ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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毎回投稿するたびに緊張します。
それではどうぞ。


36話 砂漠と色違い

「さて、ヒウンシティに着いたわけだけど、まずは昼食にしようか」

「そうね。そうしようか」

 

 私とミスティはポケモンセンターに行き、昼食をとる。

 

「ミスティは知ってる……よね? このヒウンシティとライモンシティをつなぐ道路のこと」

「知ってるけど?」

「……大変だった?」

「だったね」

「はぁ、やっぱり」

 

 今いるこの街ヒウンシティと隣町のライモンシティ、この二つをつなぐ4番道路は実は時折、砂嵐の吹き荒れる砂漠なのだ。道路の整備工事が現在進行中なのだが途中までしか道がなく、道路の真ん中らへんは完全に砂漠になっていて越えるには一日ほどかかる。道の途中には多くの休憩所があるので砂嵐の中で寝泊まりするなんてことにはならないが、それでも砂漠を越えるというのはかなりの重労働なのだ。

 

「砂漠、なんだよねぇ」

「砂漠だね」

「……っし。今日は砂漠を越える準備をしてゆっくり休むとしよう、ってなんて顔してるの!」

 

 ミスティが信じられないものをみたかのような驚いた顔をしていた。

 

「いや、メイにしては慎重だな、と思って」

 

 まったく人を何だと思ってるんだ。

 

「いくら私でも砂漠を侮ったりしないよ」

「少し安心した。絶対砂漠のこと舐めてると思ってたから」

 

 だって砂漠だぜ? 舐める要素が見つからない。

 

「ミスティって私のことどう思ってるの?」

「楽天的で能天気」

「くっ、何も言い返せない」

 

 的確だな、くそ。

 

「まあ、とにかく、しっかり準備して4番道路に行こう」

「そうだね」

 

 そうしてこの日は砂漠に行く準備を整え、大事を取ってポケモンセンターで休んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、ライモンシティへ向かうため四番道路へ続くゲートに来ている。

 

「このゲートの先が砂漠か」

 

 私は少し緊張して言う。

 

「大丈夫。ちゃんと準備したし、砂漠の心得もばっちり聞いてきたじゃない」

 

 私の緊張が伝わったのか、ミスティが励ますように言う。

 

「……そうだよね! 大丈夫だよね。うん、よし、砂漠なんてさっさと越えるぞー!」

 

 砂漠にいるポケモンなんて知らない。そんなものは調査隊みたいのにでも任せればいい。

 

「その意気だよ。メイに緊張は似合わない」

 

 なんだよそれは。私だって緊張するときはするぞ。

 

「そういうわけで、4番道路の途中にあるリゾートデザートには行きません」

 

 だって面倒くさいし。なぜわざわざ砂漠の真ん中にいかなきゃいけないのか。

 

「どういうわけかわからないけど、まあ行きたくない気持ちはわかる」

 

 ミスティも同意してくれた。

 

「よかった。これでリゾートデザートに行きたいとか言われたらどうしようかと思ったよ」

 

 まあ、行きたいと言われれば行くけど。

 

「行きたいならいいけど?」

「いえ、遠慮します」

「ふふふ、じゃあ行きましょうか」

 

 そうして私たちは4番道路に一歩を踏み出す。4番道路に出ると整備された道路とサンサンと照りつける太陽の姿があった。

 

「そっか、最初は整備された道路があるんだっけ」

「そう。厳しいのは道路の真ん中の完全な砂地の砂漠だから。そこに行くまでは安心してもいいんじゃない?」

「そうだね。それにしても砂嵐が吹いてなくてよかったよ」

 

 この4番道路は時折、激しい砂嵐が吹くことがあり、そのときはその砂嵐の中を歩いて行くのは困難になる。4番道路を旅する途中で砂嵐に遭った場合は休憩所でおとなしく休むのが賢明だ。

 

「もしそうなっていたらどうしたの? メイのことだし、砂嵐の中でも突っ切ってさっさと砂漠を越えるぞー! とか?」

 

 ミスティが私の声真似をして言う。

 

「いくら私でもそんなことしないって。その時はちゃんと休んでいたよ!」

 

 私はちょっと怒る。

 

「ふふふ、ごめんごめん。冗談だよ。さ、進もう?」

 

