姫松高校麻雀部監督代行播磨拳児   作:箱女

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 ざっと降った夕立はすぐに上がって、真夏の暑気を和らげることなくただじっとりとした重たい空気を残していっただけだった。空を見上げれば本当にさっきまで雨が降っていたのかと疑いたくなるほどに、雲は控えめにその存在を主張していた。もう五時を過ぎるというのに青空はまだまだ高く、日差しは十分に強かった。もうホールの外にも人はまばらで、試合が行われていた日中に満ちていた熱気はすっかり影をひそめていた。

 

 景観を整えるように植えられた木々に蝉が取りついて声を上げている。夕方になれば鳴く蝉の種類も変わるようなイメージがあるが、実際に耳を傾けてみるとそうでもないようだ。あるいはまだその季節になっていないのかもしれないし、今年のアブラゼミが驚くほど頑張っているだけなのかもしれない。夜がゆっくりと近づいていた。

 

 

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 夕食の後のミーティング、主に決勝戦の相手の対策会議、を終えた漫と絹恵は、二人でホテル内にあるコンビニエンスストアへと足を運んでいた。二人とももうすっかり寛いだ軽装で、それだけで夏の匂いが感じ取れた。それなりに夜も遅くなっているため、お菓子や軽食の類ではなく飲み物の棚の前に並んで商品を選んでいる。姫松高校が選んだホテルは規模も大きく、そのため他校の代表も宿泊してはいるのだが、決勝卓に座る高校はどこも宿を別にしているようだった。

 

 それぞれ好みの一本と、見たこともない不思議な味のしそうな飲料を試しに一本買って、二人はコンビニを後にした。夜のホテルのロビーは昼間よりもやけに豪華に映る。外の暗さとこちら側の照明がそんなことを思わせるのかもしれない。漫は部屋に戻る前にロビーでちょっと休んでいこうと提案した。

 

 「ん、ええけど?」

 

 「いま戻ってもなんかに巻き込まれるやろし、それに絹ちゃんと話したいこともあって」

 

 漫はすこしだけ照れくさそうに笑って視線を絹恵に向けた。話したいことがある、と言われた絹恵の方は意外そうな顔をしていた。普段から仲良くしているつもりだが、あらためて話があると言われるような話題がまったくと言っていいほど絹恵には思い当たらなかった。ちなみに絹恵は漫の言葉の前半部分には全面同意している。播磨拳児を含めた三年生の四人が揃って何も起きないわけがないのだ。とは言っても事件の類ではなくほとんど漫才のようなやり取りではあるのだが。

 

 漫の誘導に従ってロビーにあるソファに座る。絹恵は美人タイプと評されることが多いが、漫は漫で実に可愛らしい顔立ちをしている。たしかに末原先輩がちょっかい出したくなるのもわかる、と絹恵がつい思ってしまうような親しみやすさが彼女にはあった。いつの間にかその表情が真剣なものに変わっていた。

 

 「あんな、うちらの先輩たちってむっちゃ頼りになるやんか」

 

 普段の学校生活や部活中は結んでいる髪を解いている漫は、慎重に言葉を選ぶように小さな声で話し始めた。絹恵はここで口を挟むべきではないと判断したのだろう、漫に視線を向けてしっかりと話を聞く姿勢をとった。

 

 「でもな、来年になったらもう先輩たちはいーひん。播磨先輩はまたちゃうと思うけど」

 

 「そやけど、急にどしたん?」

 

 明らかに悔しさをにじませて漫は声を絞り出す。

 

 「絹ちゃんの試合中にな、播磨先輩に言われてん、レギュラーやったら頼られなあかんって」

 

 「……まだうちらはそうなってない?」

 

 すこし思案して絹恵は漫の言いたいだろうことを補足した。やわらかいソファに沈んだせいで、漫がいつもより小さく見える。漫の話は少なからず絹恵にとってもショックではあったが、どうやら彼女は絹恵よりも深刻に受け止めているらしい。

