ちなみに満を持してあのキャラが登場します。
何かやな感じがする。
ここ最近、俺は何かとてつもない問題を忘れているような気がしていた。
「(いったい、何を忘れているんだ?)」
思い出そうにも思い出せない。これがとても気持ちが悪い。
一人で唸りながら、俺は布仏姉妹との約束である訓練のために移動していた。
「一夏さん、何か問題でもありましたか?」
顔を合わせるなり、虚さんに指摘された。
よっぽど顔に出ていたのだろう。
虚さんだけではなく、本音にまで、
「おりむ~がむずかしい顔してる~。」
などといわれてしまった。
とくに問題があったわけではない。ただ何か凄くやな感じがするだけなのだ。
こんなことを言って余計な不安を持たせたくないので、俺は適当にごまかして訓練を始めることにした。
まずは、ISを使わないで組み手をした。
これは、IS搭乗データだけではなく、生身の戦闘データも欲しいと束さんに言われたから、そのデータ集めも兼ねていた。しかし、本来の身体で出来ないものをISを纏ってやるのは無理があると俺は思ったので、生身の戦闘訓練も行っている。
先日束さんから再び電話がかかってきて、二人のデータをそのときに送った。
その時束さんは・・・
「これ、なんてよむの~?分からないから布でいいや。」
などといっていた。
相変わらず他人に興味を持たない女性だ。
専用機を作るのに、その人のデータは必須だと束さんは言っていた。
それならば、一回しかISに乗ったことの無い俺の専用機はいったいどんなものになるんだ?あの人のことだ、とてつもなく酷いことになるかもしれない。
例の悪い予感の前は、このことで頭を悩ませていたのだ。
「(それにしても、二人とも筋がいい。)」
今も時間を見つけては、俺との訓練をしている更識姉妹と比べてもこの二人は見劣りしない。
今までどこの国の候補生にもなれなかったのが不思議なぐらいの素質だ。
すでに国家代表の刀奈さんや代表候補生である簪と今度模擬戦でもさせてみよう…そう悪い結果にはならないだろうと考えていると、背筋に凄まじい怖気が走った。
なんだこれは、今までに感じたことの無い感覚に俺は若干の動揺をかくせない。
今この平和なひと時にいったい何を怯える必要があるのか、俺はその原因を頭の中で必死に探した。
そして・・・・・・
「・・・・・・・・・あっ」
思い出した。
今日はあの人が帰ってくる日だった。
記憶の奥深くに封印していた、思い出したくも無い人。
その人が帰ってくる。この事実に俺は無意識に恐怖を感じていたのか。
ようやく原因が分かったが、出来れば分かりたくなかった事実ってものがあるのなら、まさにこれこそがそれだと言えるだろう。
俺はそう考えた・・・・・・現実逃避ぎみに。
私は今、とある場所へと向かっている。
ついこないだまでドイツで小娘たちに指導していたのだが、ようやく解放された。
解放されたが、「送別会」と称して一日拘束された。
慕ってくれるのはありがたいが、私は一刻も早く日本に帰りたかったのだ。
日本に着いて、つい浮かれてしまったのか、私はゲートを通ってすぐ、
「一夏、私はかえってきたぞーーーーーーーーーッ!」
と叫んだ。
そのせいで不審者と間違われて拘留されてしまったのだ。
何をしているんだ、私は・・・。
俺の元に一本の電話がかかってきた。
空港警察からで、どうやら不審者として捕まえたのが俺の姉だと言う・・・まったく何してるんだ
俺は更識の人に伝え、
拘留されて数時間が経った。
どうやら
「(一夏が迎えに来てくれる!)」
私は浮かれていた・・・・・・あと数分で
「どうもご迷惑をおかけしました。」
空港警察本部に着いて、俺は真っ先にお詫びをした。
いくら縁を切りたくても、あの人は紛れも無い俺の家族なのだ。
俺の態度に空港警察の人も、笑顔で対応してくれた。
まさか捕まえた不審者が
電話をかけてきたときの慌てようは、そうに違いない。
奥から姉が出てきた。
俺の顔を見るなり凄まじいスピードでこちらに抱きついてきた・・・が、
「ふんっ!」
俺は一発姉にくらわした。
驚いた顔の姉と、動揺を隠せてない警察の方々を尻目に俺は「失礼します」とだけ言いこの場所から移動を始めた。本来俺は迎えになど行く気はなかったのだ。
慌てて俺の後に姉がついて来る。
いくら時間が経ってもこの姉は変わらないのだろう。
会うなり一発殴られはしたが、私は
タクシーに行き先を告げてから、一夏はずっと無言だ。
何を考えているのか気にはなったが・・・
「(やはり一夏はカッコいいな!)」
そのことで私は済ましたのだ。
だってそのことだけで私は満足なんだから・・・。
約二年ぶりの実家だ。
