白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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VS狂戦士2

side-M

「■■……■……」

 

朱槍に心臓を貫かれた巨人は、その場に呆然と立ち尽くしながらも瞳からは生気が消え、動きが完全に停止した。

 

「やったぁ!」

『ふぅ。なんとかなりましたね』

 

イリヤとルビーの安心した声を聞いて、私も安堵の息をつく。これで、今までの長い戦いが終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、巨人の剛腕が私の体を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――かはぁッ!!」

「ッ?!美遊!」

 

背中に強い衝撃が走る。私が吹き飛ばされた壁がクレーターの様に抉れ、1テンポ遅れて喀血する。

 

『美遊様!申し訳ございません!物理保護が間に合わず……』

「大、丈夫……」

 

朱槍から元のステッキの姿に戻ったサファイアが、魔力を私の回復に充てる。

でも、どうしてあいつはまだ動けたの?確かに心臓を貫いたはずなのに……。衝撃のせいで朦朧とする意識の中、私は巨人の方に視線を向ける。すると、目の前では信じられない現象が起こっていた。

 

「傷が……治って、る?」

 

巨人の全身が禍々しいほどに赤く充血し、朱槍によって大きく抉られた左胸部が、まるで逆再生されているかのように復元されていく。あれは、再生能力だとかそんな生易しいものじゃない。そう、言うなれば―――

 

「……蘇生?」

「■■■■■ッ!」

 

巨人はまだ治りきらない傷を無視して、轟音と共に自身の脚が埋もれている床に両腕を叩き付ける。そして、巨人を中心に亀裂が入り、巨人の重量も相まって床が崩壊した。

 

「えッ?!ちょ、嘘でしょぉぉぉッ?!」

「無茶苦茶ですわぁぁぁッ!」

「ッ?!凛さん!ルヴィアさん!」

 

巨人はルヴィアさんたち諸共下の階層へと落ちていった。生身で落ちたら危険が!でも、私も人のことを心配できる立場じゃ……ッ!

床の亀裂が私の足元にまで及び、遂には崩落を始めた。

 

「サファイア!身体強化を―――ぐッ!」

『美遊様!?』

「大丈夫……それよりも、早く二人を!」

 

サファイアを支えに何とか立ち上がる。でも、まだ回復が追い付いてないのか足元がふらついてしまう。これじゃあ、私が駆けつけても足手まといにしかならない……

 

「美遊!」

 

すると、上空からイリヤが呼びかけてきた。そうか!イリヤはずっと飛んでいたから、崩落の影響を受けてない!

 

「イリヤ!私は大丈夫!だからルヴィアさんたちを!」

「わ、分かった!」

 

そして、イリヤは二人の落ちて行った穴へと全速力で飛んで行った。これなら、ルヴィアさんたちは多分大丈夫。後は、自分の心配をしないと。そうこうしているうちに、私の足元の床が遂に崩壊した。

 

「くッ!」

 

私は魔力の足場を作り、落下する瓦礫を避けながら下の階へと降りる。

 

「きゃあッ!」

 

すると突然、イリヤの悲鳴がビルの中を木霊する。まさか、二人の身に何かあったの?!

悲鳴を聞いた私は、まだ痛む身体を抑えながら、魔力の足場を伝って声がした方向へと駆け出した。

 

「イリヤ!」

「うぅ……」

 

そこには、床に転がり痛みを抑えるように体を抑えるイリヤの姿があった。

 

「イリヤ!いったい何が?!」

「美遊!それが、凛さんたちを助けようとしたらあいつが―――そうだ!凛さんたちは?!」

 

イリヤは、彼女を吹き飛ばしたであろう巨人の居る方へと視線を向け、次の瞬間には信じられないものを見たかのように目を見開いた。そのあまりにも動揺した様子を見て、すぐさま私もイリヤと同じ方向へ目を向けた。

 

「あ……が……ッ!」

 

そこにいたのは、巨人に身体を捕まれ今にも握りつぶされそうな凛さんと、その巨人の足元で微動だにせずに倒れているルヴィアさんだった。

 

「凛さん!」

 

ッ!あの巨人の腕力なら、人ひとり捻り潰すくらいわけない!でも、魔力弾じゃ効かないし、凛さんやルヴィアさんにも当たりかねない。どうすれば……ッ!

 

「こ……の、舐めるんじゃない、わ……よッ!」

 

凛さんが、懐から取り出した無数の宝石を巨人の顔面へと投合した。

 

Anfag(セット)!」

 

閃光。遅れて爆発音。

辺り一帯は、凛さんの起こした爆発によって巻き起こされた土煙で視界が覆われる。やったの?……いえ、さっきの攻撃じゃきっと

 

「く、そ……」

「……」

 

視界が晴れると、変わらず捕まったまま苦虫を噛み潰したような表情で巨人を睨み付ける凛さんと、不気味に光る眼で凛さんを見つめる巨人が立っていた。

 

「■■■ッッッ!」

「ッ?!」

 

巨人は雄たけびを上げながら、凛さんを力任せに投げつけた。まずい!あのまま壁に衝突でもしたら、ただじゃすまない!

