ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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今年最後の更新です。
それではどうぞ。


47話 本気のコーディネーターと特別賞

「さあ、次は……出身地や年齢など一切不明! 謎のコーディネーター、セイガさんです!」

 

 セイガさんがステージ上に現れる。どんな演技を見せてくれるんだろう。そうして私は控室のモニターを注視する。

 

「それでは、演技を開始してください!」

 

 ルルアンさんの一声でセイガさんが行動を開始する。

 

「行きなさい! シャンデラ!」

『ギウウウウウウン!』

 

 火の玉が飛び散るようなエフェクトと同時にモンスターボールからでてきたのは、紫と黒のシャンデリアのような姿のいざないポケモン、シャンデラだ。

 

「シャンデラ! 照明に向かってシャドーボール!」

『いくぜ!』

 

 シャンデラはステージの天井にある照明に向かってシャドーボールを撃ち出していく。何をする気だろう? そう思いながら見つめていると、なんとシャドーボールが照明にくっついて会場全体を暗くしてしまった。

 

「あわわわ。セイガ選手は自ら明かりを消しました! これはいったいどういうつもりでしょう?」

 

 なんと! シャドーボールにそんな使い方があったのか。でもイヴのシャドーボールは攻撃に使えるだけでこんなことはできない。きっとかなり訓練したんだろうな。

 

「続いておにび!」

 

 そして次はおにびを指示する。会場全体に妖しい青白い火が灯る。会場は一気にお化けが出そうなおどろおどろしい雰囲気に包まれた。これは凄い。ゴーストタイプの魅力が最大限に発揮できるフィールドを作り上げた。

 

「さあ! ショータイムよ! シャンデラ!」

『ケッケッケッケ』

『キャハハハハ』

『ウフフフフフ』

 

 セイガさんの合図と共に会場に老若男女の幽霊が現れ始め、シャンデラと次々にダンスを踊っている。これ、もしかしてシャンデラのかげぶんしん? だとするとこれはまさにコンテストのためのかげぶんしんと言えるだろう。実戦のかげぶんしんは自分の同じ姿の分身を生み出さないと意味がないからね。

 

「これは素晴らしい。ゴーストタイプの魅力が存分に引き出されています」

「いやぁ、好きですねぇ~」

「まるで本物の幽霊がここにいるみたいです」

 

 案外ジョーイさんの言う通り本物の幽霊かも。

 

「いいわね。好きよ。こういうの」

 

 審査員からの評価も上々のようだ。セイガさんは予選通過しそう。

 

「最後の仕上げよ! シャンデラ!」

 

 セイガさんがそう言うのと同時にシャンデラは高速回転し始め、周りにいた分身の幽霊たちが次々にシャンデラの中に消えていき、ステージに漂っていたおにびも揺らめいて消えていく。そして最後には照明を覆っていたシャドーボールも剥がれてシャンデラの周りに集まり始め、機能を取り戻した照明は再びステージを明るく照らす。観客の目が慣れたころに、シャンデラはシャドーボールを一つにまとめて巨大な黒い球体を作り出し、それを弾けさせると、黒い光の欠片がステージ全体を包む。そこでセイガさんとシャンデラの演技は終了した。ステージに割れんばかりの拍手が巻き起こり、歓声が響く。そうだよね。セイガさんたちの演技は凄かった。ステージすらも利用する巧みさ、技の練度、ポケモンの魅せ方、どれをとっても一級品だった。ははは、敵わないなぁ。周りに注意を向けるとほかの選手たちもセイガさんとシャンデラの演技に感心したような声を出している。しばらくするとセイガさんが控室に戻ってきた。扉が開いてセイガさんが入ってきた瞬間部屋のみんなの視線がセイガさんに集中する。そんな中、私だけはふう、と溜息をついた。

 

「あらあら。どうしたの? メイちゃん。溜息なんてついちゃって」

 

 セイガさんは私に近づいてきてそう言う。

 

「どうしたの? じゃないですよ。あれだけの演技を見せておいてよくもまあ……」

「ふふふ、そんなによかった? ありがとう」

「いいですよね。あれだけの演技ができれば自信だって湧きますよ」

「あら。そんなことないわよ。私だって選ばれるかどうか不安で不安で。心がはちきれそう!」

 

 セイガさんはよよよとしおらしくする。くっ、様になってるところがまたムカつく。

 

