「
「いや、そこは驚こうよ!? 無限龍よ!? それにこの体だって……」
おばけ屋敷から出た一誠達は一旦休憩の為にフードコードに来ていた。何故か人間になっていたメリーと共にハンバーガーを食べながら何故その様な姿になったのか説明しだしたメリーだが、一誠達の反応は薄かった。
「だってマユリが居るし。どうせ変身できるようになってるんでしょ」
「イッセーが居るんだから非常識は今更だし。オーフィスが自由に姿を変えれたし、外でも動ける様になってるのよね」
「ああ、そうね。イッセーが居るんだから当たり前か」
普段の行動が行動なので直接な彼女達に何も言えない一誠。確かに今までサマエルのオーラからシャドウを作り出したり、並行世界に行く装置を作り出すなど、マユリと共に非常識なことを成し遂げてきた。だからせめてフォローをと思いランスロット達の方に視線を送る一誠だったが、
「ランスロットさん、あ~ん」
「あ~ん」
「あぁん、メリーちゃんも可愛いわぁ。この後は服屋で色々と……」
「あ~あ、やっぱりウチの大人は役に立たないなぁ」
クリームソーダを啜りながら頬杖を付く一誠。その時横からスプーンが差し出された。メリーはパフェを掬ったスプーンをそっと一誠の口に入れる。
「ねぇ、美味しい? 今まで物が食べらなかったからこういうの初めて食べたけど結構良いものね。この体をくれたマユリには感謝しないといけないわね」
「ふ~ん、それは大変だったね。俺は三大欲求のうち食欲が七割を占めてるからそういうの地獄だよ」
冥府は其の地獄の最深部に存在しているし、冥界の一部は既に冥府を中心とする他神話の領地になっているのだが、其処は誰もツッコミを入れなかった。
「おや、性欲はそれほど割合を占めないのですね」
「ほら、今の僕って子供だからそういうのよく分からないんだ」
ランスロットの疑問も当然だろう。三人の女性を娶り毎日の様に交わっているにも関わらず食欲が七割というのだ。
「まったく、子供相手に何言ってるのよ。そ〜いう事をありすちゃん達三人の前で言わないで頂戴」
一誠を抜かしている所を見る限るもはや矯正不可能だと判断しているらしいメディア。ランスロットも素直に反省する中、彼の携帯にメールが入る。
「……」
「どうしたの?」
「いえ、特に問題があるわけでは……」
明らかに深刻そうな顔のランスロットが誤魔化そうとするもごまかせるはずがなく、一誠から疑わしそうな瞳を送られている。そしてテーブルの下を迂回して伸びて来た黒い手が携帯を奪い取った。
「はい、イッセー」
「どうぞ、イッセー」
「うん! ありがとう」
ありす達が創りだし、今は人目に付かぬように影に隠れている魔獣の手から携帯を受け取る一誠。ランスロットが慌てて取り返そうとするもメール画面を開く方が早かった。
「……え?」
携帯が一誠の手から滑り落ち床に落ちる寸前にメリーが掴み取る。メールを見た一誠は呆然としていた。
「もう、ダメでしょ! ……どうかしたの?」
「……お父さん達が襲われたって連絡が」
「……ほんとうに良いのかなぁ」
襲撃者はどうも冥界の悪魔らしく、恐らくは今のように悪魔が急激に衰退した原因が一誠に有るとして両親を人質に取ろうとしたのだろう。襲撃者の中にはレーティング・ゲームのトップランカーやその眷属も含まれており、その理由に心当たりがある一誠は腹立たしげにしている。
なお、襲撃者は全て撃退し、今は両手両足を奪い舌を噛まぬように猿轡をした状態で魔力を封印して拘束しているそうだ。両親は襲撃があった事を全てが終わった後で知らされたので恐怖心すら抱いておらず、そのまま楽しめと言っている。
「だいじょうぶ。言葉に甘えましょ」
