ガブリエルが一誠の上にダイブし、玉藻が嫉妬心を燃え上がらせた時、一誠の携帯にメールが入った。
「……あちゃ~。急いで天界に来たのに、もう知られてるよ」
「どうしましたか?」
一誠は直様メールを見せる。其処には冥府で待機している部下や、旅行中のありす達からのお土産のリクエストだった。
「……絵本(ありす達)に料理の本(グレンデル)、あとはアクセサリーや菓子や何やらか……」
一誠は辟易とした表情でメールの文面を見る。天界の店に詳しくない二人では滞在を許された時間を全て使ってしまいそうな量だ。
「……困ったな。何処に良い店があるかも分からないや」
「……今日のデートは中止ですかねぇ」
此処で、断る、という選択肢が出ない程度には玉藻も彼らの事を思っているのだろう。一誠とのデートは仲間への土産探しで潰れどうだと悟った彼女の耳と尻尾はは垂れ下がっている。
「あら~、でしたら私が良い店を教えますわ~」
「この本屋は絵本と料理の本が揃っていますわ」
「アクセサリーですか? 申し訳ありませんが天界には装飾品は売っていませんの」
二人の案内を受けおったガブリエルは次々とオススメの店を紹介していく。あっという間にお土産リストのほぼ全てを買い終わり、まだデートをする時間も余っていた。
「今日はお世話になったよ、有難う」
「もう御主人様を押し倒した事は忘れて差し上げますね。さ、此処が一番の人気店ですよ~」
「いえいえ、冥府には散々ご迷惑をおかけしていますから~」
ガブリエルがお土産リストの最後の一つを売っているとして連れてきたのは次の界に続く門の近くのお菓子屋。一誠はお菓子を買った後その門を見上げていた。
「七階層からなる天界の頂上が神が住んでいた場所。神器システム……諸悪の根源が其処にあるのか」
「……諸悪ですか。……まぁ、貴方からすればそうなのかもしれませんね」
ガブリエルは沈痛な面持ちで一誠の方を見る。上を見上げる一誠の瞳に宿るのは憎悪だ。彼が神器の被害者の霊を幼い頃から見ていると聞いていたガブリエルは彼の言葉を否定できずにいた。
霊を幼い頃から見ていると聞いていたガブリエルは彼の言葉を否定できずにいた。
そしてその頃、リゼヴィムはとある目的の為に煉獄を訪れ、母であるリリスと再会していた。
「丁度良かった、貴様に言いたい事があったのじゃ、リゼヴィム」
「なんだよ、ママン?」
リゼヴィムは何時もの様ににヘラヘラしているが、何処かソワソワしていて、出雲より機嫌が良さそうだ。やはり母親である
「とりあえず正座せぬか、バカ息子」
そして、一時間後。
「大体貴様はルシファーの血筋という自覚が足りん! 次世代の者を教育するのが年長者の務めであるにも関わらず、馬鹿孫に曾孫虐待させ、挙句の果てに堕天使の所に行かれたじゃと? その結果が変態化ではないか!」
「……いや、ママン。俺は怖いなら苛めれば? って言っただけで、あとはアイツが勝手に……」
「口答えするでないっ!!」
ハンコックの怒声にリゼヴィムは思わず身を竦ませる。その姿はテロ集団のボスというよりは、母親に叱られる悪ガキの様だった。
「我が子に恐れを抱くような屑はルシファーの血統に相応しくないから殺すのは良いとして、貴様が最後の一人となった訳じゃが、血筋を残す算段は付いておろうな?」
「……テへ✩ 考えてないや」
「こんっの、大馬鹿者がぁぁぁ!!」
ハンコックの怒鳴り声と拳骨の音が辺りに鳴り響き、煉獄を揺らす。リゼヴィムの頭には大きなコブが出来た……。
「お~、痛て。ママン、容赦無さすぎだぜ~。俺って今やテロリストの親玉だぜ? 頭にコブを作るのは勘弁してくれよ~」
「うむ。そうであったな。その事に付いて言うのを忘れておった。大体機様のやり方には美学が足りぬわ。妾は”悪であれ”と教えたが、常に優雅であれ、とも教えたはずじゃ。貴様のやり方は悪意を振りまくだけで美しさが足らんっ! ……さて、妾はエステの時間がそろそろなので帰らせて貰おう」
ハンコックは言いたいことを言ってスッキリしたのか、晴れ晴れとした態度で踵を返す。その手には朽ち果てた木の実が二つ握られていた。
「……なぁ、ママン。その実を俺に頂戴♪」
「……嫌だと言ったら?」
「力尽くで奪うだけだぜ、クソババァ! 親殺しってのも悪魔らしくって良いだろう? 美しさなんか要らねぇ。悪魔は悪でさえあれば良いんだよ!」
「良いじゃろう! 死なぬ程度に殺してくれる! 母の偉大さを思い知るが良いっ!」
リゼヴィムの拳とハンコックの蹴りが衝突し衝撃が周囲に広がる。辺り一帯の岩が崩れ去り、二人を中心に地面が陥没した。
「ははははは! 腕を上げたなバカ息子! じゃが、妾が変わったのは姿だけじゃと思ったかっ!」
ハンコックは後ろに飛びリゼヴィムに投げキッスを放つ。その瞬間、彼の肩を何かが高速で撃ち抜いた。
「ぐっ! 何だよその力はっ!?」
「コレが死従七士が一角、『色欲』の将たる妾の力じゃ!」
ハンコックは更に巨大なハートを作り出して引き絞る。ハートは無数の矢と化し、リゼヴィム目掛けて降り注いだ。
「ちっ! 部下を盾にするとは」
「アンタこそ息子に何使ってるんだよっ!」
リゼヴィムの周囲には矢を受けて石に変わった邪龍が転がっており、その目は何故かハートだ。何時の間にかハンコックの周囲を無数の邪龍が囲っていた。
「でひゃひゃひゃひゃ! いくらママンでも、この数の邪龍は……」
「……こんな数の龍に囲まれるなんて……妾、怖い」
ハンコックはモジモジしながら瞳を潤ませる。その姿に実の息子であるリゼヴィムは辟易とし、邪龍達は魅了される。そして、ハンコックはニヤリと笑うと手でハートを作った。
「妾に見蕩れる邪な心が其方らの体を固くする。メロメロ・メロウ」
ハンコックの手からハート型のビームが放たれ、それに触れた邪龍達はまとめて停止になり、地面に落ちて砕け散った。それを見たリゼヴィムは冷や汗を流し、その表情からは少々余裕が消え始めている。
「……おいおい、生前はそんな力は無かっただろう」
「この力か? 言ったであろう? 色欲の将の力じゃと。あの小僧に協力すると決めた時、妾に眠る潜在能力を解放して貰った時に目覚めたのじゃ」
ハンコックは木の実を弄びながら話す。するとリゼヴィムは彼女の後ろを指さした。
「小僧ってのは後ろの奴かよ?」
「むっ?」
ハンコックは思わず振り向き、その隙を狙って接近したリゼヴィムは木の実に手を伸ばす。直前で気付いたハンコックは木の実を掴むも一部を持って行かれた。
「でひゃひゃひゃっ!
高笑いをするリゼヴィムだが、その顔が苦痛に歪む。彼の左手にはハンコックの蹴りが放たれており、当たった瞬間に左手は石になって砕け散っていた。
「……誰が馬鹿じゃ、大バカ息子が。……興が覚めた。妾は帰る」
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