ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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最近雪が酷いですね。
寒いのは嫌いです。
それではどうぞ。


46話 本番と評価

 現在、私はミスティ、アリアと共にコンテストの集合場所、ライモンドームに来ている。今の時間は集合時刻の三十分ほど前だ。

 

「ふう~、ちょっと緊張してきたかな」

 

 ジム戦前とかよりもよっぽど緊張するぜ。

 

「あれだけ練習したんだ。きっと大丈夫さ。自信を持っていけ」

 

 アリアが勇気づけてくれる。

 

「そうそう。メイたちの演技は十分通用すると思う。あと笑顔を忘れないように」

 

 ミスティからもアドバイスをもらう。うんうん。ミスティとアリアに励まされるだけで勇気が湧いてくる気がする。

 

「ありがとう、二人とも。じゃあ、いってくるね」

「私たちは観戦席で応援してるから。頑張ってね」

 

 ミスティが言う。

 

「楽しみにしているぞ」

 

 アリアも期待してくれているようだ。これは頑張らなきゃね。そうは言っても頑張るのは主にポケモンたちだけど。そうして私はミスティ、アリアと別れて集合場所の控室に向かう。控室に着くとそこにはすでに大勢の人が衣装を身に纏いポケモンたちのコンディションチェックをしていた。あらら、これはもしかして出遅れた? そうして私が少し引き攣った表情で入口に立ちつくしているとウェーブのかかった青の髪で、髪の一部を頭頂部で∞の形に結い、結い目には鑿を挿していて、青紫を基調とした天女のような格好をした女性が話しかけてきた。

 

「こんにちは。かわいい参加者さん。あなた、コンテストに出るの初めて?」

 

 青髪の女性は笑顔で訊いてくる。

 

「ああ、えっと、はい。そうです。あなたは?」

 

 私は若干戸惑いながら答える。

 

「ふふふ。いきなりごめんなさいね。私はセイガ。私はコンテストに出るのは初めてじゃないから初心者のあなたにちょっとアドバイスを、と思ったのだけれど迷惑だったかしら」

 

 ああ、この人がクルヤマさんが言っていたセイガさんね。この人もゲームのキャラクターにそっくりだ。もちろん出典は例のシリーズ。

 

「いえ、そんなことないです。むしろとってもありがたいというか」

 

 私はあはは、と笑ってセイガさんに返事をする。

 

「そう。よかった。とりあえず衣装があるなら着替えてくるといいわ。更衣室は隣の部屋だから」

「わかりました」

 

 そうして私は隣の更衣室で衣装に着替えてくる。控室に戻ってくると再びセイガさんがにっこり笑いながら話しかけてくる。

 

「まあ、かわいい衣装ね。よく似合っているわ」

 

 セイガさんは私の衣装を褒めてくれる。いやあ、照れるなあ。髪の毛も普段のお団子ツインテールではなく、サイドポニーにしている。

 

「そういうセイガさんだって素敵ですよ」

「うふふ。ありがとう。さてと、次にしておけばいいのは演技内容の確認ね。本番の時に緊張でド忘れしないように、ね?」

 

 セイガさんは人差し指を立ててかわいく首を傾げてウインクする。は~、すごいかわいいなセイガさん。あざとさが逆にいい。

 

「わかりました。出てきて、イヴ、ルカ、ライカ」

 

 私はコンテストに出場するパートナーたちを出して演技内容の確認をする。その間セイガさんは私から離れていた。演技内容を事前に知ってしまったら面白くないでしょう? とのことらしい。私とイヴたちとの確認が済んで、セイガさんを呼ぶ。

 

「終わったようね。あとは~……そうねえ。ポケモンたちのコンディションチェックとお手入れね」

 

 セイガさんの言葉に私は返事をしてイヴ、ルカ、ライカの毛並みを整え、コンディションチェックを済ませる。

 

「これくらいかしらね。あとは、コンテストを楽しむことね。お互いがんばりましょうね」

 

 セイガさんはそれだけ言って、手を振って行ってしまった。

 

「よーし、イヴ、ルカ、ライカ、私たちは今日まで精一杯練習してきた。あとはその成果を出し切るだけ。楽しむ心を忘れないで、がんばろう!」

『うん』

『はい』

『ええ』

 

 っし。自然な笑顔を心がけて……って言うけどこれを考えている時点で作り笑いだよね。自然体でいればいいかな。まあ、それが難しいんだけど。バトルの時はこんなこと関係ないんだけどなぁ。そんなことを考えていると控室にコンテストの実行委員らしき人が入ってきて説明を始めた。

 

「え~、みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます。これよりコンテストの説明をしたいと思います。まず一次審査ですが……」

 