「まあ、冗談はこのくらいにして」

「どこからどこまで冗談なんですか」

「不安なのは確かよ? でも、精一杯やったのなら後は結果が出るのを信じて待つしかないでしょう?」

「……それもそうですね」

「そうそう。結果は審査員のみぞ知るってね。さあ、次の人の演技が始まるわよ」

 

 そうして私とセイガさんはモニターに目を移して他の選手たちの演技を見つめる。他の選手たちの演技もセイガさんには負けるかもしれないが素晴らしいものばかりだった。これ、ホントに二次審査にいけるのかな? と思うくらいにレベルが高かった。私がセイガさんにこの大会レベルが高くありませんか? と聞くと「そうねえ。グランドフェスティバルくらいはあるかもねえ」と言われた。おいおい、それってポケモンバトルにおけるリーグレベルってことでしょ。そんなところに素人がいきなり殴りこんだって勝てるわけないじゃんか。はあ、演技の直後は結構自信があったんだけどなあ。今じゃ勝てる気がしない。ごめんね、ライカ。二次審査にいけないかもしれない。意気消沈しながら演技を見つめているとあっという間にすべての人の演技が終わり一次審査の結果発表になった。

 

「さあ、やってまいりました。いよいよ一次審査の結果発表です! 早速一次審査通過者七名の発表です!」

 

 モニターの画面が結果発表用のものに切り替わる。私はモニターを祈るように見つめる。頼む。どうか通って!

 

「まずは一人目! 一次審査合格者は――」

 

 軽快な音楽が流れ、最後にバンッ! という音が鳴り、それと同時に一人目の合格者の写真が映る。そこに映っていたのは――。

 

「謎の美人コーディネーター! セイガ選手です!」

 

 ああ、やっぱり。なんていうか一人だけ別次元だった感じだし。その後も次々に合格者が発表されていく。私の名前は呼ばれない。

 

「次が七人目です! 最後の合格者は――リュカ選手です!」

 

 っしゃあ! という声が控室に響き渡る。……駄目だったか。私はぺたん、とベンチに座り込んでしまう。ふう、ま、仕方ないかな。初めてにしてはよくやれた――。

 

「まだよ。メイちゃん。忘れたの? この大会には特別審査員賞があるのよ? 最後まで諦めちゃダメ」

 

 ! そうだ。私がここで諦めたら頑張ってくれたイヴとルカに失礼だ。可能性がある限り諦めちゃダメだ。

 

「ありがとうございます、セイガさん」

「ふふ、どういたしまして」

 

 私は再び立ち上がり、モニターを見つめる。

 

「さて、最後に特別審査員賞の発表です! この賞は特別審査員であるカミツレさんが選んだ最優の選手に贈られる賞です。では、カミツレさんより発表してもらいましょう。どうぞ!」

「わかりました。私が選んだ選手は――」

 

 こい!

 

「エントリーナンバー4番、メイ選手です!」

 

 へ? メイって人、私の他にいないよね? じゃ、じゃあ……。

 

「おめでとう。メイちゃん。一次審査、無事通過よ」

 

 セイガさんにそう言われて私は思考の海から現実に戻ってくる。

 

「い」

「い?」

「いやっっっったああああああああああ!!!」

 

 私は人前であることも忘れて大声を上げて喜びを爆発させる。ははは! なんだ。やればできるじゃないか。やったぜ、イヴ、ルカ、私たちの演技は通用したぞ! 私は何度もガッツポーズをする。その様子を見たセイガさんはふふふ、と笑っていた。

 

「さあ、今一度二次審査に出場する選手を紹介します! まず一人目はセイガ選手、二人目は――――七人目はリュカ選手、そして最後にメイ選手です! 以上の八名が二次審査に進出します! みなさん二次審査にもどうぞご期待ください!」

 

 私が二次審査に出場するのは間違いではないらしい。っし。やる気出てきたぞ。この調子で二次審査も突破だぜ。二次審査のバトルならこっちのもんだ。バトルの強さならこっちはリーグレベル。積極的にバトルオフを狙っていこう。

 

「それでは、二次審査のコンテストバトルのトーナメント表を発表します! まずは第一回戦A組です。一人目は……セイガ選手! そして対戦相手は……メイ選手です!」

 

 何だと!? 一次審査トップ通過のセイガさんが相手か……。

 

「負けませんよ? セイガさん」

「こちらこそ、よろしくお願いするわ」

 

 そう言って私とセイガさんは笑顔で火花を散らし合う。イヴとルカのためにも、そしてライカのためにも、この勝負は絶対勝つ!

 




ありがとうございました。

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