ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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うー☆
……それではどうぞ。


35話 物語と決意

 私とミスティはマリサの待つ研究所に戻る。二人してマリサの前に顔を出す。

 

「お、来たか……ってお前らなんかいい顔つきしてんな。なんかあったのか?」

 

 あったな。一大イベントってやつが。

 

「別に~なんでもないよ。ね、ミスティ」

「ね、メイ」

 

 私とミスティは顔を見合わせて笑う。

 

「ふ~ん、ま、いいけど。それで、お前らに話があるって言ったよな。そのことなんだが、お前らのポケモンの技を見せてもらいたいんだ」

「私たちのポケモンの技を?」

「そうなんだよ。野生のポケモンだけじゃ限界があってな。どうしてもトレーナーの使う技を間近で観察したいんだ。データは多ければ多いほどいい。だから、な? お願いできるか?」

 

 マリサは顔の前で手を合わせて頼んでくる。

 

「どうする?」

 

 私はミスティの方を向いて訊いてみる。

 

「いいんじゃない? 別に支障はないでしょう?」

 

 ま、そうだよね。

 

「そうだね。いいよ。マリサの研究に協力するよ。どうせしばらくはこの街にいるつもりだし、その間はマリサを手伝うよ」

 

 修業しててもいいんだけどここ最近修業詰めだったからなぁ。たまには休まないとね。といっても勘が鈍らない程度にはやるけど。

 

「ホントか! 助かるぜ! そういやお前ら、シュウンさんからこの街を離れるなって言われてたんだっけ。その間、手伝ってくれるってことでいいのか?」

 

 そうそう。シュウンさんに言われたからね。

 

「いいよ。それでいいよね?」

「そうね。それでいい」

 

 ミスティは頷く。

 

「ありがとな、お前ら。じゃあ、さっそく準備してくる。ちょっと待っててくれ。いやあ、アララギ博士の研究のデータ整理は昨日終わらせたし、今日は新しい研究データは取れるしでいいことずくめだな。テンションあがってきたぜ!」

 

 マリサはイヤッホウという声が似合いそうなくらいに元気な様子を見せて部屋から出ていった。

 

「マリサ、よっぽど嬉しいんだね。あんなに喜ぶなんて」

 

 ミスティがやれやれといった風に言う。

 

「まあ、いいんじゃない? 嬉しそうなんだし」

 

 私は笑いながら言う。しばらくするとマリサが戻ってきた。

 

「準備できたぜ。こっちに来てくれ」

 

 そうしてマリサに案内されたのはバトルフィールドだった。

 

「このバトルフィールドでポケモンを一匹ずつだして同じ技を2回ずつほど使ってみてほしい。そしたらこの機材でデータを収集するから」

 

 バトルフィールドの周りにはなにやら複雑な機材が並べられている。そしてマリサもノートパソコンを携えてきっかり準備済みだ。

 

「よし、測定開始! メイ、まずはお前のポケモンから頼む!」

「わかった。いけ! リオ!」

 

 そうしてマリサの技の測定は昼休憩を挟んで夜まで続いた。

 

「いやあ、今日はホントにありがとな! おかげでいいデータが取れた。明日もこの調子で頼むぜ!」

「これくらいお安い御用だよ」

「そう言ってくれると助かるぜ。そろそろ晩飯の時間だな。今日もポケモンセンターにするか。タダだし、結構うまいしな。お前らも来るだろ?」

 

 そうしてこの日はマリサと三人でご飯を食べて、その後私とミスティはポケモンセンターで休んだ。

 

 

 

 

 

 

 次の日の午後のこと、今日も技の測定をしていると……。

 

「今、帰ったわ!」

「ただいま」

「うおっ! 帰ってきたか……なんかいやな予感がするぜ」

 

 マリサと私たちは測定を中止して、帰ってきた博士の元へ向かう。するとアララギ博士と初老の男性がいた。

 

「マリサ! 手伝ってほしいことが……あら? メイちゃんじゃない。いらっしゃい。そちらの方は、はじめましてね。私はアララギ、この研究所でポケモン博士をしています」

 

 アララギ博士はミスティに自己紹介をする。

 

「ミストラル」

「こんにちは、私もアララギだ。アララギパパとでも呼んでくれ」

 

 男性の方、アララギパパも自己紹介をしてくれる。

 

「ごめんなさいね。本当はもっと相手をしてあげたいんだけど急ぎの用があってね。これで失礼させてもらうわ。マリサ! 急いで集めてほしい資料があるの。手伝ってね!」

 

 アララギ博士は有無を言わせず、笑顔でマリサを駆り立てる。

 

「はーい。まったく人使いが荒いぜ。せっかくいいデータが手に入ったところなのに」

 

 マリサはため息をはいてぶつぶつ呟きながら、アララギ博士と共に奥へと引っ込んでいった。

 

「さて、私も踏ん張るとしますか。何もないところだと思うがゆっくりしていってくれ」

 

 アララギパパも柔らかい笑顔を浮かべて奥へ消えていった。すると研究所があわただしく動き出す。

 

「……なんかお邪魔みたいだし、帰る?」

「どこへ?」

「それもそうか。ポケモンセンターに行こう」

 

 そうして私たちは研究所を出ていくことにする。

 

「お邪魔しましたー!」

「しましたー」

 

 はーいという声が返ってきて私たちはポケモンセンターに向かった。

 

「もしかしたらだけど」

 

 私は腕を組んで考えるそぶりを見せる。

 

「? どうしたの?」

 

 ミスティが疑問に思って訊いてくる。

 

「もしかしたらだけど、アララギ博士の用事ってゼクロムとレシラムのことかもしれない」

 

 もう物語の終盤に差し掛かっているかも?

