もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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しれっと110話突破してましたね…


疑わしき家族

「俺と千冬姉の血が繋がってない…?」

 

 

突如言われた言葉が、頭の中で処理出来無い。

今迄実の姉だと思っていた相手が義理だと言われて、そう簡単に理解出来る人間が居るのなら、今すぐ俺の前に来い。

それ程の衝撃を受けた…

 

「それは本当なのか……?」

 

 

その発言をした少女、織斑マドカと名乗った彼女に確認をする。

その顔は仮面で隠されているが、何となく雰囲気や容姿は昔の千冬姉に何処と無く似ている…

 

「そうだよお兄ちゃん。お兄ちゃんとあの人には血の繋がりは無いんだよ。そんな大切な事を隠してるなんて、やっぱりお兄ちゃんは私と一緒にあの人の傍から居なくなった方が良かったかもね」

 

「一緒に居なくなる?俺と千冬姉は捨てられたんじゃ無いのか?」

 

 

今迄俺が信じてきた事実が揺らぐ。

彼女の言葉のニュアンスだと、千冬姉が両親を追いやった感じにも聞こえる…

 

「あの人は捨てられたんだけど、馬鹿親共はお兄ちゃんは連れて行こうとしてたんだよ」

 

「馬鹿親共?」

 

「うん。結局私の事も捨てたんだから、馬鹿親共って言っても良いでしょ?」

 

 

如何やら俺の両親だと思われる人間はどっちも駄目人間だったようだ…そこらへんは千冬姉に似てるのかもしれない…

 

「それで、俺が千冬姉と血が繋がってないって言う証拠はあるのか?」

 

 

彼女の言葉が嘘だと言う可能性もある。

無条件で信じるには、あまりにも荒唐無稽な話だし、何より信じたくなかった。

 

「証拠ならお兄ちゃんが持ってるでしょ?」

 

「俺が?」

 

 

何だと言うんだ……

 

「今此処でお兄ちゃんの髪の毛を提供してくれればすぐに分かるよ」

 

「髪の毛?……DNAか…」

 

「うん!私の今居る組織なら、数日中に鑑定結果を知らせる事が出来るけど?」

 

「だが、千冬姉の分は如何するんだ?」

 

 

こんなのは如何とでも出来るのだが、俺は無自覚にDNA検査をしたく無いと言いたかったのかもしれない…

もし、本当に血が繋がってなかったら、俺の信じてきたこの数十年はすべて嘘だったと言う事になるからだ。

 

「あの人のDNAならここにあるでしょ?あの人と血の繋がった私のDNAを使えば良いんだよ」

 

「君が千冬姉と血の繋がった姉妹だと言う証拠が無い」

 

「本当に疑り深いね、お兄ちゃんは。昔からそうだったもんね」

 

「俺は何も覚えて無い」

 

「そうだよね…あの人の所為でね…」

 

 

如何言う事だ?

両親の所為なら違う表現をするはずだ。

彼女、マドカが『あの人』と表現するのは、俺が間違ってなければ千冬姉だけのはずだ…

 

「如何してお兄ちゃんが昔の事をきれいさっぱり忘れちゃったのか、お兄ちゃんは疑問に思ったことは無い?」

 

「思ったことは無いが、こんなにもきれいさっぱり抜け落ちる事もあるんだなって思ったことはある」

 

 

いくら捨てられたショックからとは言え、両親の顔がまったく思い出せないなんて事はおかしいと、精神科の医者に言われた事があるからだ。

当時は一時的ショックから来るものだと言われてたのだが、何時しか原因不明の記憶喪失だと判断された。

当時の俺は原因を探る気も無かったし、そんな事をしようと思えるほど余裕が無かった。

家事全般に千冬姉に連れられて始めた剣道が忙しかったからだ…主に篠ノ乃に付き纏われてだが…

 

「俺の記憶喪失は仕組まれたものだと言うのか?」

 

「仕組まれたって言うよりは人為的って言った方が分かりやすいかな」

 

「千冬姉がそんな器用な真似が出来るとは思えないんだが…」

 

 

それこそ物理的に記憶喪失を誘発したのなら分かるが、それじゃあ俺にその痕が残っていなきゃ説明がつかない…

 

