未来の本因坊   作:ノロchips

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第17話

 ある程度時間には余裕を持たせたつもりだったけれど、私が会場に足を踏み入れた時には既に結構な人数が集まっていた。

 受付を済ませ、出場者の証である花の徽章を胸に付ける。そんな中、一際見知った顔――落ち着かない、緊張を隠しきれないといった様子の少女を見つけ、私はその子の元に駆け寄った。

 

「おはよう奈瀬さん。今日は頑張ろうね」

「ひゃっ!? ……な、何だ彩か。驚かさないでよまったく……」

 

 ……普通に挨拶をしただけなのに随分な言われ様だ。

 

「そんなに緊張してるの? ……何か意外だなぁ。この前はあんなに張り切ってたのに」

「……意外って何よ。そりゃ出場が決まった時は嬉しかったけどさ」

 

 もっともよくよく周りを見渡せば、彼女に限らず院生の子達は皆何処か強張ったような顔つきをしている。

 一部ではお祭り事なんて言われているこのイベントも、やはり彼らにとっては重要な意味を持つんだろう。

 

 

「やっぱり緊張するわよ……プロが相手なんだから」

 

 

 

 ――若獅子戦

 

 毎年5月に開催され、20歳以下かつ五段以下のプロ16名と、院生上位16名の計32名で争われるトーナメント制の大会。

 1組に昇格してから2ヶ月。それからも連勝を続けた私は遂に1位にまで順位を上げ、晴れて院生のトップとしてこの日を迎えていた。

 

「アンタは随分落ち着いてるわね。……院生1位の余裕ってやつかしら?」

「……もう、やめてよ。それに私だって少しは緊張してるんだから」

 

 院生の棋力向上を目的として設立された若獅子戦は、棋戦と言うよりも親善試合に近い意味合いを持っている。

 特に対局料が支払われるという訳でもなく、何より出場者の半数は格下の院生。そういった事情も相まって、残念ながら若獅子戦におけるプロ棋士の意欲は決して高いとは言い難い。敢えて目的を見出だすとすれば、同世代の注目棋士の観察か、あるいはかつて自分の後輩だった者達への激励か、それくらいのもの。

 一方で院生側のこの大会に懸ける想いは強い。非公式とは言えプロと正面切って戦える貴重な機会。何よりこの場での勝利は、目前に控えたプロ試験への確かな自信に繋がるからだ。

 

「へー、アンタでも緊張したりするんだ? それこそ何か意外だわ」

「……奈瀬さんは私を一体何だと思ってるの?」

「そのセリフ、そのままアンタに返してあげる」

 

 そして私はと言うと、実際そこまで結果に対して貪欲という訳ではなかった。

 もちろん私にとってもプロと戦えるこの大会は貴重であり、付け加えるならば個人的に是非戦ってみたい相手だっている。それに自分のレベルを考えれば優勝だって十分視野に入れられるだろう。

 だからと言ってプロ相手に確実に勝つなんて断言する程自惚れるつもりもないし、何より他の院生と決定的に違うのは、この場での勝利自体が私にとって特に意味を持たないという事。

 

 故に私が重視していたのは結果というよりはむしろ内容。単純に普段の院生手合いよりも一段上の相手、プロ棋士との戦い自体を純粋に楽しみにしていたのだ。

 勝利を目指す戦いである事だけは変わらないけれど、決して負けられない戦いではなかったから。私にとってもこの大会は……お祭りだったから。

 

「ま、でも彩なら結構いい線行くんじゃないの? もしかしたら3回戦くらいまで……」

「何言ってるの奈瀬さん」

「え……?」

 

「……私は優勝する気満々だよ?」

 

 ――ほんの数日前までは。

 

 

 ―――

 

 

「呆れた……何かもう、言葉も出ないわ」

「い、いーじゃん別に。どうしても欲しい物があるの!」

「多分アンタくらいよ? 優勝賞金目当てでこの大会に臨む人なんて」

 

