ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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今回は長くなりました。
キリがいいところがなかったんです……。
それではどうぞ。


25話 迷子とふれあい

 ジム戦のあった日の次の日、いつもの体操と訓練を終えて、いつも通りの朝ごはん時、

 

「それで? 今日はどうするの?」

 

 Mが訊いてくる。

 

「そうだね、……特に行きたい所もないし、サンヨウシティに向かおうかな」

「そう。なら、また旅だね」

 

 そうして旅に必要なものを補充して、準備を整える。

 

「さ、準備も整ったし、いこうか!」

「うん」

 

 

 

 

 

 シッポウシティとサンヨウシティを繋ぐ三番道路を旅して一週間、今回の移動は修行しながらのゆっくりとした旅だった。途中にあった地下水脈の洞窟を探索したり、育て屋にお世話になったり、幼稚園で園児たちと遊んだりと、まあ暇になることはない楽しい道中であった。修業の成果と言えるものは皆のレベルが上がって強くなったことくらいか。もうみんなレベルが高いのでレベルが上がることで覚える技はもう覚えてしまっている。そして私たちはサンヨウシティに到着した。

 

「う~ん。やっと着いたあ」

 

 私は伸びをしながら言う。

 

「今回はいやに長かったね。どうして?」

 

 Mはゆっくり進んだことに疑問を持っているようだ。

 

「どうしてって言われてもなあ……気分?」

「私に聞かないでよ。ふう、まあメイのマイペースさは今に始まったことじゃないけど」

 

 そんなにマイペースだったか? まあ、気分で急いでみたりゆっくりしたりしてるのは否定しないけど。

 

「さ、今日も今日とてポケモンセンターに行きますか!」

「そうね」

 

 Mはふう、と息を吐いて同意する。ポケモンセンターに行こうとすると、その途中である二人組がいた。

 

「う、ひっく、お母様……」

「大丈夫よ、フラン、お母様はきっと見つかるわ」

 

 どうやらサイドテールの金髪の少女が泣いていて、それを水色の混じった青髪の少女が慰めているようだ。ていうかこの子たちもゲームのキャラクターにそっくりなんですけど……。ちなみに出典はとあるシューティングゲーム。このゲームはいくつかシリーズが出ていてその中の一つにこの子たちのそっくりさんが出演している。以前出会ったサトリとコイシもこのシリーズの中の一つに出ている。これはもう確定なんじゃね? でもどうしたんだろう? 状況から察するに迷子にでもなったか?

 

「メイ、どうするの? あの子たち泣いてるけど」

 

 考えているとMが訊いてきた。

 

「見たからにはほっとけないし、助けるとしますか」

「そうね。さすがにかわいそうだし」

 

 そうして私とMは女の子二人に近づいて話しかける。

 

「どうしたの? お二人さん?」

「泣いているようだけど?」

「? あなたたちは誰?」

 

 青髪の少女は怪訝そうな表情で問いかける。あらら、これは警戒されてるな。どうしたものか……。

 

「あのね……私たちお母様とはぐれちゃったの……」

 

 すると金髪の少女が答えてくれた。

 

「ちょっと、フラン? 知らない人についていっちゃダメだっていつも言われているでしょ」

「へえ、そうなんだ。じゃあ私たちが一緒にお母さんを探してあげる。私はメイっていうの。それでこっちはM。あなたたちの名前はなんていうの?」

「私はフランドールっていうの……」

「わ、私はレミリアよ」

 

 青髪の方がレミリアで金髪の方がフランドールか、またゲームと一緒の名前だ。これはもはやなにかしらの力が働いているとしか思えない。私がそう考えているとMがやさしく微笑んで二人に語りかける。

 

「大丈夫。あなたたちのお母さんは私たちが必ず見つける。心細かったよね。もう大丈夫だよ」

 

 そういってMは二人の頭を撫でる。

 

「あ……ありがとう……」

「ふえ……えへへ」

 

 レミリアとフランドールはMの行動に驚きつつも、少し警戒心を解いたようだ。へえ驚いたな。Mにこんな一面があったなんて。もしかしてさっきこの子たちをどうするか聞いてきたのもこの子たちを助けたかったからかもな。

