IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~ 作:+ゆうき+
IS学園の研究所に到着したんだけど……なんていうか、無機質な感じしかしないんだ。ちょっと怖い。……あ、あの機械教科書で見たことある。ISのエネルギーの効率を見るのに使うんだよね。
あっちにはパソコンがいっぱいある……。いいなぁ、僕もパソコン欲しいなぁ……。
これは……ストレージタイプのオシロスコープ? 確か、もっといい物を参考書で見かけた気が……。
なんか色んな機械が出しっぱなしにしてある……。ちょっと汚いかも。本当に世界トップレベルの研究所なのかなぁ?
「まーくん、どうしたの?」
「ん、なんでもないよ。みたことないきかいがいっぱいあったからちょっと」
だけど、広いなぁ。僕の部屋の何倍あるんだろ、ここならISが飛んでも大丈夫そうだね。早くみたいな。
「いらっしゃい。ようこそIS研究所へ!」
誰だろ、ここの学者さん達かな? あ、挨拶は忘れないようにってお姉ちゃんに言われてたっけ。
「あ、お世話になります。一年一組の担任をしております山田麻耶です。」
えっと、どうしよ。僕、知らない人に話しかけるのって苦手なんだよなぁ……。
「……こんにちは」
とりあえず、お姉ちゃんの後ろに隠れてみよう。うん、きっとなんとかしてくれるはず。
この対応を見て研究者さん達は大いに和んでいた。女しか乗れないIS。必然的に研究者も女が多くなる。今ここに居る研究者さんも10人全員が女だ。研究員達から黄色い歓声が上がる
「かわいい~! 本当にこの子があの基礎理論を構築したの?」
「にわかには信じられないわよね。でもこの可愛さは反則・・・うっ。」
ちょっとお姉さん達、鼻血出てるんだけど……。わわっ、後ろの人! なんかハァハァ言ってるけど大丈夫なの!? 目がすっごく怖い!!
「ん”ん”っ! 君が山田真琴くんだね?」
ピンクに染まり出した雰囲気を一蹴し、真琴の名前を尋ねてきたのは他の研究員とは別格だった。長年研究を続けてきたという自信がみなぎっている。
「あっ、はい……」
「私は真耶君が生徒だった頃教鞭をとっていてね、ちょっとした知り合いなんだ。これからよろしくね?」
「よ、よろしくお願いします」
「うんうん、素直な子には好感が持てる。これなら皆とも上手くやっていけるよ」
ちょっと、主任さん。後ろを見てよ、後ろを。学者さん達の目がライオンみたいになってるんだけど……。
「あ、あの国枝主任……。後ろの研究者の方達の目が怖いんですが」
おお、お姉ちゃんナイス!
「ん? ……おいお前ら。間違っても真琴君に手は出すなよ? 友人の弟さんを預かるんだ。何かあったらお前ら社会的に封殺されるからな!」
国枝と呼ばれた主任さんが後ろを一瞥しながらそう言うと、周りにいた研究者達はいっせいに目を逸らした。本当に大丈夫なのか一抹の不安が残る。
「大丈夫だからねまーくん? 何かあったらお姉ちゃんが助けてあげるから」
やっぱりお姉ちゃんは頼りになるなぁ。また助けてもらっちゃった。
「それでは国枝主任。私はこれからSHRに行かなくてはならないので、後の事はお願いします。まーくん、学校が終わったら迎えに来るからそれまでお姉さん達と仲良くしててね?」
「うん!」
◇
弟を研究所に送りだした後、私は授業に向かった。これで弟と毎日同じ生活が出来ると思うと心が躍る。うふふ、まーくん……。
「山田君」
今日は一緒にお風呂にはいって、それからそれから……。
「山田君?」
その後髪の毛を乾かして一緒の布団で……。
「山田くん!」
「ひゃい!?」
びびびびっくりしたぁ~! だ、誰?