 一次審査は一人ずつ順番に行うらしい。順番はすでに決まっていて、順番が来たら実行委員の人が呼びに来るとのこと。とりあえず重要なのはこれくらいかな。その他もろもろの注意事項を聞いて、本番に備える。実行委員らしき人は説明が終わると部屋から出て行った。その直後、控室に備え付けられていたモニターの電源がついて、会場の様子が映し出される。おお、ついに始まるのか。私はイヴ、ルカ、ライカをモンスターボールに戻し、モニターを注視しようとするが、ボールカプセルをつけてないことを思い出したのでいそいそとボールカプセルをセットする。ボールカプセルのエフェクトは無難にハートが飛び出るものを選んだ。イヴ、ルカ、ライカは三匹とも女の子だしちょうどいいだろう。ボールカプセルをセットしたところで、コンテストのMCらしき人の声がモニター越しに聞こえてくる。

 

「か、会場のみなさん、大変長らくお待たせしました。さあ、いよいよ始まります。イッシュ地方初のポケモンコンテスト、ライモン大会。司会進行は私、ルルアンが務めさせていただきます。新人ですがよろしくお願いします!」

 

 司会のルルアンさんが多少どもりながらコンテストの開始を宣言する。ははは、他人が緊張してるのを見るとこっちの緊張が和らぐね。

 

「えっと、つ、次に大会の審査員を紹介したいと思います。まずは、ポケモンコンテスト事務局、事務局長のコンテスタさんです」

「よろしくお願いします」

 

 コンテスタさんが立ち上がって頭を下げる。

 

「続いて、ポケモン大好きクラブ会長、スキゾーさんです」

「いやあ、好きですねぇ」

 

 ……それは挨拶のつもりなの? と私が思ったのは悪くない。だが、コンテスタさんと同じように立ち上げって頭を下げることはしていた。

 

「次にこの街のジョーイさんです」

「よろしくお願いします」

 

 ジョーイさんもコンテスタさん、スキゾーさんと同じように挨拶する。

 

「そして最後に、特別審査員としてお招きいたしました。ファッションモデルにして、この街、ライモンシティでジムリーダーを務めているカミツレさんです!」

「よろしくお願いします。今日という日を楽しみにしていました。コーディネーターとポケモンたちの痺れる演技に期待しています」

 

 カミツレさんがそう言うとウワァー! という大歓声が会場を埋め尽くした。さすがスーパーモデルだ。大人気だね。すると控室に人が入ってきて誰かを呼ぶ。

 

「ミキさん。出番です。スタンバイお願いします」

「は~い」

 

 そう言って控室にいた選手の一人が実行委員の人と部屋を出て行った。

 

「では、簡単にコンテストの説明をしたいと思います。今大会では――」

 

 ルルアンさんが説明を始める。いよいよかあ。私は何番目なんだろう。いや、何番だろうが関係ないか。全力を出し切るだけだ。そうして考えているとルルアンさんの説明が終わり、ついに最初の演技が始まる。

 

「では早速、最初のコーディネーターの登場です。地元ライモンシティからの参加! ミキさんです!」

 

 最初の演技者であるミキという少女がステージに上り、ポケモンをだして演技を開始する。少女ミキとそのポケモンの演技は結構イイ線いってると思う。普通にジョーイさんと見ていたコンテストの映像と比べても遜色ないレベルだ。うわあ、マジか。誰だよレベルが低いなんていった奴。うん。誰も言ってないねそんなこと。そういや一流コーディネーターたちが出るんだったね。ふぅ、大丈夫。やれることはやったんだ。私が信じないで誰が信じるんだ。よし、大丈夫、イケるイケる! そうして自分を鼓舞していると私を呼ぶ声が聞こえる。

 

「メイさん。スタンバイお願いします」

「は~い!」

 

 どうやら私の番のようだ。私は実行委員の人に連れられてステージの裏に案内される。

 

「司会の合図があったらステージに上り演技を開始してください」

「わかりました」

 

 いよいよだな。スゥ~……フゥ~……よし。行くとするか!

 

「さあ、次の選手の登場です。ヒオウギシティからはるばるやってきたコーディネーター、メイさんです!」

 

 ルルアンさんの合図がきたので私はステージへと上がる。

 

「メイさんは果たしてどのような演技を見せてくれるのでしょうか。では演技を開始してください!」

 

 よっしゃあ! いくぜ!

 

「イヴ! ルカ! Go on Stage!」

 

 私はそう言ってイヴとルカのボールを振り上げる。そしてハートが弾けるエフェクトとともにイヴとルカが現れる。

 

「いくよ! イヴ! サイコキネシス!」

『うん』

 

 私とイヴとルカはサイコキネシスによって空中へと浮かびあがる。そして空中遊泳を開始する。

 

「おお! エーフィのサイコキネシスでなんと空を飛んでいます! これは気持ちがいいでしょうねえ」

 

 初めはランダムに飛行する。その範囲はまずはステージ上のみで観客席までは届かないところまでにとどめる。

 

「イヴ! ルカ! サークルロンド!」

 

 私の合図で今度はステージの上空で私、イヴ、ルカで円を描くように飛行する。

 

「おお! ランダムな軌道から今度は円を描く規則的な動きに変化!」

「優雅さを感じさせる自由な飛行から統制のとれた動きへの変化が完成度の高さを示しているようです」

「いやあ、好きですねぇ」

 

 よし、コンテスタさんやスキゾーさんには好評のようだ。次に行くぞ!

