東方理想郷 ~ Unknowable Games.   作:まこと13

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第28話 : 追憶

 

 

 深く、暗い海のようなものに沈んでいた。

 身体ではない、心だけを押しつぶすかのような水圧に囲まれた世界。

 健常なはずの手足は、自分のものではないかのように固まっている。

 どれだけ力を込めようとも、ピクリとも動けない。

 それでも、その心だけは徐々に潰れていく。

 

「あんたみたいな化物なんて、さっさと消えちゃえばいいのに」

 

 既に限界まで痛めつけられた霊夢の心に、深い暗闇の中からそんな声が押し寄せてくる。

 僅かに残っていた光さえも粉々に砕いて飲み込もうとするような、悪魔の囁きが響いてくる。

 だが、霊夢はその悪魔たちの声を知っていた。

 

「どう取り繕おうとも、所詮お前は災いを呼ぶだけの化物だ」

 

 それは、いつも隣で聞いていたはずの家族の声。

 かわいい妹の声。

 優しい姉の声。

 

「どうして、貴方みたいな化物に奪われなきゃいけないのよ」

 

 そして、大切な母の声。

 それらが自分の存在そのものを拒絶するかのように、憎しみで歪んだ不協和音を生む。

 

 ――ごめんなさい。

 

 口を開くことすらできないまま、霊夢はただ心の中で謝ることしかできなかった。

 その記憶すら真っ黒に塗りつぶされた今では、何を、誰に、どうして謝っているのかすらもわからなくなっていった。

 その脳裏にはただ、闇の混じった悲鳴だけが鳴り続ける。

 嘆きに。

 絶望に。

 怒りに。

 憎悪に。

 何に対するものなのかもわからない感情に、支配されていく。

 永遠の暗闇の中で、ゆっくりと心が壊れていく。

 ゆっくりと、染まっていく。

 ただ、ゆっくりと。

 自らの頭が覚醒し始めるよりも遅く。

 まるで、何かに遮られているかのように。

 

「……え?」

 

 ふと、霊夢は記憶の海の中で我に返る。

 その感覚に、覚えがあった。

 闇に墜ちようとする自分の心を包み込むような何かを、知っていた。

 その声から霊夢を遠ざけるように、境界が分厚く世界を遮っている。

 これから全てを支配されるはずだった霊夢の心に、温かい想いが流れ込んでくる。

 

「紫……?」

 

 返事は無かった。

 それでも、霊夢はその想いを信じて身を委ねる。

 温かい何かに包まれながら、ゆっくりと思い出していく。

 その記憶を埋め尽くすほどの、かけがえのない何かを。

 

 何よりも幸せだった、かけがえのない時間を――

 

 

 

 

 

東方理想郷 ~ Unknowable Games.

 

第28話 : 追憶

 

 

 

 

 

 ※ここから過去編、『霊夢と巫女の日常録』(別作)に続きます。

 読んだ方がこの先の展開を楽しんでもらえるとは思いますが、この小説で言うと実質3話分くらいの長さがあり、過去編としては少し長すぎるので、読まなくても一応先に進めるようには構成してあります。

 

 

 





 流石にここにリンクとか載せるのはあまりよくないと思うので、

 ・過去編を全て読む方
  →お手数ですが、作者ページの『霊夢と巫女の日常録』(別作)の途中18話ルート分岐からこちらの29話にお戻りください。

 ・進行上必要な分だけ読む方 
  →そのまま29話に進んでください。




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