「俺が本気で怒っている時と覇龍を使っている時は出て来ないで。……そんな姿を君には見せたくないから」
玉藻が今の姿を得て直ぐのある日の事、一誠は玉藻にそんな頼みをした。
「大丈夫ですよぉ。私はそんな所を見ても嫌いになったり……」
「……お願い」
自分自身を外道と言い切る一誠であったが、自分が本当に醜いと思う姿だけは玉藻には見せたくない。そんな思いを感じ取った玉藻は彼が本気で怒った時には絶対に姿を現さない。そう誓った……。
「安心して! アルジェントさんは装置に枷で繋がれているだけだから手足を切り落とせば大丈夫。ほら、切り落とした手足」
一誠は手足を切断する事で装置から解放されたアーシアと彼女を抱き抱えるリアス達を一瞥すると血まみれの手足を枷から取り外す。それを受け取ったリアスはアーシアの血でその身を汚しながら手足を切り落としたフリードと一誠を睨んできた。
「よくもアーシアの手足を! 絶対に許さないわ!」
「え~? だって仕方ないじゃない。それとも公爵家の眷属は他の勢力のトップ陣より優先されるの? それは偉いんだね! そもそも君がその子に自衛の手段も身につけさせず、間抜けにも攫われたからでしょ? ほら、どいて。治すんだから」
一誠はリアスを押しのけるとアーシアの手足の切断面を合わせ、フェニックス家からの賠償品であるフェニックスの涙を振りかける。すると切断されていた手足は綺麗にくっついた。本来ならコールブラントで斬られれば消滅してしまうのだが、アーシアの手足を切断する際、フリードは完全にオーラを押さえ込んでいたのだ。
「さ、帰ろうか。俺もディオドラで憂さ晴らししたかったけどもう良いや。あ、フェニックスの涙の料金は後で請求するね」
一誠はフリードとメディアを引きつれ帰ろうとする。しかしその行く手を小猫が防ぎ、真剣な瞳で彼らを見つめていた。
「……ひとつ聞かせてください。貴方が三大勢力が嫌いという事は分かっています。でも、部長に対してはそれが特に強いです。どうしてなんですか?」
「あはははは! 他人の気持ちなんか分かる訳無いじゃない。それと俺がグレモリーを嫌う理由? 嫌わない理由を探すほうが難しいよ。あえて挙げるなら命より自分のプライドを優先させる所かな? ハッキリ言って反吐が出るよ」
一誠は吐き捨てるようにそう言うと転移しようとし、飛んできた魔力を片手で払いのける。不機嫌そうに振り返った先には高貴そうな服装の悪魔がいた。彼は一誠に対して警戒しながらも見下したような視線を向ける。
「我が名はシャルバ・ベルゼブブ。赤龍帝……いや、兵藤一誠と呼んだ方が良いか? 貴様の力は人間ながら見所がある。家族を襲われたくなければ私の手下となるが良い!」
「……はぁ」
それを聞いた一誠は溜息を吐くと禁手を解いた。
「イ、イッセー!? マジで赤龍帝がイッセーなのかよ!?」
驚いた松田は一誠に近づこうとするも小猫に裾を掴まれて止められる。彼の服の裾を掴む小猫の体は震えており。仲間であるメディアも冷や汗を流し距離をとった。
「拙いわね。坊やがキレたわ……」
「……あ~、もう。覇龍使用で疲れてるっていうのに何奴も此奴もイライラさせて……。来い、シャドウ」
『あ、相棒! アレは辞め……』
ドライグの必死で制止しようとする声も虚しくシャドウは一誠の背後に現れ、直様一誠の影に溶けていく。そして一誠の口から呪文が紡ぎ出され出した。
『我、目覚めるは全てを喰らいし赤龍帝なり』
『天地を飲み込み、希望を消し去る』
「……あまり持ちそうにないわね」
呪文を紡ぐ度に一誠の体から悍ましいオーラが溢れ出し、オーラに触れた壁や天井が飲み込まれていく。まるで意志を持つ触手のようにウネウネよ動く其れはメディアが咄嗟に張った結界で防がれるも彼女の表情は優れない。
「させるかぁぁぁぁっ!」
目の前の光景を理解できないが辛うじて非常に危険なものだと本能で理解したシャルバはオーフィスの蛇を飲んで得た力を全て注いで魔力を放つもオーラによって阻まれ、逆に伸びてきたオーラに足を絡め取られる。
「ば、馬鹿なっ!?」
彼の体は徐々に黒く染まって行き、体の感覚が無くなっていった。そしてその間も一誠の呪文は途切れず、オーラはますます悍ましさと力を増していきメディアの結界にもヒビが入り始めた。
『我、全てを滅ぼす破壊の化身となりて』
「お止めください、ご主人様!」
「た、玉藻?」
