霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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さて、次回で百話……なにか記念を書こうかな? ただ、職場で嫌なことがあったから気分がのらないけど。゚(゚´Д`゚)゚。 感想で元気が出ます


九十話

「これ、なんですか?」

 

《コウモリやカラス共が他の神話に取り入ろうとしておるのだ。オーディンや帝釈天の所にも優秀な部下宛てに送っているらしい》

 

冥府に呼び出された玉藻はハーデスから見せられた写真を見て怪訝そうな顔をする。どう見ても見合い写真だった。それも悪魔や堕天使の幹部の娘や貴族令嬢らしく何処か気品を感じさせている。それを見せたハーデスは歯をカタカタ鳴らしながら苦笑していた。

 

「ありゃりゃ、ようやく自分達の立場が分かったんですねぇ」

 

玉藻はケラケラと馬鹿にしたように笑いながら週刊誌の見出しをチラ見する。そこにはこのような事が書かれていた。

 

『高まる現政権への不満! 身内から最悪の裏切り者を出したサーゼクス・ルシファーは退任か!?』

 

『他神話に握られた冥界の財政。不況による倒産相次ぐ』

 

『グレモリー男爵家への放火犯逮捕! 犯人はルキフグス家に従っていた貴族の関係者と判明、グレイフィア・ルキフグスへの憎悪による犯行か!?』

 

《ボロッボロじゃのう。なのに、助けてもらう立場であるという自覚がないほどプライドばかりは高い。自覚があればもう少し早く申し込んで来たじゃろうに。……これだから嫌いなのだ》

 

「まぁ、もともと現政権のトップ陣は、戦争で手柄を上げた武門畑ばかり。戦闘能力は高くても、治政能力は低かったっという事でしょうねぇ。……ご主人様も勉強のハードル上げないとヤベェかも」

 

玉藻は同じく戦闘能力重視の一誠の事を考える。そんな時、彼女はふと気付いた。なぜ、自分に写真を見せているのだろうか? と。

 

「……まさか、ご主人様宛てじゃないですよね」

 

《……そのまさかだ。冥府の台頭には奴が大きく関わってきておるから、此処で繋がりを持って、今後何かあっても穏便に済まして貰いたいんじゃろう》

 

「……ふ~ん。で、話はそれだけですか?」

 

《儂とて直ぐ断りたいが、いくら格下といっても、外交というのは面倒でな。まぁ、とりあえずお前には教えておこうと思って今日呼び出した、という訳だ。取り敢えず顔だけ見て抹殺リストにでも入れておけ。後日、儂が全部断っておく》

 

「ったく、愛人はバカ猫と死神娘で十分だってのに……あれ?」

 

悪態を付きながら写真の相手を暗記していた玉藻の手がふと止まる。そこには子狐の頃から気に入らなかった少女の写真があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

イリナは自室のベットの上でヌイグルミを抱きしめながら溜息を吐く。思い起こすのは数日前にミカエルから告げられたとある提案。

 

「今、悪魔や堕天使が各神話の神々に見合いを申し込んでいます。といっても人質のようなものですが。……イリナ、貴女も最上級死神・兵藤一誠に見合いを申し込む気はありませんか?」

 

ミカエルの意図は理解できる。今の大変な状況打破の為には他神話との密接な関係構築が必要だ。特に台頭目覚しい冥府、そのエースとされる一誠との深い関係は各勢力が欲しがっている。

 

 

 

そして、イリナも個人的に彼の事が好きだった……。

 

「……何時からだったかなぁ。私がイッセー君を好きになったのは」

 

もう覚えていない頃には既にイリナは一誠が好きだった。遊びに行くとペットの子狐が唸るので彼の家には行かず、外やイリナの家でよく遊んだものだ。そして、再開してから綺麗に塗装されていた思い出のメッキがメリメリと剥がれ落ち、外道っぷりや既に居る恋人の事を知っても想いは消えず、ますます燃え上がるばかり。

 

「……あの時、私の事をlove(好き)って言ってくれたし、脈はあるのかな? ……よしっ!」

 

確かに一誠はイリナに好きと言った。ただし、loveではなく、likeだったが。そんな事など露知らず、イリナは一誠に見合いを申し込む事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、この人だけは絶対にありませんね。私のご主人様に惚れていたから嫌っていますが、ご主人様自体はこの人に対して幼馴染以上の事は感じていませんよ」

 

《まぁ、ラノベで言えばメイン回にも関わらず、カラーイラストを合わせても絵が三種類しか書いて貰えない、というような感じだからな。その上カラーイラストと表紙が同じ絵というような気もするな》

 

「メタ発言は禁止ですよ?」

 

 

 

 

 

 

そして次の日の放課後、イリナは冷やかされるのが嫌なので人目を忍んで一誠にデートを申し込んだ。

 

「イッセー君、明日デートしよ!」

 

「え、何で? 俺達ってデートするような関係じゃないよ」

 

「え、いや、私の事がlove(好き)なのよね?」

 

「うん。(揶揄うと面白いから)like(好き)だよ」

 

「じゃ、じゃあデートしようよ」

 

「え、だから何で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてよ、玉藻。何故かイリナちゃんがデートを申し込んで来てさ。何でだろうね?」

