霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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八十七話

『Guoooooooooooooooooooooo!!』

 

「……もはや理性など残っていないようですね」

 

巨大なドラゴンへと化したユークリッドは手当たり次第に前足を振るい、尻尾を叩き付けて町を破壊していく。攻撃を受けた家々は一撃で瓦礫と化し、吐き出される火炎によって町はたちまち火の海へと変わっていく。子供達の遊びである公園が焼け落ち、母親達が財布と相談しながら買い物をする商店街が燃え尽きる。そして、ユークリッドは一際大きい建物、アウロス学園の方を向き、口の中に炎を貯めた。

 

「させませんっ!」

 

刹那、ランスロットが崩れた瓦礫の上を駆け上がりユークリッドの顔面まで飛び上がる。振るわれたアスカロンはユークリッドの眉間を守る殻に突き刺さり、其処で止まった。その瞬間、ランスロットに向かって巨大な拳が迫り、ランスロットはユークリッドの顔を蹴飛ばす事で剣を引き抜き、拳を避ける。彼の間近を十tトラックの様な拳が高速で通り過ぎていった。

 

『Goooooooooooo!!』

 

ランスロットを敵と判断したユークリッドは足を踏み鳴らして彼を踏みつぶそうとする。石畳に巨大な足跡ができ、踏み締められる度に地面は激しく揺れる。ランスロットを一向に踏みつぶせない事に苛立ちが募ったのか踏みしめ方が徐々に荒々しくなり、右足を一際大きく踏みしめた瞬間、小指が殻ごと切り飛ばされた。

 

「やはり関節部分は脆いようですね。これなら……はぁぁっ!!」

 

ランスロットはアスカロンを構えると左足に切り掛り、親指を深く切りつける。赤い血が噴水の様に吹き出し、ユークリッドは苦悶の叫び声を上げ、ランスロットとは別の方向を向いた。

 

『Gobaaaaaaaaaaaa!!』

 

「ひっ!?」

 

其処に居たのは逃げ遅れた若い女性。彼女を見つけたユークリッドは血に飢えた獣のように唾液を垂らしながら彼女に迫る。鋭い牙がビッシリ生えた大口に飲み込まれそうになった彼女は恐怖から目を閉じ、誰かに抱き抱えられたかと思うと、急に浮遊感を味わう。恐る恐る目を開けるとランスロットが彼女を抱き抱えていた。

 

「お怪我はありませんか? ……アウロス学園の方にお逃げください。彼奴は私が倒します」

 

「は、はい!」

 

女性は一目散に逃げ出し、再びランスロットを標的に定めたユークリッドは上空に飛び上がり、一気に急降下して迫って来る。巨体の落下と飛行のスピードが合わさる事で隕石の如き威力となり、直撃した地面には巨大なクレーターができ、土砂が舞い上がる。咄嗟に跳んで避けたランスロットだったが流石にノーダメージとはいかず、些か体勢が崩れていた。

 

『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

「ッ! がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そして、舞い上がった土砂の中から現れたユークリッドの手がランスロットを掴み、そのまま剛力で握り締める。鎧からはミシミシと音が鳴り、ランスロットの体にも激痛が走った。その声が面白いのかユークリッドの口元が緩み、自分の手ごと火炎を浴びせかける。その時、火炎の中から刃が伸びユークリッドの左目に突き刺さる。メディアの手によって変化の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と同化したアスカロンの刃を伸ばしたのだ。

 

『Goooooooooooooooooo!?』

 

あまりの痛みにユークリッドはランスロットを取り落とし、目を押さえる。ランスロットが地面の降り立った時、足元にはアロンダイトが刺さっていた。ランスロットが柄に手を伸ばすが、まるで剣に拒否されたかの様に弾かれる。魔剣には意思がある物も有り、今のはアロンダイトがランスロットを持ち手と認めなかったのだ。

 

「……私は一度貴方を捨てた身です。ですが、図々しい願いだと承知した上で頼みます。もう一度だけで良いので私に力を貸して下さいませんか? ……彼処には傷つけてはならない方が居る」