 大会と銘打つ以上、当然この若獅子戦にも成績に対する報酬は用意されている。

 しかしそれも精々アマの地方大会に毛が生えた程度の額であり、囲碁で生計を立てている棋士達にとっては有って無いようなもの。通常の棋戦で支払われる1回分の対局料の方がよっぽど高いくらいだ。少なくともそれは彼らのモチベーションにはなり得ないだろう。

 そしてそれは院生側にも言える事で、元より相手は格上で自分達の目標でもあるプロ棋士。一つ勝てれば御の字、二つ勝てれば出来すぎ。仮に院生上位であったとしても、余程自信がない限りは端から優勝を目指す者などいないはず。

 

 奈瀬さんの言うように、確かに優勝賞金を目当てにしてる人なんて私くらいだろう。

 それでも今の私にとってこの賞金は、本当に本当に大きな意味を持っているのだ。

 

 ……これさえあれば、私達の囲碁部に必要な、4つ目の碁盤が手に入るのだから!

 

 

「何かアンタを見てると緊張してる自分が馬鹿馬鹿しくなってきたわ。……うん、もうごちゃごちゃ考えるのやめた! 結果は二の次、当たって砕けろよ! それに、院生16位が勝つなんてだーれも期待してないだろうし!」

 

 奈瀬さんは半ば開き直った様にそう口にする。まあ前半の失礼な言い分には若干不満が残るものの、意気込みに関してはその通り。今の彼女にとって一番大切なのは、自分の力を出し切る事なのだから。

 

 それに、私は決して彼女が端から勝負を捨てるようなレベルでは無いと思っている。相手がプロとはいえ、まだまだ低段の若手棋士達。院生の上位陣と比べて然程大きな差があるというわけでもない。

 そしてこの2ヶ月間、そんな人達の中で揉まれ続け、遂にはこの若獅子戦の出場権を勝ち取るまでに成長した奈瀬さんならば、番狂わせを起こすことだって十分にあり得る話だろう。

 

「でも……他の誰も期待してなくたって、私は奈瀬さんが勝てるって信じてるよ? 奈瀬さんの頑張りは私が一番良く知ってる。ずっと近くで見てきたんだから」

「よ、よくもまあ真顔でそんな恥ずかしいセリフを言えるわね……」

 

 照れ臭そうに奈瀬さんは顔を背ける。……確かに自分でも言ってて少し恥ずかしいけれど、これも彼女への期待の現れだ。

 それに順位だって気に病む様な事じゃない。まだまだ奈瀬さんは強くなっている途中、若獅子戦を迎えた今の順位が16位だった、それだけの話。

 私は16位からその年のプロ試験に合格した人だって知っているんだからね。

 

 ……まあ、あれは多少規格外と言うか、レアなケースなのかもしれないけど。

 

「……でも、ありがとね。アンタのお墨付きなら頑張らない訳には行かないわよね!」

「うん、その意気! ……さ、行こっか。そろそろ始まるみたいだよ」

 

 気が付けば大会開始数分前。私達は揃って各々の対局席へ向かっていった。

 

 

 ―――

 

 

 1回戦、私の対戦相手は初段の女流棋士。打っている限りは院生上位と同程度の棋力、むしろ伊角さん、本田さん、真柴さん、そういった人達の方がまだ強い様に思う。優勝をはっきりと意識している私にとっては……失礼だけど、いわゆる当たりの部類に入ってしまうのかもしれなかった。

 

 ……よし、ここに回ればもう形勢は動かないね。

 

 対局も終盤に差し掛かり、現状の最大場である左下隅に先手で着手した私はほぼ勝利を確信していた。既に地合いは大差、流石にここまで来れば相手も打つ手無しだろう。

 

「何で……強い子が……院生……よ。勝てるわけ……」

「え……?」

 

 対面から微かに聞こえた呟きに思わず顔を上げる。そして私と目が合った瞬間、彼女はどこか怯えたような表情に変わり……

 

「……ありません」

 

 項垂れる様に投了を宣言すると、慌ただしく石を片付け、そのまま足早に席を立ってしまった。

 

 ……えーっと……私、何か失礼な事しちゃった?

