これは執事ですか?はい、だけどゾンビです   作:放仮ごdz

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今度は一ヶ月とちょっと経って更新。お待ちしていただいた方々、申し訳ございませんでした。
ちょっと覗いてみたら51,000を軽く超えててビビりました。一ヶ月でここまで読まれたのは心底嬉しいです。本当にありがとうございます。


今回は何時もより長めです。そして再び!これゾン×ハヤテのごとくの真骨頂な回となります。ユーとワタル君は不憫。では、どうぞ!


これは決闘ですか?はい、ガチバトルです

あの後、サキさんがお風呂に行って、マリアさんは掃除をしに庭に行って。この客間には私、ハヤテ、ナギの何時もの三人に加え、お客様であるワタル君が居た。

 

「それで、許嫁ってあの…親が決めた相手と言う意味の許嫁、ですか?」

『むしろそれ以外にいいなずけがあるのか。一言で言えば婚約者、フィアンセだね』

「なるほど、お嬢様ってちゃんと彼氏がいたんですね」

「ち、違う!誤解するな!」

 

のほほんと、むしろ祝福するかのような声色のハヤテに焦った様に弁解するナギ。…あーこりゃ、めんどくさい事になったかもしれない。

 

「彼氏などでは決してない!許嫁だ、許嫁!いや、この事自体あのジジイが勝手に決めた事だから、その・・・」

「いやー、でも婚約者がいたなんてビックリです。さすが上流階級のお嬢様は僕ら平民とは違いますね~」

「うう・・・」

 

笑顔で応えるハヤテにナギは冷や汗ダラダラだ。そりゃそうだろう。私はハヤテとナギの間には、勘違い的な好意があると言う事を知っているがハヤテにとってはあくまで恩人でお嬢様って事だけだ。つまり「前提となる条件が変われば物の見方は変わる」と言う奴だ。

ハヤテからしてみれば「ただの執事とご主人様」の関係、だから何の問題も生じない。むしろポンコツお嬢様に彼氏がいると言うのは祝うべきだろう、だからこの発言も何気ないただの言葉になる。

しかしナギからしてみれば「恋人同士」と言う条件だ。そうなると途端に言葉は意味を変え・・・ハヤテが笑顔の下で「婚約者がいたなんて聞いてないですよ!僕との関係は遊びだったんですか!(涙目)」と、こういうビジョンが浮かぶ訳だ。実際に聞こえてないのに。多分「こんな嫌味を言うとは…」とか「黙っていたのを相当怒っているな…」とか一人で悶々と狼狽えているに違いない。ややこしい関係である。

 

「でもよろしいんですか?たった一人の孫娘が嫁いだら三千院家の名が途切れてしまうのでは?」

『それは大丈夫。愛沢咲夜を含む従姉妹が複数いるから』

 

後は伊澄ちゃんや初柴ヒスイとかね。ああ、そう言えばギルバートもか。

 

「そもそも嫁ぐのはナギではないので問題ありませんよ?」

「へ?…ああ、なるほど。ワタル君が婿養子としてお嬢様にもらわれるんですね!」

「誰がナギなんぞにもらわれるかー!」

 

ハヤテの迂闊な発言と同時に、キレたワタル君の飛び蹴りが決まる。おおう、ダークネスムーンブレイク・・・いや、何でも無い。でも多分効いてないな、ハヤテは変わらず笑顔だし。

 

「はは、でも贅沢は言わない方がいいですよ?中々ありませんから、ナギお嬢様みたいな可愛い子がお嫁さんになるなんてチャンスは…」

「は、ハヤテ・・・///」

「こんな我儘勝手し放題で自己中でいい加減で家事すらできないどころか火事にする自分が世界で一番偉いと思ってる下手糞漫画バカなんかな!世界中探したって貰い手なんているかよ!」

「そんな事、お前みたいな餓鬼に言われてたまるかこのヘタレめ!」

「あんだとこのブースブース!」

「うっさいチービチービ!」

「お前だってチビだろうが!」

「ふふんっ!チビだって認めたな、やっぱり餓鬼だな!」

 

ハヤテの言葉と共に顔を赤らめるナギだったが、ワタル君の一言で一気にキレ顔になって口喧嘩の応酬が始まる。うわぁ…咲夜の時もナギ、めっちゃ馬鹿にしていたけどこれはもう・・・ただの子供の喧嘩だ。てか花瓶とか投げんな危ないし高いんだよそれ。

 

