部屋にやってきたソフィアーネと対面中です。
ちょっと未来の為に部下が欲しいから、ある軍人と会いたい。
こんな事を突然私が言ってもまともに相手をしてもらえないだろう。
そもそもよく考えたら侍女である彼女に相談しても無駄な気もする。
お父様に連絡を取って手を回してもらうべきだったかな。
そうすると彼女に用はないんだけど――ここで少し考える。
お父様に手を回してもらうとしても、その前の練習にいいんじゃないかな?
私がネオジオンを率いるような人物になるなら、侍女の一人くらい納得させられるはずだ。
もしソフィアーネに私が軍人の部下を欲している事を納得させられなければ、今後の方針も変える必要があると思うしね。
あの『ハマーン』のようなカリスマがあるか、彼女で自分を試す事にした。
「ハマーン様、お呼びになられた用件は一体?」
焦れた様に質問してくるソフィアーネにニヤリと笑いかける。
内心では不安から、私はハマーン、私はハマーン、と暗示のように自分の名前を連呼していた。
「ソフィアーネ、今の一年……ジオンと連邦の戦争をどう思う?」
危ない危ない。
一年戦争の名称は終戦後につくはずだ。うっかり一年戦争はどう思うかと言うところだった。
詳細に覚えていない前世の知識は、思わぬ方向で足を引っ張る。
「初戦から圧勝しておりますし、地球降下作戦も上手くいっております。MSを有するジオンが圧倒的にイニシアチブを握ってる現状、このまま勝利は揺るがないかと」
「プロパガンダのTV放送を妄信してるわけじゃないのよね?」
「そのような事はございません」
基本的に戦勝の放送しかしないジオン国内のニュースを妄信はしてないと。
なら私の話にも聞く耳をもってくれるかな。
「お嬢様はどのようにお考えなのですか?」
返事をする前に一呼吸置く。
恋するシャアと対峙した時すら傲慢で自信家だった未来の自分を思い出す――と言うと語弊があるかもしれないけど、頑張って真似てみる。
「ジオンは負けるわ」
「何故そう思われるのですか?」
「国力の差が第一ね。さっき貴女はMSを有するからジオン有利と言ったけど、それもすぐ覆るでしょう。ジオンがオデッサ等で資源を得たとしても、連邦は既に採掘済みの資源がある。後は鹵獲したザクでも解析してコピーでもすればいい。同じか同程度の性能のMSを作られた段階で、生産性に劣るジオンの有利はなくなる」
これはギレンの野望のゲームをやった知識から。
ジムの生産性の良さは素晴らしかったし、地球の拠点の資源補充の多さはずるい。
「しかしMSの開発ではジオンが一歩有利だと思います。性能の面で上回っていれば、そうそう負けないのでは?」
「それもどうかしらね……」
V作戦の実験機のガンダムは終戦直前のゲルググでやっとこの性能だった気が……。
連邦のMS開発技術って、ほぼ最初からジオンを上回ってるんじゃないかなぁ?
主人公補正か、はたまたテム・レイさんの開発力が凄かったのか。どっちかな?両方かな?
V作戦の事はさすがに話せないので、別路線で話すことにした。
「ジオニック社やツィマッド社に競合させてるのはいいけど、そのせいで操縦系統がバラバラになるはず。さらに各派閥で極秘裏に開発させてたりもする。協調出来ていない開発状況ではいつまでも有利でいられないでしょう」
各社や各研究所、ザビ家のそれぞれの派閥や将校の勝手な開発。
国力で劣るのに横の繋がりが悪い気がする。
その原因というとやはり。
「何より指導者であるザビ家内の不和が問題。ギレンはザビ家の人間すらいざとなれば使い捨てるだろうし、キシリアもギレンを政敵と思ってて仲が悪い。デギン公王も年をめされて今では二人を抑えられない。そして名目上のトップがデギン公王である事にギレンは快く思ってないでしょう」
もっと「~~だ」とか強く言い切りたい。
でも男っぽい喋り方をしてた記憶の中の私のように強く言えない。
私は今の自分なりに精一杯頑張って話した。
私の知ってるジオンの問題点を挙げていくとソフィアーネも段々納得してくれた。
途中から関係ないMSの話になり、NT専用兵器の話しをしたりした。
彼女はそっちの話のほうが興味があったみたい。
大体話し終わり、ソフィアーネが居住まいを正した。
「ハマーンお嬢様、ジオンが負けるとして、その後の為にどうなさるのかのご相談……と受け取っていいのでしょうか?」
「えぇ、その通りよ。終戦後、アクシズには沢山の軍人が逃れてくる。そこで何かあった時の事を考えて手足となる部下を今のうちに欲しい」
私の話を真剣に聞いていた彼女に釣られ言った。
真面目な顔で私の今の言葉も考えてくれてるけど、ただの侍女の彼女には手に余るわよね。
そう思っていた私に予想とはまったく別の返事がきた。
「分かりました。それでどのような方がお望みで?」
「え? なんとかなるの?」