 

「じぃ~」

 

その夜、昼間の事を話す一誠に対し、玉藻は少々不機嫌そうにしている。何時もの様に一誠に体を押し付け、ぴったり密着しているが頬を膨らませ、口で不機嫌そうな視線を送っていますアピールを行っている程だ。

 

「どうかした?」

 

(べっつ)にぃ~、ちっとも怒っていませんよ~? ただ~、ちょ~っと不満なだけです。どうせまた勘違いさせるようなことでも言ったんじゃないんですかぁ? ……ご主人様は悪くないと分かってはいても嫉妬しちゃいます」

 

「……う~ん。無いな! それよりも今から月夜の散歩に行かない? 君が生きてた頃によく行った高台の公園で街の灯りと月を見ながらさ。黒歌もベンニーアちゃんも居ないし、たまには二人っきりで過ごそうよ」

 

「行きます! ……少々お待ちを、覗かないでくださいませ」

 

玉藻は態度を一転させ、上機嫌で自室に向かう。自慢の尻尾は激しく振られていた。

 

 

 

 

 

 

数十分後、街を見下ろせる場所に設置された公園のベンチには並んで座る二人の姿があった

 

「此処で過ごすのも久しぶりですねぇ」

 

「うん。……最近は二人で過ごす時間が減ってごめんね」

 

「そんな! ご主人様は職務を全うされているだけですから、気にする必要は御座いません。……私はこうして隣に置いて下されば十分で御座います」

 

一誠は隣に座る玉藻の手に自分の手を重ね、玉藻は慌てて握り返す。この辺り一帯に下級霊による人払いの結界を張っているので誰もやって来ない。何時の間にか一誠の手は玉藻の肩の辺りに置かれていた。

 

 

「……それにしても君も狐時代が忘れられないの? 態々首輪とリードを付けて(・・・・・・・・・・)出かけるなんてさ」

 

「だってぇ、たまにはプレイに変化を持たせたかったんだも~ん。てへ✩」

 

「……うん。予想はしてた」

 

一誠の言葉の通り玉藻の首には狐時代にしていた首輪と散歩用のリードが装着されており、出掛ける時は来ていたコートの下は全裸である。なお、公園内で人払いの結界を張り誰も居なくなるなりコートを脱いだ玉藻は散歩プレイを申し込んだが、流石の一誠も断った。ただ、本心を言えば少しはやる気があった。

 

「……変態な私はお嫌いですか?」

 

「いや? どんな君でも俺は受け入れるよ……!」

 

一誠はそのまま玉藻を押し倒し唇を重ねようとする。しかし、突如結界が壊され、二人は即座に身構える。玉藻も何時の間にか呪術師を思わせる服装に早着替えしていた。そして侵入者の気配が徐々に近づき、その姿を現す。

 

 

「やぁ、一誠君。久しぶりだね」

 

「あ、八重垣さん。体を持ってるって事はセフィロトに協力してるの?」

 

現れたのは先日話題に上がった悪魔と恋に落ちて殺されたエクソシストの八重垣だ。あまりの怨念に当時の一誠では滅ぼすか無理やり従える事しかできず、話し合いの末に滅ぼしたはずだった。なのにこうして現れるという事は聖杯の力だろう。どうやら正解のようで八重垣は微かに笑みを浮かべている。

 

「いやいや、話が早くて良いね。最近教会関係者が次々と殺されてるのは知ってるかい? あれは僕の仕業なんだ」

 

「あ~、爺さんが言ってたような。で、動機は復讐?」

 

「ああ、そうだよ。そして君にも協力して欲しい。死人に優しい君なら協力してくれると思って頼みに来たんだ。それに、同じように異種族相手に恋に落ちた仲だろう?」

 

「そうだね。あなたの無念は散々感じたし、協力してあげたいとは思うよ。……だが、断る!」

 

「なっ!? どうしてだい?」

 

まさか断られるとは思ってなかったのか、八重垣は動揺して詰め寄って来る。だが、足元に霊力を撃ち込まれた事で、その歩みは止まった。そして八重垣が一誠を見ると不愉快そうに睨んでいる。

 

「……そうだね。第一に俺は既に冥府に所属してるからテロリストの仲間にはなれない。第二に……結界を張っていた俺の手下を滅ぼしたね? 俺は俺の部下に手を出す奴を許さない。そして、これが最も重要な理由。……お前らの中途半端な絆と俺と玉藻の絆を一緒にするな」

 

「……中途半端だと? 僕と彼女の絆を侮辱する気か!」

 

八重垣は怒り狂い一誠に飛びかかるが、一誠は軽々と躱し、八重垣の足を掛けて転ばせる。そしてそのまま彼の背中を踏みつけた。

 

 

「中途半端なんだよ、君達の絆は。絶対に許されないのは分かっていたんだから、君が信仰を捨てるか、二人で手を取り合って逃げれば良かったんだ。なのに君達は貴族のままであろうと、エクソシストのままであろうとしていた。結局、今までの人生や地位を棄ててでも、と思えない程度の絆だったんだ。もう一度言うよ。君と彼女の絆は中途半端だ!」




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