霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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三十八話

「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる」

 

「ふざけるなっ! 堕天使や天使と手を組む貴様ら偽物の魔王と話し合いをする必要などない! 悪魔以外の存在は全て滅ぼすべきと何故わからない!? 悪魔こそが! 否! 魔王こそが全世界の王となるべきなのだ! オーフィスの力を利用する事で俺は新たな悪魔の世界を創る!」

 

観覧席へのテロが行われている最中、首謀者であるクルゼレイ・アスモデウスはアザゼルに決闘を申込み、サーゼクスは彼を説得しようとするも跳ね除けられる。そしてサーゼクスも彼を殺す覚悟を決め一触即発の空気となった時、二人の脳天に衝撃が走った。

 

「止めぬか阿呆どもがっ!!!」

 

「「がっ!?」」

 

二人の脳天に拳骨を落としたのはハンコックだ。彼女は息を荒げ二人を睨む。そしてその様に怒った姿さえ美しく、アザゼルどころかサーゼクスやミカエル、クルゼレイでさえも彼女に見惚れ、髪の乱れを直している。

 

「……サーゼクス様?」

 

「な、何でもないよ、グレイフィア! 君も行き成り何をするんだい。確か赤龍帝くんの部下の……」

 

「ええい! 喧しいわっ! それに誰があの小僧の部下じゃ! 妾は気紛れで力を貸してやってるにすぎん! ……取敢えずサーゼクス、クルゼレイ、グレイフィア。貴様ら今すぐ正座せよ。せ・い・ざ! 早よせぬかっ!」

 

「「「は、はい!」」

 

一同はハンコックの言葉に何か逆らってはいけない物を感じ、その場に正座する。テロに参加した悪魔達も彼女の言葉は咎める気がしないどころか従いたくなる何かを感じていた。言いつけ通りに正座した三人を満足げに見回したハンコックは大きく胸を反らし見上げるまでになった見下し方をしながらクルゼレイを人差し指でビシツと指差す。

 

「まずは貴様じゃ、クルゼレイ。悪魔以外の種族を全て滅ぼす? 詰まらぬ! 詰まらぬぞ貴様!」

 

「な、何が詰まらぬと……」

 

「ええい、黙れ! 妾が話している最中であろうが! 貴様ら小童共は大人しく話を聞いておれっ! 良いか? 悪魔以外の種族を滅ぼせば世界は詰まらなくなる。違う考えの者がおるからこそ、美食が! 芸術が! 娯楽が様々に進歩してきた! そしてそれは強制では無く、自発的に進めるからこそ素晴らしい物が生まれるのじゃ! 悪魔とは欲望に生きるもの! それを支配欲だけで済まそうとは不届き千万じゃ!」

 

「は、はい!」

 

ハンコックの迫力にクルゼレイは圧倒され、他の者もその姿を唖然としてみている。そしてハンコックは次にサーゼクスに向き直った。

 

「お前もお前じゃ! これだけ他の神話体系を巻き込んでおって、話し合いで済ますじゃと? 無理に決まっておろうが! ここで許せばその事に不満を持つ神が敵に回るだけ、それに現れて直ぐに、今なら話し合いの道はある、じゃと? 大人しくしないならぶっ殺す、としか聞こえぬわ! 大体最終的に殺すのなら端から殺しておかぬか! そうしておけば旧魔王派などできなかったであろうに」

 

「も、申し訳ございません。……リリス様」

 

サーゼクスはそう言い切って首を傾げる。何故か自分は自然と目の前の女性をリリスと呼んでいたのだ。前ルシファーの妻であるリリスとは見た目も違うし纏う空気も違うのにである。だが、自然と彼女をリリスと呼ぶ事に何の不自然さも抵抗も感じない。周りの者を見ても首を傾げながらもサーゼクスと同じ心境のようだ。

 

「……ふむ。気付かれたのなら仕方がない。小僧は面倒だから隠していてくれと言っておったが……妾は知らぬ」

 

そこに居たのは黒髪の見え麗しい美女ではなく、金髪の妖艶な美女。見た目は大きく変わったが醸しだす色気と美しさは先程までと遜色ない。周りの者達はその姿を見て固まっている。そしてそれは彼女に見惚れているからではない。彼らがよく知った相手だったからである。

 

「リ、リリス様!?」

 

「うむ! 妾こそが前ルシファーの妻にして、全ての悪魔の母と聖書に記されたリリスである! 者共、図が高い! ひかえおろう~!!!」

 

『ははぁ~!!』

 

先程まで戦っていた悪魔達は魔王を含め全員見事に某時代劇のノリでその場にひれ伏した。なお、彼女がカジノの権利書に代わりに所望した対価は某時代劇のDVD全巻だった。先程から黙っていたアザゼルだが、ついに我慢できなくなったのかリリスに近づいていく。

 

「お、おい! なんでアンタが此処に居るんだよ!? まぁ聖杯の力で蘇ったんだろうけどよ。赤龍帝に協力しているって事はアンタはギリシア勢力ってことか!?」

 

