白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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第1章
プロローグ


side-I

「ん~、目が疲れた」

 

『魔法少女マジカル☆ブシドー ムサシ』のDVDを全話見終えた私は、目をゴシゴシ擦りながらディスクをケースに戻す。

やっぱり、一度に見ると目が疲れるな~。ま、それでも見た甲斐はあったけどね!

 

「イリヤー。私お風呂出たから、次入っちゃいなさいよ」

「はーい」

 

クロの言葉を聞いて、私はDVDボックスをテレビデッキに仕舞い、着替えを取りに自分の部屋に向かう。すると、リビングを出たところの廊下でクロとすれ違った。

 

「あんた、まだビデオ見てたの?まったく好きねー、そういうの」

「む、別にいいじゃない。小学生がアニメ見たって」

「そうね。イリヤは夢見る乙女だもんね~。でも、よい子はもう寝る時間よ?」

「な、なによ!バカにして!私知ってるんだからね!クロが『フォアブロ・ロワインの犬』の最後のシーンをハンカチ片手に見てたの!」

 

※『フォアブロ・ロワインの犬』とは、貧しい生活を送っていた主人公ネロが、犬をはじめとする666の獣と共に大聖堂の祭壇画を見るために孤軍奮闘するという一大感動巨編である。

 

「な、なぜそれを―――そ、そそそんなことあるわけないじゃない!幻よ!錯覚よ!」

 

顔を真っ赤にしながら反論するクロ。こういう姿を見てると、家に来たばかりのころに比べてずいぶん感情豊かになったなぁ……

ある日を境にクロは私の家族になり、今では一緒の学校に通っている。何故こんなことになったかというと、話は6ヶ月ほど前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

――

――――

――――――

ママの『貴女の妹よ!』発言の後、このまま出た埒が明かないと、取り敢えず皆でリビングへ向かった。ママが連れてきた子はまだ起きなかったから、リズの介抱を受けて今はソファーに横になっている。

一方、テーブルの周りには、納得いきませんという表情を隠そうとしないセラと、その対面で笑顔を絶やさないママが座り、それぞれの隣にお兄ちゃんと私が腰掛けた。

 

「それで?あの娘は何処から攫ってきたんですか?」

「攫ったなんて人聞きの悪いわね。私はただ拾っただけよ」

 

そっちの方が色々と酷いと思うんだけど……

 

「いや、人を拾うなんてどんな状況なのさ」

 

あ、お兄ちゃんが耐え切れずに突っ込んだ。

 

「わ、私だって別に好き好んでこの状況を作った訳じゃないのよ?確かに、家にもあと一人くらい娘が欲しいなぁって思ったことはあるけど、それとこれとは話が別でしょ?」

 

……どうしよう。ママの言葉に説得力が一切感じられない。

 

「だって、イリヤが熱を出して倒れたって私の勘が告げたから急いで家に向かって見れば、道端に人が倒れてるじゃない。放っておくわけにもいかないし、近付いて見ればあらびっくり!イリヤと瓜二つなんだもの!この時私は思ったわ。『この娘は私が育てるしかない』って!」

 

ツ、ツッコミどころが多過ぎて捌ききれない?!なんてボケの応酬なの?!せめてツッコむ側の事も考えてボケて―――ってそうじゃなくて!

 

「……ん……ぅんん……」

「皆うるさい。この子、起きちゃった」

 

リズの言葉で皆が視線を向けると、ソファーで横になっていた、当事者である女の子が目を覚ました。

 

「そ、そうだ。目が覚めたみたいだし、本人に話を聞いてみたらいいんじゃないかな?」

 

このままじゃ埒が明かないと思った私は話題を変える為、席を離れて女の子が居るソファーに近付いた。そして、彼女と目線を合わせるようにその場にしゃがんだ。

 

「ええ~っと、こんにちは!」

「……、……?」

 

う~ん。さっきまで眠っていたせいか、ちょっと反応が悪いなぁ。まだ目が半開きだし、まだちゃんと起きてないのかな?

 

「私、イリヤっていうの。イリヤスフィール・フォンアインツベルン」

「……」

「あ、貴女の名前は?」

「……イリ、ヤ?」

「いや、私の名前(そう)じゃなくてね?貴女の名前。わかる?」

「……?」

 

どうしよう……反応があまりよくない。もしかして、言葉が通じないのかな?

私が頭を抱えていると、ママ達も近くにやってきた。

 

「どうやら記憶が混乱しているみたいね」

 

ママはそう言いながら、私の横にしゃがむ。えっと、それって軽い記憶喪失みたいなもの、ってことなのかな?

