霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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三十三話

ゲームの数日前、助っ人の参加を了承した者達は彼らの住処がある異空間内で一誠から紙とペンを渡されていた。

 

「勝った時の……これなんて読むの、あたし?」

 

「ご褒美って読むのよ、わたし。力を貸した相手が勝った側は好きなご褒美が貰えるんだって」

 

「ふ~ん。あ、あたしは新しいゲームが欲しい!」

 

他の者達も各々欲しいものを書いていく。グレンデルなどは、次に白龍皇と戦う時は自分に任せて欲しい、と要望してきた。そんな中、玉藻だけは白紙を提出する。

 

「あれ? 玉藻が出るだけで意外だったのにご褒美は良いの?」

 

「はい。私は既にリボンや指輪を頂いておりますし、今回の件はご主人様の所有する戦力を見せつける意味が御座います。……ハーデス様がそういう考えだったって事、分かっておられます……よね?」

 

「……うん」

 

一誠は目を泳がせながら頷く。本当は『あのコミュ症の爺さん、新しく友達が出来た事に舞い上がってアホな事考えたなぁ』と、しか思っていなかった。それを察したのか玉藻だけでなくアリスや夜雀も彼をジト目で見る。ああ、コイツ分かってなかったな、と思いながら。

 

「ま、まぁ、そういう訳で良妻狐からすれば旦那様の為に尽力するのは当然の事。私はお側にずっと置いて下されば満足でございます」

 

「じゃあさ、俺が勝手に決めるね。玉藻が力を貸した方が勝ったら冬休みには二人で温泉に行こうよ。鈍行でのんびり旅してさ、美味しいもの食べて、ゆっくり温泉に浸かって温泉街を散策するんだ。ほら、やっぱり玉藻だけご褒美がないのは気が咎めるからさ」

 

「ご主人様……」

 

玉藻は自分の右手にそっと添えられた一誠の手に左手を添え返す。二人がそっと見つめ合うと夜雀とグレンデルはアリス達の耳を防ぐ。そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みこーん! ご主人様と温泉旅行!? あ~ん、部屋の露天風呂で背中を流し合い、そのまま……。そしてその後は温泉に浸かりながら、イヤン☆ そして浴衣姿の私を布団に押し倒したご主人様は欲望の滾るまま私を貪り、×××で×××になって、×××なんて事にっ!! よっしゃぁぁぁぁっ!!! では、ちょっと先取りして一~二発……いや、五~六発」

 

「ありす達には聞かせてないよね?」

 

『グハハハハ! 当然だぜ、旦那!』

 

「……」

 

夜雀とグレンデルは暴走する玉藻から悪影響を受けない様に二人の耳を防いだままその場を離れる。何時の間にか玉藻の尻尾は九本に増えており、ギラついた目で一誠に近づいて来た。

 

「ご主人様ぁ♥ ちょっと私の部屋まで来ませんかぁ? てか、無理矢理でもついて来て頂きます」

 

「……我目覚めるは」

 

その時、一誠は本気で身の危険を感じたという。なお、この戦いの余波で褒美に『金』と書いた者の城は半壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、あの時はビビったよ。去年、留守番した時に風呂入ってたら玉藻が突入してきて童貞奪われた時くらいだね」

 

「……主よ。あまりそういう事を人前で言うのは。それにしても見事な策ですね。グレモリーは見事に引っかかってます。……しかしグレンデルの動き、少し妙ですね。アレは武道の動き?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グハハハハハ! おい、逃げてばっかりかよ!』

 

グレンデルは洗練されたスムーズな動きで回し蹴りを放つ。それは素人の動きではなく、キチンとした鍛錬の末に身に着けた動きであった。玉藻はバク転で避けるも、掠ったのか服の裾に切れ目が入っている。

 

「あ~、もう! そんな動き、何処で身につけたんですか? 貴方って力任せに暴れまわるだけだったんじゃ……」

 

『ああ、俺がこの動きをどうやって身に付けたかって? ……通信教育だ!』

 

