ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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今回でMの話までいくつもりが長くなってしまった。
それではどうぞ。


33話 研究所と技

 私とMは街でもひときわ大きい建物、ポケモン研究所と思しき所の前に降り立つ。

 

「戻って、ラティアス、ラティオス。お疲れ様」

 

 Mはラティアスとラティオスを戻す。

 

「……どうやらここがポケモン研究所みたいだね。さっそく入ろう」

 

 私たちはアララギ博士のポケモン研究所の玄関に到着し呼び鈴を鳴らした。真夜中だが大丈夫だろうか。まあ、こちらは緊急事態だから勘弁してくれるとうれしい。電気もついてるし、まだ起きて作業しているんだろう。すると中から声が聞こえる。

 

「はーい! まったくこんな時間に誰だぜ……」

 

 玄関の鍵を開ける音がして扉が開く。中から、片側だけおさげにして前に垂らした金髪が特徴的な白衣を着た女の子が出てきた。またゲームのキャラクターか。まったく、この世界はどうなっているんだろう?

 

「はいはい。どなたですか……ってその格好……プラズマ団か! こんな時間に何の用だ? 勝負なら受けて立つぜ!」

 

 女の子はモンスターボールをビシィ! と前に突き出しポケモンバトルの態勢をとる。あ、そういや着替えるの忘れてた。

 

「ま、待ってください! これには訳が……」

 

 私はそう言ってあわててプラズマ団の服を脱ぎ捨てる。

 

「お、おいおい、いきなり何を、って下にも服を着てたのか」

 

 女の子は出鼻をくじかれたように言う。

 

「あの、聞いてください。実は私たちプラズマ団にさらわれて、基地のようなところに捕らえられていて、今脱出してきたところなんです」

 

 あ~私の説明下手! Mもこういうの苦手だって言ってたしな。

 

「ん~。いまいち状況が飲み込めないんだが、とりあえずお前らはプラズマ団じゃないんだな?」

 

 女の子は確認してくる。

 

「あ、はい」

「そうだよな。こんな子供がプラズマ団なわけないよな」

 

 女の子は、ハハハと笑う。

 

「おっと、悪かったな。とりあえず事情は中で聞こう。入ってくれ」

 

 そう言って女の子は研究所の中へと入れてくれた。客間のようなところに通され、話を始める。

 

「私はマリサっていうんだ」

 

 金髪おさげのマリサさんが自己紹介をしてくれる。やっぱりゲームのキャラクターだ。ちなみに出典は例のシリーズ。

 

「私はメイと言います。それでこちらは――」

「ミストラル」

「!?」

 

 私は思わずMの方を見る。Mの本当の名前か? まあ、今はいいか。

 

「こんな夜遅くにすみません。実は……」

 

 私はどのようなことがあったのかを詳しく説明する。

 

「なるほど、状況はわかった。それでこの研究所に助けを求めたわけか。大変だったな。無事でよかったよ」

「え? 信じてくれるんですか?」

 

 正直かなり怪しいと思うのだが。

 

「これでも人を見る目はあるつもりだぜ? お前らは信じるに値する人間だと思う」

 

 マリサさんはふっと笑って言う。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ふう、よかった。マリサさんがいい人で。

 

「さ、お前ら、疲れているだろ? 寝所を貸そう。今夜はもう休むといいぜ。寝所に案内するからついてきてくれ。警察にも私が連絡しておく」

 

 そうして私とMは寝所に行き、この日は休んだ。そして眠る前のひと時のこと。

 

「ねえM、あなたの名前」

「明日、明日すべて話す」

「そう、わかった。おやすみ」

「おやすみ、メイ」

 

 

 

 

 

 次の日、朝、起きると、眠るとき隣にいたMがいなかった。もう起きたのかな。それにしても昨日は大変だったな。まったく、こんなことは二度と勘弁だぜ。そうして寝所から出て昨日の客間に行く。するとMとマリサさんと一人の若い男性がいた。

 

「おお、おはよう、メイ。こちらは国際警察のシュウンさんだ。お前らの事件について聞きに来たんだ。といってももうミストラルが話してしまったがな」

 

 マリサさんが言う。

 

「おはようといった方がいいのかな? ボクはシュウン、任務でこのイッシュ地方に来ていたんだけど、君たちの事件を聞いて飛んできたんだ。ミストラルさんから話は聞いたよ。大変だったね」

 

 うわあ、超イケメン。さわやかスマイルだ。

 

「いえ、そんなことは……いや大変だったかも」

 

 そういや結構冷静に対処できてたよね。私って結構才能ある?

 

「はは、君は正直だね。君からも話を訊きたいんだがいいかい?」

「はい、いいですよ」

 

 私は昨日の出来事をシュウンさんに話した。

 

「ふむ、ミストラルさんの話と大差はないようだ。うん、大体わかったよ。あとはボクたちに任せてほしい。君たちが連れて行かれたアジトはすでに見当が付いているからね」

 

 へえ、さすが国際警察。格が違うぜ。

 

「話を聞かせてくれてありがとう。ボクはもういくよ。もしかしたらまた話を訊くことになるかもしれないから、しばらくはこの街にいてくれると助かる。それじゃあね」

 

 そう言ってシュウンさんは去っていった。

 

「さて、お前ら朝飯まだだろ? ポケモンセンターに行って朝飯食おうぜ」

 

 マリサさんは私とMを朝食に誘う。私とMはそれに同意してマリサさんについていき、ポケモンセンターでマリサさんと朝食をとった。

 

「しっかしお前らも大変な目にあったもんだな。よく無事だったな」

 

 マリサさんが言う。

 

「ええ、本当に、幸運でした」

「運がいいだけで脱出までいくとは思えないけどな。お前、何か訓練でも受けてたのか?」

 