「だいじょうぶよ。楽しみましょ」
「……むぅ」
ありす達二人は先程のパフェを食べさせた事への意趣返しの積もりなのか一誠の腕に抱きつき不満そうなメリーの顔を見て笑っている。メリーはその姿を見て頬を膨らませ、メディアはその姿が微笑ましいとビデオカメラを回していた。
「……あれ? なんか変な感じがする」
メリーは立ち止まると下腹部を摩る。人形の時には感じる事がなかった感覚がやって来たのだ。何やら体の中のものが外に出ようとする違和感……尿意である。取り敢えずメディアに相談して理由を突き止めたメリーはトイレへと向かっていく。
《グヘヘヘヘ。ちっこいのが一匹離れたぞぉ》
そして龍門をこっそり開いて一匹の邪龍が現れる。かの名はニーズヘッグ。二対の翼と四肢を持つ北欧の邪龍で大食らいの凶暴な龍だ。今まさにその体から放たれる瘴気がその姿を見て驚いている客やトイレに入ったメリーに襲い掛かる、
《ウフフフフイ。させないヨ》
事はなく、見えない力によってニーズヘッグの周囲に留まった。周囲の客も急に虚ろな目になり周囲から離れていく。防犯カメラも軒並み故障し龍を撮した映像は全て消え去った。
《オメ、何もんだぁ?》
「私かい? 私はブイヨセン。霧吹き山のブイヨセンだヨ」
元々ブイヨセンは人を攫っては好き勝手に弄んでいた大悪霊。人間を操る事などいとも容易く行え、ニーズヘッグを見ながらも遠くの一誠達に手を振っていた。
《地区予選だかブイヨセンだか知らねっけど、俺の邪魔すんなら食ってやるぅぅぅぅ》
大口を開けてブイヨセンに飛び掛るニーズヘッグ、だがその体はまるでビデオの一時停止のように止まってしまう、ブイヨセンの念動力は既に邪龍の動きを楽に止められるレベルまで達していたのだ。
《ほほぅ、フェニックスの涙だネ》
ニーズヘッグが体に隠していた小瓶が次々とブイヨセンの手元に飛んでくる。それを見せびらかせるように片手で弄っていたブイヨセンは空いた手を大きく開けられたニーズヘッグへと向ける。
《アァ、これは偶々ある悪魔の魂を食べたら奇跡的に手に入った……と必要のない冗談交じりの建前でそういう事にしている滅びの魔力だヨ。ほら、存分に食べたらどうだイ?》
放たれたのは野球ボール大の二つの滅びの魔力。それはニーズヘッグの口から防ぐ為の物がない体内に入り込み、脳と心臓を破壊した。
《触れたら消滅するなら無理に体全体を消し去る必要はないんだヨ、ウフフイ。頭か心臓を潰せば基本的に生物は死ぬんだからネ》
ニーズヘッグの魂を逃がさぬようぬ回収しながら笑うブイヨセン。其れは誰かを嘲笑っている様だった。
「色々あったけど今日は楽しかったわ。また遊びましょ」
「……俺は疲れたよ。いや、子供の頃の俺、曲がらなかったらあんな風だったんだ」
”倍加した力を譲渡すれば良いのでは?”、とランスロットは今更ながら思い付いたのでメディアを強化して元の姿に戻った一誠は先程までの自分の思考を思い出して一気に気疲れする。疲れから椅子に座り込む一誠。するとメリーが近付き、
「これは今日のお礼よ」
頬にそっとキスをした。
「ふ~ん。まあ、受け取っておくよ」
「も~! あまり反応しないのね。……あの二人と違って」
メリーが指さした先にはふくれっ面のアリスとありす。この後、二人からの頬へのキスを受けるまで不機嫌なままであった。
《ファファファファ、お主が例の愚かな女の魂から引き出した情報、それを危惧でもしたかの?》
「多分ね。……流石に今回の一件は見逃せない。完全に滅ぼすと旨みが無くなるからしないけど……悪魔社会にトドメを刺してやる」
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