 

ランスロットが視線を向けたのはアウロス学園。ロスヴァイセが居る場所だ……。

 

『Guoooooooooooooooooo!!!』

 

ユークリッドは潰れた目から血を流しながらランスロットに迫る。背中の突起物が光り輝き、それと同時に彼の生命力が減少していた。そして彼から放たれるオーラだが、危険な程増大する。そう、今にも爆発しそうな危うさだった。

 

そして、ランスロットは冷静な顔で再びアロンダイトに手を伸ばす。

 

「……行きますよ、アスカロン、アロンダイト」

 

二本の剣はランスロットの手に吸い付く様に収まった。そして、ユークリッドの体から溢れ出すオーラは益々激しさを増し、今にも爆発しそうだ。爆発すれば町ごと吹き飛ぶほどのエネルギーが溢れ出し、そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……言ったはずです。彼処には傷付けてはならない方が居る、と……」

 

『Gu…o……』

 

ユークリッドの胸は龍殺しの力を持つ二本の剣に交差した傷を付けられ、血を噴き出しながら崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はは…は、貴方を…倒せば…あの人(ロスヴァイセさん)に振り向いて頂けると…思ったの…ですが…」

 

「……あの方は強さで人を好きになったりはしないですよ」

 

元に姿の戻ったユークリッドだが、既に虫の息だ。もう助からないだろう。今際の際に彼が話したのは主であるリゼヴィムではなく、ロスヴァイセの事だった。

 

「そう…でしたか…。本当は…あんな力など使いたくは…なかったんですよ…。私自身の…力で…貴方に…勝ちたかった…。どうして…でしょうね? やはり、私は狂って…しまったのでしょうか…? 姉さんが…あの男(サーゼクス)と恋に落ちた…あの日から……」

 

ユークリッドはそのまま目を閉じ、最後に一雫の涙を流すと二度と目を覚まさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ふぅ。貴方達も懲りませんね』

 

ラードゥンは呆れた様な声を匙とゼノヴィアに向ける。ラードゥンが退屈そうにブラつかさている前足の指全てに龍の手(トゥワイス・クリティカル)が嵌められていた。禁手に至った匙の黒炎も、ゼノヴィアの聖剣も強化されたラードゥンの障壁の前に阻まれ届かない。匙もそろそろ禁手が解けかかり、ゼノヴィアの聖剣から放たれるオーラも弱くなっていた。

 

ラードゥンが退屈そうにブラつかさている前足には

 

「……少し拙いか? だが、今日の晩飯はステーキなんだ」

 

「……なぁ、匙。この戦いが終わったら私と結婚してくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、それ死亡フラグだから。それにしても下級神器も馬鹿にはできないね」

 

「まぁ、倍加ってよく考えたら凄いですよ? ……ご主人様の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のせいで弱く見られてますけどね」

 

『当然だっ! なんたって俺は唯一無二の天龍だからなっ!』

 

ヴァルヴルガを葬った二人は匙達の戦いを見物する。手を出そうと思えば出来るが、匙達が自分達でやると言ったので助けを請われるまで出す気がないのだ。

 

「にしても、あのコスプレババアもあっさり引っ掛かったね。最後の台詞聞いた? 『何時から入れ替わっていた?』、だって」

 

「ご主人様もノリノリで『何時から入れ替わっていないと思っていた?』、って言ってましたよね♪ ソレで、其れは誰にあげます?」

 

二人の目の前には紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)が置かれていた。一誠が誰に宿らせようか迷っている時、二人の背後に一人の少年が現れてラードゥン目掛けて一気に跳躍する。その手には神々しいオーラを放つ聖剣と膨大で荒々しい力を放つ魔剣が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう! 俺っちも混ぜてくれやっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で十七巻終了 番外編や他の作品描きつつ18巻を待つ!

意見感想誤字指摘お待ちしています

氷の覇王 女王そろそろ絞れました あと、アーシアは更にハッチャける予定

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