ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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いよいよです。
それではどうぞ。


34話 Mと私

「メイ、今から話すことは全部本当のこと。信じてくれる?」

 

 Mは今までにない真剣な表情で言う。

 

「うん。わかった」

 

 私も真剣に返す。さてどんな話が来るか。

 

「私は、プラズマ団の幹部、ゲーチスに育てられた。いや、育てられたというのは間違い。ゲーチスに創られた。プラズマ団の王、Nの試作品として」

 

 ッ! 雰囲気が似ているとは思ったけどまさか本当にNと関係があったなんて。Mが言うにはプラズマ団の王であるNはゲーチスが創り出した傀儡の王様で、実質的なリーダーはゲーチスらしい。また、NはMという試作品の経験を元に、より強烈なマインドコントロールと英才教育を施された強化体なんだそうだ。

 

「私は小さい頃にゲーチスに拾われた。そして、人に傷つけられたポケモンたちと共に生活させられていた。そのせいかな、ポケモンの言うことが分かるようになったのは。そこまではゲーチスの思い通りだった。だけどそこまでだった。私はゲーチスの思惑から外れて成長した。ゲーチスはポケモンが皆、人に傷つけられて生きていると思い込ませることで私を思い通りに操ろうとした。でも、私はそうはならなかった。私は傷ついているポケモンたちを見て疑問を抱いた。なぜ、こんなポケモンたちしかいないのか、傷ついてないポケモンはいないのかと」

 

 それは何故かと問うと、Mと一緒に生活させられていたポケモンの中に人に傷つけられてなお人を信じるポケモンがいて、そのポケモンの言うことを聞いているうちにそう思うようになったらしい。

 

「そして私はゲーチスにその疑問をぶつけた。するとゲーチスは言った。“フハハハハ! これは傑作だ。まさか気づかれるとは。子供と思って侮っていましたか。いいでしょう。あなたは好きに生きなさい。もうあなたは必要ありません”と。それから私のところにゲーチスが来ることはなくなった。私は、捨てられた。私は考えた。なぜ捨てられたのか。でも、結局なにもわからなかった。わかったのは捨てられたという事実のみ。今ではわかるけどね。私はゲーチスの目的にそぐわなかったってだけ。でも、当時は捨てられたという事実を受け入れられず、ゲーチスのために役に立とうと必死になった。私はゲーチスのやろうとしていることを調べ上げ、そして気付いた。ゲーチスのやろうとしていることに。私は恐怖した。ゲーチスの野望の大きさに。それからの私の行動は早かった。当時のプラズマ団の力を使ってトレーナーカードを作り、私はゲーチスの下から逃げ出した。当時コジョフーだったコジョンドとはその時からの付き合い。ゲーチスの下から逃げ出したあとはポケモンたちとの出会いの連続だった。旅の始めは空虚なものだったけど、それもポケモンたちとの出会いが癒してくれた。それに私についてきてくれた、アブソル、キュウコン、ドレディア、ラティアス、ラティオス、皆との旅も私の傷を癒してくれた。私は次第にゲーチスに恐怖したことを忘れていった。でも、それは私の旅の目的を失うことを意味していた。そしてそんなとき、メイ、あなたに出会った」

 

 そうだったのか……。

 

「メイとの旅はそれはそれは楽しかった。誰かがそばにいるのがこんなに心地いいなんて今まで知らなかったから。でも、それもこれで終わり」

 

 え?

 

「私はあなたに迷惑をかけた。これ以上あなたを困らせるわけにはいかない。だからメイとの旅は終わりにしようと思う」

 

 なんだよそれ?

 

「私はここを一人で旅立つ。でも最後に、私の名前を呼んで? 私の名前はミストラル・ハルモニア・グロピウス」

 

 こんな話聞いてほっとけると思うか?

 

「……ミストラル・ハルモニア・グロピウス」

 

 私には……できない!