「英雄的活躍をされた赤い彗星等のエースパイロットは難しいですが、ある程度ならご要望にお応えできるかと」
シャアや黒い三連星を部下に出来たら心強いけど、それはやっぱり難しいわよね。
というよりも、個人的にシャアを部下にはしたくない。
「私が会いたいのはそういう人達じゃなくて、確か海兵隊の――」
ソフィアーネに名を告げると「なんとかする」と返事をくれる。
お父様がつけてくれた侍女は、思った以上に有能らしい。
~~ある諜報員の独白~~
自室に戻り纏めた報告書を見直す。
その内容は見る者が見れば衝撃的で危険な内容だ。
「ハマーン・カーン……。フラナガン機関に来る前から別のニュータイプ機関で育成されたニュータイプ……」
キシリア機関の諜報員として、アクシズ司令を勤めるマハラジャ・カーンの娘の監視をしていたが……。まさかあのような話が聞けるとは。
ジオン有利な現在、敗戦を考える人間はあまり居ない。
だと言うのにあの少女は妙に具体的な指摘をして問題点を挙げていった。
MS開発に運用法、人材の使い方に戦略の問題点。
「ダイクン派だった人間を閑職に追いやり、前線に出れば補給を渋る……と。ランバ・ラルに対する現状の扱いに憤りまで表していたな。優秀な人間を派閥問題に拘るあまり、有効に活用出来て居ない……か」
父親であるマハラジャ提督も辺境のアクシズ司令にされている。地位は高いが辺境に追いやられた父親と重ねての事と思えば人として好感は持てる……が。
「問題なのは、個人の扱いについての情報を持っている事か」
何故彼女がランバ・ラルについて知っていたのか。
私が側に居て見ていても、誰かから軍部の情報を得ているとは思えなかった。
さらにはザビ家内の確執。
家族間の協力がまともに出来ておらず、それが後々問題になると。
これは姉がドズル・サビ閣下に実質妾として奪われた事から来る私怨とも取れるが。
「事実、キシリア閣下はギレン閣下を敵視しておられる」
私怨にしては妙な事にザビ家の人間がガルマ様に甘い事も知ってたし、ドズル閣下がガルマ様を気に入っておられる事も知っていて語っていた。
まぁ、ガルマ様が軍人として未熟なのに地球方面軍司令官についたのは問題視していたが。
マハラジャ提督が話した……とは思えない。
実力行使も辞さないザビ家の問題点を娘に話す人物ではないからだ。
もしそうなら、ダイクン時代の高官の彼はとっくに始末されているだろう。
情報ソースが不明で、かつ間違ってないのが恐ろしい。
「あれがニュータイプと言うものなのか……?」
私を呼びつけて話す彼女には、真面目に話を聞かざるをえない何かがあった。眼に見えないプレッシャーのようなものが確かにあったのだ。でなければ、12歳の少女が戦争について語ったのだ。本来は侍女としてまず諌めなければいけなかった。
もしや私が諜報員と知って話したのだろうか?
考えてみればただの侍女に相談する事柄ではない。正体が諜報員か、或いはそれに近い者だと感づかれていたのだろう。
だと言うのに相談されたと言うことは、侍女として尽くしていた分の信頼か。
再度報告書を眺める。
もし彼女の言うとおりジオンが敗北すれば……。
諜報員である私の扱いは決してよい物ではあるまい。
「12歳にしてあの迫力と行動しようとする意思。まだまだ甘いところも在るが、今後の成長も加味するべきか」
書き纏めた報告書を修正する。
彼女が望んだ通りに事が運ぶように。
「ニュータイプ専用兵器を開発した上でのニュータイプの実戦投入。特殊な脳波を出すなら、その脳波を使い遠隔操作モジュールでの長距離攻撃の可能性。ミノフスキー粒子下での遠隔操作か。具体案がなかったニュータイプの実戦投入に明らかな現実味が出る。これだけでも十分だろう」
ジオン・ズム・ダイクンのNT論に少なからず傾倒しているキシリア閣下なら喜ぶ事だろう。
しかし自身がNTだからと言って、専用の兵器案まで思いつくのだろうか。
「もし彼女の言うとおりジオンが敗北するなら、侍女の振りではなく、本当に彼女に仕えるのも悪くはないわね」
今日初めて知った、恐るべき才女であるハマーンお嬢様。
彼女に頼まれていた軍人を呼び寄せることにした。
多少の情報操作は必要かもしれないが、あまり公然と出来ない任務の提案をすれば問題ないはずだ。フラナガン機関への秘密裏の実験体供給の任務でもさせたら良いだろう。
「誘拐に近い任務ですからね。あの部隊にはお似合いでしょう」
自軍ですら嫌う部隊を部下にしたいなどとは。
ハマーンお嬢様は変わった注文をされることだ。
ドラ○もん役としてソフィアーネさんを配置。
中身真っ黒なサポート役です。
次回こそ部下候補登場。
ハマーン様じゃなくて、はにゃ~ん様が頑張るお話になっている気がする。
ハマーン様に罵られたい人に怒られてしまう(つд`)