ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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今回は過去最長となりました……。
7800字となっていますのでご注意を。
それと、もしかすると気分を害する可能性が無きにしも非ずなのでその点も注意してください。
それではどうぞ。



40話 裏切りと信じること

 私たちは日がちょうど沈むころに迷いの森らしきところの入り口まで来た。

 

「ここがそれっぽいよね」

「まあ、森であることは確か。て言うか今から探索するの?」

 

 ミスティはツッコミを入れる。

 

「まあ、たまにはいいじゃない夜の森も」

「いいのか……?」

 

 私の発言に真剣に考え込むミスティ。

 

「そこまで真剣にならなくても……」

「安心して冗談だから」

 

 なんだ。そうだったのか。

 

「とりあえず森に入ってみない?」

「いいよ。……メイって結構大胆だね」

「でしょ?」

 

 私はふふんと胸を張る。

 

「今のは貶したつもりだったんだけど……」

 

 そんな会話をしながら私たちは森の中に入って行った。そして数時間後、私たちは迷い森の名にふさわしく見事に迷った。

 

「ま、まさか、本気で迷うとは……」

 

 さすが、迷いの森は格が違ったぜ……。

 

「ヤグルマの森のときは大丈夫だったんだけどねー」

 

 ミスティが適当に言う。

 

「方位磁針もなぜか狂ってるし。これは飛んで脱出するしか……ん?」

 

 私は木々の向こう側に明かりが見えることを発見する。

 

「どうしたの?」

「いや、向こうに明かりが見えるから。ほら、あそこ」

 

 そう言って私は明かりのある方向を指差す。

 

「……ホントだ。でもこんなところに? ちょっと怪しくない? 前みたいにプラズマ団の秘密基地だったらどうするの?」

 

 ミスティは少し嫌な顔をする。

 

「そのときは警察にでも通報するよ。とにかく様子を見に行ってみよう」

 

 私たちは明かりのところまで行ってみる。するとそこにあったのは少し小さなログハウスのような建物だった。

 

「こんなところに家……? というより人?」

 

 何でこんな森の奥に?

 

「とりあえず、プラズマ団とは関係なさそう」

 

 ミスティは安堵したように息を吐く。

 

「ちょうどよかった、今日はここに泊めてもらわない?」

「いきなりで大丈夫かな?」

 

 ミスティの心配ももっともだ。

 

「もし泊めてもらえなかったらいつも通り野宿でいいじゃない」

 

 私たちが話しているとログハウスの玄関が開く。

 

「聞こえているぞ。まったく、人の家の目の前でぺちゃくちゃしゃべって」

 

 中から出てきたのは紅蓮の腰まで届くほどのロングヘアーに所々に黒いメッシュの入っていて、髪を腰の上あたりでまとめている赤い瞳の女性だった。女性は男性が着るスーツ風のジャケットを着崩してスラリとしたパンツを履き全身が黒系統でまとめられ、スレンダーな体型をしていた。

 

「すいません。実は私たち道に迷っちゃって」

「主にメイのせいだけど」

 

 ミスティが私にだけ聞こえるように言う。うぐっ、お、おっしゃる通りで。

 

「ふう、そんなところだろうと思ったよ。とりあえず、中に入るといい。今日はもう遅い。女の子二人で出歩く時間じゃない」

 

 赤髪の女性は中に入るように言う。やった、これはこのまま泊まる流れの予感! そうして赤髪の女性に招かれ、私たちはログハウスに入る。

 

「座って待っていてくれ。今お茶を出す。そういえばお前たち晩飯はまだか?」

 

 赤髪の女性が聞いてくる。

 

「まだですけど、もしかして作ってくれるんですか?」

「ふう、少し待っていろ。今用意してやる。簡単なものしかできないがな」

 

 そういって赤髪の女性はキッチンの方へ消えていった。おお、飯まで作ってくれるとは。

 

「いい人でよかったね」

「そうね。まあ、別に野宿でもよかったんだけど」

「まあまあここはあの人の好意に甘えようよ」

「そうね。せっかく入れてもらえたんだし」

 

 そんな会話をしながら待っていると、赤髪の女性が料理の乗ったお皿を持って現れる。

 

「すご、おいしそう」

 

 ホントにこれこの短時間で作ったのかというほど見事な出来だった。ミスティはおお、と感心の声を上げている。

 