「世紀の大天災が絡んでるって言ったら?」

 

「待て、俺が小学校に入る前だぞ?その時はまだ千冬姉と束さんは知り合いじゃ無かったはずだが…」

 

「それも嘘。あの人と大天災は私たちが生まれる前からの知り合いだよ」

 

「………」

 

 

言葉が出てこなかった。

何が俺の周りで起こっていたのと言うのだ。

 

「何であの人嫌いがお兄ちゃんの事を一目で気に入ったと思う?」

 

「……昔から知ってたからか…」

 

「そう、記憶を弄った時に、お兄ちゃんは大天災に会ってるんだよ。しかもその時に興味を持たれたんだよ」

 

「だが、あの時の俺の何処に興味を持ったって言うんだ」

 

 

自慢ではないが、記憶にある一番古い俺の能力は、平凡と言うのもおこがましいくらいの駄目駄目だったはずだ。

初めて料理をした時だって、今の虚さんよりも酷い結果だったはずだ。

 

「可能性だよ」

 

「可能性……?」

 

「そう。あの大天災はお兄ちゃんの可能性に興味を持ったんだよ」

 

「いったい何の可能性だって言うんだ!あの時はISだって無かったんだぞ!」

 

「落ち着いてお兄ちゃん。ちゃんと説明するから」

 

「あ、ああすまない…」

 

 

興奮してしまうと相手に掴みかかりそうになってしまう…

ついさっきも山田先生に同じ事をして反省したばっかだと言うのに、俺も学習しないな…

 

「お兄ちゃんは悪く無いよ。その癖も大天災とあの人の所為だから」

 

「何だって?」

 

「お兄ちゃんが過去に興味を持ったら困るからね。ある程度関係のある話になったらお兄ちゃんを興奮させて自己嫌悪に陥るようにしたんだよ」

 

「そんな事が可能なのか……?」

 

「相手はあの大天災、篠ノ乃束だからね。あの人に頼まれたらするんじゃないかな?お兄ちゃんだって何となく分かるでしょ?」

 

「あの人は自分が面白いと思えるなら…するだろうな…」

 

「でしょ?」

 

 

顔は見えないが、今マドカが笑ったように見えた。

 

「なあ、その仮面ははずしてくれないのか?」

 

「お兄ちゃんのためならはずしたいんだけど、ゴメンね。今は無理なんだ」

 

「事情があるのか…」

 

「察しが良くて助かっちゃうね、さっすがお兄ちゃん!」

 

「もしかして……俺を誘拐しようとした組織って…」

 

「それ以上は口にしちゃ駄目!」

 

「!?」

 

「それ以上口にしちゃったら、お兄ちゃんを殺さなきゃいけなくなっちゃうから」

 

「それが答えか……」

 

「私もその組織で浮いてるんだ…」

 

 

俯いた自称妹の頭を撫でる…覚えて無いが、こうすると喜ぶ気がしたからだ。

 

「お兄ちゃん?」

 

「そう悲しそうな顔をするな。いや、顔は見えないんだが、雰囲気が悲しそうだったからな」

 

 

俺は誰に言い訳してるんだ?

 

「ううん!昔みたいに撫でてくれて嬉しいよ!!」

 

「やっぱり…何となくだが、頭を撫でると喜ぶ気がしたんだ」

 

「思い出したの!?」

 

「いや…本当に何となく、そう思ったんだ…」

 

「やっぱり兄妹の愛の前には、科学の力なんて障害にならないんだね!」

 

「……今の発言は、千冬姉の妹を名乗るだけはあるなって思えるよ…」

 

「何それ!?」

 

 

如何やら千冬姉の妹だと言うマドカも、重度のブラコンを患ってるようだ…

 

「あの人と比べられるのは好きじゃ無いな」

 

「姉妹なら仕方ないんじゃ無いのか?俺も散々比べられたが…」

 

「上辺だけのお兄ちゃんを見て馬鹿にしてた奴らでしょ?」

 

「丁度千冬姉がモンド・グロッソで優勝してからそう言う輩が多くなったな」

 

「お兄ちゃんの本当の力を見極められない阿呆共にお兄ちゃんが馬鹿にされてたと思うと、そいつらの事殺したくなるよ……ん?」

 