 そうして時々他愛のない話をしながら4番道路を進んでいく。一日歩き続け、整備した道路が無くなる手前の休憩所に着いた。辺りはすでに夜になり、砂嵐が吹き始めていた。

 

「ふう、砂嵐が吹き始める前に着けてよかった」

 

 砂嵐の中を行軍するなんてことにならなくて幸運だったぜ。

 

「そうね。砂嵐の吹くタイミングが絶妙だったから運がよかったね」

 

 ミスティの言う通りだ。私たちが休憩所に着いたとたんに砂嵐が吹き始めたからね。

 

「でも、砂嵐がこの調子だと明日はここで一泊かなー。砂嵐の中を歩くのは嫌だし」

 

 明日は本格的な砂漠も越えなきゃいけないしな。

 

「そうね。私もそれは遠慮したい」

 

 ミスティも同意見のようだ。今、休憩所には私とミスティしかいない。そんな中、外から何者かの気配がした。こんな砂嵐の中を進んでくるなんておかしい。ここの休憩所に来るまで私達の後ろに人の気配はなかったのに。

 

「ミスティ、気をつけて。外に何かいる」

 

 私はミスティに真剣な声色で話しかける。そんな私の雰囲気を察してミスティはコクリと頷く。またプラズマ団が懲りずにやってきたか? とりあえず反撃の準備を整えるため、私とミスティはポケモンたちを出す。そして私は休憩所の扉を開け放つ。

 

「誰っ! ……誰もいない……」

 

 だがまだ油断はできない。どこかに隠れているのかもしれない。くっ、砂嵐のせいで視界が悪い。

 

「ここは……リオ、波導で周囲を探ってみて」

『わかった』

 

 リオが波導の力を用いて辺りを探索する。

 

『いた!』

 

 リオが何かを発見したようだ。

 

「何が居たの?」

『ポケモンが近くにいる。』

 

 ポケモン? だが、砂嵐のせいでその姿を確認することはできない。

 

「他には何もないの?」

『そのポケモン以外には何もないよ。でもそのポケモンも波導が弱々しい、消耗しているのかもしれない』

 

 どうやらプラズマ団ではなかったらしい。ポケモンが弱っていると知ったからにはほっとけないね。

 

「リオ、そのポケモンがいるところに案内して。そのポケモンを助けよう。イヴ、ついてきて。サイコキネシスで運んでもらうから。ミスティ、はちょっと待ってて。プラズマ団はいないから安心していいよ」

『わかった』

『了解』

「ん」

 

 ミスティはコクンと頷く。リオの案内でポケモンのところまで行くと、そこいたのは昆虫とドラゴンが合わさったような外観、ライトグリーンの体を持ち、翼と三又に分かれた尻尾はオレンジ色に縁どりされ、体の模様と触覚のようなものは水色をしているせいれいポケモン、フライゴンだ。しかし普通のフライゴンと少し色が違う。こいつ、色違いか。まあ、そんなことはいい。とりあえず治療が優先だ。

 

「イヴ、サイコキネシスでフライゴンを休憩所まで運んで」

『うん』

 

 私とリオ、イヴはフライゴンを休憩所まで運んできて、ベッドに寝かせた。

 

「リオ、フライゴンにいやしのはどう」

『おっけー』

 

 リオはフライゴンにいやしのはどうを使い体力を回復させる。

 

「とりあえず、外にいたのはこのフライゴンだった。他には誰もいないみたい。警戒は解いてもいいよ」

 

 あんなことがあったからね、警戒するのも仕方ない。

 

「そう。じゃあ、戻って、みんな」

 

 ミスティは先ほど出したポケモンをモンスターボールに戻す。

 

「リオ以外も戻っていいよ」

 

 私もいやしのはどうを使っているリオ以外をモンスターボールに戻した。しばらくリオがいやしのはどうでフライゴンを回復させているとフライゴンが目を覚ます。

 

『あ……れ……? アタ……シは?』

「目を覚ましたみたいだね。大丈夫?」

『はっ! アンタたちは!? ……アンタたちが助けてくれたの?』

 

 フライゴンは驚いて周囲を見渡し、その後に私の方を見て言う。

 

「そうだよ。私たちがあなたを助けたの。それで、どうしてあなたは倒れていたの?」

 

 私はフライゴンに倒れていた訳を訊こうとしたが、

 

『……? もしかして会話できてる? いやいやそんなことありえないし』

 

 フライゴンは私と会話できていることをばっさりと否定する。

 

「あなたがどう思おうと勝手だけど、ありえない、なんてことはありえない。だぜ?」

 

 私は、ドヤア……という擬音が付きそうな顔をして言う。くう~! 一度言ってみたかったセリフ、言えたぜ!

