白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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今回はネタ回なので、細かいところは軽くスルーして下さい。


日常3

side-I

「ふぁぁぁ~……」

 

昨日の戦いから一夜明けた翌朝。連日の戦いのせいで寝不足気味の私は、眠い目を擦りながらリビングに向かっていた。

 

「……」

「……」

 

するとその入口の近くで、お兄ちゃんとセラがこそこそと中を覗き見るように立っていた。

 

「……お兄ちゃん、セラ。何してるの?」

 

そのあからさまに怪しい二人に、少し戸惑いながらも問い掛ける。

 

「え?あ、ああ、イリヤか」

「お、おはようございます。イリヤさん」

 

私に気が付いた二人は、少し言葉を詰まらせながらも挨拶した。

 

「何かあったの?何時もなら朝ご飯を作ってる時間だよね」

「いえ、実はですね……」

 

そう言うとセラは、困ったようにお兄ちゃんと視線を合わせる。

 

「なんか歯切れが悪いけど、何かあったの?」

「……まあ、見てもらった方が早いか。ほら、そこ」

「?」

 

私はお兄ちゃんに言われるがままに、お兄ちゃんが指差した、リビングの中を覗いた。するとそこには―――

 

「フフーフフーン♪フーフーフーフーフーフーフーン♪フーフーフーフーフフーン♪フーフーフフン♪」

 

エプロンを身につけ、鼻歌を歌いながら軽快に料理を作っているクロの姿だった。

 

「……何あれ?」

「さ、さあ?俺がリビングに行こうとしたら、セラがここで覗いてるのが見えてさ。中を見てみたらこうなってたからなぁ」

「私も、いつも通り御朝食を作ろうとキッチンに向かったら、既にこのような状況に……」

「見た限り一応問題はなさそうだったんで、取り敢えず見守ることにしたんだ」

「そ、そうだったんだ……」

 

私がお兄ちゃんとセラとこそこそ話していると、調理が終わったらしくクロが皿に料理を盛りつけていた。

 

「ふぅ、完成。我ながら、そこそこの出来ね」

 

クロはエプロンを脱いで、料理をリビングのテーブルに運ぶ。

 

「お兄ちゃんたちも、そんなところに居ないで中に入っていいわよ」

 

うっ……ばれてたみたい。クロの言葉を聞いて、私達は大人しく部屋の中に入る。

 

「ああ、そうだ。ごめんね、セラ。今日はセラの当番だったのに、勝手に料理作っちゃって」

「い、いえ、それは構わないのですが……どうして急に料理を?」

「うーん。どうしてって言われても、無性に作りたくなったとしか言いようがないんだけど……」

「あ、運ぶのくらい手伝うよ、クロ」

「あら。ありがとう、お兄ちゃん」

 

クロとお兄ちゃんが配膳をしていると、遅れてリズがリビングにやってきた。

 

「おはよ~……ふぁぁぁ」

「リーゼリット!主人より遅く起きるメイドが何処におりますか!」

「セラ、朝からうるさい」

「うるさいとはなんですか!うるさいとは!」

 

リズは目が半開きのまま自分の席に座る。すると、目の前に盛りつけられている料理を凝視し始めた。

 

「?どうしたの、リズ?」

「今日の当番、士郎だっけ?」

「いや……実は、今日作ったのはクロなんだ」

「ふーん」

「ほら、イリヤもセラも座った座った。早く食べないと冷めちゃうでしょ」

 

配膳を終えたクロに促され、私達は自分の席に着く。

 

「それでは皆様、お手を拝借」

「クロ、それはちょっと違うと思うんだけど」

「そう?まあ、なんでもいいや。いただきまーす」

「「「いただきます」」」

「……ま~す」

 

食膳の挨拶を皆で、リズが1テンポ遅れて、したところで改めて並べられた料理を見る。献立は白米のご飯、ワカメとたまごの味噌汁、鮭の焼き魚、納豆。極々一般的な日本の朝食である。

 

「とりあえず、見た目は普通みたい」

「”見た目は”って随分失礼ね、イリヤ」

「いや、こういうのって、見た目に反して味が~ってオチがよくあるし……」

「そんな漫画みたいな展開あるわけないだろ?それじゃあ、この味噌汁からいただこうかな」

 

お兄ちゃんがベッタベタなフラグを立てながら味噌汁を頬張った。

 

―――このとき、士郎に電流走る―――

 

え?!何、今のモノローグ!

