霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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難産でした 何とか毎日更新


五十四話

一誠が幼女を触手で捕えている頃、兵藤家には大きな荷物が届いていた。宅配便で来た訳でなく、いきなりリビングに現れたその箱には送り先が書かれておらず、ただ一誠宛とだけ書かれていた。

 

「玉藻、これ何?」

 

「……はっ!? 今ご主人様が触手プレイをしているような気が!? あ、すいません。これはこの間売られた喧嘩の落とし前の取り分です」

 

天照が冥府に支払う事になったのは所有する土地を幾つかと、実質的に支配下にある妖怪からの献上品の何割かを毎月支払うというものだった。なお、賠償金もバッチリ取っている。

 

「あらまぁ、美味しそうねぇ」

 

今回送られてきたのは何かの肉や松茸等、何れも此れも神の口に入るべきものだけあって市販品とは明らかに違う。まるで黄金のような輝きを放っていた。

 

「う~ん、お母様達は人間として生きるんですよね? じゃあ、不老長寿とかの効果があるのは除けておきますね? あとは精力増強効果がある秘薬……天照も分かっていやがりますね」

 

とりあえず普通に生きるのなら食べない方が良い品は幽霊達で食べる事にし、秘薬は懐に仕舞い込んだ玉藻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってくれぇ」

 

「何よ、情けないわねぇ。アーシアでさえ平気そうなのに……」

 

頂上にある神社を目指して登山していた一一行であったが、体力のない元浜はダウンし桐生は其れを呆れたような目で見る。もっとも、二人以外は悪魔と天使なので仕方ない話なのではあるが。

 

一行が先に進んだ一誠を追って山頂まで差し掛かった頃、急に桐生と元浜の動きが止まる。辺りを見ると山頂付近だというのに登ろうとしない観光客達が何人も居た。

 

「あれ? なんか登る気がしないわ……」

 

「ああ、これ以上は登っちゃ駄目な気がする」

 

二人は無気力な目をしながらその場に座り込んだ。アーシアとイリナはその様子を不審に思い、山頂付近から妙な気配を感じ取った。

 

「……結界!? イッセー君が危ない……訳無いか」

 

「なぁ、さっき女の子二人を連れた人が山頂に向かったんだけど」

 

「大変です! すぐ助けに行かないと!」

 

松田の目が確かなら一般人が結界の中に迷い込みかねない。もし戦闘でも起きていたなら怪我をするかもしれないっと判断した三人は上に行く気のない二人を置いて山頂を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、わたしも抱っこ~」

 

「あたしはオンブで良いわ」

 

そして、山頂の境内では少女二人に背中から抱きつかれている一誠の姿があった。辺りには烏天狗らしき者達が居り、一誠の正面では巫女服狐耳の少女が尻餅をついて涙目になっている。少女二人の言葉からして抱きかかえられている所を落とされたのだろう。尻を強く打ったせいか少女はついに泣き出した。

 

「う……うぅぅぅ」

 

「あ~、泣いてる~! 弱虫♪ 弱虫♪ 弱虫狐~♪」

 

「泣き虫♪ 泣き虫♪ 泣き虫狐~♪」

 

一誠の背中から飛び降りたありす達は狐耳の少女の周りをスキップしながら囃し立てる。追い付いたアーシア達が呆然とする中、二人の襟首を掴んで止めた女性がいた。

 

「コラ! 虐めちゃダメでしょ」

 

「はーい!」

 

「分かったわ、メディアさん」

 

その女性の名はメディア。人気小説家にしてアーシアの契約相手のお得意様であった。

 

「メ、メディアさん!? それにその子達って一誠さんの……」

 

「あら、アーシアちゃ……ヤバッ!?」

 

「……あ~あ」

 

ずっと隠していた一誠との繋がりがバレてしまった事にメディアと一誠の気が逸れ、その隙に妖怪達は逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪に襲われた? おいおい、話は通していたし、お前は人間だろ」

 

アーシア達と合流した一誠はアザゼルに今回の一件を報告する。狐の姫を落とした時に折角買った団子まで落としてしまったらしく少々不機嫌だ。

 

「うん。姫様って呼ばれてた糞餓鬼が母上を返せって言ってたから総大将でも攫われたんじゃない? ……あれ、結構ヤバイ事態?」

 

京都には強力な力が流れており、妖怪の総大将である九尾の狐がいる事で安定している。もし攫われたらどんな事態が起きるか予想がつかない。いま異変が起きていない事から京都の外に連れて行かれたり殺されてはいないようだが、アザゼル達の顔色は最悪の事態を想定して青くなってきた。

 

「大変ねぇ」

 

「大変大変」

 

「大変だわ」

 

しかし、メディアとありす達の反応はどうでも良いといった様子である。ありす達なら兎も角、メディアなら深刻さが分かるはずなのだが……。

 

「おいおい、深刻さ分かってんのかよ。……え~と」

 

「……葛木メディアよ。京都は気に入ってるし、たかが地脈を流れる力の異変ごとき私が何とかしてあげるわ。もしもの時は娘の方を総大将の代わりに挿げ替えれば良いだけだしね。五月蝿そうな高天原は坊やが黙らせれる。はい、これで解決。私はもう行くわ」

 

「またね、お兄ちゃん」

 

「明日も会いましょ」

 

メディアは一方的に言い切るとその場を去って行った。ありす達もその後について行き呆然と立ち尽くすアザゼル達が残される。

 

「なによ、あの態度! イッセー君。あの人貴方の仲間でしょ。なんで諫めないのよ!?」

 

「何怒ってるのさ、イリナちゃん。京都に異変が起きないようにしてくれるって言ってるんじゃない。あとは妖怪の問題。何も心配する事なんて無いよ。あの人に任せておけば大丈夫さ」

 

 

一誠はそう言うなりその場を離れていく。幼馴染の思わぬ態度にイリナは再び固まっていた。

 

「……まぁ、彼奴が言うなら大丈夫なんだろうな。性格は信用できないが、能力は信用できる。ああ、今回の件は俺達大人が調べる。もしもの時は力を借りるが……折角の修学旅行だ。楽しんどけ」

 

イリナ達は戸惑いながらもその言葉に甘える事にする。

 

 

 

 

 

 

そして入浴時間、変態二人組が動き出そうとしていた。

 

「覗くぞぉぉぉっ!」

 

松田は変態的な雄叫びを上げながら浴場を目指す。今は女子の入浴時間。普段嫌われている仕返しに覗こうというのだ。最も、普段からそんな思考回路だから嫌われるのだが……。

 

松田は非常階段から浴場を目指す。ソロリソロリと足音を忍ばした彼は階段を降りて行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたぜ、松田!」

 

「げぇ、匙!?」

 

当然の様に行動を見抜いていた匙に待ち伏せされる。この後、数秒で捕まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、兵藤と元浜は居るか?」

 

「居るよ~」

 

その頃、一誠の部屋をゼノヴィアが訪ねる。彼女は彼女で元浜が覗きに行かないように様子を見に来たのだが、帰ってきた返事は一誠の声だけだった。

 

「……元浜はどうした?」

 

「覗きに行こうとシツコく誘ってきたから、タオルで四肢と口を縛って部屋内の浴室に閉じ込めてる」

 

「……そうか」

 

これ以上指摘してはならない。そう感じたゼノヴィアはそのまま部屋を後にする。その後、一誠はバイキングに夢中になって元浜の存在を忘れ、彼が解放されたのはアザゼルが点呼に来た時だった……。

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

さて、次回は妖怪からの頼み その時一誠は……?

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