「……うぅ、気持ち悪い」
其れは一誠が謎の悪寒に襲われた日の事。ロスヴァイセの目覚めは最悪だった。昨日は午前中で業務を終えれたのでランスロットとデートをしたのだが、食事後少し疲れたと言ってホテルへと連れ込み行為に及び、別れた後で次の日は休みだからと居酒屋をハシゴ。どうやって帰ってきたのかさえも覚えていない。
「……それにしても昨日は凄かったなぁ」
ロスヴァイセは顔を赤らめながら昨日の事を思い出す。着痩せする体格なので分からないが、脱ぐと分かる大きな胸を後ろから揉みしだかれ、何度も気絶するまで……。
体温が一気に上がり思わず自分で自分の体を撫で回そうとした所で彼女は部屋の惨状に気付く。コンビニの袋と缶ビールの空き缶やツマミの空き袋が散らかり、まさに汚部屋。そして今日は朝からランスロットが訪ねてくる約束になっていた。
「拙いです。こんな部屋を見られたら幻滅されちゃう!」
ロスヴァイセは慌てて掃除を始める。なお、彼女が家事全般が駄目な事をランスロットは知っていたが、彼曰く『その様な所も可愛らしいです』だそうだ。短い期間に随分アツアツになった事である。爆発すべきカップルの片方である彼女がゴミを見えない所に隠していると一冊の雑誌が目に入る。
「に、妊婦向け雑誌。……酔った勢いで缶ビール買うついでに買ったんでした」
取り敢えず仕舞おうとした瞬間、インターホンが鳴りランスロットの声が聞こえてきた。
『お早う御座います。最近人気のパン屋でパンを幾つか買ってまいりましたので朝食にどうですか?』
「あ、はい。……うっぷ」
『ロスヴァイセ殿!?』
返答中に二日酔いによる吐き気に襲われたロスヴァイセはゲロを吐きそうになり、異変を感じたランスロットは部屋に飛び込む。
其処で彼は口元を押さえて吐きそうにしている恋人と妊婦向け雑誌を目にした。彼女とは何度も行為に及んでおり、彼自身が天然な為に霊である事を忘れた結果行き着いた結論は……。
「す、すぐに産婦人科へ!」
「え、ちょ!? うっ」
「無理なさらずに……最短ルートで直行しますよ!」
ロスヴァイセをお姫様抱っこで抱き上げたランスロットは街中を一直線に走り抜け産婦人科を目指す。
そして、大勢の近隣住民に見られる中産婦人科に運ばれた彼女は二日酔いだと診断された……。
「……あ~、なんか面白い事が起きてるような」
一誠は第六感を働かせて呟く。今の時間はそうでもしないと耐えられない程に退屈な時間だったのだ。
「え~では、学園祭でのクラスの出し物を決めたいと思います。意見がある人は挙手をお願いします」
殆どの他人に興味がない一誠にとって学園祭など退屈であり、できればサボりたい所だが後で余計に面倒臭くなるのでそれもできない。なので仕方なく話い合いには出席していたが意見を出す気などなかった。
「はい!」
数名が手を上げる中、松田が元気良く手を上げる。怪我が一番軽い事もあって真っ先に退院した彼は立ち直りも早く、まだショックの抜けないアーシアとは裏腹に元気だった。
「では、松田くん」
「女子は全員胸を丸出しにしておっぱ……げふっ!」
取り敢えず時間を無駄に消費しそうな意見を言いだした松田の意識を刈り取った一誠は彼と同様に手を挙げていた元浜をジッと見つめ、松田を指さす。『お前もこうなりたくなかったらアホな事言うな』そう目で言っていると感じた元浜は手を下ろし、他の生徒が当てられては意見を出していく。
「ねぇ、執事&メイド喫茶はどう?」
中々良い意見が出ずに場が硬直しだした時、桐生がそんな意見を出し場がシンと静まる。誰もが固唾を呑んで彼女の話に耳を傾ける事から彼女のそっち方面への信頼が伺えて取れた。
「衣装は私の伝手で用意できるからあとは喫茶ね。まぁ、これは従業員で呼ぶから回転を考えて簡単な物でい良いわ。……そして私が提案するのは普通の執事やメイドじゃない! 男装執事と女装メイドよ! 想像してご覧なさい! ピッチリとした燕尾服に身を包んだアーシアヤゼノヴィアの姿を! フリフリのメイド服を着た兵藤君の姿を!」
