その美女がカジノに現れた時、先程までギャンブルに夢中になっていた客も、飲み物を運んでいたボーイも動きを止めて彼女に釘付けになった。男性達は声を掛けたくなるも互いに牽制しあって出来ず、彼女はチップ売り場へと歩いていく。
「チップを買えるだけ出すが良い」
「は、はい!」
チップ販売員は美女から差し出された料金より多めのチップを差し出す。その際、チップを渡すふりをして彼女の手を握ろうとするも鮮やかに躱され、そのまま彼女は上機嫌でスロットコーナーに向かっていった。それから一時間の間スロットがコインを吐き出す音が絶え間なく鳴り響き、美女のスロットの周りにはチップをギュウギュウに詰め込んだドル箱が山積みにされていた。
「……飽きたな。誰ぞ、運ぶが良い。妾は荷物を持って歩くのは嫌じゃ」
美女は傲岸不遜な物言いで周りの者に指図する。まるで自分は傅かれて当たり前という態度だが、その姿を見た誰もが腹を立てない。それは彼女が絶世の美女だったからだけでなく、彼女の持つ雰囲気がそうさせていた。まるで生まれながらの王と言うべき風格を持つ彼女はチップを運ぶアザゼル達を従者のように引き連れ、ルーレットに向かう。
「一番に全額」
「か、かしこまりました!」
少しの迷いもなく全額を賭けた彼女が見守る中、ルーレットに玉が入れられ彼女が賭けた一番に入る。賭け金が三六倍になり上機嫌の彼女は最後にポーカーのテーブルに向かう。すると先程まで居た若いディーラーではなく、年かさの男性が座っていた。
「……お客様、本日は当カジノへお越し下さいまして有難うございます。オーナーのグリンと申します。……お名前を伺っても?」
オーナーのグリンを名乗った男性は彼女が稼いだチップを見て顔を引きつらせながらも笑みを作って一礼する。オーナーが直々に相手をするという事は彼女の事を余程危惧しているのだろう。それを知ってか知らずか美女はふんぞり返る様に椅子に座ると妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。
「ああ、今日は稼がせてもろうたぞ。妾の名はボア・ハンコックじゃ。覚えておくが良い!」
彼女は相手を見下す為に大きく胸を反らし……すぎて逆に見上げている。彼女は顔を元に戻すと足を組みかえた。大きく覗いた太股にギャラリー達の目は釘付けになり、あと少しで下着が見えそうという所で足の動きは止まる。そして彼女は何か企んだような顔で再び口を開いた。
「……のぅ、提案があるのじゃが……妾が稼いだチップ全額とこのカジノを賭けて一本勝負にせぬか? 態々何度も勝負をしていては時間が勿体ないのでな」
「た、確かにお客様が稼いだ金額は大金ですがカジノを賭けるには……」
「なら、このドレスも賭けよう。……そうそう、妾は服の下は何も付けぬ派じゃ」
その言葉を聞いた瞬間、ギャラリーがざわめき出す。もしグリンが勝った場合、目の前の美女が全裸になるというのだ。老若男女問わず生唾を飲み込み、オーナーも彼女の体を舐め回すように見る。
「……良いでしょう」
その日、彼は仕事を失い妻子に逃げられた……。
「……それでカジノを手に入れて来たんだ。まぁ、職務放棄の件は見逃すけど……」
一誠は呆れながらハンコックを運んできた男達を見る。其処には堕天使総督のアザゼルの姿もあった。
「ふん! 貴様に見逃して貰う必要はない。妾は何をしても許される、なぜなら妾は美しいから!」
「あ、ランスロット。そろそろ悪魔が来そうだから二人を一箇所に固めといて」
「御意!」
「って、聞かぬかっ!」
ハンコックの言葉を無視した二人が美猴とアーサーを一箇所に集めた頃、ようやく騒ぎを嗅ぎつけた悪魔達がやって来た。
「失態じゃのぅ、若造ども」