 

 漫は小さく頷いて肯定した。実は先ほどの発言の中に本人が聞けば即座に否定が入るような内容のものがあったのだが、漫も絹恵もそれに気付いていなかった。

 

 「だからな絹ちゃん、うちは明後日の決勝から頑張る。頼ってもらえるよう頑張る」

 

 「なんや漫ちゃんめっちゃカッコいいわ」

 

 「そんなんちゃうよ、でもすぐうちらの時代が来る。そんとき頼れる人おらんのはダメや」

 

 そう口にした彼女の顔は、責任や立場といった言葉の意味を正しく理解していたように絹恵には映った。わずか一週間あまりで、上重漫は大きすぎると言えるほどの経験を積んだ。それはこれまで重ねてきたすべてが実を結ぶのには十分なものだった。

 

 「……明日の調整、私ももっと真剣にやらんとやね」

 

 「午前だけやし、頑張ろな」

 

 

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 人はあまりにも退屈になり過ぎると、普段の行いからはかけ離れた行動をとることがある。暇は無味無臭の劇薬という言葉もあるくらいで、人は退屈というものへの耐性がないのかもしれない。無論それは拳児であっても例外ではなく、彼もそれに耐えかねてついに行動を起こした。準決勝の翌日、ぽっかりと空いた日のことである。

 

 姫松の面々が宿泊しているホテルから数駅離れたところにある巨大複合ショッピングセンターは夏休みということもあって、たとえば地方から出てきた人間なら驚くほどに混み合っていた。麻雀が世界的に流行しているとはいえ国民すべてが麻雀に熱中しているわけでもなく、加えて今日はその注目の的であるインターハイも決勝前の休養日ということもあってとんでもない人口密度を形成していた。人の波が人を呑むという情景はたいていの場合は特別なイベントでもなければ見られないものだが、ここ東京都心では日常的に見られるというのだから恐ろしい。涼を求めて店内に足を踏み入れた瞬間に拳児は後悔しそうになった。これならやることがないから、と追い払われ続けてきたレギュラーの調整に立ち会わせてもらったほうがマシだったかもしれない。今さら言ったところでどうにもならないことにため息をひとつついて、拳児は店内に足を踏み入れた。

 

 さすがに巨大複合施設だけあって店の種類も多さも段違いだった。アクセサリを含むファッション関係の店舗が多くを占め、次いで飲食店、雑貨屋、各種専門店などいよいよこの施設だけでほとんどの買物は済ませることができそうな気さえしてくる。休養日であるにもかかわらず制服で過ごしていることからわかるように拳児は服装に特別な関心を払っていない。そんな彼にとってはあまり時間を潰すのに適切ではない場所に見えるかもしれないが、それでも十分に退屈は凌げると言えば多少はその規模もわかってもらえるだろうか。とりあえず拳児はバイクのカタログを見るために書店へと向かうことにした。

 

 

 なかなか複雑な構造をしていることもあって、目的地がはっきりとしているとはいえ周囲に目を配らなければ迷子になってしまいそうだった。その過程で実に様々な店に目を向けることになるのだが、拳児は途中で足をはたと止めて何やら考え込みはじめた。

 

 ( アクセサリか……。まァ天満ちゃんなら何でも似合うぶん逆に困っちま…… )

 

 その瞬間、拳児の頭に天からの啓示が舞い降りたような気がした。恐ろしく単純でズレた方程式が彼の頭の中で組み上がっていく。立ち止まられた店側からすれば迷惑なことこの上ない。大きな身体をしたヒゲグラサンが店の前で仁王立ちをしているのだ。拳児の姿を見てそそくさと離れていく女性客のことを考えれば営業妨害といって差し支えない事態に発展していることにこの男は気付かない。

 

 ( 手土産が日本一だけってんじゃあ物足りねえ。そこで気を利かせんのがイイ男ってもんだ )

 

 

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 「播磨くん! そんな、私のために……!?」

 