一夏が手入れをしていたのだろう、そこまで痛んだ感じがしてない。
やっぱ一夏は抜かりが無いな、隅まで綺麗だ。
「さて千冬姉・・・説教タイムだ・・・」
家についていきなりの説教タイム・・・なぜだ。
一通り説教が済み、俺は夕食の買い物に出かけることにした・・・燃え尽きている姉を置いていって。
近所のスーパーに向かう途中悪友に出会った。
「よぉ、一夏じゃねえか、珍しいな最近はこのあたりで会わなかったのに。」
彼は五反田弾──中学に入ってから出会い、気が合って、つるむようになった悪友だ。
周りからは親友だと言われるが、断固として否定している・・・だって恥ずかしいだろ。
「ああ、姉がドイツから帰ってきたから今週は実家に戻ることになったんだ。」
「へぇ~千冬さん戻ってきたのか。あっという間にあの事件から時間が経ったんだな。」
弾は事件のことを知っている。
勿論
その点に関しては、正直に親友といえる。
「おにぃ、いったいどこに・・・い、一夏さん!?」
後ろから声が聞こえてきた。
おにぃと呼んでいるのを聞くと、妹の蘭だろう。
「おお、蘭。いや~悪い、一夏と偶然あってな。」
「久しぶりだな、蘭。」
弾が事情を説明し、俺が挨拶をする。
とたんに蘭はおしとやかモードへと移行する。
態度から分かるように、蘭は俺に気があるようだ・・・。
「おひさしぶりです、一夏さん。お元気ですか?」
「ああ、元気だよ。蘭も元気そうだな。」
今の蘭の笑顔は最高に眩しい。
この笑顔を他の男に向ければあっという間に彼氏が作れるだろうに・・・。
「おい蘭、そろそろ・・・」
「おにぃは黙ってて。」
「・・・はい。」
この兄妹の力関係は見ての通り、妹の方が強い。
兄と言うのは妹には勝てないのだろうか・・・。
「はっ、何でもないですよ一夏さん。」
取り繕ったところですでにお前の猫かぶりは知ってるぞ、蘭よ。
ともかく五反田兄妹と別れ、目的地のスーパーに到着した。
今日は何を作ろうか考えながらスーパーをまわる。
卵が安いな。ネギも安いから、ひき肉を買ってオムレツでも作るか。
俺は頭の中で献立を決め、つけ合わせのキャベツとサラダ用の野菜を買う。
あとは、スープでも作るか。
残った卵とネギ、あとはコンソメを買ってコンソメ卵スープにしよう。
今日の買い物はこんなものか・・・おっと、明日の朝食用の具材を買っておかなければ。
俺は必要なものをかごに入れ会計をするためにレジに向かう。
「あら、一夏君じゃない。久しぶりね、元気だったかい?」
レジのおばちゃんは顔見知りだった。
約二年前まで毎日来ていたのだが最近はこっちには掃除にしか帰って来ていない。
だからおばちゃんとは実に二年ぶりくらいの会話だ。
「お久しぶりです。色々ありまして来れなかったんですけど、今週は実家に帰ってきたんで、また明日も来ますよ。」
「そうかい、皆一夏君に会えなくなってさみしかったんだよ。なるべく顔を見せてあげてね。」
どうやら俺はスーパーの人気者だったらしい。
確かに色々と話したり、家の事情を知っている人からは差し入れなどもしてもらったこともある。
恋愛感情ではない好意を向けられていたのは知っていたが、そこまで思ってくれているなんて・・・。
俺はこの町の人たちに愛されていることを認識した。
私が正気に戻ったのは、台所からいいにおいがしてきたからだ。
「(いつの間に買い物に・・・お姉ちゃんも一緒にいきたかったぞ。)」
相変わらずのブラコンぶりだが、説教からすでに二時間近く経っているのだ。
そこまで一夏の説教が心に与えたダメージは大きかった。
しかし、正気にもどった千冬はすることがないことに気がついた。
家事一切を一夏にまかせ、自分はバイトやISの訓練などに明け暮れてきたのだ。
台所にいったところで、戦力どころが邪魔にしかならない。そのことを自覚している千冬は一夏のそばに行きたいがまた怒られるかもしれない行動をとれなかった。
「千冬姉、気がついたなら風呂入ってきなよ、沸いてるから。」
相変わらず気がまわる。一夏に感心しながら私は風呂場に向かった。
ドイツにいたときはゆっくりと風呂なんて入れなかったからゆっくりと入るとしよう。
私はすこしウキウキしながら居間から出て行った。
「ふぅ~~温まるな~。」
一夏が準備してくれた風呂に入りながら私は、久しぶりに会った弟のことを考えていた。
「(一年半会わなかっただけで、ずいぶん大人っぽくなったな。)」
タクシーの中でも思ったが、一段とカッコよくなったと思う。
姉である私ですらこう思うのだ。今、一夏が生活している更識家の中にも一夏の事が好きなやつがいてもおかしくない。
もし、そんなやつがいるなら・・・・・・どうしてくれようか?
