霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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七十三話

アーシア・アルジェントはその日の事を一生忘れないだろう。それは昇級試験の日の事だった……。

 

「今日まで悪かったな。俺の奢りだから好きなだけ食えや」

 

昇級試験とは無縁なリアス達はアザゼルに連れられて高級ホテルで食事を摂っていた。オーフィスとは今日までの付き合いである。オーフィスの連れであるルフェイは壁際で待機し、オーフィスは口元を汚しながら料理を貪り食っている。

 

「口元をキレイにしますね」

 

「んっ」

 

見かねたアーシアはハンカチでオーフィスの口元を拭い、オーフィスもなすがままにされている。どうやらこの数日感でオーフィスに対する警戒心が薄れたようだ。

 

 

 

そして一同が満足するまで食べた時、修学旅行の時に味わったヌルりとした感覚が彼女らの体を襲った。辺りから人が居なくなり、残ったのはアザゼル達のみ。

 

 

 

 

そして次の瞬間、ホテルの壁が吹き飛び曹操とゲオルクが姿を現した。

 

「これはこれは、無限龍殿。我々から堕天使総督へと鞍替えかな?」

 

曹操は槍の柄で杭を叩きながら冗談めかした様子を取る。その態度が気に入らないのかゲオルクは眉間に皺を寄せていた。

 

「……曹操。巫山戯ていないで本題に入れ」

 

「すまないすまない。さて、オーフィス。俺達の要件は分かるかな?」

 

「曹操、我を殺す気?」

 

槍の切っ先を向けられてもオーフィスは表情を変えず、曹操も攻撃をしようとしない。攻撃しても無限であるオーフィスには通用しないからだ。そして相手がその気になれば彼等の命など簡単に奪えるだろう。

 

しかし、曹操は余裕を崩さない。まるで何か秘策でもあるように。その時、ルフェイの足元が光り輝いた。

 

「掛かりましたねっ! 貴方達が来るのは分かっていました!」

 

光は更に強くなり、やがて収まった時、其処には彼女の代わりにヴァーリの姿があった。

 

「やぁ、曹操。久しぶりだね。他の奴らが居ないって事は、美猴が化けた囮の方に向かったか」

 

「……しかし、俺達が狙ってきた事に動揺しないって事は知っていてオーフィスを匿っていたか、アザゼル。さて、オーフィス。英雄派の見解を言おう。今の君は不要だ。いや、邪魔だとさえ言っても良い。英雄派に必要なのは都合の良い力の象徴。だから、新しいオーフィスを作る事にした」

 

曹操が手をサッと上げるとゲオルクの横に魔方陣が出現し、中から異形のドラゴンが現れる。上半身が張り付けにされた堕天使の其れの名はサマエル。蛇やドラゴンに対する神の悪意を受け、究極の龍殺しとなった禁忌の存在。故にコキュートスの最深部に封印され、ハーデスがオーフォス打倒の為に封印を解除しようとしていたはずだった。

 

「おいおい、冥府はお前らと繋がっていたのかよ」

 

警戒した様子のアザゼルに対し、曹操は蔑みのこもった瞳を向ける。

 

「いや、封印解除中の所に忍び込んで盗んだんだよ。と言っても一回が限度。……それと、テロリストと繋がっていたのは貴様らだろう、アザゼル。オーフィスが狙われていると知って匿っていたんだから余計にタチが悪い。……やれ」

 

曹操の掛け声と共にサマエルの舌が伸びてオーフィスを包み込む。最強の存在であるはずの彼女は抵抗すらせず脱出も出来ないようだ。そして、何かを飲み込むかのような音と共に膨らみがサマエルへと向かっていった。

 

「拙いっ! 奴ら、オーフィスの力を奪うつもりだ!」

 

「祐斗っ!」

 

リアスの指示と同時に聖魔剣が振るわれるも舌に触れた瞬間に刀身が消失する。他の物が攻撃してもそれは同じで攻撃の効果がなく、ヴァーリの力すら通用しない。

 

「……何で止めるんだい? 敵の総大将の弱体化は有難いだろう? ……ふむ、やはり其方とも繋がっていたのかい? ……ゲオルク」

 

「あ、ああ」

 

曹操は槍を構え指示を出す。ゲオルクは彼の様子のおかしさに疑問を抱きながらもサマエルを操作し、サマエルの一撃を受けたヴァーリの鎧は砕け散った。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ヴァーリッ!」