 

過激な発言をした後、マドカの鞄が震えた気がした。

マドカも気付いたようで、鞄の中から通信機器を取り出した。

 

「何だよオータム!せっかくお兄ちゃんとお話出来たんだから邪魔すんなよ!…え?スコールが呼んでる?……分かった。すぐ戻る」

 

 

さっきまでのかわいらしい話し方とはうって変わって、機嫌の悪いのを隠そうともしない話し方にチョッと驚いた。

 

「ゴメンね、お兄ちゃん。組織の上の人間に呼ばれちゃったから行かなくちゃ」

 

「あ、ああ分かった」

 

「また今度会おうね!」

 

「ああ」

 

「絶対だよ!」

 

 

念を押して自称妹のマドカは俺の前から姿を消した。

あの動き……千冬姉と良い勝負だな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何時まで外を走ってたんだ!」

 

 

学園に戻ると千冬姉に怒られた。

俺が学園を出てから既に1時間が過ぎている。

さすがに時間が掛かりすぎたようで、姉ではなく教師として怒ってるようだ。

 

「すみません……なあ千冬姉?」

 

「学校では織斑先生だ」

 

「教師としての貴女ではなく、俺の家族の貴女に質問があるんですが」

 

「……言ってみろ」

 

 

少し間があったが、如何やら聞いてくれるようだ。

 

「千冬姉と俺以外に兄弟って居るのか?例えば妹とか…」

 

「居ない!私と一夏だけだ!」

 

 

……怪しい…

あまりにも答えるスピードが速すぎる気がする…

もし弟と言っていれば、また違った反応をしたのだろうが、妹と言うフレーズに過剰に反応しているようだ…

 

「それじゃあもう1個……束さんとは本当に高校に入ってから知り合ったのか?」

 

「何故そんな事を聞くんだ?」

 

 

今度は完璧なポーカーフェイスだった。

発言もさっきと違い落ち着いているし、これだけで疑問を解消するには無理があるな…

 

「あの束さんがすぐに千冬姉と仲良くなったってのに今更ながら疑問に思ってな…」

 

 

本当は第三者から言われた事を確認したかったのだが、それを言えば絶対に答えを得る事は出来なくなってしまうから、テキトーな理由をでっち上げた。

 

「私と束は高校からの付き合いだ。一夏だって知ってるだろ?」

 

「昔の事を覚えて無い俺には、そう言いきれる自信は無い」

 

 

そもそも覚えてたらこんな事聞かないだろ……

 

「そうか…そうだったな…」

 

 

千冬姉は顔を逸らし、何か考えてるような仕草をした。

昔っから千冬姉が何か考える時は、決まって目線を下にして、左手で髪の毛を弄る…

いったい何を考えてるのだろうか?

もし本当に読心術が使えたのなら、俺の疑問は解決したのかもしれないな…

 

「正確には高校受験の時に会ってるかもしれないが、付き合いが出来たのは間違いなく高校からだ」

 

「そうか……」

 

 

今の言葉に嘘があるのか、それとも真実なのか…

ついさっきまで実の姉だと思ってた相手の言葉を疑うのは、何か悲しい気持ちになる……

明らかな嘘なら日常茶飯事だったが、すべての言葉を疑ってしまうようになったのは、間違い無く彼女、織斑マドカの所為だろうな…

 

「悪かったな、色々聞いて…」

 

「まあ気にするな。私とお前は姉弟だからな」

 

「そうだな…」

 

 

何故かその言葉に白々しさを覚えた。

何故姉弟と言ったのだろうか?

何故姉弟を強調して言ったのか?