 

 結局彼女が何を呟いていたのかも、そして何をそんなに怯えてたのかもわからず、私は一人首を傾げる他なかった。

 

 

「ほう……もう終わったのか」

 

 そんな中、不意に背後から聞こえた声に振り返ると、私の目に飛び込んできたのは真っ白なスーツを身に纏った男性……緒方先生の姿だった。

 正に青天の霹靂と言うか、突如現れた予想だにしない人物に内心驚きながらも、私は慌てて椅子から立ち上がり、彼に頭を下げる。

 

「こ、こんにちは緒方先生。ご無沙汰してます」

「久しぶりだね。対局は……君の勝ちかい?」

「はい。何とか……」

「フッ……何とか、か。まあとりあえずおめでとう、と言っておくか」

「はあ、ありがとうございます。ところで緒方先生は何でここに?」

 

 何だか含みのある返事はとりあえず置いておき、私は脳内の大半を占めている疑問を率直に彼にぶつけた。非公式、しかも若手プロと院生の親善試合。タイトル奪取も時間の問題と噂される程の棋士がわざわざ見に来るような場所でもないだろうに。

 

「たまたま棋院に用事があったんだが……アキラ君から君が院生になったと言われた事を思い出してね。少し覗いてみようと思ったのさ」

 

 ――肝心の対局は見れなかった訳だがね。

 彼はそう付け加えると、薄く笑いを浮かべながら両手を広げる。

 

「今日は余り時間が無いから2回戦は見れそうに無いが……まあ君なら明日の3回戦以降にも残るだろうし、楽しみは明日にとっておくとするかな」

 

 わざわざ私の対局を見に、か。その上3回戦に残って当然の様な口ぶり。何とも身に余るお言葉だ。

 とは言っても、実際この人は私と塔矢先生の対局を見ている訳で、注目されるのだって良く良く考えてみれば当然なのかもしれないけれど。

 

「はい。私も優勝を目指してるので、明日以降も残れるように頑張ります」

「順当に行けば君の相手になるのは倉田くらいだろうな。……君と倉田はいつ当たるんだい?」

「…………準決勝、です」

 

 そう、私もまた倉田先生との対戦がこの大会の最大の山場だと考えていた。だからこそ緒方先生の問いに対し、私はすぐに答えを用意できたのだ。

 

 今現在の彼の快進撃は、おおよそ囲碁に携わっている人ならば嫌でも耳に入ってくる。

 19歳の若さにして本因坊リーグ入りを果たし、昨年に達成した25連勝という大記録は記憶に新しい。

 既に低段には敵無し状態で、この若獅子戦も2連覇中の彼は、当然今大会も優勝候補の筆頭だ。

 

「準決勝か。そこで君と倉田が戦うのならば、明日も棋院に足を運ぶ価値は十分にありそうだな」

「……はい。私も倉田先生とは是非戦ってみたいと思っているので」

 

 そして彼との対局は、大会優勝の最大の難関にして、同時にこの大会における私の最大の楽しみでもあった。恐らく塔矢先生以来となる久方ぶりの全力対局。棋士として心が震えないはずが無いのだから。

 

「ああ、俺も楽しみにしているよ。さて、そろそろ時間か。その前に……お気楽弟弟子に発破でも掛けて来るかな」

 

 チラリと腕時計を見やり、そして一呼吸置いて緒方先生が向けた視線の先には……

 

「いやー危うく負けるとこだったよ! 君、強いねー。誰かプロの先生に就いてるの?」

「え、えと……森下九段に……」

「あー森下先生! 確か冴木君も同門だったよねぇ?」

「は、はあ……」

 

 目下自分達の最大のライバルである塔矢門下の棋士にタジタジになっている和谷と、そんなライバル心など知る由もなく、ひたすら陽気にマシンガントークを浴びせる芦原先生の姿があった。

 

「確かアイツの2回戦の相手は倉田のはずだが……まァあの様子だと、期待薄だな」

「あ、あはは……」

 