オーディンは集まった三大勢力の代表者達に対し、ほくそ笑みながら苦言を呈す。特に会場のすぐ近くの森まで侵入を許した魔王達とカジノに行っていたアザゼルは決まりが悪そうだ。特にアザゼルは副総統のシェムハザから後でコッテリと搾り取られそうで戦々恐々としている。そんな時、二人に対して尋問を行っていたハンコックが部屋に戻ってきた。
「……終わったぞ。組織の名は『禍の団』。主な派閥は旧魔王とそれに付き従う者達の集まりの『旧魔王派』。二人が所属するショタ龍皇ヴァーリ率いる少数精鋭の『ヴァーリチーム』。そして、上位神滅具持ち三人が居り、神器所有者が多く所属する『英雄派』だそうじゃ。……剣士の方は口を割らなんだが猿は太股を少し見せてやっただけで喋りおったわ」
「……うわ~、最低だね」
《その通りだな》
一誠が呆れたような声を出した時、ハーデスが何時の間にか現れていた。
「おいおい、アンタは今日は来ないはずだったんじゃねぇのかよ」
《ファファファ……。コウモリとカラスに嫌味を言う良いチャンスとの知らせを受けてな。……しかし警備のザルさもさる事ながら、テロリスト共の殆どか貴様らが原因とはな……》
「旧魔王派は現魔王に恨みを持ってて、ヴァーリはグリゴリ所属だった。神器は聖書の神が創り出した物。あ、大変だ! 申し込まれた同盟を受け入れると巻き込まれるかも!?」
「なんと! なら、アース神族も同盟の件は熟慮しなくてはのぅ。今の旨みのままでは割に合わんからなぁ。ハーデス殿。対策を近くのバーで話し合いませんか? 他の神話体系の意見が聞きたい」
《よろしいな。では行きましょうか》
ハーデスの言葉に呼応するかのように一誠とオーディンは芝居がかった口調で話す。その場にいた誰もが予め申し合わせていたと理解したが何も言えず、その場は其処までとなった。
ゲームまであと数日といった日の事、修行に励むソーナ達の所に一誠が訪れていた。ソーナは訝しりながらも、相手が相手なので応対する。
「……何の御用でしょうか?」
「いやね、黒歌が白音ちゃんに修行付けてるんだけど、アイツって一応俺の部下だし? 俺としては片方に肩入れしてるって思われたくないんだ。……だから、コレ持ってきたよ」
「これは……血ですか?」
一誠がソーナに渡したのは厳重に封印がされた小瓶。中には赤くてドロドロした液体が入っている。
「俺の血だよ。赤龍帝の血を吸わせると神器に良い影響を齎すらしくってさ。匙君の神器にでも吸わせなよ。……あ、封印はこの紙に書かれている事を大声で叫べば解けるから」
「……これは」
一誠から渡された紙に書いていたのは『コスプレ趣味の姉への罵詈雑言』、という物。ソーナは暫し迷った後、辺りに響くほどの大声で叫ぶ。
「お姉様、いい加減年を考えてください……この、コスプレババア!!! ……ふぅ」
よっぽど不満が溜まっていたのだろう。大声で叫んだ彼女はスッキリした顔で汗を拭う。握り締められた瓶の封印は……解けていなかった。
「あ、ごめん。説明が足りなかったね。コスプレ趣味の姉に対する罵詈雑言を叫ぶんじゃなくて、『コスプレ趣味の姉への罵詈雑言』って叫ぶんだよ。……あと、そのコスプレババアが泣きながら走って行ったよ?」
「なっ!?」
「ソーナちゃんのブワァァァァァカァァァァァァァッ!!」
たまたま様子を見に来ていたセラフォルーはソーナの叫びを聞いて泣きながら逃走。ソーナが何とか機嫌をとって泣き止ませるのに数時間かかった。
そして数日後、リアスとソーナのゲームの日がやって来る。二人は互いに分からないように控え室でクジを引く。リアスが引いたのは『5』と書かれた深緑のクジ。そしてソーナが引いたのは数字の8と×××が書かれたクジだった。
少なくても五巻の時点で匙は親に悪魔のことは言ってません 他のはどうなんだろう? 感想で知ってるはずといただきましたが未収録の短編ででしょうか?
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ボア・ハンコック ONEPIECE