疑問を上げればきっときりが無いだろうから、俺はこの場で疑問を口に出す事はしなかった。

 

「それじゃあ一夏、後でアリーナでな」

 

「ああ」

 

 

それだけ言って千冬姉は寮長室へ、俺は自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故一夏があの事を聞いてきたんだ?」

 

 

一夏が居なくなった場所で、千冬のつぶやきが風にかき消された………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん……」

 

 

2日続けて良い匂いで目を覚ます。

目覚めた場所は一夏君のベッド、最高の目覚めだ。

 

「おはようございます、お嬢様」

 

「虚ちゃん、おはよ~」

 

 

私と同じように、一夏君のベッドで寝ていて、先に起きていた虚ちゃんと挨拶を交わす。

他の子はまだ寝てるみたいね。

 

「今日は連携訓練ね」

 

「そうですね。私たち全員連携訓練のみ、受けてませんからね」

 

「他の生徒が居ると気まずい雰囲気になっちゃうからね~」

 

「それは一夏さんが居るからですか?それとも生徒会長だからですか?」

 

「う~ん……両方かな?」

 

 

一昨日昨日と連携訓練を受けたのは私たち以外のはずだから、今日は思いっきり訓練に取り込めるはずだ。

 

「私が生徒会長だって知ってる子は、1年の中には少ないけど、知ってる子も居るからね~」

 

「不真面目な生徒会長として有名ですものね」

 

「何でよ!?」

 

「全校集会などの生徒会挨拶は私や一夏さんに任せてお嬢様は生徒会室でくつろいでいらっしゃるじゃないですか」

 

「だって面倒なんだも~ん!」

 

「2学期からはしっかりしてくださいね」

 

「は~い」

 

「本当に大丈夫なのでしょうか…」

 

 

虚ちゃんが首を傾げながらつぶやいたが、私だってやれば出来るんですからね!

 

「おっと!」

 

「ん?」

 

 

キッチンから一夏君の声が聞こえた。

いつもなら調理中に言葉を発さない一夏君が、珍しく声を出した。

 

「如何したのかしら?」

 

「珍しいですよね…」

 

 

虚ちゃんも同じ事を思ったのだろう。

私たちと一緒に調理する時はおしゃべりしながら調理してるけど、一夏君一人の時は完全に無言状態だ。

私や本音みたいに何かにつけて声を出しながら調理するタイプでは無い。

 

「見てくる!」

 

「あっ!お嬢様……もう!」

 

 

好奇心を抑えきれなくなり、慌ててキッチンに向かう。

虚ちゃんもなんだかんだ言って興味があったのだろう、私の後についてきている。

 

「一夏君、如何かしたの?」

 

「一夏さん、平気ですか?」

 

「え?……ああ、スミマセン。特に問題は無いですよ」

 

「「?」」

 

 

一瞬間があったような気が……

何か考え事でもあるのだろうか?

まあ、教官でもある一夏君だから、この後の訓練内容やその他にも考える事に事欠かないのかもしれないが、調理中に考え込むほど切迫してる事があるのだろうか?

 

「本当に平気なの?」

 

「一夏さんが調理中に考え事とは珍しいですね」

 

「まあ、色々とありまして……でも、平気ですのでもう少し寝てて良いですよ」

 

「そう…?」

 

「一夏さんが平気と言うのなら……」

 

 

私も虚ちゃんも腑に落ちなかったが、一夏君が平気と言うのならそうなのだろう。

これ以上此処に止まって一夏君に不審がられても嫌だったので私たちは大人しくキッチンから移動する事にした。

一夏君の言う色々って何かしら?

 

「ねえ虚ちゃん、一夏君の悩み事って想像出来る?」

 

「一夏さんの…ですか?……チョッと難しいですね」

 

「そっか……」

 

 

私よりも一夏君と一緒に居る時間の長い虚ちゃんでも難しいなら、きっと私には無理だろうな…

それにしても……

 

「何ですか?」

 

「いや…考えてみると、虚ちゃんが一番一夏君と一緒の時間が多い気がして…」

 

「お嬢様や本音がしっかりと自分の仕事をこなしてくれればそんな事にはならなかったと思いますが?」

 

「さってと、もう少し横になってよ~っと!」

 

「誤魔化しても無駄ですよ!と言うか誤魔化しきれてませんからね!」

 

 

虚ちゃんを問い詰めようとしたらヤブヘビだった……

虚ちゃんはヘビで止まってるけど、一夏君の場合だと鬼の時があるから怖いのよね~…

 

「う~ん…お姉ちゃん、五月蝿い……」

 

「あっ!簪ちゃん、おっはよ~!」

 

「簪お嬢様、おはようございます」

 

「うん……これは!」

 

 