 

「どうなさるのですか?奥様」

 

そのママの3歩後ろで立ち止まったセラが、ソファで横になっている彼女の様子を覗きながら、ママに尋ねた。

 

「勿論ウチで引き取るわ。身元も分からないし、なによりこんなに可愛―――小さな子を放っておけないもの。はい、決定ー!」

「奥様……そんな軽い乗りでお決めにならないで下さい」

「こうなったアイリは誰の言うことも聞かない。文句は言うだけ無駄」

 

あ、ママの発言とリズの追い討ちにセラがうなだれてる。

 

「さ~て、そうと決まったら色々準備しなきゃ。戸籍とかはでっちあげるとして、こういうときは切嗣に教わったやり方で……」

「ちょっと待った!教わったってなんだ?!親父って普段どんな事してんだよ!」

「やーね。切嗣はただの正義の味方()よ。大丈夫、私が切嗣から教わったのは、車の運転ばかりじゃなくてよ?」

「あの運転は親父が原因なのか?!」

 

ゴカイダヨーというパパの幻聴を聞き流し、乾いた笑いをしながらママとお兄ちゃんのやり取りを見ていると、リズが私の肩をポンと叩いた。

 

「家族が増えるよ。やったねイリヤ」

「それフラグーーーッ!」

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

かぽーん

 

そんなこんなで、いつの間にか戸籍・身分証を手に入れたママはあれよあれよという間に入学手続きを済ませ、気がついたらクロは私と一緒の学校に通うことになっていた。何を言ってるのかわからねーと思うが(ry

ちなみに”クロ”というのはニックネームみたいなもので、正しくはクロエっていいます。この名前も―――

『この娘の名前はクロ。クロエ・フォン・アインツベルン。なんか色もそれっぽいし、かわいい名前よね?』

という理由で決められました。……このとき私は、私の名付け親はパパでよかったと心から思いました。いや、実際どうかは知らないけど。

 

「ふぅ~、風呂はいいね。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じない?」

 

私はお風呂に浮かべている浮き輪をしたライオンの玩具『ライオン丸』に話しかける。

 

「?何あれ?花火、じゃないよね?」

 

でも、クロのことはきっかけに過ぎなくて

 

「よく見えない……そうだ。明かりを消せばよく見えるかも」

 

ちょっぴり口数の少ない友達と

 

「さてと、風呂に入―――イリヤ?!」

「え?」

 

ちょっぴり小生意気な妹と

 

「す、すまん!明かりがついてないからてっきりあがったのかと」

「~~~~~ッ!!」

 

ちょっぴり不思議な出来事を解決する

 

「い、いやぁ「へぶッ!」ぁぁ…………あれ?」

 

そんな日々がここから始まるのでした

 

『ふぅ、避けられてしまいましたか。まあいいです。ヘロー!そこの全裸のプリチーガール!魔法少女になって、愛と正義(と私の愉悦)のために戦ってみる気はありませんかぁ~?!』

 

……この、胡散臭いステッキの襲来によって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈某日深夜〉

「それで、本当の理由をお聞かせいただけませんか?奥様」

「あら、それだと私が嘘をついているみたいじゃない」

「いくら奥様といえど、あんないい加減な理由で子供を連れてくるとは思えません」

「あらあら~」

「……やはり、イリヤさんが体調を崩されたのと関係があるのですか?」

「……」

「イリヤさんの封印が外れた形跡がありました。普通に生活していれば、そんなことは起こりえません」

「セラは心配しすぎ。交通事故とかかもしれないし」

「あなたはいい加減過ぎです、リーゼリット!」

「まあまあ。確かに、イリヤに溜められていた魔力はほとんどなくなってた。そこにイリヤと瓜二つの女の子。関係が無いわけはないでしょうね」

「では!」

「でも、それだけ。それ以外はまったくわからないの。まあ、イリヤの身体には特に影響ないみたいだし、あの娘も嘘をついている様子はない。それなら」

「目の届くところに置いておいた方がいい、ということですか?」

「正解~。あの娘が悪さをするとは思えないけど、念のためね?」

「わかりました。そういうことであれば」

「あ、でも」

「?」

「あの娘にはイリヤと同じように、家族として接してほしいの。それが今、あの娘にとって一番必要なものだと思うから」

「……かしこまりました」

「おまかせー」

「頼りにしてるわね。それじゃ、私はもう行かないと。向こうで切嗣が私を待ってるから」

「いってらっしゃいませ、奥様」

「お土産よろしくー」

 

 

 

「あの娘はまだ小さな小さな種。やがて芽を出し、蕾をつけ、そして大輪の花を咲かせるでしょう。そう、あの娘の名前のように」

 

 

 

 

 


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