「やっぱり許嫁同士、仲がいいんですね~」

『アレが仲良く見えるなら眼科か脳外科に行った方がいい』

「でも僕の見た限り二人は相思相愛って感じなんだけど何が問題なんだろ?」

『むしろハヤテの頭の中が大丈夫じゃない、大問題だ』

 

言いながら私たちは飛んでくるコップや花瓶類をキャッチして行く。何でも出来る才能便利過ぎじゃね?とか思っていたら飛んで来た植木鉢が額・・・の鎧の何て言うんだっけ?顔を隠す奴・・・に当たった。痛い。

 

「大体お前だって女だったらもっと女らしくできねーのか!そのガサツな性格直さないと本当に誰もお前なんかー!」

「あ、ワタル君だ」

 

何やら叫んで植木鉢を振り被ったワタル少年は、その寝起きであろうほんわかした声を聞いて動きを止める。お、起きて来たんだ。もう昼前だけどね!

 

「そ、その声はまさか…?」

「おはようワタル君。こんな朝早くからどうしたの?」

 

そう言って笑顔を浮かべたのは、ナギの部屋で未だに寝ていたはずの伊澄ちゃん。可愛い。その思いはワタル君も一緒だったようで、「や・・・あ・・・い、伊澄・・・」と顔を赤らめて小さく呟いた。ははーん、ホの字だね。

 

「もしかしてワタル君もナギの家に新年のご挨拶?」

「へ?あ・・・その・・・う、うん・・・僕も新年の挨拶に・・・」

 

一人称変わっているぐらい動揺しているし、これはハヤテでも察しが付いたかな?

 

「でも今、大きな声が聞こえたけどナギと喧嘩でもしているの?」

「へ?あ、そ…!そんな喧嘩なんてする訳ないよ!僕とナギは何時だって仲良しさー!」

「ふざけんな離れろ」

 

無理矢理肩を組んで仲良しだとアピールするワタル君を張り倒すナギ。一瞬ウガーッと飛び掛かろうとするワタル君だったが、伊澄ちゃんの目があることを思い出したのか踏み止まった。ナギはふふんとふんぞり返り、「どうした?来ないのか?」とでも言う様に嗤っている。愉悦に浸っているんだろうなぁ…傍目でも面白いもん。

 

『ナギ。それにワタル君。本人達が望んでないとしても許嫁なんでしょ?じゃあ仲良くしよう。ね?』

「だがなユー!私は此奴の二面性が気に入らんのだ!」

「俺だってなぁ……///」

 

私の静止に激昂するナギに、売り言葉に買い言葉と言うべきか言い返そうとするワタル君だったが伊澄ちゃんの視線を感じて踏み止まる。やべぇ、面白れぇ。…まあ、ナギの考えだと伊澄ちゃんがワタル君を好きになればオールOKなんだろうけど…無理だろうなぁ。眼中にねぇのは目に見えてる。多分、幼馴染じゃなければ気にもしない間柄だろう。あ、可哀相で泣けて来た。

ハヤテも自己完結したのか複雑な表情を浮かべている。まあナギがワタル君と婚約する気はないと気付いたようだし、其処は問題ない。・・・問題は、伊澄ちゃんの好意が恐らく、ハヤテに向いていると言う事。これは厄介ごとになるよ・・・

 

「じゃあまあ、皆さん朝食もまだですし・・・とりあえず朝ごはんでも食べませんか?」

「あ・・・うむ!」

「わー、いいですねー」

『そういえば食べてなかったっけ?』

 

もう昼前だから朝食かどうかは微妙だけどね。…しかし不味い、このままだとユークリウッド・ヘルサイズとしての存在意義(腹ペコ無口娘)が・・・!ワタル君の棒読みな返事が面白いけどここは意地でもお腹が減らないと!・・・・・・って、さっきめっちゃ動いたから嫌でも腹減ったわw

 

「伊澄さんは朝は和食の方がいいでしょうか?今ならマリアさんが作っているのと別に、僕が作れますが」

「え?そうですね・・・では、ハヤテ様のお好きな方で・・・」

 

・・・あ、ヤバい。ワタル君が顔を暗くして歯を噛み締めた。伊澄ちゃんと付き合いが長いから気付いてしまったんだろう、今の会話で・・・その好意が誰に向いているのか、いないのかが。お腹減ったのに面倒だなー。これだから思春期のガキンチョは・・・コナン君を見習って欲しいね!いや彼はもう大人か。私より年上か。って今はそんなこと関係ない。