 

「さて、とりあえず警察にいこうか」

 

 Mは警察に行くことを提案する。そうだな。ジュンサーさんに頼めば早く見つかるだろう。ただ手がかりもなく闇雲に探すのは骨が折れる。それに警察にいたほうがこの子たちも安心するだろうし。

 

「そ、そうね! こういうときは警察に助けを求めるのが一番ね!」

 

 レミリアも少し元気を取り戻したようだ。Mはタウンマップを取り出し警察の場所を確かめる。それを横からレミリアも見つめる。しかし、背が足りていないので見ようとしても見れずにいた。

 

「ちょ、ちょっと、私にも見せなさい!」

 

 レミリアは見たい見たいと駄々をこねる。

 

「ん? 見たいの? はい」

 

 Mはそれに応えてレミリアにも見えるようにかがむ。

 

「えっと、警察は……こっちね。さ、フラン、行くわよ。……あなたたちもついてきたければ勝手になさい」

「じゃああなたたちが心配だから私たちもついていくね。ほら、メイ、行こう?」

 

 今日のMはえらく積極的だな。

 

「おねーちゃんたちもついてくるの?」

 

 フランドールの質問にMが答える。

 

「そうね。あなたたちのことが心配だから」

「そっか。ありがとう!」

 

 フランドールは会ってから初めて笑顔を見せた。フランドールは素直でできた子だな。レミリアも必死でフランドールを守ろうとしているのが見てとれて微笑ましい。

 

「むう、さっさと行くわよ! フラン!」

 

 そういってレミリアは警察のある方向へ歩き出す。

 

「あ、待ってよお姉様!」

 

 フランドールはレミリアを追いかける。

 

「私たちも行こう、メイ」

 

 そんな二人を私たちも追いかける。そうして警察についた。

 

「あら、こんにちは。何の用?」

 

 するとジュンサーさんが出てきて話しかけてくる。この世界でも警察はジュンサーさんなんだな。

 

「えっと……」

 

 レミリアは恥ずかしいのか言い淀んでいる。

 

「実はこの子たち迷子らしいんです」

 

 するとMが代わりに言う。その様子をみてレミリアは若干むくれている。

 

「あら、大変ね。あなたたちの名前は?」

 

 私とM、レミリアとフランドールは名前を答える。

 

「じゃあ、どうして迷子になったか聞かせてもらえる?」

「ええ、わかったわ。実は旅行でお母様とお父様と一緒にこのサンヨウシティに来たのだけど、庭園を見ているときに勝手に街の方へ来てしまってそれで……街で……迷子に」

 

 レミリアは最後の方は尻すぼみになってしまっている。どうやら責任を感じているようだ。

 

「そうなの。じゃあ、お父さんとお母さんの名前わかる?」

 

 ジュンサーさんがレミリアに質問する。

 

「お父様の名前はオニクス。お母様の名前はミカ」

 

 レミリアもそれに答える。

 

「それじゃあ、……」

 

 その後ジュンサーさんが質問をして、レミリアがそれに答えるということを繰り返すこと数回。

 

「じゃあ、私はあなたたちのお父さんとお母さんを探してくるわ。レミリアちゃん、フランドールちゃん、あなたたちはここで待っていてね」

 

 そういってジュンサーさんは交番から出ていく。そして今交番にいるのは私、M、レミリア、フランドール、もう一人のジュンサーさんだ。

 

「これでもう大丈夫だね。さ、行こうM」

「いや。まだ駄目。レミリアとフランドールが両親と会えるまでは安心できない」

 

 心配性だな。子供のこととなるとここまで必死になるとは。

 

「わかったよ。じゃあ見つかるまでここにいよう」

 

 部外者である私たちにできることはもうないと思うけどね。

 

「ねえ、おねーちゃんたちって、ポケモントレーナー?」

 

 すると少し安心したのかフランドールが話しかけてきた。

 

「ん。そうだよ。私たち二人ともポケモントレーナーだよ」

「じゃあじゃあ! ポケモンいっぱい持ってるの!?」

 

 フランドールは目をきらきらさせて聞いてきた。レミリアも興味があるのかちらちらこちらを見てくる。

 