まだ眠そうな簪ちゃんだったが、一夏君の料理の匂いを嗅いだ途端に目が覚めたようだ。

やっぱり一夏君の料理は偉大ね……

 

「一夏が朝食を作ってるの?」

 

「簪ちゃんが匂いで分かったように、今一夏君は調理中よ」

 

「そっか、今日は一夏は居るんだね」

 

「さすがに2日続けては居なくならないわよ」

 

「でも、一夏さんは色々ありますからね…」

 

「虚ちゃん?」

 

「何時一夏さんの所属が決まるかも分からない状況ですし、決まったら決まったでまた色々有るでしょうし、一夏さんが考える事なんて私たちには分かりませんよ…」

 

 

一夏君が悩んでたのは、きっとその事じゃ無いと思う。

今更そんな事で悩む一夏君じゃ無いし、決まっても一夏君なら気にせずに今の暮らしを続けるだろう…

 

「一夏が大変なのは所属が決ってない所為だけじゃ無いよね?」

 

「そうですね…お嬢様や本音が仕事を一夏さんに押し付けてる所為でもありますしね」

 

「何でまたその話になるの!?」

 

 

一夏君の所在確認から、何で仕事の話になっちゃうのよ!?

でも、一夏君はきっと私たちの傍から居なくなったりはしない、これは言いきれる自信がある!

 

「ところで……」

 

「何?」

 

「何ですか?」

 

「これだけ騒いでも、本音が起きてないんだけど?」

 

「「………」」

 

 

毎度おなじみの本音の寝起きの悪さ、これは一夏君相手に訓練するくらい厄介な事だ…

 

「昨日一夏君の番だったけど居なかったのよね…」

 

「それなら一夏に頼めば良いのか…」

 

「ですが、一夏さんにこれ以上迷惑掛けるのは…」

 

 

本音を起こすのは非常に面倒くさいのだ。

高校生にもなって自分1人で起きられないのは如何なのだろうか……

放っておいても良いのだろうが、そうすると何時までも寝てる気がしてならない…

きっと簪ちゃんや虚ちゃんも同じ事を思ってるからこそ、本音を起こす苦労をしているのだろう。

 

「出来ましたよ……何だ、本音はまだ寝てるのか…」

 

「本音がこんな時間に起きる訳ないじゃん…」

 

「簪ちゃんの言う通りね…」

 

「妹が何時もスミマセン…」

 

「ほら、本音!起きないと置いてくぞ」

 

「何処か行くの!?」

 

「あっ、起きた……」

 

「さすが一夏君……」

 

「本音を起こすのは一夏さんが一番慣れてますね……」

 

「はえ?」

 

 

一夏君の技術に関心する私たちと、間の抜けた声を上げる本音。

そのメンバーを黙って見てる一夏君と須佐乃男……

 

「須佐乃男、居たの!?」

 

「最初から居ましたよ」

 

「ゴメン、忘れてた……」

 

「私も……」

 

「須佐乃男は影薄いな~」

 

「本音!」

 

 

多分言ってはいけない事をさらっと言い放った…

 

「良かったな、ISにとっては褒め言葉だろ?」

 

「でも、複雑な心境です……」

 

「まあ、普通なら褒め言葉じゃ無いからな」

 

「ですよね……」

 

 

一夏君の微妙なフォロー(?)も意味無く、須佐乃男はへこたれた…

やっぱり影が薄いって言われたら傷つくわよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝から色々あったが、俺にはまだこの空間があるじゃないか。

例え千冬姉と過ごしてきた時間が偽りであったとしても、このメンバーで過ごしてきた時間は間違えなく本物だと思える。

いきなり現れた自称妹の所為で色々悩んでいたが、この空間が有る限りは平気だと思える。

あやふやな家族よりも、このメンバーは俺にとって大事な存在なのだろう。

 

「一夏君、如何したの?」

 

「何でも無いですよ。それじゃあ、本音も起きた事ですし朝食にしましょう」

 

 

今はこの空間だけを頼りに生きていこう。

もしこの空間を壊そうとするものが現れたら、例えそれが家族だったとしても、俺は絶対に容赦しない……




次回最終日の訓練。
まだまだ波乱の予感が……

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