 

「では皆さん、食堂へ参りまs」

「待t『ちょっと待った!』!?」

 

全員で客間から出ようとし、ワタル君が叫ぼうとしたところに、皆の前に飛び込んでメモを突きつける。今の一瞬でどうやったか自分でも不明だが某裁判ゲームの如く字が書いてある。…うん、私のオタク根性、我ながら凄いね。

 

「何だよ?・・・えっと、ナギの新しいメイド」

『まずはご飯を食べてから。あんなのから逃げたんだからエネルギーを摂らないと』

「そ、そうだな・・・」

『ちなみに私の名前は綾崎悠。そこの執事の妹。夜露死苦』

「どこのレディースですか!」

『あふん』

 

思いっきりハヤテにハリセンでぶたれたけど、気にしない。…何か邪魔されてこちらを睨んでくる伊澄ちゃんと、それに気付いてハヤテを睨みつけるワタル君、「何やってんだか」と唯一の常識人の様な感じでやれやれと肩を竦めているナギとか見えたけど気にしない。…とりあえずナギ、君は決して常識人じゃないからね。

 

 

 

 

 

で。朝ごはんは白飯と味噌汁、そしてとんかつにフキノトウの天ぷらと言う和風でした。よし、朝飯前の決闘は何とか回避した。さあワタル君。思いのままに暴れたまえ。私は仕事する。

 

「それで・・・お前、ナギの新しい執事だったな・・・?」

「あ、はい。綾崎ハヤテといいますけど・・・」

「じゃあせっかくだから食後の運動に・・・ちょっと決闘でもしないか?」

 

おおう。ワタル君、怖い顔。まあいいや、ハヤテが負けるはずがないし。さあ早く仕事に取り掛かろう。

 

「えっと・・・お嬢様?セレブの朝は決闘がスタンダートなんでしょうかね?」

「さあ?よく知らんが伊澄にかっこいい所でも見せたいんだろ。ちょうどいいな、お前ゾンビだし。ま、無駄なのにな」

「ええー・・・」

「まあフルボッコにされた方が伊澄の同情ももらえるかもしれんし、遠慮なくボッコボコのグッチャグチャにしてしまえ☆」

「お嬢様・・・」

 

あ、ハヤテがげんなりしている。まあ相手は子供だしね、しょうがない。じゃあ私は仕事に・・・と思っていたら何時の間にかナギ、ハヤテ、ワタル君、伊澄ちゃんと一緒に庭に移動していた。はっ!これは特撮の井上ワープ・・・!?な訳ないない。空気に乗せられただけだね、うん。

 

早く仕事に行こう、絶対面倒事に巻き込まれる。ただでさえびしょ濡れなのに。…どうして私、一緒にお風呂に行かなかったんだろう?・・・分かってる、サキさんのある部分を見て嫌な気分になるからだ。てか走っている間に乾いているみたいだし問題は無い。むしろ今度は私が風邪をひいて皆に迷惑かけようか。ところで仕事に行っていいかな?

 

「綾崎ハヤテ!これからお前をナギと妹の前でけちょんけちょんにしてやるから覚悟して置け!」

「それも困りますね・・・」

「ふん!できるものならしてみろ!ユーと私の前で、ハヤテは二度と負けないと誓ったんだからな!」

「誓ったのは必ず守ってみせます、だけですよお嬢様!?」

 

え。…私の拒否権は?え、無い?うん、知ってた。で、ハヤテどうすんだろ?ナギにボコボコにしろと言われてたけど、相手は子供だしハヤテはゾンビだし下手したら死んじゃう。

 

「じゃあ覚悟はいいな、バカ執事!卑怯だと言ってくれるなよ?お前がいいって言ったんだからな!」

「はあ、まあそれぐらいは・・・」

「おーい、どうするワタルー。一応言っておくがハヤテは強いぞー。ロボットにだって勝ったんだ、やめるなら今の内だぞー」

「ふざけんじゃねーよ!生身の人間はロボットに勝つなんてありえてたまるか!あんまり自分の執事を庇ってもいい事ねーぞナギ!」

 

あははー、それが勝ったんだよね。多分ゾンビじゃなくてもハヤテ、勝ててそうだし。一応ハンデ武器って事でワタル君はサーベルを持った来たけど(渡していたクラウスさん曰く貴族の嗜みなんだとか。銃刀法違反じゃねーか)、ハヤテも優しいね。・・・ゾンビ倒す気ならRPG-7かそうじゃなくても拳銃持ってこないと。…あ、そうだ。

