とある少年が、全女性ジムリーダーのおっぱいを揉むという夢を抱いたそうです 作:フロンサワー
レッドの性格がえらいあれなので修正しました。
ども、ライムです。今回はタチワキシティに来ています。
映画に出演してからはや数日。引っ切り無しに家族や友達、ジムリーダー、四天王、果てにはチャンピオンから連絡が来た。おめでとうとか、意外だとか、みんなお祝いの言葉を贈ってくれた。
だけど、ホミカちゃんだけが僕に連絡してくれなかった。何となく気になって、いい機会だし遊びに行こうと思ったんだ。
……嫌わらてる、とは考えたくないな。僕の夢を認めてくれた、数少ない1人だもの。
暫く歩き、タチワキジムに辿り着いた。お土産のスイーツもあるし、準備は万端。行くっきゃないぜ!
「ホミカちゃん、遊びに来たよ!」
タチワキジムに入った次の瞬間、僕は目を見開いた。前に来たときは、ジムの内装はライブ会場のようだった筈。それが今はどうだろうか。ヒビ割れた照明、壊れかけたアンプ、散乱した椅子やテーブル。まるで、ファン同士の乱闘があったみたいだ。
只事じゃないと一目で分かった。それくらい酷い惨状だ。ホミカちゃんはどこにいるかと目を走らせると、せっせとジムの片付けをしているスキンヘッドのクックさんとギタリストのルーさんがいた。
話を聞くべく、僕は2人に近づいた。
「ども、お久しぶりっす」
「あら、ライム君じゃない。本当に久しぶりね」
確かに久しぶりだ。ホミカちゃんのおっぱいを揉んで以来だもの。だけど、つい昨日のようにあの感触が蘇る。もう一回揉みたい。
「あの、どうしたんですかこの惨状?」
僕がそう言うと、途端にルーさんは顔をしかめた。
「ああ、これは………… ああああああああ!!! 思い出しただけで腹が立つうううううううう!!!」
「!!??」
突然、ルーさんが椅子を床に叩きつけた。その衝撃に耐えられず、椅子はバラバラになってしまった。
勝手ながら、ルーさんは冷静沈着なクールビューティーだと思っている。ホミカちゃん のおっぱい揉んでも冷静だったし。
そんな彼女がかなりご立腹である。本当に何があったんだ!?
「実はよ、ついこの前に挑戦者が来たんだ。赤い服を着た妙な奴でよ、あっという間にホミカのポケモンを全滅させやがったんだ。闘いの余波でジムもこの有様だ。信じられない強さだったぜ……」
「それだけなら良かったわ!! だけど、あの男、ホミカに勝ったってのにジムバッジすら持っていかなかったのよ!! そんなものに興味はない、みたいな目をしてね!!」
「……ホミカちゃんは、今どこに?」
「多分、ポケモンセンターだと思うぜ。ホミカのポケモン、かなり重傷だったからな…… って、おい!!?」
僕はタチワキジムを飛び出し、ホミカちゃんのいるポケモンセンターに向かった。
走る、走る、ひたすら走る。走り続けたおかげで、そう長い時間もかからずポケモンセンターに着いた。
ポケモンセンターに入る。ホミカちゃんはどこにいるかと、僕は目を走らせた。
ロビーのソファーに座っている銀髪の少女がいた。首元にはペンドラーを模したベースギターがぶら下げてある。間違いようもない、ホミカちゃんだ。
どんな言葉を掛ければいいのか、まったく考えていなかった。それでも、僕はホミカちゃんへと足を進めた。彼女の目は、少しだけ赤くなっていた。きっと、今の今まで泣いていたのだろう。放っておくなんて、僕にはできなかった。
「ホミカちゃん」
「っ!? よ、よお、ライム! 久しぶりだな!!」
僕に気づいたホミカちゃんは取って付けたような笑顔を浮かべ、無理矢理な明るい声を上げた。きっと、心配をかけないようにしてるのだろう。
そんな痛々しい姿を、僕はこれ以上見ていられなかった。
「全部聞いたよ、ホミカちゃん。だから、ムリしなくてもいいんだよ?」
「……な、何言ってんの? あたしは……」
じっとホミカちゃんの目を見つめる。やがて、ホミカちゃんは観念したかのように深く息をついた。
