白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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お久しぶりで申し訳ない!
本当はもう少し早く投稿する予定だったのですが、とある出来事から精神的ダメージを負い、しばらくプリヤから離れてました。



VS狂戦士

side-I

「……いってきまーす」

 

玄関の扉を開けて外へ出る。空は雲ひとつない晴天で、道を歩く人たちは今日も(せわ)しない。そこには、昨日命のやり取りしたとは思えない、いつも通りの日常があった。

 

「イリヤ、おはよう」

 

向かいの屋敷から美遊が出てきた。

 

「おはよう、美遊」

 

私はいつもの明るい雰囲気を取り繕って挨拶を返す。普段と同じように返事をしたつもりだったけど、美遊は気付いたのか表情を曇らせてしまった。

 

「えっと、クロエの様子はどう?」

「うん。この前みたいに熱が出て、だからベッドで寝てる。でも、まだ意識は……」

 

あの時、アーチャーのクラスカードの光に包まれたクロは、致命傷を負ったことなどなかったかのように傷がすべて消えていた。しかし、その際にアーチャーのカードも何処かに消えてしまった。

 

「ルビーが言うには、状態は安定してるから大丈夫だろうって」

『はい。暫く寝ていれば、直に目を醒ましますよ』

「そう、よかった……」

 

うん、よかった。クロが無事で確かによかった。でも……

 

「イリヤ……」

 

それからは特にお互いに会話も無く、ただ黙々と歩みを進めるだけだった。

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

「―――なるほど。取り敢えず、クロの命に別状はないわけね?」

 

放課後、私達は凜さん達と待ち合わせていた公園に来ていた。

 

「アーチャーのクラスカードに傷の完治。彼女の経緯も含めて、一度詳しく話をお聞きしたいところですけれど……」

「それは一先ず棚上げね。本人はまだ目を覚まさないみたいだし、カード回収も次で最後の一枚。それが終わってからでもいいでしょう」

 

ルヴィアさんの意見は尤もだった。クロはアーチャーの、英霊の力を自在に操り、セイバー、アサシン、ランサーを立て続けに倒していった。私達みたいにステッキの力を借りず、敵と剣を合わせて戦う姿はまるで本物の英雄を彷彿とさせ、何時しかクロは戦いの中心となっていた。でも、だからこそ……

 

「まあ何にせよ、すべてはクロが起きてからね。といっても、何時までも先延ばしにするわけにはいかないから、せいぜい数日―――」

「あの!」

 

私は大きな声で、凜さんの言葉を遮った。

 

「その、最後のカードの回収。私達だけで出来ない、かな?」

「はあ?何よ突然」

 

私の言葉に凜さんが疑問を浮かべる。

 

「えっと。多分、クロが目を覚ましてもすぐに戦えるとは思えないし、それに……」

「煮え切らない言い方ねぇ。もっとはっきり言いなさいよ」

 

私のおどおどした答えに不満な様子の凜さん。

 

「それに、クロが心配だから……」

「……」

 

そう答えた私を、凜さんは真剣な眼差しで見つめる。やがて、凜さんは眉間に手を当てて溜め息を吐いた。

 

「あのね、それなら堂々と言えばいいじゃない」

「あいてっ!」

 

そう言いながら、凛さんはデコピンをしてきた。……何気に結構痛かった。

 

「別に私達は怪我人を無理に戦わせるつもりはないわよ」

「ええ。元々は我々だけでやっていたのですから、問題ありませんわ」

 

凜さん……ルヴィアさん……

 

「美遊もそれでいい?」

「はい」

「皆、ありがとう!」

 

私はおでこを擦りながらお礼を言う。

 

「いいわよ、別に。正直昨晩のこともあるし、クロを連れてくつもりもあんまりなかったしね」

『まあ、前回前々回と、何の役にも立たなかった凛さんと違ってクロさんは大活躍でしたからね。1回休んだくらいじゃ、誰も文句は言わないですよ』

「役立たず言うな!そもそもそれはあんたが―――」

 

いつもの調子で凛さんがルビーを捕まえて―――まったく、あの人達はいつも変わらないな。

 

「あ、ごめんね美遊。私、無理言っちゃって」

「ううん、平気。それに」

「?」

「イリヤが心配する気持ち、何となくわかる気がするから」

 

そう言う美遊の顔は懐かしそうな、それでいて少し寂しそうな顔だった。

 

「よし!それじゃあ、決戦は今夜よ!二人ともいいわね?」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

interlude

 

「――――――」

 

そこには何もない

光が瞬く間に現れたかと思えば、次の刹那には何もなかったかのように消え去る

見覚えのない景色

見覚えのない人

見覚えのない経験

それを受け止める私の手が、どうしようもなく穴だらけで

そして結局何も残らず、私の手から流れ落ちる

 

「――――――」

 

そこには何もない

キラキラしたモノが彗星のごとく現れては、流れ星のように姿を消す

見覚えのある景色

見覚えのある人

見覚えのある経験

それを持っていた私の手が、どうしようもなく傷だらけで

そして結局何も残らず、私の手から崩れ落ちる

 

「――――――」

 

そこには何もない

私もない

彼もない

誰もない

何もない

ただひとつだって、ありはしない

そう、ありはしなかった

 

「―――――ぁ」

 

そこには光があった

穴だらけの手から零れ落ちず

傷だらけの手から壊れ落ちず

大きな綺麗な、優しい光が

私の両手に収まった

 

「――――ぃや」

 