 

『ハヤテハヤテ』

「何、ユー?」

『戦いたくないよね?』

「うん、だけどお嬢様が言うんじゃなぁ・・・ワタル君もやる気だし・・・」

『私にいい考えがある』

「司令官的な意味で嫌な予感しかしないけど、何かいい手が?」

 

失礼な。本当にいい手だってば。100%成功するよ、絶対。だからそんな疑惑の目で見ないの。

 

『魔装少女に変身だ』

「はあ?何を・・・あ、なるほど。確かにそれなら戦う気も・・・」

『そう言う事』

 

気付いたみたいだね。話は簡単なんだよ、元々戦う羽目になったのは伊澄ちゃんの前でワタル君がハヤテに勝ってかっこいいところを見せる為。そしてワタル君は伊澄ちゃんに好意を持ち、伊澄ちゃんが好意を持っているハヤテに敵愾心を見せている。

だから、まだ伊澄ちゃんにも見せていない魔装少女の姿に変身してワタル君と伊澄ちゃん両方をドン引きさせればいい。そうすれば伊澄ちゃんからハヤテへの好意は無くなるだろうし、ワタル君だって女装した変態執事と戦おうなんて気は起きないはずだ。どや、いい考えでしょ。ハヤテが世間体的に死ぬかもしれないけどゾンビだから大丈夫だ問題ない。

 

「アイツは話を聞かないからな」

 

五月蠅い心の中のルシフェル。大丈夫だって問題ないって。物は試しと、私はミストルティンキーホルダーを取り出し指に引っ掛け、クルクル回して元の大きさに戻し、ハヤテに渡す。受け取ったハヤテは善は急げとばかりに呪文を唱え始めた。

 

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ」

「チェーンソーだと!?させるかー!」

 

あ。ワタル君が何を思ったのかハヤテに向かって突進してきた。そりゃそうか、ハヤテは武器無しだったのにチェーンソーを取り出して来たんだから。あ、不味いかもしれない。

 

「そんな調子で大丈夫か?」

 

大丈夫じゃないよ心の中のルシフェル!大問題だよ!このままじゃ確実に不味い!何か私でも予想できない何かが起こる!・・・気がする!

 

「グンミーチャ、デー、リーブ・・・ラ!?」

「コイツは使わせない・・・ぞ!?」

 

唱え終わろうかという時に、ワタル君がハヤテの手からミストルティンを奪い取ってしまい、その瞬間青色から緑色に変化した閃光がハヤテを吹き飛ばし、ワタル君を覆った。…ヤベェ。このパターンはもしかして・・・

 

「何事だ!?」

「これは面妖な・・・?」

「ワタル君!?」

『私は悪くないよ、うん』

 

三者三様に驚くナギ、伊澄ちゃん、ハヤテ。閃光は竜巻に変わり、それが消えるとそこにいたのは・・・案の上であった。

 

「な・・・なんじゃこりゃー!?」

 

一言で言えば、ハヤテの魔装少女の姿の萌黄色と緑色をメインにしたバージョン。ミストルティンの色も緑になってる。そして何故かは知らないけど・・・肩の翼の装飾や胸元の大きな緑のリボン、腰から後ろに突き出た薄緑色のマントに帽子に付けられた緑色の宝珠、足に緑色のレッグウォーマーがあったりなど、ちょっとプリ●ュアに出て来る直球勝負で勇気凛凛な子を彷彿させた。…まあ声は似ているけどさ。でも羞恥に悶えるその姿はちょっといいかも。さっきまで糞生意気だった子が恥ずかしがるとか、萌えるね!

 

「え、えーっと・・・ユー?」

『私は知らない。呪文の最後の方で奪い取れば変身がそっちに移るなんて私は本当に知らん』

 

いや本当に。持ち主が私だから何か変化が在るのかもしれないけどさ。そう言えばハルナの魔力をハヤテに宿らせてないのに変身できてたね。多分それもか。

 

「おい!どういう事だ綾崎ハヤテ!」

「いや・・・何と言えばいいのか…」

「ぷぷっ!滑稽な姿だなワタル、クククッ・・・」

『それは魔装少女。力が溢れて来るはず、多分それならハヤテにだって勝てる』

「・・・それはいいが格好はどうにかならねーのか!あと魔装少女ってなんだ魔法少女の仲間か、お前はフェレットに変身できたりするのかよ!」

『いやそれはできないけど』

 

私はユーノくんじゃないよ。インキュベーダーでもない。しがない冥界人で吸血忍者で魔装少女ですとも。…似た様なもんだね、アハハ。しかし伊澄ちゃん黙ってるねどうしたんだろ?