ホミカちゃんの表情が徐々に暗いものに変わっていった。やはり、彼女が心に負った傷は大きいようだ。
「あたし、何もできなかった。ジムリーダーなのに、自分のポケモンが傷付くのを見てる事しかできなかったんだ……。ジムリーダーなのに、情けなくて、悔しくて……! ジムバッジすら、受け取ってくれなくて……!」
「……」
ホミカちゃんの頬に涙が伝う。その姿が7年前の僕の姿と重なった。
誰もが味わうであろう挫折。どう足掻いても越えられないであろう大きな壁。彼女は今日、初めてそれにぶちあった。
この歳でジムリーダーになれるんだ。誰よりも才能があったのだろう。誰よりも努力を積み重ねてきたのだろう。挫折を知らないのも当たり前だ。
彼女の頬に伝っている涙を拭った。
「ホミカちゃんは悪くないよ。どんな人にだって、そう思う瞬間が必ず来るんだ。それが、たまたまこんな形になっただけさ」
「でも……!!」
悔しいと思えるなら、情けないと思えるなら、彼女はもう大丈夫だ。乗り越える事を諦めてさえいなければ、誰かの後押しだけできっと立ち直れる。
なら、僕がすべき事はーー
「1番悪いのはその挑戦者だ。待ってて、絶対にバッジを渡してみせるから」
★☆★☆★☆★
寒風吹き荒む山路を僕は歩いていた。
ここはシロガネ山。凶暴な野生ポケモンが住み着く危険地帯だ。修行のときはお世話になりました。
轟々と雪が吹き荒れる。流石は危険地帯、天候も危なっかしい。だけど、そんな吹雪の寒さなんて気にならない程、心の奥底から怒りが湧き上がっていた。
女の子を泣かせた。変態紳士として、そんな下衆な行為をする男を許してはいけない。だけど、この怒りはきっとそれだけじゃないのだろう。彼女は、僕の夢を初めて笑わないで聞いてくれた人だ。僕は、自分が思っている以上に彼女の事をーー
「やあ、探したよ」
シロガネ山の頂上に、まるで全てを見下ろすかのように佇んでいる一人の男がいた。
赤い帽子に、赤い服装。白銀の世界に紛れ込んだ、異質な赤だ。タチワキジムにやってきた挑戦者の服装と合致している。
「……」
「そう睨まないで。僕は話をしに来ただけだよ、レッド君」
彼の名前はレッド。赤い服装、ポケモンバトルの実力者というキーワードで情報を集めたら、真っ先に彼の名前が挙がった。
彼の事を少し調べるだけで、他にもとんでもない情報がワンサカと溢れてきた。カントー地方全ジムリーダーを制覇、ロケット団を壊滅、道行くトレーナーを片っ端から負かす、そしてポケモンリーグの制覇……。恐ろしい事に、彼はこれらの偉業を僅か11歳で成し遂げた。
現ポケモンリーグのチャンピオン…… の筈だが、チャンピオンの座を奪ってからすぐ、彼は行方をくらましてしまったらしい。今ではワタルさんがその座に就いているとか。
僕の情報網を以ってしても、レッドの足跡を全く掴めなかった。手詰まりだと思いかけた中、赤い亡霊がシロガネ山の頂上に現れるって噂を聞いた。気になって来てみたけど、まさかビンゴとは思わなかった。
まあ、そんな事はどうでもいい。
「タチワキジムって覚えてるだろ? 君がついこの前に挑戦したジムさ。そこのジムリーダーに勝っても、ジムバッジを受け取らなかっただろ? そのせいでホミカちゃ…… ジムリーダーが泣いていたよ」
静寂が辺りを支配する。ふと、レッドは一切表情を変えずに口を開いた。
「……それは悪かった」
あ、あれ? 意外と素直だ。想像と大分違うんだけど。なんか、もう一押しすればジムバッジを受け取ってくれそうな気さえする。
「それなら、ジムバッジを受け取りにーー」
「そのつもりはない」
キッパリと、疑いようもなくそう断言された。
「ど、どうして……」
「自分の実力がどこまで通じるか試したかっただけだ。もとからバッジを受け取るつもりはない」
やべえ。その気持ち、凄くよく分かるんだけど。というか、まんま僕じゃねえか!