 

「イヴ! ルカ! クロスロード!」

 

 私、イヴ、ルカは描いていた円の中心に向かって直線的に移動し、立体交差するように飛行する。円を描く、立体交差する、を何度か繰り返す。よし、次だ!

 

「今だ! ルカ! しんぴのまもり! そして再び自由な空へ!」

 

 最後の立体交差と同時にルカのしんぴのまもりを発動させ、私とイヴとルカが銀色の光の粒子を纏う。そして今度は観客席の上空にまで遊泳範囲を広げて、まるですべての人に光を届けるようにイヴ、ルカと共に空を泳ぐ。

 

「これはきれいです! 銀色の輝きがこの会場を包んでいくようです!」

「まるで天使が舞い降りたようです」

「うん、美しいわね」

 

 ジョーイさん、カミツレさんからも評価がきた。よしよし! いい調子だ! 最後の演技に移ろう!

 

「イヴ! ルカ! いくよ!」

 

 私はイヴとルカに合図を送り、空中からステージへと降り立つ。

 

「ルカ! れいとうビーム!」

『いきます! はあっ!』

 

 ルカは口から細長く青白い光線を出し、ステージ中央に巨大な氷塊を作る。

 

「おおっと。今度は大きな氷の塊を作りだしたようです。一体なにをするつもりでしょう?」

 

 それは見てからのお楽しみってね!

 

「ルカはハイドロポンプ! イヴはサイコショック!」

 

 ルカは激しい勢いの水流を、イヴは無数の光の弾を巧みに操り、氷塊を削りだしていく。最後にイヴのサイコキネシスで綺麗に仕上げる。よっしゃあ! 大成功だ! そして、私とイヴとルカは観客の方を向いて終了のお辞儀をする。すると観客から拍手が巻き起こる。観客の受けは上々のようだ。

 

「なんとなんと! 巨大な氷の塊が綺麗な氷像に早変わり! これはすばらしいですね!」

「威力の高い技と手数の多い技、それらをこれほど精密に扱うとは。すばらしい錬度ですね」

 

 コンテスタさんはイヴとルカの技に注目した評価をくれた。

 

「いやぁ~、好きですねぇ~」

 

 スキゾーさんはさっきからそれしか言ってない。まあ気に入ってくれたのならいいか。

 

「私としてはこの氷像の内容にも関心がいきます。人間とポケモンたちが笑い合っている、人間とポケモンとの関係の理想像がここにある気がします」

 

 おお、ジョーイさん、わかってくれるか。私も元ネタの写真を見たときにビビッときたんだよね。

 

「私からは一言だけ。とても、心が躍り、そして温まったわ」

 

 カミツレさんからも好評価いただき。これで一次審査を突破できればいいんだが。そうして私は演技を終えて控室に戻った。控室の扉を開けて中に入った瞬間、中にいた人の視線が一斉に私に向けられた。……なんか、みんなの目線がとっても突き刺さるような感じなんですけど。

 

「おかえりなさい。とてもいい演技だったわ」

 

 私がちょっと引き気味で入口で突っ立っているとセイガさんが話しかけてきた。

 

「あの~、私、何かやっちゃいけないことでもしたんでしょうか? みなさんの視線が痛いんですけど……」

 

 うん。なんか心配になってきちゃったぜ。

 

「そんなことないわ。メイちゃんたちの演技はすばらしいものだったわ。だからじゃないかしら」

 

 セイガさんは笑って言う。

 

「どういう意味ですか?」

「うふふ。みんなメイちゃんたちの演技を見て火がついちゃったのよ。もちろん私もね」

 

 セイガさんはそう言うと笑みを獲物を見つけた肉食獣のように獰猛なものに変貌させる。うおっ! 同じ笑顔でもここまで雰囲気が変わるものなのか。それにしてもなるほどね。他の選手たちの視線が痛いのはみんなやる気をだしてギラギラしてたからか。私、納得。

 

「あ、あはは、お手柔らかにお願いしますね」

「いやよ。全力でいかせてもらうわ。私たちの演技楽しみにしていてちょうだいね」

 

 セイガさんの言葉は選手たち全員の気持ちを代弁しているかのようだった。それだけ言うとセイガさんは控室の、もといた所に戻って行った。うう、なんというか、やってしまった感がある。でも、それほど私たちの演技がよかったと捉えることができる。そういう風に前向きに解釈していこう。私がそうして考えていると私のすぐ後ろにある扉が開いて私の頭に直撃する。

 

「あだっ!」

 

 いてて、誰だよ。そう思いながらも扉の前にいた自分が悪いのだと気づいてすぐに扉の前から離れる。

 

「あ、すいません。セイガさん、スタンバイお願いします」

「は~い」

 

 セイガさんが呼ばれて控室のから出ていく。どうやら次はセイガさんの出番のようだ。さて、どんな出来なんだろう。

 




ありがとうございました。

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