基本的に一誠の部下達は暇を持て余している。だから報酬の金と時間を趣味に費やしているのだ。ありす達は玩具やアニメDVD、お金を受け取っていないランスロットも剣の鍛錬などで時間を潰している。そしてグレンデルはブイヨセンから暇つぶしに借りた雑誌の広告ページに目を留めた。

 

『通信教育始めませんか?』

 

どうせ暇なのでと彼は色々やってみる事にした。テコンドー、空手、柔道、ボクシング、合気道。ムエタイ、パッチワークに太極拳。どれもこれも嵌りに嵌り、結構上達した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、グレンデル!? こっちにも被害が来てるわ! 少しは手加減……」

 

 

『あぁん!? その程度避けろ! 気合いだ気合い!』

 

先程からグレンデルが暴れたせいで観葉植物やベンチが砕かれ破片が辺りに飛んでいく。そして玉藻はそれがリアス達の方に飛んで行くようにグレンデルを誘導していた。

 

「彫像の出来上がりです♪」

 

『グッ!』

 

玉藻が腕をひと振りするとグレンデルの半身を氷が包む。グレンデルがそれを身震いで砕くと氷がリアス達に降り注いだ。

 

『……な~んか変なんだよな。なぁ、大将。さっきから戦い方がマトモ過ぎねぇか? チューブわさびを目に放ったり、カラシを鼻に突っ込んだりよ』

 

「……貴方の中で私の評価ってどうなってるんですかぁ?」

 

『外道! ……ちょ~っと試してみるか』

 

グレンデルは少し思案すると上空に飛び上がり空気を吸い込む。胸が膨張し、彼の口から炎が漏れ出した。

 

『テメェら全員焼き尽くしてやんぜ!!』

 

「ちぃ! 炎天よ、奔れ!」

 

玉藻はグレンデル目掛けて炎を放つ。それはグレンデルに直撃すると頑丈な彼のウロコに焦げを作り、グレンデルは大きな笑い声を上げた。

 

『グハハハハハハ! やっぱりテメェか……バイパー!!』

 

「……ちぇ、バレちゃったか」

 

残念そうに呟く玉藻の声は何時の間にか中性的な声へと変わり、その姿も次第に別人へと変わっていく。其処にはフードで顔を隠した赤ん坊が浮かんでいた。

 

「さて、グレモリー達に自己紹介をさせて貰うよ。僕の名はバイパー。死従七士の一人にして『強欲』の将。幻術使いのバイパーさ」

 

「幻術ですって!? でも、グレンデルには実際に傷が……」

 

「僕の幻術は君が知っているのとは桁が違う。それが本物の炎だと思い込めば実際に火傷を負うのさ。……ねぇ、グレンデル。どうして僕が偽物だと思ったの?」

 

自分の演技は完璧だったはずだ。そう思ったバイパーは首を傾げながら尋ねる。するとグレンデルは自分の頭を指さした。

 

『リボンだよ。大将は少し前に旦那から新しいリボンを買って貰ったんだよ』

 

「ふ~ん、そっか。僕もまだまだだね。……でも、目的は果たしたよ」

 

その瞬間、グレンデルとバイパーの体が消えていく。どうやら制限時間が過ぎたようだ。するとソーナの姿も消え、はるか後方で結界内に入っているソーナの姿が現れた。それを見たリアスは悔しそうに歯噛みしながらソーナを睨む。

 

「……最初から時間稼ぎが目的だったって訳ね。あの召喚の時点で既に幻覚だったの?」

 

「ええ、彼が幻術士と聞いてすぐに作戦に盛り込みました。貴女がこの場所に来た少し前には彼に幻術を使って頂いたのですよ。貴女の助っ人が玉藻さんなら負けていましたがね。……ゼノヴィア」

 

「了解した!」

 

「ッ! させません、雷よ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルを構えると先程のやり取りで気が逸れていた朱乃に切りかかる。朱乃は慌てて雷撃を放つもゼノヴィアは正面からそれに突っ込み、怪我を負いながらも突き抜けてきた。

 

「はぁっ!! ……浅かったか。この一撃で仕留めるつもりだったんだがな」

 

