やはり彼らのラブコメは見ていて楽しい。   作:ぐるっぷ

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比企谷八幡と雪ノ下雪乃は友達じゃないらしい。

 愚かにも衣替えを待たずに暑い脂肪を脱ぎ捨ててしまった俺は、春特有の寒暖の差にすっかり当てられていたらしく、うわの空な時間が増えていた。

 完全に昼夜逆転させている俺は、深夜にひたすら趣味に没頭し、学校で睡眠を取っているのだが、昨日は珍しく午後十一時などというお子さんのおねんねタイムになった途端眠りに落ちてしまった。

 その為久々に学校で起きているのだが、果てしなく面白くない。

 好きな事が出来ない。

 いやまあ、普段から深夜に遊んでる為、あまり音の出る様なことは出来ないのだが、それにしてもこの授業というものは辛いものがあった。やっぱ俺の生活スタイルは間違っちゃいなかった。

 などということを授業も聞かずに考えていると、教壇に立っていた先生の目が驚愕に見開かれていた。というか平塚先生だった。そんなに俺が起きてるのが珍しいか。

 「……あー、では比企谷、ここからエリスが発狂するところまで読め」

 「ほぼ全部じゃねーか……」

 どうやら相当無茶な要求だったらしく、あの比企谷くんが衆人環視の中にも関わらず文句を零していた。

 「適当な所で止めるよ」

 そう言って比企谷くんに朗読を促した平塚先生は、こちらへ向かって歩いてきた。

 相変わらず綺麗な人だなぁ。フォーリンラブに恋してる感じが無ければ貰い手くらい見つかりそうなもんなのに。

 先生が結婚出来ないのはきっと、重いとか暴力的だからではなく、妙に乙女過ぎる所があるからだろうなぁなどと考えていると、平塚先生は俺のすぐ目の前に立っていた。

 「一体何があった。神託でも受けたのか」

 小声で話しかけてくる平塚先生。授業中にこんな事してて良いのか? ほら、比企谷くんが死にそうな声になってるし。

 「そんな事あるわけないでしょ……たまには学生するのも面白いかなと思っただけです」

 「そ、そうか……出来ればずっとそうしててもらいたいものだな」

 うん、それ無理。

 「努力します」

 心にもない事を言うと、平塚先生はコツンと俺の頭を叩いてから「せめて教科書くらい出しておけ」と言い残して教壇へ戻った。

 すみません。俺のカバンの中には教科書なんて入ってないんです。と心の中だけで謝り、今度からはせめて教科書くらいは持って来ることを決めた。

 

 

 放課後、このところ習慣の様になってしまった奉仕部の部室に向かう。

 最初何度かは比企谷くんと一緒に行っていたが、場所を覚えた今となっては二人で来る事に何の意味も無くなった為、バラバラに来ている。比企谷くん、一緒に行くの嫌がってたしな。

 つくづく彼のロンリーウルフ的思考には頭が下がる。自分の見識も広がる思いだ。いや、この学校の制服学ランじゃないし、引用するなら心が見える指揮者志望君のセリフの方がいいかな。

 などとすこぶるどうでも良い事を考えながら部室へ入ると、既に雪ノ下さんは読書を始めていた。

 「相変わらずノックもまともに出来ないのね、七里ヶ浜くん」

 「チワーワ。いや、ついつい忘れちゃうんだよね。ごめんごめん」

 「その挨拶は何語なのかしら……どこかの部族のもの?」

 「名前を呼んではいけないあの人……あ、多分雪ノ下さん知らないからいいや」

 「そ、そう……」

 はっきり言ってドン引きである。まあこういうネタは内輪でしか使わない方が良いんだろうな。いや、内輪に入れてもらえないから言う機会ないじゃん! しっちゃんたらドジっ子!!  

 ダメだ、すっかり脳内会話の能力が爆上げされまくっている。

 奉仕部などという時間の浪費の代名詞みたいな部に参加させられてから、退屈を紛らわせるために一人漫才をしまくったのがいけなかったか。

 これ以上いけないと一人漫才を切り上げ、俺はいつも通り教室の後ろの方に積んである机によじ登り横になった。

 あと数分すれば比企谷くんが来るだろう。はっちゃんが来るのとしっちゃんが寝るの、どっちが早いか競争だ!

 ……そうだ。今度比企谷くんをはっちゃんと呼んでみよう。きっと面白い顔をしてくれるだろう。

 なら雪ノ下さんはどんな呼び方してみようか。ゆきのん……は何か面白くないし……。というかその法則だと俺しちりんじゃん。やだよそんなサンマ焼きマシーンみたいな名前。勘弁してくれ。

 俺は雪ノ下さんを何と呼ぼうかという、俗に言う悪巧みをしながら眠りに落ちていった。

 

 

 予感。

 普段探し求めているものが、すぐそこまで来ている予感がした。

 「……むぐっ」

 さっきまで眠っていたというのに、頭はとても冴えている。

 俺は部室の前―比企谷くんや雪ノ下さんのいる方―を見やった。

 「なあ、雪ノ下。なら、俺が友」

 「ごめんなさい。それは無理」

 …………。

 だ、ダメだ……まだ笑うな……こらえるんだ……し、しかし……。

 「ひゃあ我慢出来ねえ!!」

 盛大に吹き出してしまった。

 しかし、比企谷くんと雪ノ下さんが人殺しのような目でこっちを睨んだので、全力を以て笑いを心の中に押し込めた。

 「スミマセンデシタ。ドウゾツヅキヲ」

 光の速さで謝罪して、二人の目から逃れるように後ろを向いた。

 未だに背中がヒクヒクしてるのが自分でも分かるので、残念ながら近いうちに物凄い爆撃を喰らうだろう。こういう時の比企谷くんと雪ノ下さんの団結力はハンパじゃない事を、俺は経験から学んでいた。

 それにしても、見れて良かったな。あの時の比企谷くんの顔は永久保存版だ。それ位最高だった。

 ひとしきり笑い終えた俺は、もう一眠りするかなとゴロンと横に転がった。あー、動物も一緒にゴロゴロしてえ。うん、争いはよくない。対話重視の姿勢でいこう。

 アホな事を考えながら、段々と意識が遠ざかる。微睡み、一瞬の浮遊感。誰もが愛しているであろうこの感覚。

 その中で俺は不覚にも、この部活も、高校生活って奴も、案外楽しいもんじゃないのかなと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

進路指導アンケート

 

総武高校二年F組

 

七里ヶ浜七之助

 

出席番号7 男

 

・あなたの信条を教えてください

天網恢恢疎にして漏らさず楽しい事は何でも拾え

 

・卒業アルバム、将来の夢なんて書いた?

百年暮らせる家造りならぬ、百年遊べる暇潰し

 

・将来のために今努力している事は?

娯楽探求

 

 

先生からのコメント

君らしい実にふざけた信条で安心しました。

卒業アルバムですら君はふざけているんですね。

たしかに娯楽は大切ですが、社会を生きる為、まずは君の軽佻浮薄な生活態度と言動を見直しましょう。

 

 

 

 

 




取り敢えず一区切りなので、俺ガイル二次創作恒例進路指導アンケート入れました。

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