「たわけ! 妾は暇つぶしで協力してやっているのじゃ。死した後も妾の魂は意識だけ残った状態でこの世にとどまり続けた。なので小僧と会った時に退屈を紛らわす対価にたまに力を貸すと契約したのじゃ。本来ならばこの様な場所など気に入らんがな。……だいたいやる事がみみっちい! 世界を統べるとか在り来りすぎじゃ! 悪魔ならもっと凄い事を目指さぬか!」

 

ハンコックはそれだけ言うと満足気な顔をして消えていく。最後に思い出したようにグレイフィアを指さし、こう言った。

 

 

 

 

 

 

「……いい年してコスプレはするな。それともメイドプレイに目覚めたか?」

 

その時の彼女の瞳は幼い頃から良く見知った相手に向ける慈しみに加え、呆れや心配が混じった物だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤龍帝を殺す? 人間なんだから英雄派にスカウトしないの?」

 

「いや、無理だろう。どうも彼の考え方は俺達とは合わないらしい。だから、計画に支障が出る前に殺しておいてくれ。内通者の話によると旧魔王派が無能姫を殺す時に出てくるらしいから、スキを狙って殺せ」

 

「まっかせといて♪」

 

この時、二人は上手くいくと思っていた。いかに神滅具を宿していようとも所詮は人間、付け入る隙は絶対にある、と思ってしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬っ鹿だなぁ。君の存在なんて気付いていたに決まっているじゃん」

 

一誠は崩れかけた鎧の指先を聖剣でできたドラゴンの鼻先に添えて呆れたような声を出す。特に力を入れているようには見えないにも関わらずドラゴンはそれ以上進めないでいた。

 

「君が何処の誰でそのドラゴンがどういう存在とかは言わなくて良いよ。石ころの由来や名前なんてどうでも良いし」

 

一誠の背から生えた黒腕は今にも消え去りそうであり、風に震えている。タンクの中に入っている液体ももう殆ど残っていない。だが、一誠は少しも慌てず目の前の少女を敵としてすら認識していない。そして腕が一層激しく震え、

 

 

 

 

 

 

 

 

腕中に無数の口が出現した。

 

「……イタダキマス」

 

その声に呼ばれたかの様に悪魔達の死体から光る玉が現れ、先程消滅した悪魔がいた場所からも光の玉が出現する。そしてその全てが腕に出現した口に吸い込まれて行き、タンク内の液体が八割ほどまで満たされると同時に鎧も完全に修復された。

 

「なっ……あぐっ!?」

 

そのことに驚いた少女は驚愕の声をあげようとするも、いつの間にか急接近していた一誠に顔面を掴まれる。鋭く尖った指先が柔肌に突き刺さり血が滲んだ。

 

「俺の覇龍は殺した相手の魂を燃料にして保つんだ。力を一気に使えば消費も激しいけど、俺の生命力は一切削らない。……本当は別の形態もあるけど玉藻に使うなって言われているからね。……ああ、ごめん。今すぐ呪いを注入して楽にしてあげるよ。ま、死んだ後も苦しみ続けるけどね」

 

一誠は明るい声で少女に向かって残酷な宣言をする。少女は痛みと恐怖から涙を流し許しを請うように何か話そうとするが口を塞がれているために話せず、一誠の掌には呪いを表す文字が蛇のように連なり一誠の腕に絡まる。そしてその蛇が少女に迫った時、空間全体が大きく震えた。

 

『……相棒。少し派手にやりすぎたな。思わぬ客人を二匹も呼んだようだ』

 

ドライグの言葉と共に空間に穴が空き、赤い巨龍が出現する。

 

「……あれは……なんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレートレッド」

 

「そうそう、グレートレッドだった。……久しぶりだね、オーフィス」

 

「一誠、久しい」

 

そして、黒いドレスを着た最強の龍神が一誠の背後に現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ディオドラは眷属を殺した二人の闖入者に対し固まっていたが、急に得意げに笑い出す。

 

「ははははは! 面白いね、君達! オーフィスの蛇を飲んで魔王クラスになった僕に勝てると思ってるのかい?」

 

だが、二人は彼の事など眼中にないといった様子で話をしていた。

 

「……にしてもあっさり捕まりすぎんだろ。性格上攻撃できなくてもよ、時間稼ぎや牽制手段としての攻撃方法を覚えておくべきだろ? せめて結界くらい習得しとけよ、アーシアちゃ~ん。……優しさは無能の免罪符にならないんだぜ?」

 

「まぁ、そこは王の責任でしょう。回復だけしかできない回復役は格好の獲物よ。守る必要があるから相手の攻撃は手薄になるし、倒せば動揺も誘えるしね」

 

「……舐めるなぁぁぁぁ!!」

 

激高したディオドラは魔力を二人に向かって放つ。だが、男が持つ聖剣のオーラによって全て消し去られてしまった。

 

「んじゃ、俺が行っても良いんだよな?あのマッドに改造されて漸く聖王剣を使用できるようになったんだから暴れさせてくれよ」

 

「……ダメよ。まずは呪いをかけなきゃ。じゃないと中途半端な所で死んじゃうわよ?」

 

その時ディオドラは言い表し様のない寒気を感じていた……。




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