 

「うれしい。これで思い残すことはない――」

「本当にそうか?」

「え?」

「本当にこのまま私と別れたいって思っているのか?」

 

 私はミストラルに問う。

 

「私といたらメイに迷惑がかかる。だから――」

「そんなこと訊いてるんじゃねえ!」

「!」

 

 私はミストラルの言葉を遮り、怒る。

 

「私はお前がどうしたいかを訊いてるんだ! お前が本当に心から私と別れたいと思っているなら止めはしない。けどな、ならなんで悲しそうな顔をしてる?」

 

 こんな状態になってるのに素直にならないミストラルを諭す。

 

「え?」

「気づいてないのか? お前今泣きそうな顔してるぞ?」

「わ、私、あれ?」

 

 ミストラルは涙を流す。

 

「ミストラル、私はお前が好きだ! だから私はお前と一緒にいたい! それじゃだめなのか?」

「私は……」

 

 ミストラルは俯く。

 

「ああもう! 四の五の言わず私と来い! たとえどんな災厄が降りかかろうとも! どんなに人が傷つけようとしてきても! 私が守ってやる! だから! 私と来い! これは命令だ!」

「……ふ、ふふふ。メイ、それは強引すぎるよ。でも……」

 

 ミストラルは顔を上げ涙をふきながら笑う。

 

「ありがとう、メイ……」

「まだ答えを聞いていない、私の命令に従うか従わないのかどっちなんだ?」

「私は……メイの命令に従います」

 

 

 

 

 

 

 ― Side ミストラル ―

 

「メイとの旅はそれはそれは楽しかった。誰かがそばにいるのがこんなに心地いいなんて今まで知らなかったから。でもそれもこれで終わり」

 

 そう、メイとの旅はこれで終わり。

 

「私はあなたに迷惑をかけた。これ以上あなたを困らせるわけにはいかない。だからメイとの旅は終わりにしようと思う」

 

 これ以上はメイを危険に晒してしまう。だから……お別れ。

 

「私はここを一人で旅立つ。でも最後に、私の名前を呼んで? 私の名前はミストラル・ハルモニア・グロピウス」

 

 最後に名前を呼んで? それで終わりにする。

 

「……ミストラル・ハルモニア・グロピウス」

 

 ああ、やっと言ってくれた。でもなんでメイは辛そうなんだろう?

 

「うれしい。これで思い残すことはない――」

「本当にそうか?」

「え?」

 

 私は言葉を挟まれ戸惑う。本当にそうって?

 

「本当にこのまま私と別れたいって思っているのか?」

 

 ……別れるしかない。別れるしか、ないんだよ。

 

「私といたらメイに迷惑がかかる。だから――」

「そんなこと訊いてるんじゃねえ!」

「!」

 

 メイに怒鳴られ私はビクッと体を震わせる。

 

「私はお前がどうしたいかを訊いてるんだ! お前が本当に心から私と別れたいと思っているなら止めはしない。けどな、ならなんで悲しそうな顔をしてる?」

 

 え? 私は、そんなこと……

 

「気づいてないのか? お前今泣きそうな顔してるぞ?」

「わ、私、あれ?」

 

 私は知らず知らずのうちに涙を流す。なんで涙が……?

 

「ミストラル、私はお前が好きだ! だから私はお前と一緒にいたい! それじゃだめなのか?」

「私は……」

 

 ああ、そうか、私はメイと離れたくないんだ。

 

「ああもう! 四の五の言わず私と来い! たとえどんな災厄が降りかかろうとも! どんなに人が傷つけようとしてきても! 私が守ってやる! だから! 私と来い! これは命令だ!」

「……ふ、ふふふ。メイ、それは強引すぎるよ。でも……」

 

 チープな言葉。でもそれが何よりも心に響く。ああ、私は惹かれている。とても強くて素敵なメイに。

 

「ありがとう、メイ……」

 

 私はメイと一緒にいたい。

 

「まだ答えを聞いていない、私の命令に従うのか従わないのかどっちなんだ?」

 

 メイはこんな私と一緒にいてくれる。

 

「私は……メイの命令に従います」

 

 私は今、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ― Side メイ ―

 

 っしゃあ! ふううううう。慣れないことはするもんじゃないな。すげー疲れた。

 

「ミストラル、う~ん、なんか言いにくいね。ミスティ、そうミスティだ。これからはミスティって呼ぶ。いい?」

 

