霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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一話

「私メリーさん。今、貴女の後ろにいるの」

 

……ずっと友達だと思ってたのに、あんなに一緒に遊んだのに、あの子は私を捨てた。だから、復讐してあげたの。あの子の家の電話番号は知ってたから、毎日電話してゆっくり近づいて行って、そして……。

 

私の名前はメリー。可愛い可愛い西洋人形。人形には魂が宿るって言うでしょう? でもね、人形に宿るのはごくごく微小な魂。一体だけなら動くことすらできないわ。でもね、捨てられた事を恨んでいるお人形は私だけじゃないの。そんな人形達の想いと『メリーさん』の噂が交じり合って私に力を与えた。だから、私はもっと、もぉ~っと人間に復讐するの。そう思ってゴミ捨て場にいた私はあの子に出会った……。

 

 

「……ふ~ん」

 

ある日の事、あの子は私の前に現れた。私の事をジッと見て何やら考え事を始めたかと思うとそのまま私を拾い上げたの。最初は変な子かと思ったわ。どう見たって私は男の子が欲しがる人形じゃないもの。たぶんこの子は興味本位で私を拾い、また捨てるんだと思った。だから、その時はこの子を呪ってあげようと考えていたら急に話しかけてきたの。

 

「ねぇ、君って話せるよね? 名前は何っていうの? 僕は一誠」

 

「……メリー」

 

これが私と一誠の出会い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん、あんたも苦労してんだね。妹の為に罪かぶるたぁ泣かせるねぇ」

 

「は、はぁ」

 

黒歌が旧校舎に着くなり歓迎の宴が行われた。どうやらここに住む者達なりの極秘ルートがあるらしくテーブルの上には酒や料理が並べられていた。黒歌は口裂け女やベートヴェンの肖像画に囲まれてチビチビと酒をあおり、一誠はメリーや二宮金次郎像と談笑している。視線で助けを求める黒歌だが一誠は気づかず話し続けた。

 

 

「……あっ、もうそろそろ帰らなきゃ」

 

窓から新校舎の時計を見た一誠は立ち上がると名残惜しそうな顔するおかっぱ頭の少女やメリー達に別れを告げ、そのまま窓から出て行った。残された黒歌は暫く久しぶりのまともな食事に夢中になっていたが、ふと思い出したかのように尋ねる。

 

「ねぇ、ここが安全って聞いたけど本当? と言うか、一誠はどうして平然とこの場に居られるの?」

 

「ああ、その事かい? ここは旧校舎の中であって旧校舎の中じゃないんだよ。学校の怪談は知ってるだろう? そこにいる花子や二宮達が出てくる昔からある話だよ。私達の殆どもこの場所も、怪談を怖がる人の恐怖から生まれた存在なのさ。だから普通は外とは繋がってない。でも、話の舞台はあくまで学校だから此所には全国の旧校舎から入れるし、全国の旧校舎に出れる。小学校に限らずね……。この料理もそうやって手に入れたのさ。……あの坊やはある日いきなり現れてね。いくら脅しても平然としているばかりか、次から次へと仲間を連れてくる。そこのメリーもその一人さね。本当は許可がない現世の者は入れないんだけどね」

 

口裂け女はそう言うとため息をつき、酒を一気に煽る。

 

「もしかしたらあの子は、この世の理から外れた存在なのかねぇ……。そうそう、外に出たい時は言いな。いつでも出してやるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところでなんで旧校舎限定?」

 

「そりゃまぁ、新しい校舎にお化けが出るなんてイメージが薄いからじゃないかい? その内新しい校舎での怪談が増えれば新校舎からもこの場所に来れるだろうさ」

 

 

 

 

そして一誠は通う学校の旧校舎からこの場所に通い、やがて高校生になった。彼が通うのは少し前まで女子高だった駒王学園。選んだ理由は近いという事と旧校舎があるという事。そして、とても禍々しい空気が漂っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、兵藤。お前は部活決めたか?」

 

「……別に」

 

入学してから少し立ってそろそろ部活に入る時期になった頃、中学が同じだった松田、元浜の二人が話しかけてきた。生きている人間には基本興味がない一誠は、二人が何時ものようにする猥談を無視しながら部活紹介のプリントに目をやる。すると、一つの部が目に付いた。

 

「(オカルト研究部……か。部室も旧校舎だし見学だけでも……)」

 

入学して直ぐに旧校舎に向かいたかった一誠だが旧校舎は離れた場所に有り、下手に近づいて怪しまれたら面倒だと判断して近づかないでいた。だが、部室があるなら近づいても誰も変に思わないと判断した一誠は見学に行こうかと思い席を立つ。その時、頭の中に声が響いてきた。

 

『辞めておけ、相棒。ここの旧校舎には悪魔が居る』

 

声の主の名はドライグ。かつて二天龍と呼ばれた龍の片割れで、今は人の身に宿る神器というものに封印されて一誠に宿っている。彼と一誠は既に十年近い関係で、一誠はドライグの事を5番目くらいに信用していた。

 

「(……ああ、この学園に入ろうとした時も言ってたな。じゃあ、皆に会う時は何時も通り夜に小学校か中学校にでも忍び込むか)」

 

そう判断して部活に入るのを断念した一誠はそのまま帰る準備をしだす。帰る途中、大勢の女子に囲まれた金髪の美少年に後ろの二人が嫉妬の念を送っていたが、気にする事もなく帰路に着く。家に帰ると誰もいなかった。どうやら母親は出かけているらしく父も仕事で夜まで帰ってこない。一誠は自分の部屋に入ると制服のままベットに寝転んだ。

 

「……読みかけの漫画と麦茶。あと、風呂を沸かしておいて」

 

一誠は寝転んだまま誰も居ない場所に向かってそう呟く。すると机の上に置かれた漫画が宙に浮き一誠の手に収まり、リビングの冷蔵庫の戸が勝手に開いて中に入っていた麦茶が勝手にコップに入ると二階にある一誠の部屋まで飛んでくる。そして風呂の水道が勝手に開いて水が浴槽に入りだした。

 

『……まさに能力の無駄使いだな』

 

「別に良いでしょ? 俺が自分の力を好きに使ってもさ……」

 

呆れた声で呟くドライグに対し一誠は気怠そうに返事するとそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ行くか」

 

時刻は草木も眠る丑三つ時。こっそり家を抜け出した一誠は小学校の前までたどり着いた。一誠は小学校の塀を見つめると軽く口笛を吹く。すると彼の周りに現れた幽霊達が彼の体に纏わりついて其の姿を消した。やがて旧校舎の扉にかけられた鎖が解かれ、一瞬開くと再び扉に絡みついた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー♪」

 

一誠が旧校舎の中に入り込むなり飛びついてきた影があった。黒歌である。彼女の声に反応するように他のお化けも集まりだし、一誠は親が起きる少し前まで彼女達と楽しく過ごす。やがて時は流れ一誠が二年になった頃、帰宅中の彼に話しかける者がいた。

 

 

 

 

「兵藤一誠君ですよね? 付き合ってください!」

 

この時、一誠は少女の目的に気付いていた。それでなお気付かないふりをする。少女に気づかれない様に口角を釣り上げ、邪悪な笑みを浮かべながら……。

 


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