真耶が振り返るとそこには、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているが、決して過肉厚ではないボディライン、そして、狼を連想させる鋭い目を持つ人物が立っていた。
「あ……、織斑先生。おはようございます」
織斑千冬。世界最強のIS使い。色々あってIS学園で教鞭を振っている、私の目標だ。
この人はいつもこんな感じ。まるで隙がない。いま後ろから襲いかかったとしても軽くあしらわれちゃうんじゃないかな。
「どうしたんだ? 心ここにあらずといった感じだったが……」
あぅ……。お見通しか。ちょっと相談してみようかな。
「実はですね……。今日から弟が研究所でお世話になっているんですが、上手くやっていけるか不安でして」
「弟? たしか山田君の弟は10歳にも満たなかったと記憶しているが……」
「はい、今年で9歳になります」
まーくんの名前を出した瞬間、織斑先生の顔色が変わった。この人は一を聞いて十を知る人だし。全て理解したみたい。
「そうか山田君の弟が……。あの噂は本当だったんだな」
噂? もうそんな話が?
「どういった噂が流れてるんでしょうか」
「ああ、なに。わずか八歳にして、それまで鉄板とされていたISの基礎理論をぶち壊した人物が居るという噂だ。噂に過ぎないと思っていたんだがな、まさか山田君の弟がそれだとは思ってもいなかった」
「私も正直驚いています。家でISの特記事項を見てぶつぶつ呟いていた時から大人びているなぁとは思っていたんですが」
「……山田君、機密情報という言葉をしっているか?」
「あっ! ……で、でもまーくんはまだ子供ですし!」
ま、まずいまずい!これは説教パターンだ!
「まぁ、今回は真琴君がIS学園の研究者となったからいいが。これが外部に漏れたら大事だぞ。そもそも君は……」
うぅっ、やぶへびだったぁ~。はっ!予鈴まで後五分しかない!
「お、織斑先生。予鈴まで時間もないですし。この件については……」
「ん?ああ、確かにもう時間がないな。山田君、悪いが私は会議があって少し遅れる。先に一人で行っておいてくれないか」
「あ、はい。それじゃあー……。新入生の自己紹介とか初めちゃって大丈夫ですか?」
「ああ、かまわない。それでは、また後でな」
「はい、また後で」
ふぅっ! あ、危なかった~! 次からは気をつけなくちゃね! さて、と。いよいよ私にとって初めてのクラス持ちか……。副担任とはいえ、気をぬいちゃ駄目! 気張っていかなくちゃ!
その頃、研究所はというと
「真琴くーん! おいしいお菓子があるんだけど、お姉さんと一緒にお茶でも飲みながら休憩しない?」
「あ、はい……。いただきます」
少しづつ場の雰囲気に慣れ、徐々に笑顔が出つつある真琴がいた。この様子からは誰も想像できないだろう。彼がISの基礎理論をぶち壊したとは。そして、真琴を可愛がる研究員の雰囲気がピンク色になりつつあった。
「あーもう! ハムスターみたいでかーわーいーいー!」
「私もこんな弟が欲しかったなぁ~」
「ねね、ちょっとこっちにきて?」
言われるがままにトテトテとおねいさんの横に歩いていくと、脇に手を入れられて、おねいさんの上にちょこんと座らさせられていた。うしろから抱きしめられて頭をうりうりと撫でられる真琴を見て、ピンク色は更に加速していく。
普段はぼけーっとしている真琴だが、さすがに気に障ったみたいだ。少しだけ表情にかげりが見え始める。
「はーなーしーてー」
ぐいーっと抱きつく研究員を押して離そうとするが、力で勝てるわけもなく、再び抱きつかれてしまった。
「嫌がる素振りも可愛いなぁ、もう!」
「むー……」
真琴のほっぺがぷくーっと膨らむ。不貞腐れてしまったみたいだ。
「あ……ご、ごめんね真琴君。もうしないからこっちむいて?」
ぷいっとそっぽを向いてしまった。研究員達が必死に彼のご機嫌取りを始める。
「ほらほら、おいしいドーナツがあるよ! 一緒に食べようよ真琴くん」