「いっぱいはいないけど持ってるよ」

 

 Mがフランドールの質問に答える。

 

「へえ、いいなあ。ねえねえ、おねーちゃんたちのポケモン、見せて!」

「いいよ。ほらレミリアも。見たいんでしょ?」

 

 Mがレミリアも誘う。

 

「い、いいの?」

「いいよ。じゃあ外に出よう。ここじゃちょっと狭いからね」

 

 そう言って私とM、レミリアとフランドールは交番の外に出る。

 

「みんな出てきて!」

 

 Mはモンスターボールから四体のポケモンを出す。出したのはコジョンド、キュウコン、アブソル、ドレディアだ。さすがに一般の往来でラティオス、ラティアスを出すわけにはいかないか。

 

「うわあ! みんなきれい!」

 

 フランドールは感動しているようだ。

 

「ふわあ……」

 

 レミリアも同じく。

 

「じゃあ私も、みんな出てきて!」

 

 私もリオ、カティ、ユウヒ、イヴを出す。

 

「メイおねーちゃんのはかっこいいのと、かわいいの! 両方いるね! ねえねえ、さわってもいい?」

「いいよ」

 

 私とMは同時に返事をする。返事を聞いたフランドールはかわいい! とか、きれい! とか言いながらポケモンたちに触りまくっている。ポケモンたちはそれをくすぐったそうにされるがままになっている。

 

「ふふふ、たのしそうね」

 

 Mははしゃぐフランドールを見て笑っている。ん? レミリアは……興味津津みたいだな。だが、何かためらっているようだ。どれ、いっちょ手を貸してやるとしますか。私はイヴを抱えてレミリアのほうへ行く。

 

「ほら、レミリア、この子を抱いてみて」

「あ、メイ、ちょっと……」

 

 そういって私はイヴをレミリアに抱かせる。イヴを抱いたレミリアは恐る恐るイヴを撫でる。するとイヴは気持ちよさそうに目を細める。

 

「うわあ……!」

 

 レミリアは嬉しそうにイヴを撫で続ける。イヴも気持ちよさそうだ。うんうん、よきかなよきかな。そうしてしばらくレミリアとフランドールとのポケモンの触れ合いが続く。そして、もう十分堪能したかな、というところで、

 

「レミリア! フラン!」

 

 レミリアとフランドールを呼ぶ声がする。

 

「ああ、レミリア、フラン、よかった! 無事だったのね」

 

 おお、やっとご登場か、どうやら両親が来たようだ。

 

「お父様! お母様!」

 

 フランドールは自分の両親に抱きつく。レミリアはうれしいのか悲しいのか微妙な顔をしている。迷子になったのが自分の責任だってことがわかってるからかな。両親に会えたことと板挟みになっているんだろう。

 

「ジュンサーさん、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 レミリアとフランドールの両親がジュンサーさんお礼を言う。

 

「いえ、この子たちを連れてきたのはこちらのメイさんとMさんです。お礼を言うなら彼女たちに言ってあげてください」

 

 レミリアとフランドールの両親がこちらを向く。

 

「そうだったの。レミリアとフランを助けてくれてありがとう」

「ありがとう。礼を言う」

 

 レミリアとフランドールの両親にお礼を言われる。

 

「いえ、大したことはしていませんので」

 

 私はレミリアとフランドールの両親にそう返す。Mはコクンと私に同意するように頷いている。

 

「だいたいこれくらいか、受け取ってほしい」

 

 父親であるオニクスさんが懐から札束を取り出して差し出してくる。うえ!?

 

「そ、そんなの受け取れません!」

「そうです。こんな大金……」

 

 私とMは首を振りお金を受け取るのを拒否する。

 

「あなた、何でもかんでもお金で解決しようとするのはあなたの悪い癖です。やめてください。みっともない」

 

 母親のミカさんがオニクスさんを窘める。

 

「む、すまない。君たちもすまなかった、馬鹿にするようなまねをして」

 

 オニクスさんは素直に謝ってくる。

 

「いえ、気持ちだけ受け取っておきます」

 

 Mはそう言葉を返す。

 

「じゃあひとつお願いをしていいですか?」

 