 「当たり前のことさ、天満ちゃん。キミに相応しい男になるなら日本一くらいは」

 

 「私、やだ、嬉しい……!」

 

 「喜ぶのは早いよ、マイ・レイディ。プレゼントがあるんだ」

 

 「えっ!?」

 

 「これを……」

 

 「すごく素敵……」

 

 「Oh... TENMA...」

 

 「KENJI...」

 

 

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 ( 完璧じゃねーか )

 

 寒気がするほど練り込まれた計画の素晴らしさに拳児が打ち震えていると、意識の遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた気がした。どこかで聞いたことのあるようなものだが、日常的に耳にしているものともまた違う。しかしそんなものは拳児にとってどうでもよかった。いま重要なのは彼の女神に贈るプレゼントを吟味することであってそれ以外にはあり得ない。

 

 「ちょっと! なに無視決め込んじゃってくれてんの! 聞こえてるんでしょ!」

 

 雑踏と言っても問題ないような人通りの空間でも妙に通る声を投げかけられ続けて、やっと拳児はそちらを振り向いた。言わずもがな表情にはイヤそうなものが浮かんでいる。

 

 顔を向けたその先には拳児の語彙にはない服装をした白糸台の大将が立っていた。白い色をしたホルターネックオフショルダーに黒のホットパンツ、わずかにヒールのついたサンダルを履いている。外の直射日光の対策のためだろうキャスケット帽を含めた姿のおかげか、先日にホールの外で出くわした時とは印象が変わって見えた。この姿を見て麻雀のインターハイに出場するために東京にいるのだと判断できる人間はいないだろう。もちろんそれらすべてのことも拳児にとってはあまり興味の対象になっていない。

 

 「あー、大谷だったか」

 

 「大星だよ! 大星淡! シツレイしちゃうなあもう」

 

 わかりやすく頬を膨らませているところを見ると彼女はからかわれたと思ったのかもしれないが、実際には大真面目に名前を間違えられただけの話である。

 

 「で、ハリマケンジはこんなとこで何してたの?」

 

 「何もしてねーよ。つーか通りがかっただけだ」

 

 まかり間違っても恋人との幸せな未来を妄想していたとは言えまい。拳児は努めて冷静を装って淡に言葉を返した。とっさに出たそれは拳児の能力を考えれば満点に近いようなものだったが、世間はそれほど彼に対して甘くはないようだった。

 

 「えー? そこでずっと黙ってアクセ見てたのにー?」

 

 大星淡もまた良くも悪くも自分に正直であり、怖いもの知らずであり、空気を読んで察するということに重きを置かない価値観の持ち主であった。播磨拳児を知っているほとんどの人間が彼女のように突っ込んで話を聞くことはできないだろう。周囲が勝手に作り上げた像とはいえ、彼はもはや気安く話しかけられる存在ではなくなっていた。

 

 「……見てねえ」

 

 「バレバレの嘘はダメだって。で、どしたの? 好きな人にプレゼントとか?」

 

 そのあまりのピンポイントぶりに拳児は硬直せざるを得なかった。しかし冷静に考えればふつう男が女性向けのアクセサリショップの前に突っ立って商品を眺めていれば結論がそうなるのは自然なことである。ただ残念ながら客観的な視点を持たない拳児は、見抜かれたことに小さくない衝撃を受けていた。ここまで見抜かれているとなると恋をしていることどころかその相手まで見透かされているのではないかとさえ拳児には思われた。誰かにそんなことを話せばマンガの読み過ぎだと笑われて終いだろうが、拳児は実際にそれに近い超能力を持った人間を知っている。だからこんな言葉が拳児の口から出るのは決して不思議なことではなかった。

 

 「……お前、もしかしてエスパーなのか? 俺の心が読めるのか?」

 

 「そんなん無理だって。ねえねえそんなことよりプレゼントってマジ? 誰? 姫松の誰か?」

 

 「違わい!」

 

 「えー、じゃあ誰なのー?」

 