 

「へえ……!」

 

 ミスティもこのセリフには感心したよう息を吐いた。

 

『言葉が伝わってる……。本当に? 本当にわかるの?』

「そうだよ。私はあなたの言葉がわかってる」

『ははは、たとえそうだとしても、それがどうしたっていうの? アタシはもう……』

 

 フライゴンはあからさまに落ち込む。

 

「まあまあ、何があったのか話してみ? 聞いてあげられるくらいできるからさ」

『……アタシはね、生まれつき色が、他の皆と体の色が違ったんだ。そのせいでアタシは子供のころからいじめられ、ずっと一人だった。それでも群れの中にいることはできた。でもそれも今日までだった。ついにアタシは群れを追い出されたってわけ。笑っっちゃうよね。こんな些細な体の色の違いだけで皆に疎まれる。こんな小さな、どうでもいい違いだっていうのに、体の色以外皆と何も変わらないのに! アタシも群れのために頑張ったのに! じゃあどうすればよかったの! アタシは……アタシは……!』

 

 ちっ、胸糞悪い話だな。何かが違うと途端に受け入れられなくなるのは人もポケモンも同じってか?

 

「もういいんだ。よくがんばったね」

 

 そう言って私はフライゴンをやさしく抱きしめる。

 

『え……?』

「あなたは十分頑張ってきた。だからもういいんだ」

『アタシ……アタシ……!』

「あなたの存在は、他の誰でもない、この私が認めてあげる。私が認めてもたいしたことはないかもしれないけど、それでも私はあなたを受け入れる」

『受け入れてくれるの? アタシを?』

「ああ!」

『う、うあああああああ!』

 

 フライゴンは涙を流し、泣き声を上げた。しばらく抱きしめたままで時間を過ごし、しばらくするとフライゴンが顔を上げて話し出す。

 

『あ、ありがとう。もういいよ』

 

 おっとフライゴンを抱きしめたままだったね。私はフライゴンを離す。

 

『ね、ねえ、アタシもアンタについていっていい? アタシには帰る場所がないから……』

「そんな、寂しいこと言うなよ。これからは私のいる場所があなたの帰る場所になるんだから」

『え? それじゃあ連れてってくれるの?』

「もちろん! あなたさえ良ければだけど」

『うん! 一緒に行く!』

「私と来るってことはバトルもすることになるけどいい?」

『ええ! どんとこいって感じ? これでもアタシ、強いのよ』

 

 へえ、言うじゃないの。

 

「なんで?」

『それを訊くの?』

「え? だめだった?」

『……はあ。いじめられてたから、それにやり返してたら自然と強くなってたの! これでいい!?』

 

 フライゴンは怒る。

 

「ああ、ごめんごめん。気付かなかったよ」

 

 そういうわけか、なるほどね。

 

「そういえば自己紹介してなかったね。私はメイ。こっちはミストラル。それで、この子たちがあなたの新しい仲間たち!」

 

 私はポケモンたちを出して紹介した。

 

「そしてあなたの新しい名前はライカ」

『ライカ、それがアタシの新しい名前……』

「そう。これからよろしくね」

『ええ。こちらこそ』

 

 そうして私はライカにモンスターボールを差し出し、ライカはそれに触れてモンスターボールの中に入る。他のポケモンたちもボールに戻す。

 

「よくもまあ、くさいセリフを簡単に言えるね」

 

 今まで黙って見ていたミスティが言う。

 

「くさいセリフっていうのは自分でもわかってるんだけど言わなきゃいけない気がしてね」

 

 ああ~思い出すと恥ずかしくなってきた。

 

「メイの才能なのかもね」

「いやあ。才能だなんて」

 

 私はテレテレと恥ずかしがる。

 

「はいはい、調子に乗らない。で? 今日はもう休むんでしょ?」

 

 はい、すいませんでした。

 

「そうだね。明日に備えてね」

 

 そうして私たちは寝る準備を整え、休憩所で夜を明かした。

 

 




ありがとうございました。

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