休憩も終わりアリーナに戻ってきたのだが、
「セシリア、シャル、篠ノ乃、その頭は如何したんだ?」
3人の頭には大小違いはあるがコブが出来ている。
千冬姉が何かしたとか言ってたが関係してるのだろうか。
「その3人は教官に殴られたのです、兄上」
「なるほど。物理的に天誅を下したって事か」
大方拳骨でも振り下ろしたのだろうが、何故3人とも二個ずつコブがあるんだ?
「訓練には支障は無いな?」
「え、ええ平気ですわ」
「痛いけどね」
「訓練自体には影響しない」
「ならこれ以上は聞かん」
聞いたところで俺まで殴りたくなったら困るからな。
「さて、午後の訓練内容だが、近接戦闘の方で確保してある打鉄を二機借りられるようなので、こっちの二機とあわせて計四機ある。そこで二組ずつで模擬戦をしてもらう。もちろん連携を心掛けた戦闘をするように」
「でも私たちは不利だよね」
「そうそう、私たちは訓練機同士のペアだし」
相川さんと鏡さんが文句を言う。
確かにこの二人以外のペアには専用機持ちが居るから文句も言いたくなるだろう。
「それなら大丈夫だ。俺かナターシャ先生のどちらかとペアを組んでもらうから」
「それって前衛をやれって事?」
「やりたいなら後衛でも良いが、動きに合わせられるのか?」
「大人しく前衛をやりまーす…」
「私たちの射撃技術じゃ織斑君とナターシャ先生の邪魔になっちゃうもんね」
別にそんな事を気にする必要は無いのだが。
こっちがよければ問題無いのだが、それは言ってもしょうがない事なので言わない。
「さて、相川さんと鏡さんがどっちと組みたいか決まったら訓練を開始する」
「その他のペアは準備しておいてね」
「ちなみに、あまったペアは開始と終了の合図を出してもらう」
「でも、終わりは一緒にはならないよね?」
「二人が決まったらその後でまた3組ずつに分けるから心配するな」
「あっ、そうなんだ…」
シャルの疑問に答え、俺は相川さんと鏡さんの方を向く。
「決まったか?」
「え!?いや、まだ……」
「難しい問題だからね……」
そんなに難しい事か?
どっちを選んでも大差無いと思うんだが……
「決められないならコッチで勝手に決めるが…」
「駄目!それは絶対に駄目!!」
「もう少しで決まるから!」
「そ、そうか…なら待つけど…」
凄い勢いで俺の案を却下して再び話し合う相川さんと鏡さん。
そんなにどっちかとペアを組みたく無いのだろうか?
もしかして俺と組みたく無いのか?
「一夏君、私と一夏君は違うグループにしなきゃ駄目だよね?」
「え?……そうですね…訓練の枠に収まるか微妙になりますからね」
「今度模擬戦しようね?」
「ナターシャさんとですか?この前したじゃないですか」
「この間の一夏君は本気じゃ無かったでしょ?今度は本気の一夏君と戦ってみたいの」
「本気って…また動けなくなるのは御免ですよ」
自分の本気を覚えていないので、自分がどれだけ無茶な動きをするのか分からないのだ。
それでまた色々やられたらたまったもんじゃない!
「あの一夏君の動きは誰にも真似出来ないだろうしね」
「いったい俺は何をした……」
「決まった!私が織斑君とペアだよ!!」
「私がナターシャ先生とです……」
「鏡さん?如何かしたのか」
何故か元気が無くなってる鏡さんの顔を覗き込む。
体調が悪いのなら無理はさせられないからな。
「だ、大丈夫だよ!///」
「そうか?顔赤いけど……熱は無いみたいだな」
額に手をやり熱を測る。
若干熱い気もするが、まあ平熱の範疇だろうな。
「あ、あわ、あわわわわ」
「ん?」
「鏡さん!?平気!?!」
手を離したら今度は口に出して慌てだした。
いったい何があった?