だからといって、差し出されたジムバッジを受け取らなくていい理由にはならない。多かれ少なかれ、ジムリーダーはジムバッジを渡すのに、それなりの思いを込めているのだから。
「ジムリーダーに勝ったトレーナーがバッジを受け取るのは義務だよ。早く行きなって」
「……くどい。どうしても受け取ってほしいなら、俺に勝ってみろ。まあ、無理だろうがな」
ブチリ、と何かが切れた。僕がバカにされる分はまだいい。だけど、さっきの言葉は僕のファミリーまで含めているように聞こえた。そりゃそうだ。ポケモンバトルはトレーナー1人が戦う訳じゃない。ポケモンとトレーナーで戦うものだ。
これ以上言葉を交わす意味も、そんなつもりもない。勝って従わせる。それだけだ。僕はモンスターボールに手を掛けた。
「ああそうかい。なら、完勝して連れてってやるよ!」
「……前言撤回。最高に楽しめそうだ」
互いにモンスターボールを投げるモーションに入る。
薄々だけど分かっていた。完璧な勝利を収めないと、レッドがホミカちゃんのバッジを受け取ってくれる訳がないって。
これまでにない意味での勝ちたいという思いを秘め、ボールを宙に投げた。
「行け、王子!」
「ピカチュウ、出番だ」
僕のボールからは王子、レッドのボールからはピカチュウが繰り出された。
王子は草・毒タイプ。ピカチュウは電気タイプ。純粋なポケモンの力量と、トレーナーの腕が試される。
『どうした、ライム。いつになく真面目な表情ではないか。熱でもあるのか? というか、かわい子ちゃんはいないのか?』
「王子、マジカルリーフ!」
王子の花束に似た両腕から、幾ばくもの刃のような葉が空を切る。
マジカルリーフは必中技だ。どうやったって躱せない。先手は貰った!
「アイアンテール」
マジカルリーフが直撃する寸前、ピカチュウの尾っぽが銀色に輝いた。金属特有の煌びやかな光沢がそこにはあった。
一閃、二閃、三閃。
ピカチュウがそれだけ尾っぽを振るうと、全ての葉っぱがヒラヒラと白い大地に吸い込まれていった。ついぞ、マジカルリーフはピカチュウに届かなかった。
これには、流石の王子も大きく目を見開いていた。王子も分かったのだろう。相手は今までにない強敵。今までにない、だ。
『成る程、中々やるようだな……』
王子はきりりと目を細めながら、花束を前に突き出した。久々に見た真面目モードだ。いつでもこれなら、モテモテだったろうに……。
「10万ボルト」
「ぴかー!」
ピカチュウを起点に、黄色い閃光が王子を襲った。速っーー!!?
『ぐああああああああああああ!!!??』
「王子ぃぃぃぃぃ!!!!???」
王子が黒煙に呑まれた。なんて恐ろしい威力。たった1発でこれか……!!
王子をボールに戻し、新たなモンスターボールに手を掛けた。急げ! ピカチュウから別のポケモンに変わってしまう!
僕はモンスターボールを宙に投げた。
「電光石火」
ピカチュウが地面を蹴った。轟音と共に、雪が舞い散った。
ピカチュウは瞬く間にボールとの距離を詰めた。おいおい嘘だろ、スモモちゃんの親父さんより速くないか!?
「頼む、イケメソ!!」
『王子の仇、討たせてもらうよ』
ボールからイケメソが繰り出された。イケメソは電気タイプと地面タイプを併せ持っている。電気技は無効だ!
「アイアンテール」
ピカチュウの尾が銀色に輝いた。アイアンテールは鋼タイプの技だ。イケメソには効果半減である。しかし、電光石火の勢いも加わり、威力は上がっている。
必殺の尾がイケメソに振り下ろされた。確かに鈍足なイケメソにはこれを躱せない。だけど、何の対策も無くイケメソを出したと思うなよ!!
「イケメソ!」
『分かってる!』
イケメソは身体を翻し、ピカチュウの尾に対して平行になる。あまりの薄さに、目標を失ったアイアンテールは空を切った。
ピカチュウは何度も尾を振るった。イケメソはその度に平行になり、ピカチュウのアイアンテールを躱し続けた。
そんな線の攻撃なんて当たらない。マッギョの薄さを甘く見るなよ! 見ていて心配になる薄さなんだぞ!!