 

アザゼルは彼を庇うように立ち塞がり、アーシアは彼を回復させ出す。それを見た曹操の口元が緩んだ。

 

「おやおや、テロリストを庇った上に回復させるか。……ふぅん、やはり密通確定だね。少なくても状況証拠はバッチリだ。ゲオルク、力はどの位奪えた?」

 

「……四分の三といった所だ。君が持ってきてくれた術式の改良案は役に立ったよ。何より吸収スピードが段違いだ。だが、そろそろ限界のようだよ」

 

サマエル程の存在を操るのは負担なのかゲオルクは冷や汗を流す。やがて、サマエルは消え去っていった。後に残ったのは力を大幅に削がれ、無限ではなくなったオーフィスの姿。

 

「……ふぅ。そろそろ帰還しよう」

 

「……ああ、そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     もう君に用はない。死んでクレ」

 

「うっ!?」

 

曹操の槍はゲオルクを貫き、呆然として自分を見る彼の顔を見て曹操はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーゼクス様。お客様が来ておられです」

 

「……急だね。来客の予定はなかったのだが……」

 

自室で政務をこなしていたサーゼクスは部下からの知らせに首を傾げる。隣に控えるグレイフィアを見るも彼女も予定はなかったと首を振った。

 

「それが、冥府と北欧からの使者で、此方の同盟違反についてやって来たとおっしゃってます」

 

「なっ!? ……すぐ通してくれ」

 

ただならぬ様子を察した彼は使者を通す。やって来たのはプルートとガウェインだった。二人は正装を着ており、態度には出さないが敵意を放っていた。

 

《さて、事態が事態なので挨拶を抜きにして始めさせていただきます。……貴様の妹がアザゼルと共にテロ組織と接触し、此方の情報を流していた。どう釈明する気だ?》

 

「なっ!? 何かの間違いでは!?」

 

「いえ、密偵からの確かな情報です。そしてこの情報は冥府や北欧の主神だけでなく、インドラ様や天照様にもお伝えしました。……そしてこれが署名です」

 

ガウェインが差し出したのは神々の署名。それはリアス達の処罰を一誠に一任せよという物だった。

 

《我々も三大勢力全てが奴らと繋がっているとは思っていません。さぁ、最後は貴方の署名だけです。本来ならこれだけあれば良いのですが……筋は通させて頂きますよ》

 

それは紛れもない脅迫。妹達を取るか、他全てを取るか選べ、そう言っているのだ。

 

「そういえば御子息が居られましたね? 流石に魔王の身内がこの様な事件を起こしたのですから、貴方には今後人質として御子息を差し出して頂きます。さて、北欧か冥府か。……そういえばハーデス様は悪魔が嫌いでしたね」

 

「ッ!」

 

サーゼクスは震える手で書類にサインをする。その目からは涙が流れていた。

 

 

「リアス…すまない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ行ってくるね」

 

プルートと送っていたスパイからの知らせを受け、一誠は転移の準備をする。本来は隔絶された空間だがスパイから侵入用の札を貰っていたのだ。

 

《……行ってらっせぇ》

 

今回の作戦は危険な為、ベンニーアは留守番を言い渡され今は見送りに来ている。

 

「大丈夫。俺達は無事に帰ってくるからさ」

 

《そうでやんすね。……一誠様》

 

一誠に近づいた彼女は彼の首に手を回し軽い口付けをした。

 

《……帰ったら貴方からしてくだせぇ》

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あ、別に処女を奪うのでも良いでやんすよ? ゴムありやすし》

 

「台無しだねっ!? っていうか君、二人に染められてないっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏切り者め。まさかお前が裏切っていたなんて……」

 

「……」

 

一誠達がたどり着くと丁度終ろうとしていた所だった。ゲオルクは口元から血を流しながら曹操を睨み、彼は無言なままだ。

 

 

 

「あはははははは! 曹操は裏切ってないよ? ねぇ?」

 

 

 

 

 

「なっ!? なぜ貴様がっ!? それにどういう事だ!?」

 

ゲオルクは口から血を流しながら叫ぶ。未だ意識があるのは槍が弁の役目を果たし、血が流れ出るのを防いでいるからだろう。曹操はやっとこの時が来たとばかりに大いに笑う。

 

 

 

 

「くくく……くくくくくくくくくっ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教えて……アゲヨウカ?」

 

最後の言葉はゲオルクの知らない誰かの声だった……。




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