霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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閑話 小さくなった外道

 死神の仕事は死者の魂が迷わずあの世に行く為の案内人であり、一誠の部下達は特別に見逃す代わりに死神の仕事の手伝いをしているのだ。

 

「……浮気相手との無理心中やら痴情の縺れの殺人とか財産を巡る骨肉の争いとか……皆もっと仲良くしなよ」

 

 無論最上級死神になった一誠も死神としての仕事を任されており、最近立て続けに続いた余りにもな内容に気分がブルーになっていた。これが敵対行動取られたから叩きのめした、等だったら気にならなかったが、敵ではない者達の昼ドラの様にドロドロとした人間関係は精神的にくる物が有る様で、ベットに寝転がると枕に顔を埋めて足をバタバタ動かした。

 

「あ~も~! 純粋な幼子だった頃の俺がこんなの知ったら絶対グレてたね。断言できるよ!」

 

「ほへ? 純粋な幼子だった頃、ですか?」

 

 先程から古いアルバムを開いて写真を眺めていた玉藻は一誠の発言の意味が分からなかった様にキョトンとしている。まるで、そんな頃が貴方にあったのですか?、とでも思っているかの様だ。

 

「いやいや、嘘はいけませんよ? ご主人様。確かにご主人様には幼い頃がありました。それは幼い頃よりずっとお側に居る私が証明致しますし、そもそも木の根から育った姿で生まれたわけではないのですから当たり前ですが……純粋だった頃はないでしょ」

 

「そ〜いう事を言うのはこの口?」

 

痛い痛い、ごめんなさ~い(いひゃいいひゃい、ごめんなふぁい)!!」

 

 どうやら本気でそんな頃など無いと思っていたらしく、語る時の目は曇り一つない。当然その様に澄んだ瞳でその様な事を言われれば腹も立つし、実際怒っていた。玉藻の口の両側を持った一誠は上下左右に動かし、最初はお仕置き程度だったのが予想外に伸びるので楽しくなったのか動きが激しくなっていた。

 

「……うぅ、ちょ~っと本当の事言っただけなのにぃ」

 

「まだ言う? まったく、俺にだって純粋な頃くらいあったって。たださ、その頃は今の様な力を手に入れるなんて思ってなかったし、力の使い方も知らなかったから苦しんでる霊達に対して何も出来ない事への無力感を感じてさ……目が濁って性格が悪くなった」

 

「まぁ、確かに怨霊とかって幼子からすればSAN値削りまくりですもんねぇ。……あの、ご主人様。このような話で空気を重くしてしまいましたし、私は責任を取ろうと思います」

 

 突如口調を変えて真剣な眼差しになった玉藻。今の彼女には何時ものおちゃらけた様子は微塵もなく、天照の一部を取り込んだ者としての威厳すら感じさせる厳かな空気を纏っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ささっ! 今すぐ子作りをっ!」

 

 もっとも、その空気は0・5秒後に繰り出されたルパンダイブと共に消滅したが。器用に空中で服を脱いだ玉藻は一誠に飛びつくと甘える様に頬をすり寄せた。

 

「ねぇ、ご主人様ぁ。今晩は寝かせませんよ、ってか明日は休みだから明日の夜まで楽しみましょう! はい決定! ではでは、ご主人様もぉ、早く服をお脱ぎくださいましまし?」

 

「相変わらずシリアスクラッシャーだね。……う~ん、その提案は非常に魅力的なんだけど」

 

 一誠は両手両足を使って玉藻を強く抱き寄せる。だが、服は脱いでいなかった。

 

「え~と? 着衣プレイ?」

 

「悪いけど違うんだ。明日はさ、ありすとアリスを遊園地に連れて行く約束をしてるんだ。ほら、あの子達の相手って体力使うでしょ? だから今晩はさっきの発言の罰として一晩中抱き枕の刑って事で」

 

「ぶ~! バカ猫も死神娘も冥界エステツワーに出かけてるから独り占めできると思ったのにぃ。……まあ、約束なら仕方ありませんね。でも、埋め合わせはちゃんと、……って聞いてねぇ」

 

 余程精神的に参ってたのか静かな寝息を立てて眠っている一誠。その姿に少々不満そうな玉藻だったが溜め息を吐くと一誠の胸に顔を埋めて体を摺り寄せると直ぐに機嫌が良くなった。

 

「えへへ~。そ〜言えば今のご主人様も素敵ですがショタご主人様も可愛らしくって良かったですよねぇ、ぐへへ~。……そうだっ! ホンニャラカンタラチンカラホイ、アチャラカモクレンキューライス、ワレハモトメウッタエタリャー」

 

 寝息を立てて寝出す前に奇妙な呪文を唱える玉藻。やがて夜は更けていき、朝日が登って朝が来た。

 

 

 

 

 

 

「え~と、それでこんな事になってるのね。ねぇ、アリス(わたし)。オバ様って馬鹿じゃないかしら」

 

「それでこんな事になったのね。オバ様って馬鹿なのよ、ありす(あたし)

 

「オバ様言うなー!! うう、ほんの出来心だったんだもん。ただ眠かったし欲望がダダ漏れになったせいで少しおかしくなっちゃったけど」

 

 リビングで正座させられる玉藻はありすとアリスに見下ろされており、ソファーの上にはその様子を眺めるメディアと幼い頃の一誠(・・・・・・)の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「も~! イタズラはいけないんだよ玉藻! それで遊園地は()も行けるの?」

 

 玉藻が掛けた術は記憶と精神そのままで体だけが一時的に幼くなるという物……だった。だが、漏れ出した欲望と眠気のせいで色々おかしくなり記憶そのままで精神と肉体が幼くなっていた。

 

「取り敢えず術式は組み直したから明日には戻っているでしょうね。……私は連徹明けだから帰って寝るわね」

 

 又しても締め切りギリギリに原稿を上げたメディアはそのまま帰ろうとする。だが、その裾を一誠が掴んだ事で動きが止まった。

 

「ねぇ、メディアさんも一緒にいこ!」

 

「うっ! わ、悪いけど今日は疲れて……」

 

 今の一誠は今まで見た事のない澄んだ瞳をしておりメディアも少したじろぐも眠気を優先する。

 

「え~! メディアさん来ないの?」

 

「メディアさんも一緒に行きましょ」

 

「喜んでっ!」

 

 そして可愛らしい少女二人(ありすとアリス)の誘いであっさりと天秤は傾いた……。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの! 子供三人のお世話は大変でしょうし、私もご同行を……」

 

「あら、貴女は駄目よ。今回の件を引き起こした責任をとって旧校舎のお掃除の手伝いにでも行きなさいな。ってか美少女二人との極楽タイムの邪魔はさせないわ」

 

「あれ? 僕は?」

 

「……わ、忘れてないわよ? 貴方が居ないと二人共寂しがるでしょうし……仕方ない。あの新婚バカップルを呼び出しましょう。……流石に護衛がいるでしょうしね」

 

 

 

 この日、新婚ホヤホヤの騎士の休日は取り消しになった……。




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