流石に雷撃の中を突き抜けるのは堪えたのか剣が鈍り、朱乃には太股を深く切られたで終わる。そして膝をついたその時、リアスの魔力がゼノヴィアを吹き飛ばした。

 

『ソーナ・シトリー様の『騎士』一名リタイア』

 

「アーシア、朱乃の回復を!」

 

先ほどのグレンデルの戦闘の余波で二人と少し離れた場所に移動させられたリアスはアーシアに指示を飛ばし、アーシアの神器から淡い緑色の光が放たれる。だが、その場所に『僧侶』の草下と花戒が駆けていく。邪魔はさせないとリアスが魔力を放つも草下が花戒の盾になって防ぎ、花戒は光の中に入り込む。

 

「『反転』!」

 

その瞬間、緑の光は赤い光へと変わり三人はリタイアの光に包まれて消えていった。

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』二名リタイア。リアス・グレモリー様の『僧侶』一名『女王』一名リタイア』

 

「二人共っ!? ソーナ、何をしたの!?」

 

「堕天使側から教わった技術で属性を反転させるというものですよ。まだ開発中なので不安定ですがね。さて、リアス。残るは貴女だけです」

 

「……会長。まずは私が」

 

椿姫は長刀を構えてリアスへと向かって行く。リアスも滅びの魔力で反撃するもセッキョク的に攻めてこない椿姫に苦戦し、何とか倒した頃には傷だらけで疲労が溜まっていた。

 

『ソーナ・シトリー様の『女王』一名リタイア』

 

「はぁはぁ、これで貴女と私の一騎打ちね」

 

リアスは傷を癒す為に一個だけ支給されたフェニックスの涙を飲み干す。しかし、傷は塞がったものの疲労は消えていなかった。

 

「……そんな姿で私に勝てると? 貴女、少し自分の才能を買い被り過ぎではありませんか?」

 

「買い被りかどうか試してみなさい!」

 

リアスはその一撃に全ての力を込め、結界ごとソーナを吹き飛ばすだけの威力を持つ一撃を放つ。その力の奔流はソーナを結界ごと飲み込み、後ろの風景を多少破壊した所で収まった。しかし、ソーナの姿は消えているもののリアスの勝利を告げるアナウンスが聞こえてこない。

 

「なっ!? どうして!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは先ほどの私も只の映像だからです。幻覚が晴れた姿を表せば、人はそれが本物だと思う。その心理を利用させて頂きました」

 

動揺するリアスの視線に屋上に続く階段から降りてくるソーナの姿が映る。その体には傷一つなく、心臓からはラインが伸びていた。

 

「……リアス。あなたは今回のゲームに何を賭けていましたか? 私達は命を賭けて望みました。私達の夢には敵が多すぎます。だから、私達は今回のゲームで力を示すっ! もう、ただの夢物語と馬鹿にさせませんっ!」

 

ソーナは自らの命を水の魔力に変換して操る。その水は先程までの戦いで散らばった瓦礫を飲み込み、土石流のようになってリアスを飲み込んだ。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の投了を確認いたしました。よってこのゲーム、ソーナ・シトリー様の勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱりね」

 

一誠は詰まらなそうな顔を画面に向けると部屋から立ち去ろうとする。すると他のゲームの結果が届き、一誠はカジノの権利書をランスロットに投げ渡した。

 

「はい、君の勝ち。鍛錬以外に楽しみ見つけなよ。お金はたっぷり入るんだからさ」

 

「……はっ!」

 

ランスロットが一誠からの気遣いに敬礼で返し、ロスヴァイセがこれでランスロットへの思いを募らせ、ハーデスとオーディンはまた一緒に飲みに行く。そんなこんなんで今回のゲームは終了し、一誠達の旅行も終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア、ずっと探してたんだ」

 

敗北の悔しさを残したまま、リアス達も日本へと帰還する。すると、ディオドラがホームで待ち構えており、アーシアに近づいてきた。彼が言うには自分がアーシアが追放された原因の悪魔であるというのだ。そして彼は真剣な顔で告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア、僕を蹴ってくれないかい? ……あ、違った。僕と結婚してくれないかい?」




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反転 なんで原作ではもう使わないんだろう?

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