 ちょっと言いたいことがあるんだよね。

 

「なんだね、私にできることなら、何でも言ってみたまえ」

 

 オニクスさんは私のほうを見る。

 

「レミリアのことあまり叱らないでやってほしいんです」

「なに……?」

 

 オニクスさんは訝しげに眉をひそめる。

 

「え……?」

 

 レミリアは私の言うことに少し驚いている。ミカさんは何も言わず、笑みを崩さない。フランドールは何を言っているの? という風に首を傾げている。

 

「レミリアはもう十分反省しています。ですから……」

「それは君には関係のないことだ」

 

 オニクスさんは突っぱねる。

 

「それともオニクスさんにはもう十分に自らを責めている人をさらに責め立てる趣味でもあるのですか?」

 

 しかし私は笑顔でそう返す。

 

「む、うむう……はあ、わかった。ここは君に免じて言う通りにしよう。レミリア、こっちに来なさい」

 

 オニクスさんはレミリアを呼ぶ。それにたいし恐る恐る近づいていくレミリア。

 

「レミリア、それにフランドール、もうに二度と勝手にどこかへ行っちゃいけない。わかったね?」

 

 オニクスさんはレミリアとフランドールに優しく注意する。

 

「はい……」

「はーい」

 

 レミリアとフランドールが元気なく返事をする。

 

「はい、じゃあ今回の件はこれで終わり。そろそろお昼だしレストランにでも行きましょう。よかったらあなたたちもどう? できればお礼に御馳走したいのだけど、ね? あなた?」

 

 ミカさんが言う。

 

「そうだな、お礼だけではこちらの気持ちが収まらない。ぜひ御馳走させてほしい」

 

 まあお昼をおごってもらうくらいならいいか。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。いいよねM?」

「そうね。それくらいなら」

 

 そうしてレミリア一家とともにレストランで食事をとることになった。レミリア一家が連れて行ってくれたのはサンヨウシティで有名な、て言うかジムリーダーをやっているあの兄弟の店だった。そこで食事を楽しみ、レミリア一家と旅の話で大いに盛り上がった。

 

「今日は本当にありがとう。食事にも付き合わせちゃってごめんなさいね」

 

 ミカさんがお礼を言う。

 

「いえ。私たちも楽しかったです。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 

 私とMは礼を返す。

 

「おねーちゃんたち、ありがとう! 旅のお話、すっごいおもしろかったよ!」

 

 フランドールは素直に喜んでいる。笑顔がかわいいな。

 

「まあまあ、楽しかったわ。あ、ありがとう」

 

 レミリアは一瞬詰まりながらもお礼を言ってくれた。レミリアのお礼を言いなれていない感じもまたかわいいものだ。

 

「それでは、いつまでも付き合わせるわけにもいくまい。君たちにもやることがあるだろうからな。今日はありがとう。感謝する。それではな」

「おねーちゃんたち! ありがとう! さようならー!」

 

 そう言ってレミリア一家は去って行った。

 

「いっちゃったね」

「そうね」

「まさか、Mにこんな一面があったなんてね。子供、好きなの?」

「別に相手が子供だったからじゃない。泣いてたからほっとけなかっただけ」

「ふ~ん、そっかそっか。Mは優しいんだね~」

 

 私はわざとらしく言う。

 

「茶化さないでよ。もう。これくらいは普通でしょ」

 

 Mはむくれて反論する。

 

「ごめんごめん。それもそうだね」

 

 ま、そうだね。泣いている子をほっとくのはさすがに心が痛む。

 

「それで、これからどうする?」

「そうだねー……」

 

 ホントにどうしよう、まだポケモンセンターに行って休むには早いしな。ジムに挑戦してもいいんだけど……よし、それなら……

 

「夢の跡地に行こう」

 

 夢の跡地、子供やポケモンの遊び場として使われている工場の跡地。

 

「ああ、あそこね」

 

 Mも知っているか。まあバッジを持っているということは一度このサンヨウシティに来てるってことだから知ってて当然か。

 

「今日の今からと明日一日を夢の跡地の探索に費やそう」

「うん。わかった」

 

 そうして私とMは夢の跡地に向かった。

 




ありがとうございました。

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