 

「危ないッ!」

 

私よりも一瞬早くイリヤが動き、凛さんと壁の間に入り込む。そして、自身をクッションにして凛さんを衝突から守った。

 

「凛さん!しっかりして!」

『大丈夫です、イリヤさん。気絶しているだけみたいです』

 

ルビーの言葉を聞いて、私も一先ず息をつく。でも、まだ事態は好転していない。とにかく、今はルヴィアさんを助けないと!……よし、もう身体は動く!

 

「イリヤ!私が囮になるから、その間にルヴィアさんを助けて、二人を安全な場所に!」

「えッ?!そ、そんなの、美遊が危ないよ!」

「今暴れられたら、ルヴィアさんも危ない。それに、救助なら小回りの利くイリヤの方が適任だから」

 

そこまで言うと、私はイリヤの答えを聞かずに巨人の方へと走り出し、そのまま頭上を飛び越える。

 

「シュート!」

 

そして、すれ違いざまに魔力弾を放つ。ダメージは入らないけど、これで注意は私に向くはず。

 

「イリヤ!今のうちに―――ッ?!」

「■■ッ!」

「美遊!」

 

巨人が振り下ろした腕を紙一重で躱す。よし、注意をこっちに逸らせた!

 

「早くルヴィアさんを!」

「……わかった。すぐ戻ってくるから!」

 

私が巨人の暴風の如き攻撃を避けながらルヴィアさんから遠ざけるように誘導する。十分に離れたのを確認したイリヤは、ルヴィアさんを回収して二人を抱え建物の奥へと飛んで行った。

 

「―――これで、一人になれた」

『美遊様?』

 

私は巨人から大きく距離を離す。巨人の視線は私から外れることはなく、どうやら逃げた相手よりも眼前にいる敵に向かっていくことしか頭にないらしい。とりあえず、これで巨人がイリヤたちの方に向かう心配はしなくて済みそうだ。そして私は、懐から1枚のクラスカードを取り出す。

 

「■■■■■ッ!」

 

何もしかけてこない私に業を煮やしたのか、巨人は再び背筋の凍るような、恐怖を本能に直接訴えかけるような咆哮をあげた。

 

「くッ!」

『美遊様!いくらクラスカードの力を持ってしても、単騎で挑むには分が悪すぎます!』

「……いや、まだ私たちは、英雄の本当の力を引き出してない」

『い、一体何を?!』

 

私は、クラスカードを自身の前に掲げる。それと同時に、巨人が大地を踏み鳴らしながら突進してきた。

 

『美遊様!敵が!』

「これが、クラスカードの本当の使い方!」

 

遠くにいたはずの巨人が瞬く間に私に迫る。そして迫りくる、私や凛さんを襲った剛腕を前に、私は1つの呪文を唱える。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

 

 

interlude

 

「やっほー!みんな元気?」

「奥様?!ど、どうされたのですか?こんな夜遅くに」

「私だけ一時帰国したから家に寄ろうと思ってたんだけど、到着が遅くなっちゃって。はい、お土産」

 

突然の帰宅に驚くセラにお土産を渡すと、アイリスフィールは鼻歌交じりに家の中に入ってきた。

 

「さぁーて、イリヤとクロは元気にしてるかな?」

「もう、お二人とも就寝されています。それに、クロさんに至ってた体調を崩されてますからお静かに―――」

「えっと、クロの部屋はこっちね?」

「聞いていますか?!」

 

セラの言葉にまったく聞く耳を持たないアイリスフィールは、クロの部屋のドアノブに手を伸ばし、止まった。

 

「奥様?」

「……ううん、なんでもない。それよりセラ。お土産、玄関の外にまだまだ置いてあるから、運んでもらえる?」

「はぁ……分かりました」

 

主人の様子に違和感を覚えながらも、セラは律儀に玄関の外のお土産をリビングへと運んでいく。

 

「……」

 

セラの様子を横目で見たアイリスフィールは、再びクロの部屋のドアノブに手をかけ、扉を開いた。

 

「あら?」

 

部屋の中には、大きく開かれた窓の前に立つ、普段着を着たクロの姿があった。

 

「お邪魔だったかしら」

 

アイリスフィールの何処か緊張感のない明るい声にも反応することはなく、クロは姿勢を崩さず窓の外を眺めている。まるで、意志のない人形のように。

その様子を見たアイリスフィールは、言及するわけでもなく注意するわけでもなく、只々慈愛のような微笑みを浮かべていた。

 

「いってらっしゃい」

「―――ッ」

 

その言葉を聞いたとき、クロの方がピクリと動いた。それは、今までの人間味のない反応だったクロにとって、初めて生を感じさせる反応だった。

 

「…………行ってきます、お袋(・・)

 

その瞬間、窓の外から突風が吹きこんだ。

 

「きゃっ」

 

アイリスフィールは思わず顔を逸らす。そして、次に視線を戻したときには、すでにクロの姿はなかった。

 

interlude out

 

 

 

 

 




話が全然進まない……
次回でバーサーカー戦は終わる予定です。

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