この世の果てまで追い掛け回し、生きていることが苦痛になるまで痛めつけてやろうか。
考えるだけで心が躍るな。
「(うふふふふ・・・・・・)」
心の中で笑いながら、まだ見ぬ
「千冬姉、ずいぶんと楽しそうだな。」
風呂から出てきた姉はやけに楽しそうだった。
「そうか?ちょっと考え事をしていてな。」
考え事か。また余計なことをしなければいいが・・・。
とりあえず俺は出来たばかりの夕食をテーブルに運んだ。
「「いただきます。」」
手を合わせ声を合わせて食事を始める。
感謝の気持ちを忘れずに──これは我が家の決まりごとだ。
食事中に会話は無い。
姉も俺も食事中のスタイルはこうだ。
楽しい食卓など我が家では夢幻だと思っている。
見ると千冬姉の茶碗が空だった。
「千冬姉、おかわりは?」
箸を止め千冬姉に聞く。
「ああ、もらおうか。」
俺の問いかけに同じように箸を止め答える千冬姉。
普段夕食は多く食べない俺たちだが、今日は食べるようだ。
俺は茶碗半分だけご飯をよそい、千冬姉に渡す。
うなずき茶碗を受け取った千冬姉は笑顔でご飯を食べている。
なにがそんなに楽しいんだ?
「「ご馳走様でした。」」
再び手と声を合わせ食事を終える。
俺は食後のお茶を淹れ、食器を洗うために台所にいく。
「ところで一夏、明日更識の家に挨拶に行きたいのだが、お前はどうする?」
千冬姉がそういってきた。
洗い物をしながら質問への答えを返す。
「俺もいくよ。荷物ほとんどあっちにあるから取りに行きたいし。」
ほぼ終わりの学校の荷物や着替えなどを持ってきたいし、明日は刀奈さんや簪との訓練もあるのだ。
だから俺も同行する旨を千冬姉に伝える。
その返事を受けると、
「ああ、分かった。」
と答えてきた。
洗い物に集中しようとしたら、
「うふふ・・・一夏とお出かけ・・・じゅるり」
などといったものが聞こえてきた。
大丈夫なのか?あの姉は・・・。
翌日、俺たちは朝食を済ませて更識家に向かった。
タクシーの中で千冬姉が、
「一夏、更識家での生活はどうだ?」
などと聞いてきた。
その会話は今ここでする会話か?
