霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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新刊出るので試し書き


閑話 あぷだくしょんGEDOU

 それはとある日曜日の朝の事、玉藻はヘラとペルセポネーとお茶会があるので昨日から出かけており今は居ない。何時も会社がある一誠の父や家事をしている母もこの日は少々起きるのが遅かった。

 

 寝室から出てくるとキッチンの方から味噌汁のいい臭いが漂ってきており、包丁の軽快な音が聞こえてくる。黒歌かベンニーアが朝ごはんを作っているのかと思いながらキッチンに向かった二人だが、次の瞬間には固まる事となった。

 

「お早う御座います、父さん母さん」

 

 其処に立っていたのは爽やかな笑みを向けてくる澄んだ目の息子(一誠)の姿。明らかに異常事態だ。

 

「た、大変だっ! 救急車!」

 

「駄目よっ! 普通のお医者さんじゃ治せっこないわ! きっと悪魔か何かの呪いよっ! こういう時はメディアさんかギリシャの神様に連絡をっ!」

 

「二人共! 朝から何ですか悪巫山戯なんかして。私は何処もおかしくないでしょう? 至極マトモじゃないですか、まったく……」

 

「「マトモだから慌てているんだ(のよ)!」」

 

 実の息子に倒して酷い事を言う二人だが、これでもちゃんと息子の事を心から心配しているのだ。むしろ何時も濁った目で外道な事をしている一誠の方が悪いだろう。この頃になって騒ぎを聞きつけたのか黒歌達が起きてきた。

 

「やあ、お早う御座います。今日も良い天気ですね。こんな日は何時も以上に幸せをかみしめたくなりますよ」

 

「はぁい、イッセー。おはようにゃ。……ねぇ、白音。私の気のせいかしら? 一誠が聖人君子みたいな笑みを浮かべているんだけど」

 

「有り得ませんが……現実に起こっていますね。幻覚ですね」

 

《気持ちは分かるっすけど、現実でやんすよ? ……性格が正反対になる病気でも流行っているんでやんしょうか》

 

「……むぅ、どうも皆さんの様子がおかしいですね。熱でもあるのでしょか?」

 

 おかしいのはお前だ、この場に居た全員がそう叫びたい衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

 

「忙しい時だというのに態々すみません。私とすれば普通のつもりですが、みなさんがおかしいというのならおかしいのでしょう。それで、何か異変が起きていますか?」

 

「キモッ!? ぼ、坊やがおかしくなった。……いえ、頭のネジが外れている何処かおかしいのが何時もの坊やで、今の坊やは至極まともだからおかしいのよね。……あれ? おかしいって何だったかしら?」

 

 とりあえず頼るべき存在として認識されているメディア(締め切り当日)は真っ白な原稿を横に置いて現実逃避の為に一誠を診察する。なお、先程から担当の藤村大河からの催促の電話が鳴り響いていた。

 

「……どうも妙な術がかかってる様ね。ちょっと私の知識にあるのとは違うわ。どちらかと言うと呪いの類ね。こういったのは玉藻の方が詳しいのだけど。……とりあえず様子見ね」

 

「そうですか。あの、お世話になりました。何かお礼に出来る事は有りませんか?」

 

「だったら原稿書いて」

 

「それは駄目です。仕事は仕事ですから」

 

 浮かべているのは曇り一つない笑み。それは見る者によっては信仰の対象となるほどのもの。だが、何時もの一誠を知っているメディアは怖気しか感じなかった。

 

「とりあえず不気味だから帰りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか。主殿がマトモになったのですねさて、ロスヴァイセは暫く北欧に帰っていて頂きましょう。何かあったらいけませんからね」

 

「あはははは。君も冗談が上手くなったね、ランスロット」

 

「いえ、冗談ではありませんが」

 

 続いて頼りにされたのは北欧魔術に秀でたロスヴァイセ。お茶会の後に三人で遊びに行った玉藻とは連絡が付かなかったので帰りが何時になるか分からず、取り敢えず試しに見て貰いに来たのだがこっちも買い物に行っていて留守だった。

 

 ランスロットは自ら入れたお茶を一誠達に出すとこれから起きるかも知れない天変地異にどう対処しようか思案し出す。既に元円卓の騎士達は非常物資の貯蓄の準備を始めていた。主とし忠誠を誓われている一誠だが、彼にすっかり染められたランスロット達はマトモになった一誠に対して結構酷い。何時もの彼に対する評価が伺えるというものだ。

 

「……所で昨日何かありませんでしたか? 夕方にお会いした時は何時も通りマトモじゃない普通の状態でしたが」

 

「昨日夜の散歩に出た時にUFOに襲われたくらいでしょうか? 上半分がガラスの様になっていまして触角の様な物が付いていて、下から先が拳になったマジックハンドが飛び出ている妙なUFOでして、その拳に持ったビーム銃で撃たれてから記憶が曖昧でして。まあ、特に異常というほどの事でもないかと」

 

「いや、明らかに異常な事態ですよね? ……天然外道から天然紳士になっていますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様~! マトモになってしまったって聞いて慌てて帰ってきましたよ! ああ、お労しや。腐れ外道だけど身内には激甘なのがご主人様の魅力なのに。……あっ、今の状態に全く魅力が無いとは言っていませんよ? 性格が変わっても魂の輝きは変わっていませんので」

 

 夕方になって漸く帰って来た玉藻は慌てて一誠に抱き着き、一誠はそれを直ぐに抱きしめ返した。

 

「遊びに行ってたのに慌てて帰ってきてくれるなんて……やはり貴女は私が愛した女性です」

 

「ああん、そんな状態でも相変わらずですねぇ♪ ……にしてもそのUFO許すまじ! ご主人様はご主人様だから良いってのに妙な事しやがって。……バリバリ呪ってやる」

 

「こらこら、気持ちは嬉しいですが物騒な事はいけませんよ? 彼も悪気があるわけでは……多分無いでしょうし」

 

 その一言を玉藻は聞き逃さず、顔をズイっと近づける。

 

「……その口ぶりからすると姿を見ているのですね? どんなのか教えて下さい。姿が分かれば少しは呪えますので」

 

「……え~と、彼も軽い実験のつもりだったのでしょう。だからそんなに怒らないで……」

 

「よし! 犯人確定。……あのマッド、許すまじ。私の結婚詐欺処刑砲が火を噴きますよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、涅マユリの研究所ではマユリが鼻歌を歌いながらはぐれ悪魔を解剖していた。

 

「ぎゃぁあああっ! 痛い痛いっ!」

 

「うるさいヨ! 痛覚を最大にして何処まで生きてられるかの実験なんだから当たり前だろう!」

 

 まさに外道の極みである。そして三体目の実験体が死んだ時、研究室のドアを開ける者が居た。

 

「……ネムか。私は今忙しいんだヨ! 見たら分かるだろう、この愚図! 例のUFOは途中で落ちてしまうし散々だネ」

 

「そのUFOの件でお客様です」

 

 途端、研究室の機材が凍り付く。マユリが恐る恐る振り返ると其所には悪霊としての姿を晒けだした玉藻が立っていた。

 

 

 

 

 

「ふふふ、楽に死ねると思ウナヨ?」

 

 

 それから暫くの間、マユリの姿を見た者は居ない・・・・・。

 

 




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