「遠慮なく食べてくれ」

「じゃ、じゃあ遠慮なく。いただきまーす」

「いただきます」

 

 私たちは一口パクリと料理を口に運ぶ。

 

「お、おいしい!」

「うん、悪くない」

 

 私もミスティも料理の出来に驚く。

 

「そうか? 簡単なもので作っただけなのだが」

 

 赤髪の女性はふっと笑みを見せる。私たち三人は料理を食べながら談笑する。

 

「そういえば私たちの自己紹介がまだでしたね。私はメイと言います」

「ミストラル」

「メイにミストラルだな。私はアリアと言う」

 

 私たちは他愛のない話をしながらあっという間に料理を平らげた。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

 

 はあ~、それにしてもうまかった。この人意外と料理人だったりして。

 

「今日はもう遅い。ここに泊っていくといい」

「はい! ありがとうございます」

「ございますー」

「ミスティ、それは失礼だって」

「ふふ、おもしろいな、お前たちは」

 

 アリアさんは柔らかい笑顔を見せる。

 

「そういえばお前たちはポケモントレーナーなのか?」

「はい。そうです」

「(コクン)」

 

 私は返事をし、ミスティは頷く。

 

「ならお前たちのポケモンを見せてもらえないか?」

「いいですよ」

「いいよ」

「出てきてみんな!」

 

 そうして私はリオたちを出す。ミスティもラティアス、ラティオス以外の4体のポケモンを出す。総勢10体のポケモンたちだ。

 

「ほう……!」

 

 アリアさんは感嘆の声を漏らす。だが次に出てきた言葉は信じられないものだった。

 

「お前たち、裏切りには気をつけろよ。人間というものはいつ裏切るかわからない。たとえ信頼していてもそれは容易く破れてしまう儚い夢のようなものだ」

 

 アリアさんの言葉に私とミスティ、そしてリオたちまでもがあっけにとられた。しかし私はすぐに立ち直り言い返す。

 

「私はリオたちを裏切ったりしません!」

「私も!」

 

 ミスティには珍しく力強く返事をする。アリアさん、もしかして……。ゲームの迷いの森でおきたあのイベント、印象的だったから覚えている。裏切りというキーワード、迷いの森、これらのエッセンスに当てはまるやつが一人だけいる。人に化けていたポケモン、ゾロアーク。それがアリアさんの正体だ……!

 

「ふっ、口ではなんとでも言える。お前たちがポケモンを裏切らない保証はどこにもない」

 

 そう言って笑うアリアさんはどこか悲しそうだ。

 

「アリアさん、あなたゾロアークですね?」

 

 私は確信を持って言う。

 

「! ふふふ、何を言う? 私はれっきとした人間じゃないか」

 

 アリアさんは一瞬驚いた顔する。私はそれを見逃さなかった。

 

「ごまかしても無駄です。今一瞬驚いた顔をしましたよね? それはばれないと思っていたからじゃないですか?」

 

 今思えばどことなく服装や髪の配色がゾロアークに似ている。

 

「しまったな。隙を晒すとは私も落ちぶれたものだ。確かに私はポケモン、ゾロアークだ。生来の能力によって人間に擬態している」

 

 アリアさんが正体を明かした。ミスティも驚いた顔をしている。ゾロアークは非常にボリュームのある赤いタテガミや隈取のような模様が特徴のばけぎつねポケモンだ。ちなみに進化前のゾロアも同じく隅取のような模様を持つわるぎつねポケモンだ。

 

「あなたがどんな風に裏切られ、どんな半生を歩んできたかはわかりません。しかしこれだけは言えます。私からリオたちを裏切ることは絶対に、命をかけてもありません!」

 

 私は断言する。

 

「ふっ、よく口が回る。そこまで言うなら見せてやろう。かつて信頼し合っていたものたちが儚く散っていく様をな!」

 

 すると突然周りの景色が変わり、ある風景が映し出される。そこには一匹のゾロアがいた。

 

「これは私が再現するとあるポケモンの半生だ。お前たちにわかりやすいように人間の言葉でポケモンたちの言葉を表現してやる。お前たちの目に、耳に、しかと焼きつけろ」

 

 そうして風景が動き出す。そこからはゾロアの半生が描かれていった。群れから出たゾロアは一人のトレーナーに出会い、共に行くことを決める。そのトレーナーとはお互いを高めあい信頼しあっていく様子が見て取れる。しかしそれは儚く裏切られる。そのトレーナーはこう言った。

 

 

 

 “ゾロア、お前にはお世話になった。けど、お前は強いポケモンが見つかるまでのつなぎだったんだ。だからお前はもういらない”

 

 

 

 その言葉にゾロアは呆然とし立ち尽くす。そして場面が変わり、また一人のトレーナーが現れる。

 

 

 

 

 “お、ゾロアか。珍しいな。なあ、お前一緒にこないか? オレと一緒に強くなろうぜ?”