 まるで十年来の友達かのような馴れ馴れしさに拳児は驚いていた。喜怒哀楽を隠すことなくのびのび話している様子をもしレギュラー外の姫松の部員たちが見ていたとしたら、下手をすれば団体レギュラーの三年たちよりも親しいのではないかと思う者も出たかもしれない。誰とでも分け隔てなく仲良くなれる能力が素晴らしいことは疑うまでもないことだが、それ以前に目の前の少女には何か、慎みだとか危機管理意識だとかそういった大切なものが欠けているんじゃないかと拳児は思いたくなった。珍しく拳児が、父性というかそういった部分を心の中でこっそりと発揮していた。もちろんそれと実際の対応はまったくと言っていいほど違ったものだったが。

 

 翌日の決勝でぶつかる高校同士の監督と大将がするような会話には聞こえないが、勝ち負けこそあるものの明確な敵意を持たないスポーツである以上、その二人の姿はある意味では正しいものであるのかもしれなかった。必要ないと主張する拳児と、一方的に自分ならどれがいいなどのアドバイスを送る淡の姿は微笑ましいと言えば微笑ましいものだった。あるいは騒がしいと見る人もあっただろう。言うだけ言った後に “そういえば行きたいところがあったんだった” と身を翻したときにはさすがに拳児も唖然とした。まるで嵐みたいな女だったとは後の拳児の弁である。

 

 

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 「で、智葉としてはどこのチームが強敵に見えるのかしら」

 

 気怠げに一人用のソファにもたれかかってアレクサンドラは質問を投げかける。同じ部屋にいるのは智葉とダヴァンだ。普段から賑やかなチームというわけではないが、今はよりそういった雰囲気からは離れている。水を向けられた智葉は困ったように眉根を寄せて、一拍おいて口を開いた。

 

 「……どこも油断できません」

 

 「ワオ、優等生。ってまあ実際そうだから困るのよねえ」

 

 ふうむ、と形のいい顎を手でさする。ポーズとしては考え込んでいるものだが、その表情からは悩ましい問題を抱えていることを察するのは難しいだろう。どちらかといえば “それなりに歯応えこそあるがクリアすることはできるゲームを前にして考え込んでいる表情” に近い。それは自信の表れと取ることもできたが、油断をすれば食われることを理解していると取ることもできた。アレクサンドラがそのどちらを軸に考えているかは彼女自身にしかわからない。

 

 しばしの間うすく笑みを浮かべながら頭の中でなにやらこねくり回していたアレクサンドラは、思い出したように再び智葉に問いかけた。

 

 「そういえば、なんだけど。先鋒の相手はどう見る?」

 

 おそらく昨日、臨海女子と姫松が決勝進出を決めた時点から何度もシミュレーションを重ねていたのだろう、思いのほか返事は早かった。

 

 「宮永照を抑えるという一点で見ればずいぶん有利かと」

 

 「ま、言いたいことはわかるわ。やっぱり姫松が残っちゃったのは誤算だわね」

 

 交錯する視線のうちに音声にならない言葉が交わされる。やり取りに加わっていないダヴァンは呑気にやすりで爪を磨いている。いちいち言葉にして確認するまでもないと思っているのかもしれないし、そもそも自分はそんなことを考える必要がないと判断しているのかもしれない。鼻歌まじりに作業を続けているその様子からは、満足以外のものは読み取れなかった。

 

 臨海女子から見て、決勝戦に上がってきた学校は決して望ましいものとは言えない。白糸台こそ半ば決定事項のようなものではあったが、彼女たちにとって姫松と阿知賀の二校は準決勝で散っていった他のチームに比べて間違いなくやりにくい相手であった。姫松は総合力と、そのオーダーにおいて。阿知賀はアレクサンドラを以てしてもつかみきれないプレイヤーが大将に控えているというただその一点において。二校が残ったのは結果的には順当と言えば順当であるのかもしれない。

 

 「ところでメグ、あの三人は?」

 

