ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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今回もなんとか……。
それではどうぞ。


53話 謝罪と宿泊施設

「その勝負、少し待て」

 

そう言って近づいてきたのは、逆立ったオレンジに近い赤色の髪を後ろで束ねていて、マントを羽織ったような格好をし、丈がボロボロになったズボンを履いている男性だった。…………ふう、少し怒りで周りが見えなくなっていたかもな。怒りが冷めていく。だからと言ってミスティを侮辱したことを許すつもりはないが。

 

「あ、アデクさん! こいつらプラズマ団なんです。今から俺たちが倒して――」

「まあ、落ち着け、トウヤ。そこの少女たちよ。お主らはプラズマ団なのか?」

 

アデクさんが訊いてくるので私は答える。

 

「違います。私たちはプラズマ団とは何の関係もありません」

「と、言っておるが? なぜお主らはこの少女たちがプラズマ団と思ったのだ?」

 

アデクさんの質問にトウコが答える。

 

「だって、このMはプラズマ団の王、Nの姉なんですよ!?」

 

トウコはミスティを指差して言う。

 

「そうです。プラズマ団と関係がないなんてありえない」

 

トウヤ、お前はどうしてそう短絡的なんだ。

 

「例えそこにいるMがNの姉だとしてもそれだけでプラズマ団だという証拠にはならんだろう。それは罪を犯した人間の何もしていない子供を犯罪者と呼ぶことに等しいぞ」

「そ、それは……」

「…………」

 

アデクさんの言葉にトウコとトウヤは黙り込む。

 

「はあ、Mとやら、お主はプラズマ団の思想をどう思う」

「……私はあいつらの思想は間違っていると思う。人間とポケモンは互いを支え合う大切なパートナー。ポケモンを虐げる人たちもいるけどそれは一部の人間。大多数の人とポケモンはお互いを大事に思っている。それを無理やり引き離そうとするなんて間違ってる。それにポケモンたちが本当に人間たちと離れたいと思っているならとっくの昔にポケモンたちは人間と縁を切っている。それとポケモンたちは逃げようと思えば簡単にトレーナーの元から逃げられる。だからこそ共にいてくれるポケモンたちには感謝している」

 

ミスティは真剣な表情でそう言う。さすがミスティ。

 

「うむ、そうだな。ちゃんと聞いていたか? トウコにトウヤ。Mの目を見てみろ。嘘をついているように見えるか?」

「……ッ」

「…………」

 

ミスティの真剣な目にトウコは悔しそうに息をのむ。トウヤは相変わらず無表情で黙ったままだ。こいつ、まだ疑ってやがるのか。

 

「トウコ、それにトウヤ、お主たちは少々気が立っているのだ。少し頭を冷やして来い。この場はわしに任せろ」

「……わかりました。行こう、トウコ」

「……うん」

 

そう言うとトウコとトウヤは去っていった。

 

「さて、お主ら、済まんかったな。トウコとトウヤの二人は決戦前の緊張で少し周りが見えなくなっているみたいなのだ。どうか許してやってほしい」

 

ここでアリアはアデクさんにばれないように人間状態に戻り、ミスティはコジョンドを戻した。

 

「無理ですね。トウコとトウヤはミスティを侮辱しました。それを許すつもりはありません」

「そうだ。少なくとも相応の誠意を見せてもらわないとな」

 

アリアも私と同意見のようだ。

 

「なんと。そうだったか。それは申し訳ない。謝らせてくれ」

 

そう言ってアデクさんは頭を下げてきた。

 

「あなたに謝られても困ります」

「そうだな。すまん。わしからも謝るように言っておく。ところでお主らはどうしてこの街に来たのだ?」

 

アデクさんがそう言うので私は今までの経緯を説明した。

 

「そうだったか。ポケモンセンターのトレーナーたちからも追い返されたんか。重ね重ね済まん。お主らはこの事態に協力してくれようとしていたのに。これだけのことがあったのだ。お主らはこの街から出て行くのだろう?」

「そうですね。どうやら私たちは必要ないみたいですし」

 

こんな胸糞悪いところに居る必要はないだろう。

 

「それなんだが、少し待ってくれんか。トウコとトウヤに謝る機会を与えてやってくれ」

 

この通りだと言って再び頭を下げてくるアデクさん。ここまでされちゃあな。

 

「…………わかりました。いい? ミスティ、アリア」

「そうね」

「まあ、いいだろう」

「ありがとう。そういえば自己紹介してなかったな。わしの名はアデク、ポケモンリーグチャンピオンマスターを務めさせてもらっておる」

「私はメイです」

「ミストラル」

「私はアリアと言う」

「メイにミストラルにアリアだな。よろしく頼む。ポケモンセンターは泊まれないのだったな。じゃあ、わしについてきてくれ。宿泊施設に案内しよう」

 