「へ、平気です!大丈夫です!!問題ありません!!!」
「そ、そう?」
「ええ!もうばっちりです!!」
「???」
今、自分の頭の上にクエスチョンマークが3つ浮かんでるのが分かる。
鏡さんの変化についていけてないのだ。
「さあ織斑君!さっさとグループ分けしましょ!!」
「えらくやる気なのは良いが、鏡さんはナターシャ先生とペアだろ?」
「あっ!そうだった……」
「大丈夫か?」
さっきから情緒不安定な気がするんだが……
本当に大丈夫なのだろうか、この娘は。
「グループ分けだけど、私と一夏君のペアは別々になるからね」
「後は好きに分かれろ。不純な動機の場合は織斑先生並の拳骨を喰らわせるからなー」
俺の宣言で3人が肩をビクつかせた。
さっきの衝撃を思い出したのだろうか。
「アタシは一夏と戦いたくないんだけど」
「なら今回はナターシャ先生の方だな」
「決まり!一夏、これって早いもの順?」
「あまりにも遅かったペアに対してはそうするが、5分以内ならジャンケンか話し合いで決めてもらうつもりだ」
「5分!?そんなに早く決まらないよ!」
「私たちも早く決めなくては!」
「私は兄上と戦いたいぞ!」
「じゃあ私たちは織斑君のグループね」
「静寂!良いのか?」
「さっきの借りも返したいからね」
「借り?」
何か鷹月さんに貸したっけ?
考えても答えは見つからなかった。
う~む……鷹月さんは何に対して借りだと言ってるのだろうか?
「じゃあ僕も一夏のグループにする!」
「私も一夏さんのグループにしたいですわ!」
「3組がコッチを希望か……それじゃあ鈴のペアは決まりだな」
「そうね。私の方は後は誰のペアが来るのかしら、楽しみね」
「ナターシャ先生、その笑顔は少し怖いですよ」
「だって午前中は見てるだけだったし、フラストレーションも溜まるわよ」
「教師なんですから少しは我慢してくださいよ」
「だから我慢してたでしょ!?」
俺が言いたかったのはこの後もって事だったんだが……
俺同様途中からやる気が感じられなかったナターシャさんだったが……そうか、フラストレーションが溜まってたのか……
「各ペアの専用機持ちでジャンケンをしろ。負けた1組はナターシャ先生のグループに移動してもらう」
「私は絶対に兄上のグループが良いぞ!!」
「僕だって!!」
「負けませんわ!!」
3人が火花を散らしてにらみ合う。
その表情は真剣そのものだった。
これくらい真剣に訓練にも取り組んでほしいものだ。
「「「じゃんけん………ぽん!!!」」」
声を揃えてジャンケンをする3人。
息ピッタリだな……
「よし!勝ちました、兄上!!」
「そうか、良かったな」
「はい!!」
ラウラがピョンピョンと周りで跳ね回るので頭をポンッと叩く。
これで大人しくなるだろう……
「さあ!セシリア、決着とつけようか!!」
「望むところですわ!!」
「お前たちは何を争ってるんだ……」
高々グループ分けで此処まで熱くなるのも珍しい。
「「じゃんけん………ぽん!!!」」
そしてその決着のつけ方はジャンケンなんだよな……
「やった!僕の勝ちだね!!」
「クッ、何たる事でしょう。この私が負けるなんて……」
「セシリアのペアがナターシャ先生のグループか」
「決まりね!それじゃあ一夏君、2組と戦えば良いのよね?」
「しっかりと連携を意識してですよ」
ナターシャさんがやり過ぎないように釘を刺しておく。
フラストレーションがどれくらい溜まってるのかは知らないが、精々やり過ぎないように気をつけてもらいたいものだな……
「さあ!最初は誰が相手なのかしら?」
「ナターシャ先生、何でそんなにやる気なのですか?」
「皆の実力をこの身で体感出来るのが楽しみでね」
「そうなんですか?」
「ええ!午前中は一夏君だけが皆と戦ったでしょ?だからすっごく楽しみなの!」
「テンションの高い先生ね……」
一夏と戦いたくないからコッチのグループにしたけど、この先生も何か嫌ね……
銀の福音の操縦者にして一夏とまともにやり合える数少ない人間の一人。
噂では教員相手の一夏は、アタシたち相手よりも力を抑えてないようだ。
一夏相手に瞬殺される事は無いにしても、やっぱり一夏にダメージを与える事は出来ていないらしいが、それでも善戦してるだけで凄いと思えるのだ。
「凰さんと篠ノ乃さんのペアが最初でも良いわよ?」
「そうですわ!鈴さんと箒さんは望んでコッチのグループに来たのですから、お先にどうぞ」
「む!それってオルコットさんは私が嫌いって事なの?」
「そんな事言ってませんわ!」
「それじゃあ望んだとか望んでないとか関係無く行きましょう」
「如何するのですか?」
「公平にジャンケンで決めましょう!」
「またジャンケンですの!?」
「アンタもテンション高いわね……」
もしかしてグループ決め失敗した?
