重移動でその行動は予想済みだ。ついでに速度が遅い!」

 

 

シャルの放ってきた蹴りを捌き、背後に居る鈴に蹴りを放つ。2対1の形だが、連携を取る気の無い複数相手など怖く無い。

 

「寄越せー!」

 

「とび蹴りしか出来ないのか、お前は……」

 

 

鈴の足を掴み、シャルに向かって投げる。

 

「ちょ、え、まっ!」

 

「邪魔!」

 

 

シャルは懐から出した警棒(伸縮自在のものだ)で鈴を払い、俺に向かってくる。

 

「友達相手に容赦無いな……」

 

「一夏が投げたんでしょうが!」

 

「違い無い……そろそろ隠れてるのも飽きただろ、出て来いよ」

 

「?」

 

 

シャルが首を傾げた隙に俺はシャルから距離を取る……まだ何か隠し持ってそうだし……

 

「まったく隙が見当たらない……さすが兄上ですね」

 

「ラウラ!」

 

「シャルも気付かなかったのか……やっぱりラウラが1番の実力者か」

 

 

気配を殺し、そして偽りの気配を出して隠れていたラウラだが、鈴がシャルに殴り飛ばされた時に一瞬の隙が生まれた。かくれんぼにも飽きて来たので呼んだが、最初からあの場にラウラが居たのは気付いていた。他のメンバーが気付くかと思ってたが、やっぱり候補生でも国ごとに違いはあるのか……

 

「兄上の王冠、私がもらうぞ!」

 

「それは僕のだ!」

 

「お前のじゃ無いだろ……」

 

 

弾よ……シャルに惚れるのは間違いだと思うぞ……

 

「邪魔するならシャルロット、お前でも手加減しないぞ」

 

「それは僕のセリフだよ、ラウラ」

 

 

2人が睨みあってるが、俺の事を忘れてるぞ……

互いに互いを視界に納めているため、俺は2人の視界から外れている。つまり何を言いたいのかと言うと……

 

「隙だらけだ」

 

 

鞘に納めたままの真剣で、2人の延髄を振りぬく……当分は意識は戻らないだろうが、何しても善しのルールなんだ、悪く思うなよ。

 

「あらら……シードのシンデレラは10分持たなかったので、ここからは一般参加のシンデレラの登場です!」

 

「何だ、10分経ってなかったのか」

 

 

手加減したとは言え、こんなにもあっさり倒せるとは思ってなかったぞ。一般参加って事は、外部の人間も舞台に上がってくるのだろうか?

 

「それじゃ、橋を架けるから皆はそこから舞台に上がってね」

 

「カウント5秒前……4……3……」

 

 

面倒だな……舞台の上って言っても、そんなに距離は無いし、さすがに訓練をまともに積んでない相手を殴り倒す訳にも行かないしな……俺は逃げるためにセットの上目掛けて駆け上がった。

 

「王子が逃げたぞ~!」

 

「上だ!皆のもの、王子は上に逃げたぞ!」

 

「絶対に捕まえる、一夏は私のものだ!」

 

 

……最後のセリフ、気のせいじゃなきゃあの人のだよな……呆れながらセットの上を逃げていると、突如床が抜けた……比喩に非ず、本当に床が抜け落ちたのだ……手抜きだな、このセット……

 

「危なかったですね?」

 

「貴女は……巻紙さん?」

 

 

渉外担当の巻紙礼子さんがロッカールームに居た……この人如何やって此処に?

 

「ええ、貴方がやられてしまうかと心配しましたよ」

 

「はぁ……」

 

 

何で巻紙さんが心配するんだ?……やっぱりこの人は普通の営業じゃ無かったか。

彼女が纏ってた気配が、急に攻撃的な気配に変わった。

 

「お前は私の獲物だからな!」

 

「マドカが居た、俺を攫った組織の人間か?」

 

「そうだよ!私はお前を攫った組織、『亡国機業(ファントム・タスク)』の幹部、オータム様だぜ、餓鬼が」

 

 

夏休みの襲撃の時にも、この気配は感じた。つまり、コイツが言ってる事は事実だ。まったく、面倒な文化祭になったもんだな……




次回、一夏が如何なるのか……お楽しみに

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