 

「ああ、このイッシュ地方における伝説のアレね。確かNとトウコが目覚めさせるんだっけ?」

「そう。原作では目覚めさせる方法をアララギ博士たちが調べるっていう描写があったはずなんだ。そうするともう物語は終盤に来ているのかもしれない」

「ふ~ん」

 

 あれ、ミスティは興味無さそう。

 

「興味ないの?」

「そうね。この世界が原作通りに進んでもそうでなくとも私にはどうでもいい」

 

 あらそうですか。私としてはちょっと気になるところではあるんだけど。

 

「あのね、聞いてほしいことがあるの」

「ん? 何?」

「メイが守ってくれるって言ってくれて嬉しかった。でも、昨日一晩考えて思ったんだ。守られるだけでいいのかって。そして気付いた。私もメイを守りたいんだって。それで私はメイを守るために何ができるのかを考えた。けど何も思い浮かばなかった。ねえ、私はどうしたらいい? メイのためなら何でもする」

 

 何でもって……ぐへへ、じゅるり。……なんてね。

 

「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな」

 

 ああ、なんか説教くさくなる予感が。

 

「え?」

「私たちはこれまでも助け合ってきたじゃん。私はこれでもミスティのこと、頼りにしてるんだよ? あなたの頭のいいとこなんて特にね。今までも十分お互いを守りあってきた。私の場合、その決意を新たにしただけのこと。だから、どうしても私を守りたいって言うならその決意を示して見せてよ」

 

 決意を示せって偉そうに。何様だよ私。

 

「……決意だけではなにも守れない。メイには力があるからそう言えるんだよ」

 

 でも、決意がなければなにも始まらない。

 

「力ならミスティにもある。明晰な頭脳という力が。頭がいいってのはそれだけで武器になる。だから、ミスティはもっと自分に自信を持っていいんだよ」

「そう、なのかな」

「そうだよ。それにミスティはもう一つ大切なことを忘れている。私たちにはポケモンがいる。私たちが守りきれない部分はポケモンたちが守ってくれる。私たちとポケモンは共に足りない部分を補い合うパートナー。困った時はポケモンを頼ればいい。ポケモンたちはきっと力になってくれる」

 

 ポケモンたちは頼りになるぜ?

 

「……そっか、私は一人じゃなかった。私は一人でどうすればいいかばかり考えていた。大切なパートナーがいるのを忘れていた。そうだよね、私たちは一人じゃない、頼れるパートナーがいる。足りない部分は補い合えばいい。みんなで守りあえばいいんだ。あれ? そうなると、守るものがメイ以外にも増えちゃうな。でもこういうのいいな。おかしな感じ。一人じゃ何も思い浮かばなかったのにみんながいるって思うと何でもできそうな気がする」

 

 どうやら答えに辿り着いたようだ。

 

「ありがとう、メイ。おかげで気付けたよ。みんなでメイを守る! だから安心してね」

「はは、どういたしまして。でもポケモンたちも守ってあげなよ?」

「もちろん!」

 

 ミスティは笑顔でそう返す。守りたい、この笑顔ってやつだな。そして私たちは立ち止まっていたことに気付く。

 

「どうやら話に集中し過ぎていたみたいだね」

「そうね。ポケモンセンターに行きましょう」

 

 そうしてポケモンセンターで駄弁ったり、軽く修業したりでカノコタウンでの日々は過ぎていった。そして十二日後、シュウンさんから連絡があってもう街にはとどまらなくていいことになり、晴れて旅立つことになった。シュウンさんによると実はもっと早くに離れることができたらしいが、連絡が遅れていたらしい。おいおい、ならもっと早く連絡してくれよ。そして今はこの街、カノコタウンを旅立つ直前でマリサたちが見送りに来てくれた。

 

「じゃあな。技のデータ、ありがとな」

 

 マリサからお礼を言われる。これくらいなんともないって。

 

「マリサの研究に手を貸してくれたらしいわね。私からもお礼を言うわ」

 

 アララギ博士からもお礼を言われる。

 

「マリサ、アララギ博士、アララギパパ、わざわざ見送りに来てくれてありがとうございます」

「ございますー」

 

 ミスティ、それはさすがに失礼じゃない?

 

「いいのよ。大したもてなしもできなかったし、これくらいはさせてほしいわ」

 

 さすがアララギ博士、できる女だな。

 

「では、そろそろ行きますね。出てきてカティ!」

 

 私はカティを出す。今日は、一度通った道、1、2、3番道路、ヤグルマの森、一度通った街、カラクサタウン、サンヨウシティ、シッポウシティはカティに乗ってさっさと通り過ぎ、ヒウンシティまで行くつもりだ。私とミスティはカティに跨る。

 

「へえ、ウインディで行くのか、確か走るのが速いんだよな。どこまで行くつもりだ?」

 

 マリサは少し羨ましそうにこちらを見ながら言う。

 

「行ったことのあるヒウンシティまではカティで行くつもり」

 

 私はマリサに返事をする。

 

「そうか、ま、バッジ集め、頑張れよ」

「旅の無事を祈っているわ」

「気張らずにほどほどに頑張るんだぞ」

 

 上から順にマリサ、アララギ博士、アララギパパの発言だ。みんなから応援の言葉をもらい、出発する。

 

「それでは、さようなら!」

「さようなら」

 

 私とミスティは別れの挨拶を告げる。

 

「じゃーなー!」

「また今度遊びにいらっしゃい!」

「ではな!」

 

 みんなが見つめる中、私とミスティはカティに跨り疾走を開始する。するとすぐに街の風景が遠くなり、自然が広がる。しばらくカティに乗り、街と自然の繰り返しの景色を楽しみ、街ゆく人々の驚愕の表情と声に優越感を感じながら、約三時間後の昼前にはヒウンシティに着いた。

 




ありがとうございました。

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