 ため息と共に緒方先生は歩き出すと、私と和谷が見つめる中、悲鳴を上げる芦原先生を引き摺りながら会場の外へ消えていったのだった。

 

 

 ―――

 

 

「結局3回戦まで残ったのは……伊角さんと星川だけか」

 

 昼休み。私、奈瀬さん、和谷、伊角さん、本田さん、フクの6人は、棋院近場のハンバーガーショップで遅めの昼食を採っていた。

 

「2回戦には結構進んだんだけどな。確か6人だっけ? その二人に、オレ、真柴さん、足立と……」

「それに、奈瀬さんもね」

 

 指を折りながら一人ずつ名前を挙げていく本田さんに、合いの手を打つように自分の隣に座る少女の名を口にする。

 

「……まさか奈瀬が勝つとはなぁ」

「ちょっと和谷、それどういうイミよ!」

 

 そんな和谷の軽口に奈瀬さんは噛み付くものの、言葉面とは裏腹にその表情はどこか嬉しそうで。きっとそれはプロに勝ったという結果、そしてそれを達成する事が出来た自分を本当に誇らしく思っているからなのだろう。

 

「何も不思議じゃないさ。ここ最近の奈瀬の成長ぶりは本当に凄いからな」

「うん、ボクも最近はずーっと負けっぱなし。それに先生も誉めてたよ?」

「た、たまたまだって! 勝った対局だって終盤に相手のミスがあったからで……」

 

 そして続けざまに寄せられた伊角さんとフクの誉め言葉に、今度は顔を赤らめながら手をブンブンと横に振る。

 奈瀬さんの実力、そして成長を皆が認めてくれている。彼女の努力を間近で見てきた私にとっても、まるで自分の事の様に嬉しかった。

 

「くっそー、オレも惜しかったんだけどな。……ま、とにかく伊角さんに星川! 二人とも頑張ってくれよ!」

「うん。もちろん頑張るよ!」

 

 悔しい気持ちを滲ませながらも、勝ち残った私達へ和谷は純粋に応援してくれる。その言葉に私は力強く返事をし、改めて気合いを入れ直した。もう院生は私と伊角さんしか残っていない。私達が院生の代表なんだから。

 

「ああ、オレも頑張る……と言いたい所だが」

 

 しかしどうも伊角さんの歯切れは悪い。そして、その理由を付け加える様に本田さんが口を開いた。

 

「まあ、伊角さんは3回戦の相手が倉田さんだもんな。オレも少しだけ見たけど、やっぱあの人滅茶苦茶強いぜ。芦原さんだって若手の中じゃ強い方なのに」

 

 ……そっか。伊角さん、次が倉田先生なんだ。

 

 私も自分の2回戦を終えた後、奈瀬さんと共に彼の対局を見に行った。しかし残念な事に、私達が盤面を覗き込んだ時には既に碁はほとんど終わっていた。……終局という意味では無く、倉田先生の圧倒的優勢、そういう意味でだ。

 

「全く本因坊リーグに入る様な人が何で若獅子戦なんかに出てくるのよ」

「棋力と段位は関係無いって、ホントあの人の為に有る様な言葉だよな」

 

 奈瀬さん、本田さんの言い分ももっともだ。大会的にも正直場違いと言うか、不釣り合いなレベルの棋士だと思う。

 昇段規定が大手合制の現在だからこそ四段という現状に甘んじているだけで、彼の実績を考えれば文句無く高段クラスの強さだろう。

 

 ちなみに私のいた未来の世界では、この時代の昇段規定である大手合制は既に廃止され、棋戦成績や獲得賞金によって段位が上がっていくシステムに変わっている。

 一例として、本因坊リーグに在籍する六段以下の棋士は七段に無条件昇段する規定があり、その例に当て嵌めるならば既に七段になっているはずの倉田先生は、若獅子戦の出場資格を失う事になるのだ。

 

 まあ付け加えると、リーグ入りどころか本因坊を持ってる人がこの大会に参加している訳なんだけど、もちろん彼らはそんな事知る由もなく。

 ……改めて考えると、私も大概場違いな気がしてきたよ。

 