 

「どっちにしろこんなスプラッター映画に出て来る様な凶器を使わなくても勝てるぜ!てかこの服脱げねーぞどうなってるんだ!?」

 

ポイッとミストルティンを投げ捨て衣装を脱ごうとするワタル君だったがどういう原理か帽子も脱げない。ワロスwするとハヤテが恨むような目でこちらを睨んできたので、しょうがないとばかりにワタル君に向き直る。

 

『後で脱ぐ方法教えるから諦めて。それよりも本当にハヤテと戦うの?』

「それが何か問題あるのか?」

『うん。だって・・・ハヤテ?』

「あ、うん。やればいいんですね?」

 

私が合図を送ると、ハヤテは近くに置いてある自分の身長と同じくらい大きな岩に近付くと、蹴り一閃。叩き割り、上部の大きな破片が地面に落ちる前に拳で打ち貫き粉々にする。おおう、促した私もちょっと引くよ。あ、ナギも冷や汗かいてる。で、ワタル君はと言うと・・・

 

「・・・!?」

 

ぎょっと目を見開かせた後、冷や汗ダラダラになっていた。…あははー、これでも戦う勇気があるなら私は君を尊敬するよ。

 

「おーい、どうするー?死んじゃうぞー?降参すれば着替えれるんだしさ、降参した方が身のためだぞ」

「う!うるせーよ!おい綾崎悠!本当にこの格好ならあのバカ執事に勝てるんだよな?」

『勝てるかもしれないってだけ』

 

正直知らんし知りたくもない。するとワタル君は未だに黙っている伊澄ちゃんをちらっと見て、顔を赤らめると声を荒らげる。おおう。

 

「男が一度やるって決めたらなぁ・・・もう後には引けねぇんだよ!あとこんな恰好になったのに何もしないで終われるか!一生の恥だ!行くぞオラァ!」

 

そう叫んでサーベルを構え、ハヤテに飛び掛かるワタル君。男だね、伊澄ちゃんにかっこいいところを見せたいって動機だけどそれでも有り余るくらいの意思だ。さすがに朴念仁のハヤテもこの覚悟は伝わっただろう、流石にわざと負ける様な真似はしないでしょ。…まあ、執事的には負けた方がいいんだけどね、ハヤテの性格的に超絶下手な芝居をしてワタル君を怒らせること間違いなしだ。もしかしたらガチ泣きさせるかもしれない。でもゾンビじゃないとはいえ、魔装少女だしなぁ・・・

 

「よっ」

 

ハヤテは体軸をずらして回避、サーベルを奪おうと柄の方に手をかけようとする。

 

「うらぁ!」

 

しかしその手をワタル君は蹴り上げ、サーベルの柄底をハヤテの腹部に叩き付けその体勢を崩させる。すごっ、押してるよこの13歳。多分魔装少女的な直感の賜物だろうけど。本人も驚いているみたいだし。

 

「・・・これなら、行ける・・・!ウオォオオオオッ!」

「くっ、ふっ、はっ、ぐっ、うわっ!?」

 

雄叫びと共に剣身の腹で峰打ちするかのごとく振るわれていくサーベルを、何とか避けながらも後退するハヤテ。さすがに少年にスプラッタさせる訳には行かないと剣身に触れられないのだろう。振り上げを避けた際に足払いを掛けられ転倒してしまった。

 

「ドリャァアアアアッ!」

「ッ!」

 

とどめとばかりに頭頂部にサーベルの腹を振り降ろすワタル君。その瞬間、信じられない事が起きた。ハヤテの目がギラリと輝き、掌底打でその剣身を砕いたのだ。宙を舞う剣先。驚いて腰を引くワタル君。追撃とばかりに立ち上がり拳を構えるハヤテ。そして。

 

サクッ

「「・・・」」

ぴゅーっ

「ハヤテー!?」

「ハヤテ様!?」

 

放物線を描いて落ちて来た剣先が、ハヤテの頭頂部に刺さった。男共が言葉を失うと血が噴き出し、伊澄ちゃんが我に返りナギは叫んで駆け寄る。ワタル君は顔を白くさせてガタガタ震えているが、ハヤテは溜め息を吐いて剣身を握り、「よっ」と軽く引き抜いた。瞬く間に血がハヤテの顔を覆って行く。

おーう、やばーい。主に皆のSUN値が!こうなったらもしもの時のために持ち歩いていたこれを・・・!