大きな大きな光の周りに小さな光が降り積もる

私の手では()えなかった

私たち(彼ら)が降り積もる

 

「―――ぃりや」

 

届かなかった

救えなかった

 

手をつないだ

笑い合った

 

名を取られた

姿を奪われた

 

いろんな光が積み重なり、()が満たされる

 

「―――イリヤ」

 

目覚めの時は近い―――

 

interlude out

 

 

 

 

 

side-I

「来たわねッ」

 

夜、ビルの屋上へときた私たちは鏡面世界へとジャンプした。その先に待ち構えていたのは、おおよそ人間の大きさではない、巨人と見紛うほどの巨躯を持った男だった。

 

「■■■■■ッ!」

 

目の前の巨人は、私たちの姿を確認するや否や、耳をつんざくような咆哮をあげ、地面を踏み鳴らして突進してきた。

 

「イリヤ!美遊!」

 

凛さんの声を合図に、私と美遊は左右に分かれて飛翔―――

 

「痛ッ!」

 

しようとして、境界世界を覆う天井に頭をぶつけた。

 

「いたたた……」

『イリヤさん!ボーっとしないでください!』

「ッ!うわッ?!」

 

ルビーの言葉を聞いて、近くに迫っていた巨人の攻撃を何とかかわした。ふぅ、今のは流石に肝が冷えた。

 

「やはり、鏡面世界が狭くなっています。あの図体(ずうたい)相手じゃ分が悪いですわ!」

「長期戦は危険よ!一気に方を付けて!」

 

確かに、あんなのに暴れ回られたら大変だ。私と美遊は互いに目を合わせると、巨人の周りを囲うように飛び始めた。

 

「中くらいの散弾!」

 

牽制のために魔力弾を放つ。いくら素早くたって、この間の槍兵よりは遅いみたいだし、何よりあの巨体なら完全に躱しきることなんてできない。だけど……

 

「嘘ッ?!」

 

巨人の身体に当たる寸前、その体表で魔力弾が掻き消えた。もしかして、あいつもあの黒い剣士みたいに?!

 

Anfag(セット)!」

Zeichen(サイン)!」

 

凛さんとルヴィアさんが手に持つ宝石を投げて追撃する。宝石は炎となって、巨体を覆い尽くそうと迫る。

 

「■■■ッ!」

「くっ!」

 

でも、巨人の腕の一振りですべて薙ぎ払われてしまった。

 

「シュート!」

 

凛さんたちの攻撃でできた僅かな隙に、今度は美遊が高威力の魔力弾を放った。魔術師の黒化英霊にダメージを与えた、あの攻撃なら!

 

「■■■■■ッ!」

 

しかし、巨人は意に介さず、それどころか美遊の方へ凶悪な腕を突き出して突進していった。

 

「美遊!」

「ッ?!」

 

美遊は巨人の突進を寸のところで跳んで躱し、そのまま距離を取った。対象の居なくなった腕はそのまま、美遊の背後にあった壁を大きく抉った。

私も体制を立て直すため、慌てて美遊の方へ飛んでいく。

 

「魔力弾が効かない?!あいつも対魔力を?!」

「いえ、違います。もっとこう、さらに高度な」

「だとしたら、考えられる可能性は―――」

 

――宝具――

 

あれが、あの巨人の宝具なの?

 

「だとすれば、突破口は一つしかないですわね」

「ええ、あの破壊力は厄介よ。足止めができないんじゃ―――来るわよ!散ってッ!」

 

再び突進してきた巨人を、皆散り散りになって躱す。

 

「とりあえず!イリヤは効かなくてもいいから、上空から魔力弾で注意をそらして!美遊は隙を見つけ次第打ち込みなさい!」

「はい!シュート!」

 

私は巨人の上を絶えず動き回りながら魔力弾を放ち、捕まりそうになったら高度を上げての回避を繰り返した。

 

「■■■ッ!」

 

私の攻撃に業を煮やしたのか、地面を蹴り、その巨体からは信じられないほどの跳躍力で私の目の前に現れた。

 

『ッ?!障壁、物理防御、全開ッ!』

「ぐッ!」

 

咄嗟にルビーを前に出し、巨人と私との間に魔法障壁が展開される。しかし、巨人の腕力には叶わず、そのまま地面に叩き付けられてしまった。

 

「イリヤ!」

「だ、大丈夫!それよりも、凛さん!ルヴィアさん!」

 

私はあちこちが痛む身体を無理して起き上がり、巨人の方へ視線を向ける。私を攻撃するために跳んだ巨人は、叩き付けられた私に遅れるように着地しようとしていた。

 

「任せなさい!Anfag(セット)!」

「よくやりましたわ!Zeichen(サイン)!」

 

凛さんとルヴィアさんが呪文と共に再び宝石を投げる。狙いは巨人―――ではなく、着地地点!

 

「■■ッ?!」

 

巨人が下りてきた地面は凛さんたちの攻撃で罅が入り、巨体の重さに耐えきれずに崩れ始めた。

 

「今よ!」

限定展開(インクルード)!」

 

今まで機を伺っていた美遊が、手に持つサファイアにクラスカードを翳す。そして、私たちのよく見覚えのある姿へと変わった。一度(ひとたび)放たれれば、相手を必ず死に至らしめる、文字通り必殺の槍。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

「ッ?!■■■■■ッ!!」

 

バランスの崩れた足場では為す術もなく、巨人は赤い槍に貫かれた。

 

 

 

 

 

 




主人公不在の件

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