「ピカチュウ!」
「ぴっ!!」
性懲りもなく、ピカチュウはアイアンテールを振り続けーー 待て、この軌道は!?
『ぐがぁっ!!!??』
鈍い音が響いた。アイアンテールがあの細い身体に命中したんだ。イケメソは顔を歪ませて、後方へと吹き飛んだ。相変わらずブッサイクだなあ…… とか思ってる場合じゃない!! あれだけのやり取りで、マッギョの薄さに対応したってのか!?
「大地の力!」
空中で体勢を立て直し、ピカチュウの足元にエネルギーを送る。当たらないまでも、せめて牽制くらいには……!
「電光石火」
ピカチュウの足元が紅く輝いた。
割れた地面が勢いよく盛り上がり、雪を宙に舞い上げた。しかし、ピカチュウは既にそこにいない。数歩先の地面を蹴っていた。
イケメソは何度も何度も大地の力を放つ。しかし、あまりのスピードにピカチュウを捉えきれない。ジグザグに動きながらも、ピカチュウは着実に距離を詰めている。
ピカチュウは尾で地面を叩き、そのまま上空へと跳んだ。
「アイアンテール!」
「受け止めろ!!」
ピカチュウの尾が振り下ろされた。
アイアンテールが直撃しつつも、イケメソは全身を使ってピカチュウの尾を包み込んだ。イケメソが体を張って掴んだチャンス、絶対に逃さない!!
「10万ボルト!!!」
イケメソの全身から眩い電撃が奔った。
10万ボルト。ピカチュウには効果が今ひとつだ。だけど、効かない訳じゃない!!
10万ボルトの出力が上がっていく。ピカチュウの表情が徐々に苦痛なものへと変わっていった。
「振り落とせ!」
ピカチュウは尾を精一杯振るうけど、イケメソは離れない。
『意地でも離れないよ……。あの子のためにも、ライム君のためにも……!』
「ッ……! 地面に叩きつけろ、アイアンテール!!」
「最大パワーだ、イケメソさん!!」
重力に引っ張られ、2匹とも白銀の地面に吸い込まれていく。
ピカチュウが尾を振り上げた。イケメソは更に電気の出力を上げた。どちらが先かで勝負が決まる……!!
轟音が響いた。イケメソが地面に叩きつけられてしまったからだ。その直後、雪と土埃が2匹の姿を覆ってしまった。まさか、イケメソが負けーー
「「……!!」」
陥没した地面の中心に伏せているのは、ピカチュウとイケメソだった。ただ、ピカチュウの尻尾には変わらずイケメソが巻きついていた。
どう考えても2匹とも戦闘不能。これ以上のバトルは無理だ。
「ナイスファイト、イケメソ」
「良いバトルだった、ピカチュウ」
イケメソをボールに戻した。
まさか、イケメソでも相討ちに持ち込むしかできないなんて……!
3匹目のモンスターボールに手を掛ける。僕がすべきは、イケメソの犠牲を無駄にしないこと! 反省は後だ!
「いけ、カビゴン」
「おぉぉぉん……」
「いくよ、サッちゃん!」
『こいや肥満野郎!! ストレス発散させろオラァ!! どうして私じゃなくあの小娘ばっかり構うんだオラァ!!!』
カビゴンとサーナイトのサッちゃんが雪原に降り立った。
カビゴン……! その巨体に似合った超絶パワーは驚異の一言だ。だけど、スピードはかなりお粗末。ここは接近されないように注意してーー
「のしかかる」
カビゴンの姿が消えた。
直感的に上を見上げると、そこには両手両足を大きく広げてのしかかろうとするカビゴンの姿があった。
跳んだああああああああ!!! 460kgが跳んだああああああああ!!!! どんな脚力だよ!!?
その重量も相まって、カビゴンの巨体がとんでもない速度でサッちゃんに迫る。
「サイコキネシスで受け止めろ!」
『ちょ、やめ、マジやめて!!』
サイコキネシスでカビゴンを受け止めた。しかし、あまりの重量で支え切れずに、少しずつサッちゃんに迫っている。
サッちゃんは半分泣き顔でサイコキネシスを繰り出している。あんな巨漢にのしかかられるなんて悪夢以外の何者でもない。僕だって泣く。というか、あのカビゴン少しニヤついてないか?