昨日聞けよまったく。
「特に問題はない。いたって普通だ。」
俺は無難な返事を返し、目を瞑った。
座りながら考え事をするときの俺のスタイルだ。
そのことを知っている姉はそれ以降声をかけてくることはなかった。
更識家に到着した俺たちはひとまず大広間に向かった。
俺が昨日連絡しておいたので当主である刀奈さんや他の人も大広間にいる。
「ただいま戻りました。」
普段からこの屋敷で生活している俺はそう挨拶をしてそれ以降だまっていた。
今回は姉が挨拶にきたのであって俺がメインではない。
「いままで弟が世話になったな。」
刀奈さんが年下なので、ずいぶんと崩した話し方だった。
だが・・・
「お世話になっている相手になんて話し方だ。」
俺の鉄拳が姉に炸裂する。
殴られた姉は勿論、刀奈さんや虚さんまでも驚いている。
「痛いぞ、一夏……。」
当たり前だ。痛いように殴っているのだから痛くなきゃおかしい。
「ともかく、一夏のことはこれからは私が面倒みるため護衛は今日までで結構だ。」
いきなり何を言い出すんだ、この姉は。
俺は貴女と一緒に生活するつもりは更々ない。
何故かって?それは当然この姉が面倒くさいからだ。
家族愛はすばらしいものだが、行き過ぎると面倒くさいしうっとうしい。
そのことをこの姉は分かっていないらしい。
はっきりと言ってやらないとわからないのか?なら言ってやる。
「俺は今まで通り更識家に世話になるつもりだ。」
「な、何故だ一夏。お姉ちゃんが帰ってきたんだから、一緒に暮らすのが普通だろう。」
「一週間は実家で暮らす。そっちの方が学校が近いからな。だがそれ以降は更識家で生活する。千冬姉も職場探しやそのほかのこともあるだろうし、こっちの方が安全だろ。」
「大丈夫だ、お前のことなら他のことなど問題ない。」
「俺にも予定があるんだ。そっちの都合で話を進めようとするなまったく。」
「・・・・・・・・・・・」
ついに黙り込んだ。
なら決定打を決めてやろう。
「刀奈さん、そろそろ訓練の時間ですし移動しましょう。」
「えっ、いいの、一夏君?お姉さんのこと放っておいて。」
「一夏、私よりそいつのことが優先なのか?」
なにを言ってるんだ、
「当たり前だ。」
そう言い放ち、姉にとどめを刺す。
「千冬姉には感謝しているが、正直最近うっとうしいんだよ。過保護すぎで暑苦しい。」
絶句している姉に更なる言葉をかける。
「それから、束さんが俺の専用機を作ってくれるみたいだからまた騒動になるだろう。だから更識家にいた方が俺は安全だ。それに・・・」
俺は言葉を切る。
絶句していた姉がそのことを不審に思いたずねてきた。
「それになんだ、一夏。」
自らそのことを聞いたんだ、後悔するなよ。
「俺のことを好きでいてくれている人たちのそばの方が俺は良い。」
俺の放った爆弾は見事に爆発をした。
この場にいた全員に・・・。
「い、一夏君恥ずかしいよ。」
「一夏、恥ずかしい。でもうれしいかな?」
「一夏さん・・・うれしいです。」
「お~おりむ~、やっぱり一緒がいいよね~。」
「な、一夏!?お姉ちゃんよりこいつらの方が好きなのか!?」
それぞれの反応を楽しみながら俺の答えは姉に対してのみ・・・
「ああ、俺は楯無さんや簪、虚さんや本音達が好きだ。だが付き合ってるわけではないから安心しろ。」
前に言ったとおり俺は今現在誰かと付き合うつもりは無い。
だが四人ともそれでも良いといってくれたのだ。
だから俺はなるべく彼女達と一緒にいたい。
それが今の俺の・・・偽りの無い本心だ。
暫くうつむいていた千冬姉だが急に震えだし・・・
「私の一夏が、私の一夏がいなくなってしまったーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
俺は貴女のモノになった覚えはないぞ。
「貴様ら、覚悟しろ!貴様らを倒し一夏を取り戻す!」
何を言ってるんだ、この姉は・・・。
「おちつけ!」
再び鉄拳が火を噴く。
おちつかせた上で訓練に向かう俺の背後で・・・
「でも一夏は私の弟だ、私は諦めないぞ。一夏ーーーーーーーーーーーーーー!」
などと言っていた。
本当に大丈夫かこの姉?
まったくこの姉は何時も暴走するな。
俺のためなんて言ってくれるのは嬉しいが少しは落ち着いてくれよ。
嵐はもうこりごりだ。
しかし数日後再び嵐が起こるのである。
そのことをなんとなく予感しながら、俺は俺を好きでいてくれる女性達と訓練を始めた。
更識 天様のご指摘で思い出した蘭を登場させました。
ちなみにとっくに落ちていました。
いや~千冬さんの残念っぷり難しいですね~。
本当は最後の方で一暴れさせようとも考えたんですが、一夏に沈められて終わりなのでやめました。
次回も千冬さんの残念っぷり炸裂の回にしようと思います。
束さんもでるよ~。
p.s.
ironmonfk様
誤字報告感謝です。
すみません・・・・・
boon様
ガトーって何かのキャラですか?
知らずにパくったみたいです。
A.K様
こんな感じになりました。
まだまだ千冬さんには活躍してもらうつもりです。
竜羽様
前にも書きましたが楯無はすでにロシア代表です。
あらためて書いておきましたので企業代表には布仏姉妹を採用したしだいです。
伊丹様
気がつくのが遅くて申し訳ありません。
修正しました。
他の方々も付き合ってくれて本当にありがとうございます。
これからも暖かい目で付き合ってくれると幸いです。