「そんなんでどーすんだよ伊角さん! 星川も何とか言ってやれって!」

「え? ……わ、私?」

 

 一人物思いに耽っている中、相変わらず何処か気合いが入りきらない様子の伊角さんに対し和谷が不満の声を上げ、唐突に私に話を振った。その言葉に他の皆が一斉に私に視線を集める……今や院生トップとなった私の言動に期待を込めて。

 

 ……何とかって言われてもなぁ。まあ厳しい相手だろうけど、ここにいる全員がいずれはプロになって、そういった人達を倒して行く事を目標としているんだ。確かに相手に呑まれてる様じゃこの先戦って行けるはずもないよね。

 仕方ない。ここはプロの先輩として、1つ私の意気込みって奴を披露してあげましょうか。

 

 コホンと一つ咳払いをし、私は改めて皆に向き直って……宣言した。

 

 

「相手が誰でも関係無いよ。少なくとも私は……優勝するつもりなんだから!」

 

 

 果たして私の言葉に対する5人の反応は、一様に目を丸くするばかりで。

 

「あ、あれ?」

 

 拍手喝采を予想していた私は、反して訪れた静寂に1人戸惑いを隠せずにいた。

 

「そう言えばアンタそんな事言ってたわね……」

「振っといて何だけど、オレも流石にそれは予想外だったわ……」

「ゆ、優勝は行き過ぎじゃないか?」

「なあ星川、若獅子戦の院生最高成績知ってるか?……準優勝、しかも院生時代に倉田さんが叩き出したんだぜ」

「すごいや星川さん!」

 

 そしてその視線は期待から呆れに変わり、同時に立て続けに浴びせられる言葉達。フクの一言だけが私の唯一の救いだった。

 

 ……くっ、揃いも揃って。確かに私と皆じゃ意識が違うのは仕方ないことだけど、これじゃまるで私が非常識みたいじゃないか!

 

 堪らず私は異を唱えようとするも、それを遮るように奈瀬さんがため息混じりに口を開いた。

 

「ま、この子が言いたいのは優勝するくらいのつもりで戦いなさいって事よ。そうでしょ、彩?」

「そ、そうだよ! それそれ!」

 

 そう、私が言いたかったのはまさにそれだ。大事なのは勝利への意思、勝ちに行く気持ちが無ければ始めから勝負を捨てているのと一緒なんだから。

 

「……でも、確かにそうだな。むしろ折角倉田さん程の人と戦えるっていうのに、こんな気持ちで臨んだらもったいないよな!」

「そうだよ伊角さん!」

「ありがとう星川。何だか吹っ切れたよ」

 

 伊角さんもそれを理解してくれた様で、先程までとは打って変わり、私の言葉に力強く答えてくれた。

 

 ……よかったよかった。これで私の面目も立ったかな。奈瀬さんには感謝しないと。流石私の親友、何だかんだ言いながらもやっぱり奈瀬さんは私の気持ちをわかってくれてるんだね!

 

 これでようやく一段落。晴れて私達二人は明日の3回戦、そしてその先への勝利を胸に誓い……

 

 

「まあ彩自身は本気で優勝するつもりみたいだけど。……何たってアンタには優勝を目指す理由があるんだもんねー?」

 

 あ、あれ? 何か様子が……

 

「ねえ皆聞いて? 彩ったら実は優勝賞金を……」

「……ちょ、ちょっと奈瀬さん!?」

 

 

 

 いくら勝利への意識を説いたところで、その根底に物欲が有る事をバラされてしまっては説得力もクソもない。

 

 全くもって台無しだった。




大手合:プロにおける昇段の為の手合。この成績によって段位が上がっていく。2003年~2004年にかけて大手合制度は廃止され、タイトル獲得を始めとする棋戦成績や、賞金ランキングによって昇段するシステムに変更された。

本因坊リーグ:七大棋戦の一つである本因坊戦における、予選を勝ち抜いた上位8名で行われるリーグ戦。この成績によって挑戦者が決まる。

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