 

 

 

 

 

 

数分後

「すみませんでした、さすがに悪い冗談でした」

「ああまったくだ!剣先は運よく頭に隠していた板付き血糊袋に刺さって助かったがな!」

「俺、思わず人を殺したと・・・」

「本当にごめんなさいでした!」

 

顔に付いた血糊を拭いたハヤテが全力でナギとワタル君に謝り倒している。結局、私が駆け寄る振りをしてハヤテの頭に乗せ(ついでに傷も治し、口裏を合わせる様に言っ)た血糊袋(ただし底の方に薄い板が付いている)のおかげで何とかごまかせた。用意していてよかったよ。あ、もちろんワタル君に元の格好に戻る方法(もちろん服をちゃんとイメージする様に言って)を教えてミストルティンも回収したよ。これはちゃんと分かるまで使うのを控えた方がいいかな。

 

『ところで伊澄ちゃん?』

「なんでしょうか、ユーさん?」

 

・・・この子は多分誤魔化せてないんだろうなぁ。魔装少女について何も聞いてこないのはいいんだけど。

 

『何で黙ってたの?』

「いえ、ワタル君があまりに似合っていたので言葉を失って」

『そ、そうなんだ』

 

・・・これは好印象と捉えていいのかな?やったねワタル君!女装少年と言うスキルを身に着けたよ!

 

「・・・なんか複雑だな…、クソッ」

「ホント、ごめんなさい」

「まあハヤテ様ったら・・・こうなったのも乱暴でひ弱なワタル君のプライドのせいだから怒ってもいいのになんてお優しい…」

「え」

「や…そんな伊澄さん、ワタル君は本当に強くて僕なんかじゃ全然・・・」

 

あ、ハヤテ。それは駄目。ワタル君もあの強さは魔装少女の格好のおかげだって分かっているんだろうからその謙遜は・・・

 

「敵わない………へ?あ、ちょっ・・・」

「おま・・・ぜった・・・っぐすっゆるさ・・・っひっく・・・」

 

ほら、ガチ泣きしちゃった。あーあ、いーけないんだーいけないんだー。マーリアさんに言ってやろー。

 

「何時か絶対倒してやるから覚えてやがれバカヤロォー!」

「げはっ!?」

 

おおう、強烈なストレートが鳩尾に叩き込まれてハヤテが崩れ落ちた。今のは効いた、ゾンビでも今のは効く。てか普通に痛い。わーんと泣きながら立ち去るワタル君。いつの間にかやって来たのか「いやー、精神的にボコボコにするとはハヤテ君もやりますねー」と困り顔で感心するマリアさん。

ナギは多分、さっきのハヤテの一瞬の本気の一撃が、婚約者がいる事を黙っていた自分にまだ怒っているのか?とでも思ってるのだろう。

 

・・・うん、ハヤテ。最近、本当に不幸だね。絶対あのクソジジイが関係しているんだろうなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、メイドのサキさんの風呂は結構長かったけど帰るワタル君に無事合流できたみたいで。

 

「ところで若、あの格好は一体・・・?」

「は?」

「そう言う趣味だったんですか?」

「ち、ちげーよ!?」

 

そんな会話があったとか無かったとか。




ワタル君、まさかの魔装少女化!誰も想像だにしなかったでしょうと勝手に思ってます。ユーは男の娘も行けます(何が
そしてハヤテの強さよ。せっかくゾンビなのだからとガチ勝負にしてみました。そしたら何時の間にかワタルが魔装少女になっていた。何を言っているのか分からないだろうけど僕も分からん。

ワタル君の声優は井上麻里奈さんです。今回ネタにしたキュアマーチ他ヨーコとかエリオとかナツルとかタギルとか真宮桜などを演じている名優ですね。

しかし天然鬼畜の伊澄さんぇ…もうやめて!ワタル君のライフ(精神耐性)はゼロよ!ちなみに最初はワタル君に伊澄さんと一緒にユーにも好意を抱かせて悶々とする・・・的なのも考えてましたが話にならないのでやめました。

次回はこのたび7月23日でハーメルン3周年を迎えるので特別回を予定しています。あくまで予定なので間に合うかは不明です。お楽しみにしていただけると嬉しいです。

感想をいただけるとそれはもう、本当に嬉しいです。励みになります。

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