 

 

 

 やさしく笑いかけるトレーナーにゾロアは安心し、そのトレーナーについていくことにする。そのトレーナーともいい関係が築けていた。しかし、またしても裏切りが訪れる。

 

 

 

 “お前全然強くならねえな。もういいや新しいポケモン捕まえるからお前はどっかにいっていいよ”

 

 

 

 再び降りかかった裏切りにゾロアは失意の底に沈む。しかし、ゾロアはあきらめなかった。きっといいトレーナーとめぐり合うと。そして今度こそ失望させないように強くなろうと努力した。そして三度目の出会いが来る。

 

 

 

 “きゃー! かわいい! ねえあなた、私と一緒に旅に出ない? いっぱい楽しもうよ!”

 

 

 

 過去二人とは違い強さを求めるタイプのトレーナーではなかったが精一杯ゾロアをかわいがってくれていた。そしてゾロアも少しでも喜んでもらおうと強さを追い求めたその結果、進化を果たす。しかし今回はそれが仇となる。

 

 

 

 “えーなんで姿が変わっちゃったの!? もうかわいくないしアンタ、いらない”

 

 

 

 訪れる三度目の裏切り。だがそれでもゾロアークは気丈に振る舞うことで自分を鼓舞し前向きに次の出会いを待つ。その間も修業に修業を重ねかなりの強さを会得する。そして四度目の出会い。

 

 

 

 “おいお前、強いな。ボクと一緒にこいよ。可愛がってやるからさ”

 

 

 

 ゾロアークはその強さを発揮しバトルでは無双といえる活躍を見せる。その様子に満足したトレーナーは出会ったときに言った通り可愛がってくれる。しかしそれも束の間、またもや裏切りは訪れる。

 

 

 

 “な、なんなんだよお前。なんで言うことを聞かないんだよ!? よ、よるな! 化け物! お前なんかどっかに行っちゃえよ!”

 

 

 

 四度目の裏切り。自分の追い求めたものを否定され何もかもが終わったと思ったその時、五度目の出会いが来る。

 

 

 

 “君のことを見ていたよ。化け物なんてひどいよね。僕ならそんなことは言わないし、君を大事にすると誓えるよ。だから僕と来ないか?”

 

 

 

 五度目の出会いはゾロアークにとって最後の希望だった。ゾロアークは大事にされたい一心で命令されたことを何でもこなし、また、特訓を重ね、さらなる強さを得た。時には奴隷のようなことも命令された。そのことに疑問を感じつつも裏切られたくない一心で従い続けた。それでもいいと思っていた。大事にしてくれるなら、と。しかしある時、声が聞こえた。

 

 

 

 “ゾロアーク? ああ、あの奴隷な。ははは、当たり前だろ? 化け物は誰かが首輪をつけて管理しなきゃいけないだろ? 僕はそれを買って出たんだ。偉いと思わないか? 少してこずるかと思ったがあの従順さには驚いたね。まるで意思のない道具みたいなもんだよ。呈のいい小間使いが手に入って僕は楽だけど。あ、道具みたいってのは道具に失礼か。あいつは道具以下の奴隷だもんな。あははははは!”