「ケーキもあるわよ。ほら、選び放題!」
「……。」
本当はそこまで怒っていなかったのだが、研究員達が本気で真琴のご機嫌取りを初めてしまったため、なんというか、後には戻れない状況を作り出していた。
この状況を打破するべく、真琴の頭脳が稼動を始めた。
数秒後
「……IS」
「ん? 何かな? 何でも言って?」
既に好感度メーターはMAXな状態から下がる事はない。常に振り切っている状態である。
真琴は、普段姉に頼み込む態度を同じ姿勢で研究員達に話しかけた。
「ISを、みせてほしいです」
真耶と同じくクリクリとした可愛いお目目で上目づかいで見つめられて、おねいさん方が抗えるはずもなかろう。あっさりと陥落した。
「あーもういちいち可愛い! おねえさんなんでも言うこと聞いてあげちゃう!」
研究所が彼の色に染まるのもそう遠くないのではないか。
さて、一方その頃真耶の受け持つ教室はというと
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー。」
教壇に立つ真耶、それを見つめる30人の生徒。例年通りなら和やかムードの中自己紹介が始まるはずだった。しかし、今年は異様な緊張感に包まれていた。そう、皆もご存じ唐変朴・オブ・唐変朴ズの織斑一夏君がいるからである。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね。」
「…………。」
ううっ、何この雰囲気~!すっごくピリピリしてる・・・。めげるな私!
「それでは、まずは私から自己紹介をしたいと思います。私の自己紹介が終わったら、次は皆さんの番です、それまでに考えておいてくださいね?」
「それじゃあ先生にしつもーん!」
「いきなりですか。はい、どうぞ」
「先生はー、彼氏とかいるんですか?」
やっぱり女の子だもんね。そりゃ気になるか。
「えっと、残念ながらそういった経験はありません。弟がまだ8歳で、両親も共働きなので色々と忙しい時期なんですよ」
というのは建前。彼氏かぁ、まーくんが独り立ちしたら考えてもいいかなぁ。
「弟君の名前はなんていうんですか?」
「山田真琴です。真偽の真と、楽器の琴とかいて「まこと」と読みます」
えへへ、まーくんの事ならなんでも聞いて! 答えられないことなんてないよ!
「せんせー、弟君はかわいいですか?」
キュピーン! その質問をまってました!
「かわいいなんてもんじゃないですよ。商店街にでかければご近所の奥さんからはかわいいって褒められて、お店のおばさんからは女の子に間違えられるし……」
(あ、山田先生ってブラコンなんだ)
ほっぺたに手を当ててクネクネしながら説明を始める真耶を見て、生徒達は理解した。
「あ、今まーく……じゃなかった。真琴は学園に滞在してるので、そのうち会えるかもしれないですよ?」
「滞在って、8歳の男の子が?」
「はい、本日付でIS学園の研究員として働いています!」
ふふーん! まーくんはすごいんだよ! 皆もっと関心をもっ……いや、持ちすぎてもそれはそれでちょっと困るかなぁ。
「8歳で研究員って……どんだけ頭いいんですか先生の弟君」
「なんと! これは先生もびっくりしたんですけど、学園のIQテストで真琴は測定値の上限ギリギリという驚異的な結果を叩きだしたんです! これは姉として誇りに思っています!」
測定上限いっぱいという言葉が出た瞬間、教室が揺れた。そりゃそうだろう。天才と言われた篠ノ之束ですらIQ200と言われている(正式に測定した訳ではないが)。ひょっとしたら彼なら将来ISのコアを解析し、それを量産できるのではないか。
「測定限界!? それって篠ノ之束よりすごいんじゃない!?」
「これは優良物件か・・・っ!」
「すんごくかわいいらしいし!」
「後で会いに行かなきゃ!」
(……恋せよ乙女とは言うけどさ、8歳の子供相手にこの反応はどうかと思うんだ、先生は。
まーくんは誰にも上げないんだから!)
―――ギリギリギリ……
―――お、お姉ちゃん?