 ミスティ。いいね! 我ながらいいあだ名だ。

 

「ミスティ……うん! わかった」

 

 ミスティも気に入ってくれたようだ。

 

「さて、ミスティが自分のことを話してくれたことだし。私も話すよ。自分がどういった存在なのか。聞いてくれる?」

 

 どうやら、私にも話すときが来たようだ。

 

「わかった。聞く」

「よし、じゃあ。今から話すことはすべて真実だ。できれば信じてほしいところだね。私は……」

 

 そして私はミスティに話した。私の最大の秘密、転生者であることを。今起きているプラズマ団の事件をその顛末まで知っていることを。そしてこれから起こり得る未来のことを。

 

「……」

 

 ミスティは信じられないといった表情をしている。

 

「はは、やっぱり、信じられないよね」

「ううん、違う。ただ驚いているだけ」

「そう? 自分でも荒唐無稽な話だと思うんだけど」

 

 普通は信じられないと思うんだけど。

 

「ううん、信じるよ。それで、今はその原作通りに進んでいるの?」

「それはわからない。けど、ヒウンシティでゲーチスに会ったときは大体原作であったイベントの通りだった。だからこの世界は限りなく原作に近い筋書きで回っていると思う」

 

 おそらくは私の知る物語の通りだ。

 

「大体っていうことは原作と違うところがあるってことね」

 

 さすがミスティ。

 

「それは、原作では私とミスティはあの場にいなかったということ。トウヤとトウコもどちらか一人しかいなかったはずなんだ。それでも原作と同じように事が進んだから私はこの結論に達した」

 

 んだけどどうかな?

 

「そうね。そう思ってもいいかもね。じゃあ、ゲーチスの野望はゲームの主人公であったトウヤかトウコに止められるというわけね」

 

 よし、ミスティのお墨付きだ。やったね!

 

「いや、それはするのはおそらくトウコだと思う。トウヤも私と同じ転生者だからね」

「そうなんだ。未来はトウコ次第ってわけね。でもいいのかな? トウコに任せちゃっても」

 

 それは私も気になっているんだけど……多分大丈夫でしょ。

 

「いいんじゃない? トウコと会ったとき不思議と何かを感じた。トウコならなんとかしてくれる、なんとかできるって。まさにトウコが英雄なんだって」

「そうね。それは私も思った。じゃあ、ゲーチスはトウコに任せるということで。それで気になったんだけど、私はどうなの? 原作では何してたの? それとも私も実は原作通りの行動をしてるとか?」

 

 ミスティも気になるか、でもなぁ……。

 

「ううん、ミスティは原作にはいなかった」

「いなかった?」

 

 出てないんだよなあこれが。

 

「そう、ミスティは物語には登場していなかった。だから私にとってミスティは一緒に旅をしたときの印象しかないんだ」

「なんだ。つまんないの」

「え? なんで?」

「原作に出てたら、原作と違った行動をして世界に反抗してみようと思ったんだけど」

 

 ミスティは残念そうに肩をすくめる。

 

「はは、元気、出たみたいだね」

「おかげさまでね。まあいろいろと気になることはあるけど、これは全部うまくいったらという仮定の話だし、いつまでもこんな話をしていても仕方ないからこれで終わりにしましょう。それに、どんなことがあっても守ってくれるんでしょう? メイ?」

 

 は、はは、そんなこと言ったっけ?

 

「そうだね。せいぜい、守ってみせるよ。ミスティのことも、ポケモンたちも、私の大切なものは全部、ね」

 

 はあ、いつの間にか守るものができちゃったみたいだ。こんなの柄じゃないんだけどなぁ。

 

「大切……ふふふ……大切か……」

 

 ミスティは何かを呟いてニヤニヤしている。

 

「ん? どうしたの?」

「いやいや、なんでもないよ」

 

 ミスティはゆっくりと首を振る。なんだったんだろ?

 

「それじゃあ、研究所に戻ろうか。マリサが用があるって言ってたし」

「そうね」

 

 そうして、私たちは研究所に戻った。

 




ありがとうございました。

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