 

 

 

 ゾロアークは気づく。ああ、最初から自分は奴隷としか思われてなかったのだと。信頼関係なんて幻想だったんだと。そして、ゾロアークはそのトレーナーのもとから去る。人間なんてもう信じないと決めて。アリアの見せる幻影はそこで途切れる。

 

「これでわかっただろう? 人間というのが如何に簡単に裏切るかが……!」

 

 アリアさんは私を見てハッとする。私は目から大粒の涙を流していた。

 

「こんな、こんなことって……! アリアさん、私、わだじ……」

「グスン」

 

 ミスティも泣いているようだ。リオたちも同様だ。

 

「お前たち、私のために泣いてくれるのか……?」

 

 やはりアリアさんが見せたのは自分の過去だったか。私は涙を拭いアリアさんに語りかける。

 

「アリアさん、あなたが人間を信じなくなった理由はわかりました。私にチャンスをください。あなたを救うチャンスを」

「なんだと?」

 

 アリアさんは一瞬迷いを見せる。が、すぐに首を振って否定する。

 

「そんなこと言って……またお前たちは私を裏切るのだろう!」

 

 アリアさんは悲痛な叫びをあげる。

 

「裏切りません! 人間を信じなくたっていい! ただ、私を、私だけでいいんです。もう一度だけ信じてくれませんか?」

 

 私は涙目のままアリアさんに懇願する。

 

『うるさい! うるさい! うるさい! だまれええええ!』

 

 アリアさんは姿を本来のゾロアークに戻し腕を光らせて私を切りつけてくる。その攻撃を受けて私はふらつくが何とか踏みとどまる。

 

「メイ!」

 

 ミスティが叫ぶ。やべえ、超痛え。だが、私はアリアさんを救うと決めた!

 

「黙り……ません!」

『あ……ああ……わた、私……こんなつもりじゃ……』

 

 アリアさんは動揺して頭を抱える。

 

「アリア、あなたは救われなきゃいけない」

 

 私はやさしくアリアを抱きしめる。

 

「だから、少し、ほんの少しでいいんだ、私を信じてくれないか?」

『でも、私は怖い! 人を信じるのが……怖いんだ』

 

 アリアは声を絞り出すように言う。

 

「なら、待ってる。あなたが私を信じられるようになるまで」

『私、は、うあああああああああ!』

 

 アリアは叫び声を上げて泣き始める。はは、やっと泣いたか。アリアの幻影では泣いた場面が一度も見られなかった。きっと涙を流したことはなかったのだろう。今までためた分しっかり泣けよ。くそ、やべえ。意識が……朦朧と……。そこで私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ― Side アリア ―

 

「ほう……!」

 

 メイとミストラルの出したポケモンたちを見て私は感心する。大事に育てられているのがよくわかる。

 

「お前たち、裏切りには気をつけろよ。人間というものはいつ裏切るかわからない。たとえ信頼していてもそれは容易く破れてしまう儚い夢のようなものだ」

 

 だが、それもいつ終わるかわからない。だからポケモンたちに忠告しておく。

 

「私はリオたちを裏切ったりしません!」

「私も!」

 

 メイとミストラルは裏切ったりしないと言い切る。だが私は知っている。そう言って必ず裏切るトレーナーがいることを。

 

「ふっ、口ではなんとでも言える。お前たちがポケモンを裏切らない保証はどこにもない」

 

 私はそうメイとミストラルに反論する。

 

「アリアさん、あなたゾロアークですね?」

 

 するとメイが突然話を変える。

 

「! ふふふ、何を言う? 私はれっきとした人間じゃないか」

 

 何!? こいつ……何故わかった? いや、そんなはずはない。幻影は完璧だったはず。

 

「ごまかしても無駄です。今一瞬驚いた顔をしましたよね? それはばれないと思っていたからじゃないですか?」

 

 ……これは完全に見抜かれているな。まさかこんな小娘に見破られるとは。

 

「しまったな。隙を晒すとは私も落ちぶれたものだ。確かに私はポケモン、ゾロアークだ。生来の能力によって人間に擬態している」

 

 まあいい、それよりもこいつらのポケモンたちのほうが心配だ。どうにかして説得できないか。

 

「あなたがどんな風に裏切られ、どんな半生を歩んできたかはわかりません。しかしこれだけは言えます。私からリオたちを裏切ることは絶対に、命をかけてもありません!」

 

 ちっ、こいつは。いちいちイライラさせられる。

 

「ふっ、よく口が回る。そこまで言うなら見せてやろう。かつて信頼し合っていたものたちが儚く散っていく様をな!」

 

 私は自分の過去を幻影を通して見せてやることにする。これを見せればこいつらもわかるだろう。いかに人間が最低な生き物なのか。

 

「これは私が作り出した幻影だ。お前たちにわかりやすいように人間の言葉でポケモンたちの言葉を表現してやる。お前たちの目に、耳に、しかと焼きつけろ」

 

 そうして私は能力を使い、幻影を見せてやる。さてどんな反応をみせるかな。

 

「これでわかっただろう? 人間というのが如何に簡単に裏切るかが……!」

 

 私はメイとミストラルの様子を見て驚愕する。

 

「こんな、こんなことって……! アリアさん、私、わだじ……」

「グスン」

 

 メイとミストラルは涙を流している。ポケモンたちも同様だ。

 

「お前たち、私のために泣いてくれるのか……?」

 

 何故だ? 何故こいつらは会ったばかりの私の話を信じ、そして涙を流す?

