霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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閑話 死神の会議 下

《所詮、あっしとは政治絡みでの婚約関係でしかないんでやしょうか……》

 

 ベンニーアは一誠に気付かれないように溜息を吐く。確かに大切にしていてくれているのはわかるし、好意も感じる。数日前もベットの上で何度も気絶するまで可愛がって貰ったばかりだ。でも、それでも彼女の心に巣食う不安は晴れなかった。幼い頃からの付き合いである玉藻や黒歌と違いベンニーアが一誠と出会ってから十ヶ月も経っていない。故に軽い劣等感を感じていたのだ。

 

「ベンニーアちゃん、何処か痛い所でもあるの? 病院行く? 辛いなら休んでても良いよ」

 

《な、なんでもないでやんす》

 

 そしてこの様に優しくされる度に自分に嫌悪しているのだ。お前はなんで彼を疑うような真似をしているのだ、と……。

 

 

《ファファファ。皆揃ったな。では、これより会議を開始する》

 

 そして、不安を感じたまま最上級死神の会議が開始された……。

 

 

 

 

 

 

《そういえば、無能姫……おっと、一応会議では正式名称を使うべきだな。グレモリー男爵家の元次期当主リアス・グレモリーの眷属が放火によって大怪我したそうだが、治安悪化による月々の徴収金に影響は有るのか? プルート》

 

《いえいえ、所詮は男爵家、公爵家ならともかく大きな影響はありませんよ。それにしても獅子身中の虫とはよく言ったものですね。先の戦争で死んだルキフグス家の兵士の身内が使用人に紛れ込んでるとは。まぁ、下級にしてはソコソコやる様でしたが、薬を盛られた所を襲われればどうしようもないですね》

 

《騎士は瓦礫の下敷きになり、半吸血鬼は動揺している所を切りつけられて両目を失い、残った聖女は火に包まれて……もはや哀れみさえ感じますね。まあ、諸悪の根源は我らが期待の星が既に倒しましたけどね》

 

「そうそう、これは余談なんだけどさ、ウチのブイヨセンに偶々手に入れた魂を食べさせたら滅びの魔力っぽい力を偶然(・・)手に入れたんだ。すっごい偶然だよね~」

 

《すごい偶然じゃな》

 

《ええ、偶然が重なりましたね》

 

 ハーデスと最上級死神達は声を揃えて笑う。ベンニーアはその姿をボーっと見ていた。

 

 

 

(ああ、相変わらず腹の中が真っ黒で……素敵でやんすねぇ。味方には甘甘なのに敵は虫ケラ以下の扱い。ああ、惚れ直すでやんすよ)

 

 もう、色々と染められているベンニーア、彼女が一誠を見る目は恋する乙女のものであり、自らの体を抱きしめて身震いしていた。

 

 

 

 

 

 

「ふ~、漸く終わったよ。俺も皆と話し合いをした事はあっても、こういう会議は久々だからね」

 

 会議後、一誠が椅子に座ってグッと背伸びをしているとベンニーアが何も言わずに肩を揉みだした。

 

「あ~、そこそこ。ねぇ、この後はどうする? 時間あるしさ、今日は二人っきりで遊ぼうよ」

 

《あ…あの、あっし、行きたい所が有るんでやんすが……》

 

 ニコニコと笑う一誠に対しベンニーアはモジモジしながら願いを言った……。

 

 

 

 

 

「本当に此処で良かったの? 別にもっと大きな所でも良いんだよ? ……そういや、俺ってこういう所に来るの久々だよ。子供の時以来かな?」

 

 一誠達がやって来たのは遊園地。それも有名な大型ではなく、地方にある小さな所だ。在り来りなアトラクションしか無く、売りが少し大きめの観覧車でしかない。それでも一誠は物珍しそうな顔をしていた。

 

《あの二人とはご一緒に来た事ないんでやんすか?》

 

「うん。黒歌はお尋ね者だったし、玉藻は家でノンビリするのが好きだからさ。だから、こういう所でデートするのは君が最初」

 

《あっしが最初……》

 

「うん。じゃあ、行こうか」

 