 マリサさんが訊いてくる。

 

「はは、まさか、私は一般人ですよ」

「じゃあミストラルは?」

「私も、ただの一般人」

「ふ~ん。ま、いいけど」

 

 マリサさんは軽く疑いの目を向けてくる。そんなに見つめられてもなにもありませんよ。

 

「それより、マリサさんは何の研究をしてるんですか?」

「ああ、さん付けと敬語をやめてくれ。年も近いだろうしな。なんかむずがゆいぜ」

 

 マリサがブルっと体を震わせる。

 

「そう。わかった。これでいい? マリサ」

「ああ、いいぜ。それでわたしの研究だったな。わたしはな、技の研究をしているんだ」

「技の研究?」

 

 Mも興味を示した。

 

「ああ、ポケモンたちが使う技がどういった法則で動いているのかを調べているんだ。ポケモンたちの技って不思議だろう? 何もないところからものを生みだしたり、とんでもないパワーを持っていたり。わたしはその起源を研究しているというわけさ」

 

 へえ、技の起源か。考えたこともなかったな。技なんてポケモンたちが当たり前に使っているもんだから疑問に思ったこともない。

 

「へえ、マリサも立派な研究者なんだね。ちなみに年はいくつなの?」

「15だぜ」

「うわ、ホントに私たちと変わらない」

「そういうお前らはどうなんだ?」

「私は12歳」

「私は15」

 

 私たちは年齢を答える。

 

「そうか。そういやお前らはトレーナーなのか?」

「うん。そうだよ」

 

 Mもコクリと頷く。

 

「そうかそうか。いやあ、懐かしいな。わたしもバッジ集めに奔走したもんだ。今思えばあの時が一番輝いていたのかもなー」

 

 マリサは当時を懐かしむようにうんうんと首を振る。

 

「輝いていたって今でも十分輝いて見えるけど?」

「もちろん今だって充実してる。けど昔もよかったんだよ」

 

 おいおい。昔を懐かしむ年齢じゃないでしょ。

 

「昔って……いつの話なの?」

「五年前だよ」

「五年前ってことは10歳か。10歳で旅に出てたってことは優秀だったんだね、マリサは」

 

 普通はトレーナーズスクールの小学課程、もしくは中学課程を卒業してから旅に出る。10歳で旅に出るってことはトレーナーズスクールを飛び級するか、それか途中で勉強をやめるかだ。マリサは研究者をやってるくらいだ。きっと飛び級だったんだろう。

 

「まさか! わたしは勉強を途中でやめたんだよ。それで家を飛び出すようにトレーナーになった。当時は苦労も多かったが、楽しかったなあ」

 

 これは意外な事実。まさか途中でやめた方だとは。

 

「それでそれで。どこまでいったの?」

 

 私はワクワクしながら訊く。他人の話はおもしろいね。

 

「どこまでって何がだ?」

「バッジを何個まで集めたとかポケモンリーグに出場して何回戦までいったとか」

 

 もう、トレーナーならわかるでしょ。

 

「ああ、そういうことか。リーグには出た。いいところまでいったんだが負けちまったんだ。最大のライバルってやつにな」

「ライバルって?」

「そいつはな、わたしと違って飛び級でトレーナーズスクールを卒業した天才でな。わたしが旅にでたのもそいつに負けたくなくてなんだ。でも結局そいつには一度も勝てなかったんだ。旅の途中で何度もバトルを挑んだんだがな。それでリーグでも負けた後、わたしは何か燃え尽き症候群のようなものになっちまってな」

 

 ああ、そうか。私は今まで負けたことがないけど負けるとそうなっちゃうのかな。

 

「わたしは情熱を失い、何もかものやる気が失せた。だがそんな時だったんだ。わたしはある研究者に出会った。そしてその研究者に見初められ共に旅にでることになったんだ。旅の始めは空虚なものだった。しかしその研究者は違った。ポケモンを見るたびに目をキラキラさせて生き生きとしていた。あるときわたしは聞いてみた。どうしてそこまで楽しそうにできるのかと。そうしたらその研究者は答えたんだ。“ポケモンというのは不思議な生き物だよねえ。いつも違ったものを私に見せてくれる。一度だって同じだったことはない。マリサ、アンタも一度ポケモンを違った目線で見つめてごらん。きっと今まで見えなかったことが見えてくる”って。それからわたしはポケモンを観察し続けた。そしてある時思ったんだ技っていうのはどこからきているんだ? ってね。その疑問を持った時からわたしの世界は一気に色を取り戻した。わたしはポケモンたちを見続けた。今までとは全く違った目線で。けど疑問の答えは見えてこなかった。そして思ったんだ。この疑問を解消したいってな。そうしてわたしは新たな目標を得た。そしてそのときの縁で今こうしてこの研究所でお世話になっているというわけだ」

 

「ほえ~そんなことがあったんだね」

「おっと、わたしの身の上話になっちまったな。忘れてくれ。とりあえずトレーナー時代はバッジを集めているときが一番楽しかったということだ。わたしの場合はな」

 

 マリサの話は面白かったな。いろいろとためになる。リーグのあとの話か。今まで考えたこともなかった。私はどうするんだろう? 旅の終わりか……。

 

「私、メイと話したいことがあるんだ。マリサはちょっと席をはずしてくれない?」

 

 Mが真剣な表情で言う。

 

「お? わたしには聞かせられない話か。わかった。わたしは先に失礼するとしよう。それが終わったら研究所に来てくれ。話したいことがあるからな」

 

 そう言ってマリサは去っていった。ついにMの話か、なんか緊張するな。するとMが話し始める。

 




ありがとうございました。

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