 

「こ、これは?!かきたまごのふんわり食感と鮮やかな色彩と豊かに広がる味噌の風味が合わさり、食べる人を選ばない素直なおいしさだ!さらに、肉厚のわかめの食感と旨みが凝縮した赤だし味噌汁が、絶妙なハーモニーを奏でている!」

「お、お兄ちゃん!急にどうしたの?!」

「それにこの焼き魚!こんがりと焼かれた皮はパリパリとした味わいを醸し出し、そして肉は奥までじっくりと火を通すことで、とろけるような旨みを引き出しています!」

「セラまで?!」

「この料理を作ったのはだれだー」

「いや、リズ!目の前にいるからね!」

 

な、なんだか皆が料理アニメの審査員みたいになっちゃった。でも、ここで逃げるわけにもいかず、私は恐る恐るご飯を口に運ぶ。

 

「うーまーいーぞー!!」

 

結論。

クロの料理は美味しかったです。

 

 

 

 

 

side-M

「おはよう、イリヤ、クロエ」

 

学園の昇降口で見かけた二人と私は挨拶を交わす。

 

「あ、おはよう、美遊」

「……おはよー」

 

私の言葉に対し、二人は対極の反応を見せていた。朝から機嫌のいいクロエとは対照的にイリヤは少し疲れ気味の表情をしている。

 

「イリヤ、大丈夫?まだ、戦いの疲れが残ってるの?」

「いや、それもあるんだけど……朝から妙なテンションになっちゃって。あはは……」

「?」

「気にしなくてもいいわよ。それより、こんなところで話してないで教室に「オーマイガァァァッ!」行こう……って何事?」

 

クロエの言葉を遮るように叫び声が廊下を木霊した。これは……藤村先生の声?

 

「藤村先生?何かあったのかな」

「タイガのことだし、どうせ大したことじゃないんじゃない?」

「……職員室すぐそこだし、私見てくるね」

 

イリヤが藤村先生がいる職員室へ向かう。

 

「あ、イリヤ!」

「ちょっと!タイガなんて放っておきなさいよ、まったく!」

 

私はイリヤの後を追いかける。クロエも、文句を言いながらもイリヤの後を追ってきた。

私達が職員室の入り口に到着する。そこに居たのは、両手両膝を床についている藤村先生と、それを困った表情で見ているイリヤだった。

 

「どうしたの?」

 

私は既に理由を知っているであろうイリヤに、藤村先生が項垂れている原因を尋ねた。

 

「ええっと、実は―――」

「聞いてよ美遊ちゃん!私のマイ扇風機がご臨終しちゃったのよー!」

「はい?」

 

先生の話を要約すると、どうやら職員室で使っていた扇風機が動かなくなってしまったらしい。

 

「どーしよー!せっかく家から勝手に持ってきて職員室(自分の周りだけ)を快適空間にしてたのにー!これじゃあ、若葉が生い茂りこれからますます本格的な暑さを迎える今日この頃を無事乗り切ることができないわ!」

「勝手に持ってきて壊したんじゃ、完全な自業自得じゃない」

「ゔっ!」

 

クロエからの正論という名の突っ込みに、先生はぐうの音も出ない。

 

「まったく……それで、どこが壊れたの?見せてみなさいよ」

 

そう言うと、クロエは扇風機に近づき、詳しく調べ始めた。

 

「え?クロちゃん、直せるの?」

「さあ、見てみないことには何とも」

 

するとクロエは、どこから取り出したのかドライバーを手に取り、手馴れた手つきで扇風機を解体し始めた。

 

「あー。ここの配線が切れちゃってるわね。これなら交換するだけでどうにかなりそう」

 

クロエは再びどこからか導線を取り出し、扇風機に接続し直して再び組み立てた。

 

「はい。これで大丈夫だと思うけど」

 

そう言いながらクロエが扇風機のスイッチを押す。すると、さっきまで動かないというのが嘘のように扇風機のプロペラが勢いよくまわりだした。

 

「おぉ!クロちゃん、ありがとー!」

「あくまで応急処置だから、早めに修理に出すか新しいの買いなさい―――って抱き着かないでよ、暑い!」

 

あっという間に扇風機を直して見せたクロエに、先生は抱きしめて頬ずりをし始めた。

 

「……クロエって、こんな特技があったんだ」

「うん、私も初めて知った。今朝も急に料理を作りだすし」

「今朝?」

「うん。まあ、普通においしかったんだけどね」

「そうなんだ」

 