一夏と一緒ならこんな面倒くさい事にはならなかった気がする……
「それじゃあ最初はラウラ・鷹月さんペア対シャル・谷本さんペアで試合をしてくれ。くれぐれも連携を忘れないように」
「任せてください!兄上の期待を裏切らない連携を見せて差し上げます!!」
「あんまり気負い過ぎるなよ」
「はい!」
……大丈夫なのか?
気合を入れるのは良いが、空回りしなきゃ良いんだがな。
「僕だって一夏相手じゃなきゃさっきよりマシな連携を見せれるからね!」
「何を張り合ってるんだ?」
「織斑君に良いとこ見せたいんだよ」
「そんなものなのか?」
谷本さんがこっそりと耳打ちしてくれたが、イマイチ納得出来ない。
ラウラは何時もの事だが、シャルはまた不純な動機な気がする。
「なあシャル」
「何、一夏」
「シャルが気合入ってる理由は何だ?」
「何って、この模擬戦に勝ちたいからだよ!」
「模擬戦って言っても訓練の一環だぞ?そこまで気合入れる必要な無いんじゃ……」
「一夏にあっさり負けちゃったから、ラウラには勝ちたいんだよ!」
「そ、そうか……」
あっさりって、鈴たちの訓練内容のほうがあっさりだったぞ。
「それじゃあ準備が出来次第合図を出すからな」
「分かりました!」
「分かった!」
「「うん!」」
さて、専用機持ちが如何作戦を立てるか楽しみにさせてもらおう。
この訓練で見たいのは連携と作戦立案だからな。
「静寂は癒子を相手してくれ。シャルロットは私が引き受ける」
「でもそれって織斑君が見たい連携なのかな?」
「む?確かに兄上が見たい連携では無いかもしれない。だが、分散も立派な連携だ!」
「なるほど…さすがドイツ軍の隊長ね」
「冗談を言える余裕があるなら平気だな!では静寂、癒子は任すからな」
「うん!任された」
見ていてください兄上!
貴方の妹はしっかりと連携を取ってみせます!!
「じゃあ谷本さんは鷹月さんを引きつけて。それを僕が背後から撃ち落すから」
「でもデュノアさん、それって連携じゃなくて不意打ちだよね」
「二人で不意を突けばそれは連携だよ!」
「そう…なのかな?」
「一夏だって連携を見るって言ってたんだがら大丈夫だって!」
「う~ん……」
「ほら!そろそろ始まるよ!!」
絶対にラウラには負けない。
一夏に頭撫でられるなんて羨ましい!
「っとまあこんな感じにシャルとラウラの考えを推察してみたんだが」
「本当凄いね、織斑君って」
「読唇術で何となく分かる。後は顔を見て細かなところを補えば誰でもある程度出来るぞ?」
「そもそも一般人に読心術なんて出来ないよ」
「そうかな?唇の動きで分かりそうなものだけど」
「唇?」
「ああ」
「?………ああ!心を読む方の『読心術』じゃなくって唇を読む方の『読唇術』か!!」
勘違いしてたのか……
まあ言葉だけ聞けば判らないかもしれないな。
どっちも同じ『どくしんじゅつ』だからな。
「しっかしシャルのやつ、やっぱり不純な動機だったか……」
「今の推察に不純な動機が見当たらないんだけど……」
「それは言葉に表れてないところからの推察だからな」
「織斑君ってもう本当に何でも有りなんだね」
「何だか貶された気がするんだが?」
「き、気のせいだよきっと…あはは…」
何か誤魔化してるのは分かるが、これ以上追求する暇はなさそうだ。
両ペアとも準備が出来たようなので、俺は大声で合図を出す。
「それじゃあ開始!」
「よし静寂!作戦通りにな!!」
「任せて!」
ラウラ・鷹月さんペアはいきなり仕掛けるようだな。
「谷本さん!行くよ!!」
「う、うん!」
対するシャル・谷本さんペアは何処かぎこちないな。
互いを信じているラウラ・鷹月さんペアに何処か信じられてないシャル・谷本さんペア、今のところは連携力はラウラのペアが上だな。
しかし、互いにぶつかり合った時に如何動くかな……
「どっちも頑張れ~!」
「応援して如何するんだよ…」
「だってクラスメイトだしね~」
「次戦う相手なんだから、もっとしっかり観察してないと痛い目を見るぞ」
「は~い」
本当に分かってるのだろうか?