一誠が最後の呪文を紡ごうとした時、先程から姿を現さなかった玉藻が現れ彼の腕を掴む。オーラは容赦なく彼女の体を蝕むも一誠の手を握る玉藻の手の力は弱まらず、そのまま片手で一誠の頬を打った。一同が呆然とする中、玉藻は両方の眼から大粒の涙を零す。
「それは…私のサポート無しじゃ…使っちゃダメだって言ったじゃ…ないですか…。もう、好きな人を…失いたく…ないんですよ」
「……ごめん」
一誠は泣きじゃくる玉藻をそっと抱き寄せる。何時の間にか一誠の体からは先程までのオーラが消え去っていた。
そしてその日の夜、一誠は両親に話があると言ってリビングに呼び出す。その隣には玉藻の姿があった。
「一誠? そちらの子は? もしかして話って彼女?」
「変わった格好だが中々美人じゃないか。それでお名前は?」
人付き合いの苦手な息子が美女を連れてきた事に両親は喜ぶ。格好は気になったが、友達の一人も連れて来た事のない息子が彼女を連れて来たという事の前では、そんな事など何処かに行った。しかし、その表情は次の瞬間固まる事になる。目の前の美女は彼らが知る子狐になったからだ。
「玉…藻…?」
彼らも玉藻を可愛がっていたので目の前の子狐が飼っていた子狐と酷似している事に気付く。二人が呆然とする中、一誠の背後からハーデスが現れた。急に現れた動くガイコツに二人の表情は固まり、壁際まで飛び退いた。
「お、お化け!」
《……お化けに向かってお化けって言う者に初めて会ったな。儂はお化けではない。冥府……地獄の王であり、お二人の御子息の上司だ》
「……父さん、母さん、ずっと隠していて御免なさい。俺、霊能力者なんだ」
一誠は両親に今までの事を語った。霊が見える事に始まり悪魔などが実在する事。そして自分が数年後には家を出て行く事を……。最初は信じなかった二人だが次々と証拠を示され、何より息子の真剣な目を見ては信じるしかなかった。
「そ、そんな……」
「……」
全てを聞かされた一誠の母親は顔面蒼白となり、父親はズッと黙っている。
「……本当はずっと隠しておきたかったんだ。でも、俺の正体がバレて……。知っていないと避けられない危険もあるから」
《残酷なようだがお二人の息子の力は人間の領域を越えている。もはや何処にも所属しないという訳には行かんのだ》
「ッ!」
ハーデスの言葉に母親は泣きながら部屋を飛び出す。後を追うとした一誠だが、その手を父親が掴んだ。
「父さん?」
「……母さんの事は私に任せなさい」
父親は一誠を座らせるとハーデスに向き直る。
「……それが、息子と私達夫婦の為なのですね?」
《ああ》
ハーデスの返事を聞いた父親は、
「至らぬ所の多い愚息ですが、どうぞ宜しくお願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
《任せておけ。其方らの息子は儂が責任持って預かる》
「……おはよう、母さん、父さん」
次の日の朝、結局母親とはあれっきりだった一誠は気不味い思いをしながらリビングに入る。すると台所に立つ母親と……玉藻の姿が目に入った。
「玉藻、これがウチの隠し味よ。貴女の料理も美味しいけど兵藤家の嫁になるなら覚えてね?」
「はい、お母様! えへへ……こういうのって何か良いですね」
二人はまるで母娘のように和気藹々と料理を作る。そして漸く息子に気付いたのか母親は振り返った。
「人間の姿になっても玉藻は良い子ね。娘が出来たみたいだわ。ふふ、もともとこの娘はうちの子だったわね。さぁ、席に着きなさい」
「う、うん」
昨日とは違い落ち着き払った母親に戸惑いながらも一誠は席に着く。やがて二人が作った美味しそうな朝食が並べられ、四人は一緒に朝食を取り出す。そしてその途中、母親が一誠に向かって口を開いた。
「昨日、父さんに言われたわ。貴方が出ていくのが避けられないなら、それまでの時間を大切にしよう、ってね。たまには帰って来れるんでしょう?」
「う、うん。……本当に御免ね」
「あらあら、いい年して泣かないの」
自分の言葉を受け泣き出した息子に対し、母親は慈しむような笑顔を向けていた……。
「……所で玉藻以外にも親しい女の子が居るんですって? 後でジックリ聞かせて貰うわよ?」
「は、はい!」
両親が受け入れるにが早すぎ? 原作だって何人も変態の息子に惚れて居候するの受け入れてるじゃん(笑) まぁ、洗脳されてるんだろうけど
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
次回は番外編!
シャルバについてはその内……