霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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閑話 死神の会議 上

 そろそろ春間近のせいか少々暑くなって来たとある朝、一誠が目を覚ますと身動きが取れなかった。一瞬何者かによる呪術や金縛りかと思ったが、直ぐにその原因が判明する。

 

「……うみゅ」

 

 体の上に玉藻が

 

 

 

 

「ご主人様ぁ……」

 

 二人乗っていた。いや、其れだけではない。

 

「んっ、もっと構いたいのならば許して差し上げます……」

 

 右手にはツンデレ系が、

 

「むにゃむにゃ…おいおい、もっと可愛がっておくれよ」

 

 左手には姉御系が、

 

「旦那様、其処は弱いので……」

 

 右足には淑女系が、

 

「ふふふ、頭を撫でられるのは心地よいな」

 

 左足にはクール系が抱きついている。なお、仰向けになっている一誠の下には不思議系が居て、両脇からのんびり系と真面目系が抱きつき、上に乗っているのは本体と気弱系だ。

 

 

 

「……少し暑いけどもう少しだけ」

 

 体中を包む肉体の感触に心地よさを覚えた一誠はそのまま睡魔に身を任せようとする。まだ覚醒していない頭は睡眠を欲しがっており目蓋が重かったので二度寝が始まり、

 

 

 

《起~き~る~で~や~ん~す~よ~!!》

 

「わっ!?」

 

『な、何事っ!?』

 

 部屋に入ってきたベンニーアによって起こされる。フライパンの裏をお玉で叩いてカンカンというけたたましい音を立てたベンニーアは少々憤慨した様子で一誠達を見ていた。大アクビしながら起き上がった一誠は汗やら何やらで汚れており、ベンニーアは慌てた様子でで時計を指し示す。

 

 

《も~、早くシャワーを浴びて寝癖を直しておいてくだせぇ。あっしはもう着替えていますし、一誠様のローブと仮面もご用意しているでやんすよ》

 

「……用意? え~と、ちょっと待って。いま寝起きで頭が働かないんだ……」

 

 ベンニーアの格好は黒いドレスであり、華やかなパーティ用というよりは特別な儀式用の上品なドレスだ。それを見た一誠は今日何があるかを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「……最上級死神の会議?」

 

《ああ、そうじゃ。毎年この時期に行う事になっておっての。貴様はまだ政治には関与していないが、顔出しだけでもしておくべきではないか、との意見が出てな。とりあえず秘書代わりに付き添いの者一人を連れて出席しろ》

 

 其れは生徒会長選挙が終わった数日後の事、ハーデスに誘われたラーメン屋で三十分以内に食べきったらタダになるジャンボラーメンの三杯目を完食した一誠は今まで学生だからと免除されていた会議への出席を求められた。

 

「まあ、最近物騒だし、同盟も組んだしね。・・・・・・そういえば最近ベンニーアちゃんと二人だけで出掛けてないし、あの子の里帰りも兼ねて連れて行こうかな。少し悩みがあるようだから聞いてあげたいし」

 

《まあ、そもそも最上級死神の娘である奴を貴様と結婚させる事は政治的思惑もあったしの。死神だけの集まりなら優先的に連れて行くべきじゃろう。……む》

 

 ハーデスのレンゲから何時の間にかスープが溢れており、又してもマントに醤油の匂いが染み付いた。

 

 

 

 

 

 なお余談であるが、無駄な栄養はすべて霊力に変える術の事が最近、部下の女性陣にバレ、キツく問い詰めらる一誠の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても是だけ揃うと壮観だな、母さん」

 

「あらあら、そうね」

 

「いや、感想はそれだけっ!?」

 

 漸く身嗜みを整えた一誠が食卓に向かうと既にベンニーアが朝食の準備を終えており、一誠と両親、黒歌と小猫とベンニーアと九人に増えた玉藻が共に食事を摂りだした。なお、両親は玉藻が増えた事に大して驚いておらず、

 

「息子が死神になったり、邪龍が料理番組に出る世の中なのに狐が増えて何が変なの?」

 

「そんな事より、今日は会議なんだろう? 小さい時からの顔見知りばかりとはいえ新人なんだから遅刻はするなよ」

 

 などと平然としており、一誠は両親の異常なまでの適応能力の高さに呆れる反面、そのおかげで自分のことも受け入れて貰えたのだと思う。

 

「……有難うね。こんな俺を受け入れてくれて」

 

「何言ってるの? 親が子を受け入れるのは当然でしょ?」

 

「ほらほら、早く食べなさい。ベンニーアちゃんはもう食べ終えて最後の支度をしているぞ」

 

《ほらほら、早く行かないと遅刻するでやんすよ!》

 

 既に一誠の荷物のチェックも行ったベンニーアは靴磨きも終え、転移用の魔法陣の準備も終わらせていた。

 

 

 

「では、いってらっしゃいませご主人様」

 

「ゆっくりしてくると良いわ」

 

 とりあえずクジで代表になった大元の玉藻と黒歌に見送られながら二人は魔法陣に足を乗せる。すると底なし沼に沈むかの様に二人は魔法陣に吸い込まれていった。

 

 

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

《……行ってくるでやんす》

 

 一誠は笑顔で手を振り、ベンニーアは此処ぞとばかりに体を密着させながらも何処か浮かない顔付きだ。その顔を見た玉藻は何か悩んでいるかのような顔になり、黒歌は軽く溜息を吐く。そして二人が完全に転移すると同時に互いの顔を見た。

 

「仕方のない子ですねぇ」

 

「まあ、色々悩むのはあの年頃の特権にゃ。……白音も最近元気がないし、どうしようかしら」

 

 黒歌が心配そうに見つめる先にはヌイグルミを抱きしめて浮かない顔をする小猫の姿。最近冥界のグレモリー男爵家の屋敷への放火で眷属仲間だった祐斗とアーシアとギャスパーが重傷を負ったというニュースを聞いた時からこの様子だ。一応人質という名目で黒歌と同じマンションで暮らしてるが、彼女にまで危害が及ぶのを避けて兵藤家に居候を始めている。なお、そもそも別の場所で暮らしていた要因である家の狭さだが、

 

 

 

 

「お前は向こう(冥府)で暮らすらしいが沢山孫が遊びに来るだろうし、今狭くては不便だから増築するぞ」

 

 

 との父の言葉によって大勢で暮らせるまでに広くなった。なお、費用は一誠が何か言われる前に負担している。なお、悪魔から搾り取ったお金である事は秘密だ。流石に脅したみたいな事を両親には知られたくないらしい。

 

 

 

 

 

 なお、両親は既に知っていて知らないふりをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おお! 久しぶりだなベンニーア。一誠とは上手くいっているのか? 孫の顔は何時見れそうだ?》

 

《……げっ》

 

 会議の会場に着くなり話しかけてきた中年の死神を見たベンニーアは露骨に嫌そうな顔をする。彼の名はオルクス。人間との間にベンニーアをつくった最上級死神であり、娘からは少し嫌われている。

 

「オルクスさん、久しぶりー。孫の顔はもう少し待ってね」

 

《むぅ。まあ、良いとしよう。だが、早く頼むぞ。お前も娘との間に子が出来れば立場がよりしっかりとしたものになるだろうからな》

 

「アハハ、そうだね」

 

 

 

 

 二人は顔を見合わせて笑い合う。しかし、二人を見るベンニーアの顔には陰りが見えた……。

 

 

 

 

 




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