こうなったら、メガシンカで一気にーー
『むぎゃ!?』
「サッちゃーーーーーん!!!!」
これまでとは比じゃない轟音が響く。
キーストーンに触れたけど時既に遅く、サッちゃんはカビゴンの下敷きになった。
カビゴンの表情が僅かに動いた。次の瞬間、カビゴンの巨体が少しずつ宙へと持ち上げられていった。
腹の下には、片手でカビゴンの腹を支えるサッちゃんがいた。純白のドレスの様なものに身を包んでいる。どうやら、メガシンカが間に合ったみたいだ。
実際にカビゴンを浮かせているのはサイコキネシス。片手で持ち上げるようにしてるのは、多分そういう演出なのだろう。かなりご立腹だし。
カビゴンがジタバタと暴れる。すると、サッちゃんの目がクワリと見開き、額に血管が浮き出た。
『私にのしかかっていいのはライムさんだけだああああああ!!!!』
カビゴンはそのまま上空に吹き飛ばされた。流石はメガシンカ、技の威力が段違いだぜ!!
いよっし、空中じゃあ身動きが取れない!! カルネちゃんに教わった新しい戦法でぶっ倒してやる!!
「いくよ、サッちゃん。破壊光線!!」
サッちゃんは胸の前に巨大なエネルギーの塊を作り出した。黒く煌めくそのエネルギーは、痛いくらいに危険だと伝わってくる。
『いけえ、私とライムさんの愛の結晶!!!!!』
両腕を前に突き出した。
巨大なエネルギーの塊は、一筋の閃光となってカビゴンに襲いかかった。カビゴンの巨体を否応無く呑み込むであろう超極太サイズだ。カビゴンは成す術なく、光の奔流に呑まれた。
普通の破壊光線じゃこうはいかないだろう。だけど、メガシンカしたサッちゃんの特性『フェアリースキン』の恩恵でこのまでの威力を引き出せている。
フェアリースキン。ノーマルタイプの技をフェアリータイプに変化させ、同時に威力も上げるという強力な特性だ。破壊光線はノーマルタイプだから、その威力が大幅に底上げされた訳だ。カルネちゃんに教わったときは、まさに目からウロコだった。
破壊光線が徐々に小さく、細くなっていく。破壊光線が完全に消失すると、カビゴンが地面に落下していった。轟音が辺りに響き渡り、地面の雪が舞い散った。
『やりましたライムさん!! チューしてください、チュー!!』
僕の方に振り向き、クネクネと妙な動きながらチューのおねだりをするサッちゃん。しかし、破壊光線の反動が抜けきっていないのか、動きにキレが無い。ガッタガタだ。
ったく、まだバトル中だってのに。まあ、あんな攻撃が当たったら、そうなるのも分からなくはないーー
「恩返し」
ゾクリ、と悪寒が走った。
あちこちが黒焦げになりながらも、サッちゃんの後ろで悠然と構えるカビゴンがいた。
「後ろだ、サッちゃん!!!」
『ッ!!??』
カビゴンの丸太のように太い腕が、サッちゃんの華奢な身体に叩きつけられた。
サッちゃんはそのまま吹き飛ばされ、何度も地面をバウンドしてようやく止まった。
「サッちゃん、大丈夫!?」
『へ、平気です……。夜のライムさんよりは全然激しくないですよ……』
慌てて駆け寄る僕の様子を見て、サッちゃんは小さく微笑んだ。
口ではそう言ってるけど、実際のダメージはかなり深そうだ。メガシンカも解除されている。立ち上がる余力が無いのは、火を見るよりも明らかだった。
一撃でここまで持っていくのか、化け物め……!
「戻れ、カビゴン」
カビゴンがボールに戻った。このまま戦い続けるよりも、ボールに戻して少しでも休ませた方が良いと判断したようだ。
僕もサッちゃんをボールに戻し、新たなモンスターボールに手を掛けた。
流石は原点にして頂点。こんなに追い詰められたのは本当に久しぶりだ。だからだろうか、少しだけ楽しいと感じてしまっている自分がいる。
新たなモンスターボールに手を掛ける。さあ、ここから反撃開始だ。