 一誠は顔を赤らめて俯くベンニーアの肩に手を置くと軽く抱き寄せ、体をくっつけながら歩き出す。一誠の耳にはよく聞こえなかったがベンニーアは鼻歌を歌い、口元が少し緩んでいた。

 

 

 

『ばぁっ!!』

 

「……え~と、コレはなんだろう?」

 

《一つ目小僧、と思うでやんすが……》

 

 最初に入ったのはお化け屋敷。霊使いで最上級死神と最上級死神と人間のハーフにも関わらず入ったのはお化け屋敷。一つ目小僧歴三十年の(ひとつ)目太郎(めたろう)も困惑だ。カップルが来たので驚かしてやろうと思ったら冷めた態度で返され固まってしまった。

 

「まっ、この人も必死だろうし仕方ないよ」

 

《探り探りやってるのが見え見えでやんしたが、仕方ないでやんすよね……》

 

 そのまま二人は一つ目小僧の隣を通り過ぎていった。

 

 

「……チクショー!!」

 

 

 

 

 

「素材は安物だけど味はそれなり、かな?」

 

《ここのハンバーガーそれなりに人気なんでやんすよ》

 

 小腹が減った二人はフードコーナーで軽食を摂っていた。一誠は五十個ほど、ベンニーアは一個をモシャモシャと食べ進む。此処の料理は中々口に合ったらしくご機嫌だった。

 

《あ、あの、お聞きしたい事が……》

 

「何?」

 

《い、いえ何も無いでやんす……》

 

 俯いて黙り込むベンニーア、一誠はその顔を黙って見ていた。

 

 

 

 

「いやぁ、ジェットコースターとか、もっと速く動けるから詰まらないと思ったけど、結構楽しめるもんだね。君と来て良かったよ」

 

《あの、最後に観覧車に乗りやしょう。もう直ぐ始まるでやんすから……》

 

 時刻は夕暮れ、ベンニーアが指差したのは観覧車だった。

 

 

 

 

 

「うわっ! 凄いや……」

 

 炸裂音と共に夜空に火花が舞い散る。この日、この近くで花火大会が行われていたのだ。あらかじめその事を知っていたベンニーアは開始時刻に合わせて観覧車に乗ったのだが、はしゃぐ一誠と違って彼女は花火をちゃんと見ようとしていなかった。

 

「……ねぇ、それで俺に話したがってた事って何?」

 

《そ、それは……》

 

 一誠は向かい合わせの席から言い淀むベンニーアの隣に座り直す。彼女の横顔は打ち上げられる花火の明かりに照らされていた。

 

《あっし、不安なんでやんすよ。玉藻さんも黒歌さんも一誠さんに傍に居て欲しいと思われて傍に居るでやんす。でも、あっしと一誠さんは政治的な意味合いでの婚約でやんすから……》

 

「うん、そうだね」

 

《ッ!》

 

「でもさ、出会いとか一緒にいる理由なんてどうでも良いじゃない。肝心なのは一緒に居て欲しいか、一緒に居て楽しいか、でしょ? 俺は君と一緒に居たいし、一緒にいて楽しい」

 

 一誠は笑みを浮かべて跪くとそっとベンニーアの手を取った。

 

 

 

 

「俺は俺の意思として言うよ。ベンニーアちゃん、俺は君が欲しい。だからさ、俺と結婚してくれるかな?」

 

《はい!》

 

 ベンニーアはそのまま一誠に抱き着き、二人の唇が重なった……。

 

 

 

 

 

 

「……まっ、今日はそっとしておいてやりますか。私、本妻ですしぃ? 余裕が有るっていうか~」

 

「にゃははは! こうやって覗いている時点で余裕がない証拠にゃん。……あっ、イッセーの手が服の中に。幻覚で他から見えないからって……羨ましい」

 

 そして、お化け屋敷の屋根の上から其れを観察する二人の姿があった。

 

 

 

 

 

「他の八人は?」

 

「事前に察知したクロウクルワッハやポチ達上位実力者に足止め喰らっています」

 

 

 

 

 




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