しかしこの数日後、藤村先生が調子に乗って扇風機を酷使したために、再び壊れることになったことについては言及しないでおく。

 

 

 

 

 

side-I

「それにしても、今日はどうしたの?」

 

放課後、3人で家に一緒に帰っている途中で、改めて今日の一連の行動についてクロに問い掛けた。

 

「どうしたって言われても、別に何ともないわよ?」

「何ともないって……突然朝ごはん作ったり、扇風機を直したりしておいて何ともないはないでしょう」

「ん-。そういわれても、料理はなんか突然作りたくなったから作っただけだし、扇風機だって、なんか直せそうだったから直しただけなんだけど」

 

いや、普通はできそうって思っただけで扇風機直したり料理作ったりしないから。

 

「でも、今日のクロエには、どこか違和感があった」

 

美遊も、今日のクロを不審に思ったのか会話に加わった。

 

「昨日の戦闘が原因、とか?」

「ないない。魔力だって、昨日イリヤから貰って十分だし」

 

昨日の戦闘、魔力。その言葉を聞いて、私は顔が赤くなるのを感じた。

 

「何を今更恥ずかしがってるのよ。生娘じゃあるまいし」

「生娘だよ!それに、昨晩のあれはなんなの?!あんなに【ねっとり】としなくたってよかったじゃない!」

「しょうがないじゃない。昨日は力屠る祝福の剣(アスカロン)なんて投影して、魔力が足らなかったんだもん」

 

”もん”じゃないよ!乙女の唇はそんなに安くないんだから!まったく!

 

『もしかして、先日のセイバーとの戦いが原因じゃないんですか?』

 

私がぐちぐち怒っていると、突然ルビーが割り込んできた。

 

「どうしたの突然?それに、今日はやけに静かだったみたいだけど」

『はい!朝から面白もとい興味深いものが見れたので、しばらく観察に徹してました』

 

こ、この愉快型ステッキが……!

 

「それで、セイバーとの戦いが原因ってどういうこと?」

『もちろん、クロさんの今日の行動のことですよ!美遊さん!現在クロさんは、クラスカードの1枚を取り込んでいるのはご存じですよね?』

 

そう。クロの身体の中には、今もクラスカードが入っている。昨晩、アサシンのカードを回収し終えた後、クロはルヴィアさんの屋敷で簡易だけど検査をした。

でも、結局わかったのは、クロとカードが半融合状態にあるってことだけ。取り出す方法どころか、何のカードかすらもわからなかったらしい。

 

『クロさんがその力を初めて使用したのはセイバー戦。その翌日は寝込んでいたから良いとして、次のアサシン戦ではカードの力を十分に発揮していました。つまり、クロさんはいつでもカードの力を引き出せるということです!』

 

……確かに、昨日の戦いでは敵の姿を誰一人まともに捉えられない中、クロだけがその動きに対応していた。

 

『以上から導き出される結論は―――』

 

け、結論は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クロさんの中にあるカードが、手先が器用で料理好きの英霊だということです!そのスキルが、クロさんにも影響を与えたんですよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

『いえ、ですから、クロさんが取り込んでるクラスカードは―――』

『姉さん。そのような主婦スキルの高い英霊が居るとは思えないのですが』

「私も、サファイアの意見に賛成」

 

ルビーの意見真っ向から否定する美遊と、その美遊の鞄から現れたサファイア。まあ、私も同意見なんだけど。

 

『えー、絶対そうですって。そうに決まってますよ』

「なんでルビーは、そんなに自信満々なの?」

『そんなの、そっちの方が面白そうだからに決まってるじゃないですか!』

 

……聞いた私が悪かったよ。

 

「ほら、そんなところでくっちゃべってないで、早く帰りましょう。今日は『美少女生物タイプムーン』の再放送日でしょ?」

 

すると、いつの間にか遥か前方に行っていたクロに声を掛けられた。

※『美少女生物タイプムーン』とは、月からの使者タイプムーンを筆頭に、各惑星から集められた究極の一(アルテミット・ワン)と名乗る少女たちが、地球に蔓延る悪を根絶やしにするという美少女戦士系アニメである。

 

「そうだった!美遊、急ごう!」

「え?私は別にアニメは見な―――って、ちょっと待って!」

『ちょっと!私を置いて行かないでくださいよ~』

 

私は美遊の手を取り、クロに追いつくためにダッシュしたのだった。

 

 

 

 

 

 


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