「俺!?」
ボゥっとしながら話を聞いていた一誠は驚いて思わず声を上げる。その顔を桐生は可笑しそうに見つめていた。
「……ちなみに追加料金を払えばお菓子を食べさせて貰ったり、写真撮影可よ」
その瞬間、一誠以外の生徒の心が一つになり出し物が決定する。そして家に帰った一誠は苦し紛れの悪あがきと知りつつも女装という事は言わなかった。
なお、学園祭の事は冥府だけでなくオリュンポスにもバッチリと伝わっていた。
「……次のゲーム内容が変更になりました」
生徒会室でソーナは真面目な顔をして眷属に告げる。次のゲームでは助っ人を無くし、サイラオーグとリアス、シークヴァイラとソーナという力重視同士と知能重視同士の戦いとなっていたのだが、急に変更が告げられたのだ。
「やはりテロの影響かい?」
「ええ、そうです。次の戦い、私達とサイラオーグのゲームのみとなりました」
「冗談じゃないわ! なんで私のゲームがないの!?」
リアスの激高した声と机を叩く音が室内に響く。ようやく退院したアザゼルから告げられた事に納得がいかないのだ。勝率は低いとは言え相手は若手ナンバーワン。善戦し、もし勝つ事ができれば下がりに下がった評価を回復できるチャンスだと彼女は考えていたのだ。
度重なる賠償金の支払いはグレモリー家の財政を圧迫。次期当主が無能と噂が広がった為に商人の投資も激減し、リアス所有の物件やお気に入りの美術品を幾つも手放す事となった。そして遂に親類縁者からの不満が噴出し、ミリキャスが次期当主に相応しい年齢になるまで今の当主の続投が決定。つまり彼女は次期当主の座を追われる事となったのだ。
「……それはお前が一番分かっているだろう? 上層部はお前に何度もチャンスを与えてきた。それをお前がモノにできなかったんだ。……いや、初めからこれが目的だったのかもな才能ある若手を潰す事で自分の縁者が次期魔王になりやすくする為の上層部の策略。俺はそう思えてならねぇよ」
「……ッ」
アザゼルの言葉にリアスは無言で拳を握り締める。
自分を自分として愛してくれる相手との結婚を望み、ゲームでのタイトル制覇を夢見ていた一人の少女の将来は闇に閉ざされようとしていた。
鉄板の上で油が跳ねる音が響き、肉の焼ける良い匂いが辺りに漂う。ここは北欧の神であるトールの城の中にある娘夫婦の居住区。其処では娘婿であるガウェインが愛妻の料理を心待ちにしていた。
「しかし、貴女の料理は何時見ても美味しそうですね」
「当たり前だ。お前に対する愛情を込めているからな!」
鉄板の上では下処理された猪の肉がジュウジュウと音を立てて焼けており、特製のソースとハーブの香りが食欲をそそる。ガウェインは差し出された肉を皿に乗せると自分の前に起く。
「では、どうぞ」
「うむ」
そのまま彼は妻を膝の上に乗せて食事を始めた。彼女の口に肉を運ぶ際に腕が矮躯に不釣合いな胸に当たり、やがて彼女の尻に硬い物が当たりだした。
「……何だ、もう我慢ができなくなったのか? まぁ、良いだろう。赤龍帝が送り込んだスパイからの情報でテロへの対策が楽になっているからな」
「……では、頂きます」
ガウェインは妻をテーブルの上に乗せて向かい合う様にすると夫婦の営みを開始する……。
「……あぁ! い、何時もより凄いな。お前、正午はコッチも三倍か?」
「……それ、酒の席でモートレッドにも言われました」
円卓の騎士は色々とおかしいと思わせる一日であった。なお、二人は長年夫婦をやっているので真相はすでに知られており、昼間からスる時に言う恒例の冗談である。なんでもそう言った方が高ぶるとか。
北欧も色々とおかしい。
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