 

「アリアさん、あなたが人間を信じなくなった理由はわかりました。私にチャンスをください。あなたを救うチャンスを」

「なんだと?」

 

 私を……救う? ……ふざけるな。私が、私がいったいどんな気持ちでここにいると思っているんだ。貴様に、貴様なんかになにがわかる!

 

「そんなこと言って……またお前たちは私を裏切るのだろう!」

 

 そうだ。信じられるものか。人間なんて、人間なんて……!

 

「裏切りません! 人間を信じなくたっていい! ただ、私を、私だけでいいんです。もう一度だけ信じてくれませんか?」

 

 できるものなら信じたいさ! そうさ! 信じられる人間もいるなんてことはわかってる! でもできないんだ!!!

 

『うるさい! うるさい! うるさい! だまれええええ!』

 

 私は姿を本来のゾロアークに戻しメイに向かって攻撃する。もう自分でもどうしたいのかわからない……!

 

「メイ!」

 

 ミストラルが叫ぶ声が聞こえる。そこで私は気付く。メイを、私を救おうとしてくれた存在を攻撃したことに。

 

「黙り……ません!」

 

 メイは私の攻撃を受けたにも関わらず倒れることもなく私に近づいてくる。

 

『あ……ああ……わた、私……こんなつもりじゃ……』

 

 私は自分のしたことに動揺し、頭を抱える。

 

「アリア、あなたは救われなきゃいけない」

 

 メイは私を抱きしめてくる。どうしてだ? どうしてお前はそこまでできる? こいつなら、メイならもしかしたら……。

 

「だから、少し、ほんの少しでいいんだ、私を信じてくれないか?」

 

 メイは優しく語りかけてくる。もう一度、もう一度だけ信じてみてもいいのかもしれない。でも、でも……!

 

『でも、私は怖い! 人を信じるのが……怖いんだ』

 

 私は素直に心の内を吐露する。

 

「なら、待ってる。あなたが私を信じられるようになるまで」

 

 私はお前を傷つけたのにまだそんなことを言うのか? 私を、この地獄から解放してくれるのか?

 

『私、は、うあああああああああ!』

 

 私はメイに抱きしめられたまま涙を流す。ああ、どうしてだろう。メイに抱きしめられていると不思議と信じる勇気が湧いてくる。メイとなら大丈夫かもしれない。今度こそ、ずっと共にいられるかもしれない。そうしてメイに抱きしめられたままになっていると、メイの力が抜けて私に体を預けてくる。……? どうしたんだ……! メイはそのままズルリと私の体からずり落ちて床に倒れる。

 

「メイ!? しっかりして! メイ!」

 

 ミストラルが倒れたメイに駆け寄る。ああ、そうだ。私が、私がやったんだ……。

 

「ルカリオ! メイにいやしのはどう! ラティアス、ラティオス以外の皆はボールに戻って! メイを病院に連れていく!」

 

 ミストラルが次々に指示を飛ばす。その様子を私はただ自分のしたことを考えながら見つめる。

 

「空を飛んでライモンシティの病院に直行する! 私はラティアスに乗る。ルカリオはメイと一緒にラティオスに乗っていやしのはどうをかけ続けて! 行くよ!」

 

 そう言ってミストラルはメイたちを連れて外に行こうとする。するとミストラルは足を止めて私の方へ振り返る。

 

「アリア、もしあなたにも思うところがあるのなら病院に来なさい」

 

 ミストラルはそれだけ言って外へ出て行った。……思うところがあるなら来い、か。……とりあえずメイに謝らなければ。すべてはそれからだ。私も病院に行こう。そうして私はライモンシティの病院に向かって走り出した。

 




ありがとうございました。

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