 「ハオは川へ洗濯に、ミョンファは山へ芝刈りに、ネリーが桃の中でスネ」

 

 「朝起きたときには?」

 

 「いませんでシタ」

 

 どこで学んだのか日本でもっとも知られているであろう童話を使ってのギャグを思い切り無視されたにもかかわらず、使えたことそのもので十分だったのか、ダヴァンは終始にやにやと口元を綻ばせていた。明日になれば高校生としての最後の試合が待っているというのに、緊張に類するものはどこにも見当たらない。心の強い証だ。もし個人戦に留学生が出場可能であったとしたら大暴れしたに違いないだろう。

 

 「そ。夕食までにはミーティング終わらせたいから間に合うように呼んどいて」

 

 「了解デス」

 

 「私は時間までいろいろ調べてみるわ。なんかあったら呼んでちょうだい」

 

 そう言ってアレクサンドラは立ち上がり、軽い足取りで部屋を後にした。彼女が部屋からすっかり出て行ってしまった後で、ダヴァンはゆっくりため息をついた。話していた内容と口ぶりを考えると、彼女が部屋に残らなければならないのは明らかだったからだ。幸いダヴァンと智葉が今いる部屋にはテレビもあるし、鞄の中には本も入っている。なんとか退屈はせずにすみそうだったが、前向きに時間を潰すのは難しそうだった。同い年の先鋒に目を向けると精神統一でも始めそうな雰囲気だったため、ダヴァンは慌てて声をかけた。真面目に過ぎるというのも困ったものである。

 

 「アー、サトハ? 今から気を張ってもしょうがないでスヨ、リラックスしましょう、ネ?」

 

 「……別に気を張っていたわけじゃないが、どうしろと?」

 

 あれだけ眼光鋭く一点を見据えておいて気を張っていないということもないだろうと言いたくもなるが、わざわざダヴァンはそんなことはしない。暖簾に腕押し、糠に釘。問答が成立しないのはわかりきっているのだ。大人っぽさを感じさせる居住まいに反して意外と頑固なところもある智葉は、一度言い出したらおそらく聞かないだろう。なかなか難しい人となりをしているが、二年と少しも一緒に過ごせば取扱い方くらいはわかってくるものだ。

 

 そして智葉の扱いに関して部内どころか学内随一の自負を持つダヴァンは、ここをからかいポイントであると見定めた。怒りこそするだろうが正座をさせられて説教、とまではいかないだろうと踏んだのである。ちなみに彼女のその勘の正答率はあまり芳しくはない。

 

 「播磨クンに電話とかどうでショウ?」

 

 「馬鹿者。今このタイミングで相手校の監督に電話をかけるやつがどこにある」

 

 思い切り疲れた声でダヴァンの案は却下された。加えてかなり冷ややかな視線までついてきた。しかしこの程度ならば誘いに乗ったと取るのがメガン・ダヴァンという少女であった。声をかけたときから楽しそうな表情を浮かべていたが、今は笑みの種類を変えている。

 

 「恋人に電話をかけるタイミングなんていつでもいいじゃありませンカ」

 

 「そもそもそうじゃないと何度言えばいいんだ私は……」

 

 ダヴァンはこれ見よがしに頭を抱えた智葉の隣に飛んで行って、彼女のどこかのポケットに入っているだろう携帯電話の捜索を開始した。手つきは非常に慣れたもので、智葉による迎撃を十全に考慮した動きを見せていた。やっている内容はどこにでもいる女子高生のそれではあったが、その手数の多さとほとばしる殺気はふつうの女子高生に出せるものではなかった。どうにかして携帯電話を奪ってコールさえしてしまえば真面目な智葉は応対せざるを得ない。それがダヴァン以下臨海女子留学生組のいつもの狙いであった。

 

 数分にも及ぶ携帯電話攻防戦は辻垣内智葉に軍配が上がり、メガン・ダヴァンは三十分の正座の刑に処されることとなった。

 

 

 

 

 

 


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