本音の友達だけあって、相川さんも間延びした感じでしゃっべてる。
普段はもっとしっかりとしたしゃべり方だった気がするのだが……
「ん?何か付いてる?」
「いや、それよりも動きがありそうだ」
「本当!?」
「ああ、シャルが仕掛ける」
お手並み拝見と行こうか。
「癒子!悪いけど付き合ってもらうわよ!」
「静寂こそ!私に付き合ってもらわなきゃ困る!!」
「?如何言う事……」
「こう言う事だよ!」
「!?」
癒子と切り結んだところにデュノアさんが背後から現れて私に攻撃してくる。
なるほど……これも連携って言われればそうかもね。
「ふん!甘いぞシャルロット!それくらいお見通しだ!」
「ラウラ!邪魔しないで!!」
「パートナーがやられそうになってるのに邪魔をしない訳無いだろ!」
「AIC、本当厄介なものだね!」
「この停止結界を相手に何処まで耐えれるかな!」
「そんなもの!」
デュノアさんが瞬間加速でラウラに仕掛ける。
これで私は癒子に集中する事が出来る。
「ラウラ!そっち任せたよ!!」
「ああ!そっちも頼んだぞ!!」
「簡単に負けないからね!」
癒子と再び切り結び、力比べとなった。
織斑君も見てるし、此処はしっかりとしなきゃ!
「シャルのヤツ、あれじゃあ上手い連携とは言えないぞ」
「え?十分連携取れてると思うけど…」
織斑君のつぶやきにおもわず反論してしまった。
パートナーに集中させ、自分を視界から消す作戦なんだろうけど、あれは成功してるんだし良いんじゃないのかな?
「確かに成功はしてるが、パートナーを不安にさせてるようでは駄目だ。それに比べて、ラウラと鷹月さんは見事だと言える」
「でも、あれって普通の一対一だよね?」
癒子対静寂、ボーデヴィッヒさん対デュノアさんの対決にしか見えないんだけど……
「一対一だが、これもラウラの作戦だ」
「でも連携を見るって……」
「複数対複数だからって必ずしも複数対複数で戦う必要は無い。一対複数でも良いし、あのように一対一でも良いんだ。対処出来る人間が対処すれば良いんだし、分散も立派な連携だ。相手を信頼してないと出来ない作戦だからな」
「ほへ~…そう言った戦い方もあるんだ~」
「関心してないで、そろそろ終わりそうだぞ」
織斑君が言った通り、模擬戦は佳境に差し掛かっていた。
「ラウラ!邪魔しないで!!」
「如何したシャルロット、随分と焦ってるな」
「谷本さんのフォローをしなきゃいけないんだ!」
「少しはパートナーを信頼したら如何だ?」
「信頼しても連携しなきゃ意味ないでしょ!」
「さて、それは如何かな」
焦りから隙だらけなシャルロットにプラズマ手刀を喰らわせ、動きを停める。
「グッ!」
「お前は少し休んでろ!」
さて、後は静寂の方だけだな…
私は静寂の方を向き、戦況を見た。
「これなら大丈夫そうだな」
「油断大敵だよ!」
「何!?」
まだエネルギーが残ってたのか、シャルロットが私の目の前に現れた。
クソッ!停止結界で……
「この距離なら外さない!」
「シールド・ピアース!?」
油断した!
これは駄目かと思ったが……
「ラウラ!」
「何!?」
「静寂!お前、アッチは良いのか?」
打鉄で体当たりをしてシャルロットの攻撃を逸らしてくれた。
「癒子なら倒したよ」
「そうか……なら、後はシャルロットだけだな!」
「ええ!」
「何で!?何でラウラばっかり!」
何の事を言ってるのかは分からないが、これで勝ちは揺るがないだろう。
「静寂、援護するから頼むぞ」
「任して、ラウラこそしっかりしてよね」
「私は隊長だぞ?」
「此処で冗談言えるんだから平気だよね」
模擬戦前に私が言った事を静寂がそのまま使った。
私はおもわず笑みを浮かべてしまったが、今はシャルロットに集中するとしよう。
「訓練機には負けられない!」
「逃がさないからね!」
静寂がシャルロットの意識を私から逸らしてくれているので、私はシャルロットの背後に回りワイヤーで攻撃する。
「そこまで!勝者ラウラ・鷹月さんペア」
兄上の終了の合図を聞いて、私と静寂は拳を付き合わせた。
これで次は兄上のペアと試合か…
「次もしっかりと連携を見せましょうね?」
「もちろんだ!」
静寂となら兄上の満足させられるかもしれないな。
次はナターシャサイドを書きたいです。