そうして私たちはアデクさんの案内に従って歩いていく。そして着いた場所は……。

 

「え? あ、アデク、さん? こ、ここ、ですか?」

 

私もミスティもアリアも絶句してしまった。なぜなら、案内された宿泊施設というのが言わずと知れた超高級ホテルだったからだ。

 

「心配せずとも代金はわし持ちだ」

 

いやいやそういうことじゃなくって。

 

「悪いですよ、こんな高級ホテルだなんて」

「よいのだ。これはわしからの気持ちだ。お主らはここに来て嫌な思いばかりしておるからな」

「う、う~ん。いいのかな」

 

なんかすっげえ罪悪感。

 

「いいんじゃない? アデクさんがこう言ってるんだし」

「そうだな。こんな機会は滅多にあるものじゃないぞ」

 

ミスティもアリアも図太いね。

 

「さ、遠慮するでない。行くぞ」

 

私たちはアデクさんにそのままついていきホテルに入っていく。中に入るとそこはまるで別世界だと錯覚するほど豪華で美しかった。吹き抜けになっていて高い天井、ロビー中央にある噴水、その他にも色々とあるが、それらすべてがマッチしている。さすがイッシュ地方最大の高級ホテルグループ。凄すぎて言葉が出ないぜ。

 

「どうだ? すごいだろう? このホテルは実はわしの息子が経営しておってな。おかげで老後は安泰だ。はっはっは!」

 

それはよかったですね。私たちがロビーで話し込んでいるとアデクさんと同じ色の髪を短めに揃えている男性がこちらにやってきた。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、ホテル“デルフィーノ”へ」

 

その男性は綺麗なお辞儀をして迎えてくれる。

 

「おお、サクト。丁度良かった。このお嬢さんたちを泊めてやってくれ。代金はすべてわしが持つ」

 

男性はサクトと言うらしい。

 

「わかりました。僭越ながら自己紹介をさせていただきます。私は当ホテルの支配人をさせていただいております、サクトと申します」

「なんだ。固いぞサクト、もっとフランクにいこうではないか」

「これが私の仕事ですので。ではお客様、こちらへどうぞ」

 

そうして私たちは受付で手続きをして部屋に案内された。

 

「こちらがトリプルロイヤルスイートになります」

 

うわあ、すっげえ。超豪華。

 

「まずはこちらがリビングになります。こちらでは――」

 

サクトさんから部屋の説明がされる。部屋にはリビング、ダイニング、キッチンはもちろんのこと、シアタールーム、ベッドルーム、ジャグジーバスなどがある。どれも最新鋭で最高品質のものが取り揃えられている。食事に関しては併設されているレストランかルームサービスで取ることが可能。スイーツや嗜好品、酒類、ポケモンたちのための食事や毛繕いやマッサージ(人間用もある)も完備ときた。さすが高級ホテル、全く隙がないぜ。他にも高級バーやジム、屋内プール、ポケモンたちを遊ばせるスペース、バトル場などがホテルの設備として存在するらしい。マジパねえ。まさに至れり尽くせり。しかも代金はルームサービスなど諸々含めてすべてアデクさん持ち。……ここまでくるとなんか騙されているんじゃないかって心配になるレベルだ。

 

「それでは私はこれで。どうぞごゆっくり」

「わしもそろそろ行くとしよう。わしはポケモンリーグ本部におるから何かあったら訪ねてくるといい」

 

そう言ってアデクさんとサクトさんは去っていった。さて、これからどうするかな。

 

「ミスティ、アリアはこれから……って」

 

ミスティとアリアは早速リビングのソファに座ってルームサービスの一覧に目を通していた。お前ら遠慮ってやつを知らんのか。こうなったら私も遠慮なんて投げ捨ててやる。そうして三人でルームサービスの一覧を見つめる。う~ん。やっぱりマッサージなんか良さそうだな。リオたちにもやらせてあげたいな。

 

「どれも美味しそう……」

 

うっとりとした声で呟くのはミスティだ。おそらくスイーツ類のところでも見ているんだろう。

 

「ふむ、これはチャンスだ。必ず高級ホテルの味を盗んでみせる!」

 

今度はアリアだ。気合入ってるなあ。

 

「メイ、ミストラル、話がある。料理の食べ比べに協力してくれ。私は出来るだけ多くの料理を食べてみたい。頼む!」

 

そこまで真剣になることか? まぁいいけど。

 

「もちろんいいよ。ミスティは?」

「私もいい。けど、私はこのホテルのスイーツを制覇するつもりだからそこんところよろしく」

 

ミスティはグッとサムズアップする。二人ともさっきのことは微塵も気にしていない様子に見えるけど普段と比べてちょっと暴走気味だからやっぱり趣味に没頭して忘れようとしているんだろう。まあ私だって同じようなものだし精々アデクさんには犠牲になってもらおう。南無~。

 




ありがとうございました。

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